山姥の像
近所の細い道の木の下には片膝を立てて座った細身の老婆の石像がぽつんと建っておりました。祖母がこの石像を山姥様と呼んでいたので、山姥といえばこの石像をイメージしてしまいます。
この山姥像は、近所の子供達にはかなり怖がられていまして、睨まれたとか、動いたとかそんな話はよく聞いたものです。夜遅くまで起きていると、祖母から、早く寝ないと山姥様に連れていかれるよと脅されたことを覚えています。
この山姥の石像はいったい誰の仕業か真っ赤な頭巾を被っていることがありました。時期もばらばらで、気づくと無くなっています。たいして気にもとめていなかったのですが、中学生のときにふとあることに気がつきました。
村でお葬式があるときと、山姥像が赤い頭巾を被っているときは時期が重なっているのではないかと気づいたのでした。おそらくはお葬式に合わせた何かの習慣で頭巾を被せるのだと思いました。なんだか無性に怖くなり、それからは山姥像の近くを避けて通るようになっていました。
ある日、たまたま山姥像の近くを歩いたときに赤い頭巾を被っているのに気付き、家に帰って母に話しかけました。
「やまんばさまが赤い頭巾着てるね。最近お葬式あったっけ」
母の答えは「何言ってるの、あんた。そんなの被ってないでしょ」でした。母はそんな頭巾は見たことがないと主張しました。学校で友達に聞いてみても、だれも山姥像が赤い頭巾を被っている姿など見たことがないと言うのでした。
祖母に相談すると、その話はもう口に出してはならないと、強く釘をさされました。
しばらくして、近所のお爺さんが亡くなりました。
それからは絶対に山姥像の近くを歩かないようにしていましたので、赤い頭巾を見ることはありませんでしたが、今でも、お寺の敷地などで山姥を連想させる石像があるとぞっとしてしまいます。
祖母から山姥と教えられていた石像が本当に山姥だったのかは今でも謎