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NEXT GEARS  作者: 結城 祐
7/21

都市でも嵐は止まらない




ディラモートの城下町。



日中は大勢の人で賑わい、買い物や話をして楽しんでいる。

店も、色とりどりの野菜やら、食べ物かどうかも分からないような物を並べてる店まで様々である。


そして丁度その時間帯、人ごみの中には何時もの、あの三人も混じっている。


そして、早速クレイヴは人混みに揉みくちゃにされていた。


「おいっ!!シャーネルッ!」


人混みに揉みくちゃにされながらクレイヴはそう叫ぶ。


「何〜〜〜??」


シャーネルは振り向くも、声の発信源が何処にいるのかをキョロキョロと探している。

勿論シャーネルの周りにも人はいるが、その特別際立って見える輝きに皆避けて通っているように見える。

ちょっとしたクレーターが出来ていると言っても過言ではない。


「何?じゃない。

 あんまりはしゃぐなって言ってるだろ!」


「今日で町に来たの3回目だよ?

 騒いで当然っ!!

 それに、そんな事言ってたっけ?」


「今ので14回目だ。

 契約主が信用ならないのは分からないでもないが、迷子になっては困るぞ」


そう冷静にクレイヴの後ろで淡々と語っているのはネイラだ。

ネイラの周りも、ネイラ特有の美しさに近寄れないでいる。


「ネイラ、後半部分結構引っかかったぞ。

 どさくさに紛れて、結構無茶苦茶言ってないか?」


「・・・真実だ。

 違うか?」


「・・・・信用してないなら契約するなって・・・・・・」


ボソッと、クレイヴはネイラの言葉に文句を漏らした。


「何か言ったか??」


「いいや、何も」


「二人とも何言ってるの〜〜〜!?

 聞こえな〜〜〜い!!」


先程よりも確実に、シャーネルの声が聞こえなくなってきている。

あの大声が小さく聞こえるのだ、二人の話し声など町の賑わいにかき消されて当然である。


「って、おい!!

 シャー・・・ネ・・・ル?」


「見えなくなったな」


ネイラのその一言に、クレイヴは溜息をついた。



「光の神様、迷子・・・・か」


「フッ・・・・」








一方、シャーネルは・・・・。


「あれ?二人とも、いなくなっちゃた。

 全く・・・・人と神様が同時に迷子になるなんて・・・聞いた事無いよ」


そう言って立ち止まり、ヤレヤレと肩を落としていた。

明らかに自分が迷子である事には、気付きそうも無い様子だ。


「まっ、いっか!!今日くらい自由でも!!」


シャーネルはウキウキした様子でまた歩き出すのであった。







クレイヴは一旦、人混みから脱出しようと、ひたすら人混みをかき分けていた。


「っと・・・・ネイラ」


クレイヴは人を交わしながら後ろにいるネイラの名を呼ぶ。


「なんだ」


「今日は何しに町に来たんだ?」


クレイヴは自身が一番分かっている質問を聞いた。

ネイラもそれを聞いて不思議そうな顔をするが、とりあえず気を取り直して質問に答える事にする。


「??・・・・食料を買いに来たのだろう?

 買い物をすると言ってたのはクレイヴ自身ではないか」


「正解。

 でも、今やらなきゃいけない事は?」


「・・・・1 シャーネルを探す、2 食料を買う」


少し考えたのか、少し間を空けてからネイラはそう答えた。


「何で早速やる事が2つに増えてんだよ!!!」


歩きつつ、頭を抱えるクレイヴ。

他の通行人も、いきなり叫んだクレイヴの方向をチラチラ見ている。

確かに端から見るクレイヴの動きは不審である。


「私に怒られても困るのだが・・・・。

 何時もの事だろう」


「そうだが・・・・」


「見ろ、人が少なくなってきた。

 幸先良いスタートではないのか?」


ネイラの言うとおり、人が少し減ってきた様に見える。

余裕が出来たからか、クレイヴは急に振り返ってネイラの顔を見る。


そして顔を見ながら、地面を指差し言う。


「シャーネルが今ここにいれば最良だった。

 あいつを町へ放ってみろ・・・」


その言葉の後、クレイヴは少々考えるような仕草をして、また口を開く。


「例えば・・・・・始めて3人で町へ来た時だ。

 どんな事が起こったか覚えてるだろ?」


「シャーネルが町でガラの悪い10人余りの男達に絡まれ、

 それを全て返り討ちにする過程で、近くの家、4、5軒の壁に大穴を開ける等して多大な被害を齎した」


一回も息をつかず、口から流れ出るようにネイラはそう言った。


「・・・正解。

 つまりだ。

 見つかった頃には重大な問題が10個以上に、膨らんでる可能性すらある」


「確かに」


ネイラも納得してしまうほどのクレイヴ、いや、シャーネルの説得力は並々ならない。


「どうすれば・・・・・あぁ〜!!もうっ!!!」


色々な感情が入り混じって混乱したのか、金色の髪を思い切り手で掻き毟る。

もっとも、人々の間を抜けてきたお陰でクシャクシャになった髪にはそう変化は起こらなかったが。


「落ち着いて、探すしかなかろう?

 問題が起こる前に解決するのが、現状で考えうる一番の方法だ」


「・・・そうだな。

 落ち着いてここは――――」


「――――昼寝でもするか?」


「いや、しないから。

 大体、問題起こす前に解決するって言ったのネイラだろ?

 ほら、行くぞ」


「む・・・・落ち着くには昼寝が一番――――「行くぞ」――――・・・・了解」


ネイラのしぶしぶした返事を合図に、二人はまたゆっくりと歩き出した。








その頃シャーネルは、何もする事が見つからないのか、フラフラと町を歩いていた。

いや、フラフラしているだけでも楽しいのだろうか、その表情には笑顔が見られる。


「ふぅ〜〜ん。

 色々な物があるんだ」


色々な店がある為か、全く飽きが無いのかもしれない。

事実、シャーネルはあまり町の事に関してはあまり知らなかった。


それは、先程クレイヴとネイラが話していた事件以来、クレイヴがシャーネルを町に連れて行く事を、酷く嫌っていたからだろう。



しばらく店を見て回ると、シャーネルは店の並びを抜けた先の何かを発見したようだ。


「ん??あの建物はなんだろ?」


その黄色の瞳の先には、大勢の人々が大きな円形の建物で列を作っているのが見えた。


「何やってるんだろ?

 ま、楽しそうだから行けば分かるかな」


そうしてシャーネルはその建物へと小走りで向ったのであった。










クレイヴとネイラはあれからシャーネルを探す為に再び商店街へと入っていた。


「クレイヴ」


「あぁ」


ネイラはクレイヴを呼びかけるが、クレイヴは探すのに必死なのか、曖昧な返事が返ってきた。


「クレイヴ」


「あぁ」


またもや同じ返事。

少々顔を引きつらせたネイラは、三度口を開く。


「お前は誰だ?」


「あぁ」


「あぁ、と言う名前なのか、変な名前だな、アホ契約者」


バシィィン!と勢い良くネイラがクレイヴの頭を引っ叩く。


「っ!!・・・・・痛ってぇ・・・・何だよ?」


「何だよ、では無い。

 先程から呼んでいるのに曖昧な返事しかしないものだから、神から天罰を加えたのだ」


神様に言われては返しようの無い言葉だ。


「すまん。

 ちょっと探すのに夢中になっててな。。。

 で、何だ?」


「手当たり次第ではなく、探し方を工夫したらどうだ」


「工夫って言ってもな・・・。

 例えば?」


「シャーネルのいそうな場所を探す。

 そうだな・・・・人だかり等があったら、まず興味を持つのではないか?」


「・・・・成る程な。

 それじゃあ、人が集まってる所でも探してみるか」


そうして、二人はシャーネルが厄介事に足を突っ込みかけてる事も知らずに、歩き出すのであった。










 



「うっわ〜〜広っ!!

 真ん中の舞台で何かやるのかな?」


シャーネルは先程見つけた円形の建物の二階にいた。

その大きさに驚いている様子である。


「クレイヴの家もコレくらい大きければなぁ。。。

 神様なんだからこれ位用意して欲しかったんだけど・・・文句言えないかぁ」


この建物。

屋根は無いが、中心に正方形の大きな舞台があり、外から見たとおり円形に舞台を囲むように席が並んでいる。

席は2,3万人が座れる程あるようには見えるが、多くの人々で賑わっていて、全ての席が埋まりつつある。


シャーネルは取り合えず、席が埋まる前に、急いで空いている席に座った。

すわり心地は中々のようで気に入った様子だ。

鼻歌混じりでシャーネルがくつろいでいると、唐突に会場中に声が響き渡った。


『本日は

 これより、ディラモート王国主催、第129回 [アン・トルノ・ディ・ラモート]を開催いたします』


聞こえてきたのは女性の声だったが、そんな事はシャーネルには関係が無かった。

人々の歓声、そして今から何が始まるのかで胸が一杯だからである。


『本日は、ディラモート王国王子、ファン=ディラモート=ワーグナー王子も会場三階の特別席にてご観戦なされています。

 皆様盛大な拍手を』


丁度、シャーネルの向かい側の席、つまり円形の反対方向の三階に座っている人物が立ち、手を振った。

それに答える様に、会場中が拍手に包まれる。


「王子だか何だか知らないけど、早く始めてよっ」


何が始まるのかワクワクしているシャーネルには、全く関係の無い事だったが。



その後しばらくして、中心の台に両側から二人の男が上がってきた。

一人は、槍を手にしている細身の男性。

もう一方は剣を手にしている男である。


『それでは・・・・第一回戦 一組目 ヨハン=ヴォルス選手 対 アーロン=デニス選手。

 ・・・・始めっ!!』


その合図と共に、台の上の二人は互いに持っている武器を相手に向け突進していった。













薄暗く人通りの少ない路地。


クレイヴとネイラはその暗い路地で何やら話し合っているようだ。


「さっきの人が言ってた闘技場での大会が今の所一番有力か」


「ああ、そこにいる可能性はあるだろう」


「・・・でも、どっちに行けば闘技場に着くんだ?」


クレイヴは、今着た道を行くか、それとも先へ進むかをネイラに聞いた。


「・・・地図を持っている訳では無いから、そのような事を聞かれても困るのだが。。。

 第一、クレイヴの方がこの町について詳しいのではないか?」


「買い物するだけなのに闘技場には行かないだろ」


確かにディラモートの町はレランガート第二の都市だけあって広い。

歩きで全てを回ろうとすると、歩きつづけても何日掛かるか分からない程だ。

そこで巨大な建造物とは言え、一つの場所を特定するのは難しい。


呆れ気味に話すクレイヴはハァと溜息をつき、また口を開いた。


「・・・仕方ないか。

 ネイラ、ちょっと空から何処にあるか見てきてくれ」


「うむ。

 それが最良の方法だな。

 それでは行ってくる」


そう言って、トン、とネイラは地面を蹴った。

ネイラは黒く美しいその髪を靡かせながら上昇していく。



通常、ディラモートでは、町の中で許可の無い場所では魔法は使ってはいけないというルールが法律で定められている。

しかし、そのようなものに従っていては、シャーネルが問題を起こすに決まっている。

そう考えた二人は今や法律など関係が無い。

むしろ、この場合法律を破った方が言い結果が出るとも考えられる。


人通りが無い路地なので、見つかる事も無いだろうが。




「・・・・あれか」


ネイラは空から見た景色を見てそう呟く。

上から見ても分かる程の人の多さ、そして何よりも闘技場特有の円形の形。


目標物を発見するにはそう時間は掛からなかった。



ふわり、といった感じに黒い髪が動くと同時にネイラの体は降下していった。



「で、どこにあった?」


地面に着地したネイラに、すかさずクレイヴは問う。


「ここから戻ってひたすら北だ。

 そう距離は遠くなかった」


ネイラはそう言って、ついさっき歩いてきた道を指差した。


「よし、行くぞ」


そして、二人は全速力で道を引き返した。










『勝者、アーロン=デニス選手!見事2回戦進出決定です』


シャーネルがいる闘技場では、一回戦の一組目が終了したと同時に、ワァァという歓声が闘技場全体に響き渡った。

そして戦った者同士は、互いに握手をして選手が退場していった。


「ふ〜ん、町ではこんな面白い事もやってるんだ〜」

 

シャーネルもすっかり周りの観客同様、闘技場での戦いにハマッてしまったようである。


「・・・クレイヴは参加する気はないのかな?

 今度誘ってみよっ!

 こっちは楽しんで、クレイヴが勝てば優勝賞金が・・・・ふふふふ」


シャーネルは一人不気味に笑いながら、次の戦いが始まるのを待っていた。










「クレイヴ」


「なんだ」


「こっちは選手用の通路ではないのか?」


クレイヴとネイラは闘技場に到着すると同時に選手用の通路を突っ走っていた。

ここに侵入する為に、ネイラの黒魔法を使った事は言うまでもない。


勿論、今も走りながらネイラは係員が二人に気付く前に眠らせている。



「ああ、そうだけど、どうかしたか?」


ネイラの言っている事がよく分からないのか、クレイヴはネイラに聞き返す。


「クレイヴは参加者ではないだろう」


「観客席に混じって一人の人物を探すのは至難の技だろ?

 だったら、一番目立つ所で呼ぶしかない。

 それとも何か?

 今日ここに来ているらしい王子様とやらに、刃を向けて国中の指名手配者にでもなるか?」


さも当然のようにそう話すクレイヴだが、言っている事は無茶苦茶である。

何せ、国が主催の大会を止めようとしているのだ。


外見は何時ものクールなクレイヴだが、

過去のシャーネルの事故もあり、クレイヴは相当焦っている様だ。



「それもそうだが・・・あのシャーネルが呼んだからと言って、自分から現れるのだろうか?」


「・・・・信じるしかないだろう」


最も、クレイヴにとって今一番信用なら無いのがシャーネルであったりするのだが。


「それよりも見ろ、あそこから会場に入れるみたいだ」


クレイヴは光の見える方向を指差し、そう言った。


「係の者とは格好が違うが・・・・あの男も眠らせるぞ?」


ネイラが言った、あの者、とは先程クレイヴが指した所に立っている男の事である。

確かに、剣を背中の鞘に収めて武装しているので、明らかに身軽な係員とは違うものである。


「ああ、頼む」


その言葉と同時に、今入場をしようとしてた男は、バタリ、と倒れてしまった。


「・・・悪いな。

 少し試合を遅らせる」


クレイヴは、通り過ぎる際にその倒れた男がこの大会の参加者である事に気付き、

男にそう告げて、ネイラを連れて大歓声の中の会場へと駆けていった。











『それでは、一回戦 二組目の選手が入場します』


そう、会場にアナウンスが入ると同時に、舞台へと向う大柄な男が出てきた。

筋肉質なその肉体に手に持つ斧がマッチしている。


「あっ!おじいさん!始まるよっ!」


「みたいじゃが・・・。

 もう一人の選手がいないぞい?」


「あ、ホントだ」


シャーネルは待ち時間の間、隣に座っていた老人とすっかり意気投合してしまったようである。


「あ、走って出てきた」


「ほっほっほ、なんとも人騒がせな奴じゃわい」


「あははははっ」


二人は、後から入ってきた男に指差し笑った。


「・・・・・って、あれ?おじいさん、もう一人ついてきたよ?

 女の人みたいだけど・・・」


シャーネルは笑うのを止めて後ろから着いて来たもう一人の人影を指しながら、老人の顔をみる。


「む?本当じゃのう・・・・」


老人が首を傾げたその時、シャーネルはある事に気付いた。


「・・・・クレイヴと・・・・ネイラ?」


「む?お嬢ちゃんはあの二人と知り合いかの?」


「うん、町であの二人、私から逸れちゃって・・・」


あくまでもシャーネルにとって、いなくなったのはクレイヴとネイラのようだ。


「ふむふむ、なる程な」


「クレイヴ・・・出るなら出るって言ってくれればいいのに・・・」


シャーネルはまた一人で大きな勘違いを起こしてるようだ。


「じゃが、あのような痩せ型の男では・・・・。

 お嬢ちゃんには残念じゃが、あの大柄な男の勝ちじゃの」


「そうかな?」


シャーネルはそう言ってニッコリと笑って老人を見た。


「私はクレイヴが勝つと思うな♪」


そう言って、シャーネルは舞台の方へ目を移した。












「・・・・シャーネル!!」


クレイヴは何回も舞台の上で名を呼ぶも、大歓声の前にその声はいとも簡単にかき消されてしまう。


「おい、何叫んでんだ?」


クレイヴの目の前に立つのは、先程眠らした男の対戦相手の男だ。

体格はかなり大きく、身長は2mはありそうな巨体である。

身長が180cmあるクレイヴですらも、痩せ型の体系の影響からかかなりの小柄に見えてしまう。


「・・・悪いが、お前には関係無い、ただ人探しをしてるだけだ」


そう、男に言った後、またシャーネルの名を呼び始めた。


「人探しだ?

 それなら、この俺を倒してからにしてくれ。

 こっちは早く戦いたくてウズウズしてんだよ!!」


「頼むから少しだけ時間をくれ。

 お前の本当の相手はあっちに――――」


『一回戦 二組目 コリン=ヘイラー選手 対 ニール=アンデルソン選手

 ・・・・・始めっ!!』


クレイヴが先程眠らした人物の方へ指を指した瞬間、アナウンスが鳴り響き、クレイヴの声はかき消されていった。


「おらぁぁぁぁ!!!!」


「チッ・・・・仕方ない・・・」


試合開始の合図を聞いた大柄な男は、横に高速で斧を振りぬいた。

大きな斧を軽々と操るこの男の腕力は相当なものだと思われる。


それに対しクレイヴは咄嗟にしゃがみ、男の横に回りこむように横に一回転しながら、背中の鞘に収まっている剣を右手で抜く。


「あ、、、あ・・・・あ」


そして、その剣先は男の首の側面スレスレで止まっていた。

男は動く事も出来ずに、ただただ呆然としている。


会場中が静まり返る。

明らかに不利だと思っていた側の圧倒的勝利。

観客を黙らせるには十分な程の演出だった。


「悪いが、少し黙ってくれ」


固まっている男にそう言うと、男はコクリと、なるべく首を動かさないように頭だけで頷いた。


そして、クレイヴは観客の方を向き言った。


「俺は選手として戦った訳ではない!

 俺は只、人を探しているだけだ!!

 この会場に、もし心当たりのある者がいれば今すぐここに来い!!」














「っは〜〜、やっぱりクレイヴは強いね〜〜〜。

 ねっ!おじいさん?私の言ったとおりでしょ?」


「こ、これは驚いた。。。

 あれ程まで華麗に数分の狂いも無く勝ってしまうとは・・・・」


シャーネルの隣に座っている老人も呆然としている観客の一人だった。


「・・・しかし、あの青年の言ってる人物とは、お嬢ちゃんの事では無いのかの?」


「ん?あぁ〜、多分そうだね。

 早く行かなきゃ怒られちゃうから、またね!おじいさん!」


シャーネルは舞台の方へ向っていった。


「ん、お嬢ちゃん?

 ここは三階だから舞台へ出るなら―――――あ、危ない!!」


老人が叫ぶのは当然だ。

先程まで話していた女性が三階の観客席から舞台へ飛び降りたのだから。


しかし、その老人の気持ちとは裏腹に、シャーネルは、ゆっくりと空中を舞うように降下した後、音も無く舞台へ着地した。


その光り輝く髪を靡かせ着地する姿を見た会場の人は、思わずその美しさに息をついた。




「シャーネル、勝手にいなくなるなよ」


何も起こらなかった事に、少々安心しながらも疲れた表情でクレイヴは言った。

 

「何言ってるの?いなくなったのはそっちでしょ?」


「何言って――――「・・・どちらでも良いからさっさと退場するぞ」――――・・・・ああそうだな」


ネイラはクレイヴが言い返そうとする所に割って入りクレイヴを納得させる。

どうもネイラは目立つ所が苦手のようだ、まあその容姿故、嫌でも目立ってしまうのだが。


「よし、それじゃ、大会を中断する形になってすまなかった!

 大会を再開してくれ」


クレイヴは会場の観客全員に聞こえるようにそう叫び、入場してきた所へと観客の声援を浴びながら歩き始めた。



しかし、間も無くクレイヴが足を止めた。

 


「・・・・アンタは―――王子か?」


クレイヴが足を止めた理由、それはクレイヴの目の前に立っている人物にあった。

その人物とは、今日この大会を見に来ていたディラモート国の王子、ファン=ディラモート=ワーグナー王子である。


年齢は20台前半あたりだろうか、スラッとした長身で整った顔にシャーネルと同じ銀色の髪。

目立った装飾品も身に付けることも無く、育ちの良さが窺える容姿である。


「貴様ッ!王子に向って何という口を!!」


王子の斜め後ろに立つ兵士がクレイヴに向って声を上げる。


「待て、よいのだ」


スッとその兵士の顔の前へ手を翳した。


「クレイヴ殿、と申しましたね?

 一瞬であったが見事な剣技でした」


「・・・・それで?

 一国の王子が俺に何の用で?」


「いや・・・私が用があるのはクレイヴ殿では無く――――――」


王子がクレイヴの横を通り、歩いた先には。


「あなたです」


――――シャーネルがいた。


そして王子はシャーネルの前に跪きこう言った。


「おぉ・・・何と美しい・・・。

 あなたのように美しい人がこの世に存在しようとは・・・・これが一目惚れというものでしょうか。

 あなたを目の前にして一層決心が強くなりました、私の・・・・妃になってはいただけないでしょうか」


「・・・・・え・・・・・」


シャーネルは開いた口を両手で塞ぎ、


「・・・こうなるのかよ・・・」


クレイヴは片手で額に手を当て、


「シャーネルがいなくなって何も無いで済むはずが無いとは思ってはいたが・・・・ここまで大きくなるとは」


ネイラは何時ものクールな表情が少し崩れて、驚いている。


「あ、あの・・・・・私・・・」


シャーネルが少し困ったような顔をしながら、王子とクレイヴの顔に目線が行ったり来たしている。


「駄目・・・ですか?」


王子が上目遣いでシャーネルを見る。

整った顔の王子がそれをやるとまるで子供のようだ。


「いや・・・駄目と言うか・・・何て言うか・・・その・・・」


そして、その顔を見たシャーネルはそのまま押し黙ってしまった。

彼女はとても活発ではあるが、優しい心の持ち主だ。

王子の申し出も断りたくても、断れないのであろう。


シャーネルは更に困ったようにクレイヴに目線で助けを求めた。


「・・・もしや・・・」


そう言って、王子はスッと立ち上がると、クレイヴの方へ目をやった。


「あなた様はクレイヴ殿に―――――」


どうやら、シャーネルの目を向けた先によって王子の誤解を招いてしまったようだ。


「ちょ・・・ちょっと待ってくれ!俺とそいつはそういう関係じゃない」


焦りだすクレイヴ、しかしその焦りの表情がさらに誤解を招いてしまう。


「何も隠さなくても良いではないですか!

 愛し合っているのなら愛し合っていると、何故隠すのです!?」


「だから、そんなんじゃ――――」


徐々に苛立ってきたクレイヴが声を張り上げようとした瞬間。


「二人とも止めたらどうだ。

 ここは男らしく、力でシャーネルを争えば良いではないか」


ネイラが二人の間に割って入ってきた。

クレイヴが熱くなって王子に手を出そうものなら国家犯罪者も同然だ。

ネイラは取り返しのつかないことになる前に止める事を選択したのだ。


「力??」


王子はネイラに向って聞き返した。


「ああ、明日の午後、ここにて二人の勝負を行う。

 そして勝った方にシャーネルをプレゼント。

 それで良いではないか」


「プ、プレゼントって、私、物じゃないんだけど・・・」


「気にするな。

 で、どうなんだ?二人とも」


「良いですよ」


「・・・分かった」


溜息をつくシャーネルを尻目に、しぶしぶ了解する二人であった。









その晩、クレイヴ一行は王国の一室に泊めて貰える様に王子から直々に手配された。

王子曰く「万全の状況で戦ってもらわねば困りますからね」とのことだ。


宿泊している城の一室の広さはかなりのもので、100人位は入れるのではないのかという様な広さ。


家具類は全て上等なもので揃えられていて、ベッドなどもちゃんと3つ用意してあるが、

3つとも人が4、5人は寝れてしまうのではないかという大きさである。

そして、大人の背丈程もある大きな半円形の窓から月の光が差し込んでいる。


クレイヴは、その月の光を一部さえぎるかのように窓の枠の部分に腰掛け、窓の外を切れ長の鋭い目でじっと見つめていた。

肩の辺りまで伸びた金色の髪に、月の光が反射して輝いているように見える。


「クレイヴ?」


不意に後ろから声を掛けられ。クレイヴはそちらへ振り向く。

シャーネルだった。


シャーネルは城の者に着るように言われて純白のドレスを着ている。

ネイラも着る様に勧められたが「私はいい」と一言で断った。

因みにそのネイラは部屋に着くなり、例の巨大ベッドで眠りについてしまった。


「シャーネルか・・・・。

 どうした?」


「いや・・・何やってんのかなぁって」


クレイヴは決して外の風景を見ていたわけではない。

正確には考え事をしていただけだった。


しかし、考え事をしてた等と言うと、きっと問い詰められる。

そう思ったクレイヴは一瞬返事に迷いが生じたが、クレイヴは視点をシャーネルから外の風景に戻した。


「町の夜景を眺めてただけさ。

 こんな景色は中々見れるものじゃない」


確かにクレイヴの言うとおり、城下町の夜景は非常に美しい。

夜でも栄えている街は眠ってはおらず、所々で小さな光がいくつも光っている様子はまるで地面に星空があるかのようだ。


「あ・・・ホントだ。

 綺麗だねぇ・・・・」


クレイヴに言われて視点を外に移したシャーネルも、いつの間にかその町の美しさに見とれてしまっていた。


しばらく、無言で外を眺めていた二人だったがシャーネルが口を開いた。


「・・・・その・・・迷惑掛けてゴメンね・・・」


「もういい。

 終わった事だ」


外を見ながら、クレイヴは言った。

シャーネルが素直に謝るのが可笑しいのか、顔には微妙な笑みが浮かんでいる。


「それに・・・」


「それに?」


「お前を町に放り出して只で済むとは思ってなかったからな」


「そうだよね〜」


「そうだよねって・・・分かってるなら少しは自重しろよ」


「だって面白いんだもん」


やれやれ、とクレイヴは溜息をつくと改まって口を開いた。


「始めて3人で町へ来た時覚えてるか?」


「あ、、、私がガラの悪い奴らに絡まれた時?」


「そう、あの時全員を返り討ちにし、周りの家に多大な損害を齎した」


「ま、いいじゃない?

 あの時の責任はすべてあのガラの悪い連中もちになったんだから」


「今回は、後処理が俺って事を考えると笑えないけどな」


「ご、ごめん・・・」


「ははっ・・・冗談だ」


「もう・・・・・それじゃ私そろそろ寝るね?」


「ああ、お休み」


「お休み」


そういってシャーネルは窓の方向に向いた体をベッドの方向へ向けた。


「明日は頑張ってね」


と、一言言って、ベッドの方向へ歩いていった。


「・・・人事じゃないだろ・・・」


と小さく呟いてから、クレイヴはすぐに先程の[考え事]に思考を戻した。

勿論視界は外の夜景に向っていたが、意識はその景色ではなく思考の中にあった。






それは、つい先程の話だ。







闘技場での出来事の後、王子に招待されてこの町の中央に聳え立つ城に招待された3人は部屋の準備をするからと言って

とある城の一室で待つように言われていた。


部屋の中には5人ほど座れる、座り心地の良い椅子がそれと同じ長さのテーブルを挟んで中央に置かれており、

その他には絵画や花などしか飾っていない簡素な部屋であった。


もっとも、普段からこのような場所には慣れていないクレイヴ達にとっては、どうにも落ち着いてられない様子であったのだが。


「「「・・・・・・・」」」


椅子に並んで座ったまま無言の三人。


場慣れしていないと言うのもあるが、クレイヴは少々不機嫌な様子で、シャーネルはそれを窺ってずっとモジモジしている。

そして、ネイラは普段から自分で話題を作らないような性格だ。


その結果この沈黙が生まれている、と言う訳だ。


ガチャ・・・・と、唐突にドアの音がこの沈黙を破る。

そして、その音に対して一斉にドアの方向を向く三人。


そこにいたのはこの城で働く兵士だった。


「・・・ク、クレイヴ様。

 しょ、少々よろしいでしょうか?」


そのあまりに揃った3人の行動にうろたえる兵士。


「何だ?」


一言で無愛想に返すクレイヴ。


「国王様がお呼びになっておりますので、ご案内に参りました」


その事を聞いたクレイヴは一瞬と惑った。

一人の若者が一国の長に名指しで呼ばれるのだ、戸惑いが起きて当然である。


そのまま、10秒間程下を向いて考えた後、重い腰を上げてスタスタとドアに向う。

そして再びドアは閉ざされた。






クレイヴが案内されたのはいわゆる「国王の間」と言う所だ。

絵に描いたような大きな椅子の上に白髪の老人が座っている。

そしてその左右には兵士が一人ずつ、計二人いた。


クレイヴはその部屋に入り国王の前方に立つと、跪き頭を深々と下げた。

王子の前でこそ、冷静さが失われていた状態であった為あのような態度を取っていたが、

一応クレイヴは並みの礼儀位なら知っているのである。


「私に用があるとの事ですが、どのようなご用件で?」


「ふむ・・・お主がクレイヴ殿か・・・・。

 二人で話したい、下がってよいぞ」


国王はクレイヴを見た後、左右の兵士にそう言って、兵士を部屋から出るように言った。


「クレイヴ殿、楽にしても良いぞ」


それを聞いたクレイヴはスッと立ち上がり、国王をジッと見た。


「ふむ・・・・良い目をしておるな。

 お主、相当な実力者であろう?」


「・・・・用件は何です?」


「はっはっは、若いのだから、そう焦らんとも良かろう。

 私はただ今日の息子の無礼をお詫びしたいと思っただけなのだからな」


豪快に笑う国王。


呼び出されたのはそれだけの為か、と少しクレイヴの気が緩んだ。


「いえ、それなら気にしておりません・・・」


「お主は良い若者だ。

 私の前でも媚を売る訳でもなく、堂々としておる。

 あやつもお主の様になって欲しい物だ」


「あやつとは・・・・王子のことですか」


「そう。

 私はあやつに大きく良い男になってもらいたい。

 明日の戦いの話は聞いておるぞ。

 一人の女性を争って行うそうじゃな」


「・・・・わざと負けろとでも?」


「いや、偉大な国王となってもらうが故。

 必ず手加減無しで本気でやって貰いたい」


クレイヴにとっては予想外の願いだった。

 

「お主はこの国の国民ではないのだろう?

 調べはついておる」


「はい」


「なら、知らないのであろう、あやつの剣の腕は確かじゃ。

 この国でも未だ負け知らず。

 それが故に今のあやつは自信ばかりで他の物が備わっておらん。

 負けから得る物を知って欲しいのだ。

 それが国王となる男にとって必要不可欠なものなのだからな」


クレイヴは分かった。

王子が敵に塩を送るような事をした訳が。

それは王子の自信という「油断」から来るものだったのだろう。


「クレイヴ殿。

 相手は一国の王子だからと言って手加減は必要いらん!

 必ず勝って欲しいのだ!!」


「分かりました・・・・。

 それでは、失礼します」


クレイヴは頭を少し下げて軽く礼をして、振り返り部屋の巨大なドアへ向おうとした時。


「クレイヴ殿!!」


「まだ何か?」


「・・・・明日、もし勝ったならもう一度城へ着てくれぬか?」


「分かりました」


コクリと頷いてクレイヴは部屋を出たのであった。









クレイヴの意識が現実に戻る。


目の前には壮大な夜景が先程と代わらずに広がっている。


「・・・あれだけの事を言う為に俺を呼んだとは思えん・・・・。

 国王は何を隠している・・・・・」


不意に窓から風が入りこんで来た。

冷たく乾いた肌にヒリヒリと伝わるような風だ。


「どうも、嫌な予感がしてならないな・・・・」


そう独り言を言って窓を閉め、クレイヴは冷えた体をさすりながらベッドへ向ったのであった。











果たして国王がクレイヴに伝えようとしている事とは!?次回から物語が動き出す予定です。


お楽しみに!!

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