自尊心故に
昨夜、月光が漏れていた窓からは、外の天気が快晴だという事が断定できる程の日光が差し込んでいる。
「クレイヴ〜〜起きて!!」
その日光に負けず劣らずの明るさで叫んでいるのはシャーネルだ。
「・・・・っ・・・・はぁ・・・・全然寝れん・・・・」
「今までしっかり寝てたのは何処の誰だ?」
何時もどおりの皮肉が炸裂中のネイラ。
「いや・・・寝てたことには寝てたが、寝付くまでに時間が掛かったんだ」
「なるほど、流石のクレイヴも王子が相手だと緊張する訳か」
ネイラの言う事も一理あるが、真の理由は国王が何を隠しているかが気になっているのである。
それはクレイヴの想像上に過ぎないのであまり気にする必要性もないのだが
人間一度考えると気になるものである。
「・・・まぁな」
クレイヴも自分自身の勝手な考えかも知れないという事は、承知しているので適当に返事をした。
「そういえば、ネイラ」
「何だ」
「時間は?」
「昼はとっくに過ぎだな」
ネイラは時計も確認せずに瞬時に返事を返した。
「・・・・試合は夕方からだよな?」
「ああ」
「・・・急ぐか」
「私たちはとっくに準備できてるんだけどね」
クレイヴはシャーネルの言葉を背に部屋を飛び出した・・・様に見えた。
「クレイヴ様、試合の時間が迫っております。
着替えはまだでいらっしゃいますね」
開けたドアの前には召使いが10人程横に並んで待っていた。
そして中央に立っている一番年配の者が、クレイヴへ顔色一つ変えずそういった。
「あ、あぁ。
今から・・・・」
「では、私どもがお手伝いしましょう。
今日の戦いの為に国王様が急遽作らせた服が御座います」
「ま、待て。
着替えさえくれれば一人でだいじょ―――おいっ、話を聞けェェェ!!!」
「大丈夫かな」
「なに、クレイヴは何時もと変わりない。
大丈夫だろう」
「そうだね〜。
まっ、いっか頑張るのはクレイヴだし」
「シャーネル、一応言っておくが、お前は人事ではないだろう・・・・」
そんな調子で、召使いに囲まれ無理やり連れていかれるクレイヴを見送る二人であった。
静かな薄暗い部屋。
部屋の中にはただ簡素な椅子と机が並べてあるだけで他に何も無い。
普段なら、多くの決闘者達で賑わっているこの待合室も今は一人の青年しかいない。
何をしている訳でもなく、ただ椅子に座って俯いているだけだ。
コンコン、とドアをノックする音が部屋に響き渡る。
「クレイヴ様、試合のお時間です」
クレイヴは黙ってその声に頷き、席を立ち歩き出す。
ドアを開けると、そこには奥から光が差す一本道。
暗くてよく分からないが、ジッと目を凝らせば汚れや血の跡が地面や壁に見え、時代を感じさせる。
『本日の決闘場はこの戦いの為だけにある!!
一人の美しき女性をめぐって争う、勇ましき両者の戦士を紹介しよう!!
まずは、東サイドからの入場ぅぅ!!!
先日、突如決闘に乱入し、華麗な剣捌きで大男を一瞬で降伏させたその実力は本物か!?
白と黒、二本の剣の意味とは!?謎多き金髪の美剣士、クレイヴ=フォード!!!』
(ワァァァーーーーー!!!!!)
歓声が巻き起こる中、クレイヴは一回深呼吸をして入場した。
クレイヴの目の前に広がるのは、先日ここに来たときとはまた一つ違う雰囲気の決闘場。
(一国の王子が戦うともなれば当たり前か・・・・)
クレイヴはそのような軽い考えでいたが、実際の理由はは少し違っていた。
それは、今日ここにいる人の殆どが先日のクレイヴの剣捌きの噂を嗅ぎ付けてきた人々であるからだ。
王子が剣術において長けているのは国民にとって周知の事実。
しかし、今日、その王子が敗れるかもしれない、そんな国民の期待が今日、この会場を包んでいた。
『対するは西サイド!!!
未だ決闘場では負け無し!!
その美しき顔立ちからは想像できない攻撃的でスピード感溢れる剣術で敵をなぎ倒す!!
我等がディラモート国の王子!!ファン=ディラモート=ワーグナー王子!!!』
更に大きな歓声が巻き起こる中、王子は満面の笑みを浮かべ、手を振りながら入場する。
そしてクレイヴの前に立つと手を差し出した。
「本気でお願いします」
「出来る限りのことはやらさせてもらう」
そう言って二人は握手を交わし、持ち場に着いた。
『そしてぇ!!
特別席には二人の男性により争われる、シャーネルさんもいるぞぉぉぉ!!!!』
クレイヴがハッとして、特別席方向を見るとシャーネルが大きく、ネイラが小さく手を振った。
(ア、アイツ・・・ちゃっかり特別席なんかで見物かよ・・・!!!それにネイラまで・・・!!!)
クレイヴはそれを無視してギュッと手を握り締めた、勿論苛立ちからである。
『さ、シャーネルさん、お二人へ何か一言』
そしてマイクから聞こえてきた音声は以下のとおりである。
『えっ・・・ちょ、ちょっとネイラ、何か言わなきゃいけないみたいだよ?聞いてなぃ・・・』
『いいから適当に激励の言葉でも送っておけ』
『え、え〜と・・・でも何話せばいいか・・・・』
『頑張れとでも言っておけ』
『・・・・二人とも頑張ってね〜〜』
(いらない会話までマイクにいれるなよ・・・ったく)
クレイヴは拳を緩め、はぁ、と溜息を吐いた。
「さぁぁて!!!お二方とも準備は良いか!?」
王子は腰にある剣を引き抜くと戦闘の態勢に入った。
先程の王子の穏やかな顔は何処にも見受けられない。
クレイヴも背中にある二本の剣の内、白色の剣を引き抜く。
「それでは、試合開始!!」
観客が一気に静まり返った。
まるで二人の闘気にかき消されるように。
二人は一気に間を詰め・・・
(キィン!!!)
静まり返った場内に剣の交わる音が響き渡った。
その後更に、二、三度、剣を交え、王子が一歩引き下がり言う。
「なる程、剣を交えて改めて分かりましたよ、あなたはお強い。
しかし、どうやら剣の振り抜きの速さは私の方に分があるようですね」
「・・・・・・」
王子の言葉を聞きながらも全く動じないクレイヴ。
「スピードを上げましょう、そして更に力強く・・・本気でいかせてもらいます・・・!!」
王子がまた一歩踏み出して、剣を横でなぎ払うようにしてクレイヴに襲い掛かる。
それを剣を縦に構え、ギリギリで受け止めるクレイヴ。
「ほう、止められましたか。。。
これは参りました、初めてですよ、私の本気の振りぬきを止められたのは」
「・・・・」
「・・・・・・全く動じないですか、さすがです。
まぁ、いいでしょう、私はあなたに勝つのが目的ですからね」
王子は先程とは逆の方向に切り込む、が、またしてもクレイヴはギリギリでそれを防ぐ。
「もう少しなんですがね。
仕方ありません・・・・連撃でなら防ぎようが無いでしょう」
(キンッキン、キンッ!!!)
目にも留まらぬ速さで剣技を繰り出す王子。
しかし、その全てを間一髪で受け止めるクレイヴ。
「守ってばかりでは勝てませんよ。
少しは攻撃をしてはどうですか?」
「・・・・・」
その戦況のまま、数分が経過したそして次の一撃。
(キィィィンンン!!!)
王子が全力で切りかかると同時に、絶妙のタイミングでクレイヴは敵の剣を受け流す。
大きく姿勢を崩した王子は、そのまま地面に倒れた。
「ッ・・・・!!」
「確かにアンタの剣は早い、力強い、防御できる奴がいなかったのも頷ける。
ましてや受け流された事なんて無かっただろう。
俺も苦労したよ・・・[わざとギリギリで受け流すタイミングを図る]のにな」
クレイヴは王子の首に剣を添える。
「何時も短期決戦、故に・・・・連続の攻撃で疲れることも予測できた。
それに経験が無いから、受け流されたアンタが大きく姿勢を崩す事もだ。
全ては読みどおり、ジ・エンドだ」
「しょ、勝者・・・クレイヴ=フォード!!!!」
(ワァァァァ〜〜〜〜〜!!!!!!)
決闘場が観客の歓声によって賑やかさを取り戻す。
(勝つことには勝ったな・・・・)
クレイヴは内心ホッとしていた。
先程、大口を叩いたのも王に徹底的にやるよう言われたからであって、試合は決して余裕ある物ではなかった。
実際は成功したから良かったものの、一度失敗すれば命を落としかねない戦術だったのだ。
「クレイヴ殿・・・・」
王子は肩をガックリと落とし、方膝をつき、そしてクレイヴの方を見つめながら、呟いた。
「・・・お見事でした。
私はどうやら自惚れていたようです。
剣術で負けることは無いと思い込み、油断が生まれこのような無様な結果を招いてしまった・・・・」
「別に負けることは無様じゃない、負けから得るものは勝つことより多い。
そこから先は、勝つよりもずっと明るい未来が待ってるはずだ・・・と、これはアンタの父親に言われた事だけどな・・・」
クレイヴはこの場に来て初めて穏やかな笑顔を見せた。
「父上が・・・・そんな事を・・・」
「ただな、見返りが大きい物にはリスクが伴う。
戦場での負けは死を伴う、だから油断は命取りだ」
「はい・・・・」
「ま、こんな言葉王子には無縁かもしれないけどな」
「いえ、そんな事はありません!!!
もし、この国が攻められたなら、私は前線で一兵士として国をそして国民を導いて行くつもりです。
その時、このような失態を犯す様なことがあれば・・・・ここでクレイヴ殿に出会えた事に、感謝するばかりです」
クレイヴは強くその言葉に頷く。
「あぁ、間違いなくそれが、国をそして、国民を背負っていく者の言葉だ。
また機会があれば手合わせ頼む」
そう言ってクレイヴは剣を納め、王子に背を向け立ち去ろうとする・・・が。
「うおっ・・・・・」
振り向いたクレイヴの目の前にいたのは、豪華なドレスや装飾品に彩られたシャーネルであった。
「その・・・クレイヴが勝っちゃった場合は?」
「あ・・・・そうか。
婚約者争いみたいな設定だったけどな、今までどおりの付き合いでいいだろ」
「うんっ!!!」
『さぁ、熱く見詰め合う二人!!!』
実況の声が場内に響く。
『ここで誓いのキスを!!!!』
「!?・・・ま、待て俺達はそんなんじゃ―――――」
クレイヴの唇に一瞬柔らかいものが触れる。
「っ・・・な、、、何をしたシャーネル!!!」
クレイヴは唇を手で押さえ、頬を真っ赤に染めながら叫ぶ。
「だって仕方ないでしょ?
この状況じゃさ。
それに・・・一回してみたかったんだ〜」
「してみたかったって・・・・お前っ・・・!!」
「その程度で赤くなるとは・・・・まだまだ、青いな・・・・」
クレイヴの横でぼそっとネイラが呟く。
「ネ、ネイラ!!お前何時の間に・・・・」
「ずっと横に居たが?
気配にも気がつかないとは・・・青いな」
「くっ・・・・」
「・・・で、どうだった?シャーネル。
人間のするキスという行動の感覚は」
「案外普通・・・というかよく分からなかった」
「・・・なんだ、そんな物か。
よく分からんな、人間のする事は・・・・さて、城に戻るか」
「うん!」
「・・・・俺は実験台かよ・・・・」
気を落としつつ、二人の後を追うクレイヴであった。
試合後、闘技場の出口付近には大勢の人だかり。
「よぉ、あんちゃん!!
強かったなぁ!!なぁここにサインくれよ!!」
「お兄ちゃんなんでそんな強いの!?
教えて!!」
「無敗の王子様を倒すとはあっぱれじゃ!!!」
勿論お目当ては本日のヒーローであるクレイヴ、老若男女問わず注目の的であった。
しかし本人は全く乗り気ではなく、逃げるようにそこを駆け抜けていく。
いや、正確に言えば何かを追うように。
「っく!!あの二人に先を行かれたらまたトラブルが増えるっ・・・特にシャーネル、シャーネルだけはっ!!!
あぁ〜!!そこっ!!どいてくれ!!」
心配事に苛立ちながらも、何とか人混みをかぎ分けてゆくクレイヴであった。
「あっ、おかえり〜クレイヴ」
「遅かったな」
「・・・あぁ・・・まぁ、色々とあってな」
人混みを脱し、城に戻ったクレイヴは寛ぐ二人の姿を見てまずは安心したが、ゆっくりはしていられなかった。
国王に、勝利をした時は来るように言われていたからである。
クレイヴにはその内容が、昨晩からどうも気に掛かっており、急いでいたのはそれも理由の内なのだ。
「・・・・ん?」
クレイヴは武具を置いて、国王の間へと向かおうとした所で気が付いた。
城内の兵、召使等、城内の人の数が昨日と比べ、明らかに少ないのだ。
「二人とも、城の中で何かあったのか?」
「知らな〜い」
「私も知らんな、だが今城内でこれほど怠けているのは私達ぐらいという事は確かだ」
(やはり城内で問題でも起きたのか?)
クレイヴは悪い予感を感じ、国王の間へと急いだ。
前話投稿から一年以上経ってしまいました。。。
申し訳ありませんでした。
話の構造はあるのですが、文に直すのに時間が掛かってしまい、gdgdと。。。
まぁ、言い訳はここまでで、さて本編。
戦闘シーンは、毎回短く終わっちゃってますね。
まぁ、長引かせるよりは見せ場作って
カッコよく出来たらなぁ、思っております。
話は次回から急展開を迎える!!・・・予定。
乞うご期待!!・・・しないように(笑




