巨額請求につき。
世の中には地図に名前が載ってないような小さな村がある。
ここはその村の内の一つである「シアの村」だ。
小さな村と言っても住人は100人程いる為、色々な人の姿が見られる。
毎日家族を養う為に一所懸命に仕事をしている男性達。
家の前で談笑している主婦達。
池の周りで友達同士会話をしながら楽しそうに釣りをする子供達。
そんな、何処にでもある日常。
何処にでもある平和。
「何処にでもある、当たり前な物、ごく自然な事・・・だからこそ脆く、崩れやすい・・・」
遠くから村を見つめる男性の口から言葉が漏れた。
そしてその口はつり上がっていて、笑っているように見えた。
―――――――――――ビュンッ!!!
剣を持つ一人の金髪の青年―――クレイヴの目の前を、獣型の魔族の鋭い爪が空気を切り裂くかの如く通り過ぎる。
「っ危なっ!」
パラパラ・・・とその青年の前髪が数本切れて地面へと空中を舞いながら落ちる。
この鋭利な爪に、この勢いで体を突かれたらひとたまり無いだろう。
「ふぅ・・・かんいっぱ・・・・っ!!」
更にクレイヴの左側からも同様に鋭い爪がクレイブの顔めがけ襲い掛かる。
クレイヴは咄嗟にしゃがみ、慣性に逆らえない魔族の腹を剣で刺し、すぐに引き抜く。
このような獣型の魔族は、一般的に群れを成して獲物に襲い掛かる。
ただし、この前畑にて戦った魔獣と違って攻撃がバラバラなので、リーダー的存在はいないと見られる。
クレイヴの周りには、まだ数匹の魔獣がクレイヴの隙を窺っていた。
「クレイヴ、何をやっている、それ位さっさと倒せ」
闇の神―――ネイラが敵を闇魔力で構成された剣でなぎ払いながら言う。
「そうそう、コレ位の敵クレイヴならどうって事ないでしょ?」
光の神―――シャーネルも同様にして、魔族と戦いながら言う。
「・・・一つ質問するぞ」
クレイヴは周りの魔獣から目を離さず、二人に言う。
「こうなったのは誰のお陰だった?」
「クレイヴだ」
「クレイヴ〜〜」
すでに敵を倒し終えたネイラとシャーネルは(むしろ彼女ら二人が強すぎて敵が近寄ってこないのだが)共に自分の契約主の責任だと主張する。
「いや、断じて俺では無い!!」
「じゃ、誰?」
クレイヴの無罪を訴える言葉にシャーネルが聞き返す。
「誰って、、、三日前の事だぞ!?
その年齢で耄碌するな!!」
「ギリギリの状態で私達に怒ってるクレイヴの方が頭大丈夫??」
「お前に言われくないし、全然ギリギリじゃない!
こっちは余裕タップリなんだ」
意地を張っている事が丸分かりである。
「・・・・汗を浮かべながら戦う様の何処が余裕なのか理解できん」
ネイラのこの一言に、意地を張っていたクレイヴは――――
「・・・・あ〜〜、分かった!!
ハッキリ言って余裕無い!
手を貸してくれ!」
――――助けを求めた。
「「ヤダ」」
(くっ!!・・・・コ、コイツ等・・・覚えておけよ・・・)
「・・・・」
二人同時に返ってきた言葉に、返答できない程の怒りを覚えるクレイヴ。
「そ・れ・に私達はもう、1000年以上生きてるんだよ??
忘れ事とかあっても仕方が無いでしょ。
それとも、私たちの年齢知らなかったとか?」
「ふ〜ん、知らなかったよ。
見かけに寄らず年取ってるんだな。
婆さんはもっと遠くに避難した方が―――――」
クレイヴが驚きもせず、シャーネルに言い返そうとした瞬間。
(ヒュン!!!)
「のわっ!!危ないだろ、いきなり魔法撃つなよ!?」
「ふんっ、婆さん呼ばわりしたし・か・え・し!」
「へいへい、申し訳ありませんでした、お姉様」
「分かれば良しっ」
「で、三日前とは何の事だ??」
二人のやり取りが終わると同時にネイラが口を開く。
「・・・・・・ホ、ホラ!
ネイラも忘れてるじゃない!!」
「・・・ネイラもなのか。。。
本当にお前ら頭大丈夫か??」
ネイラはシャーネルと違って
頭の方はしっかりしていると、思い込んでいたクレイヴはショックを受けている。
「「クレイヴの頭が??」」
「そこ、揃えるな!!
しかも、明らかに俺は何処もおかしくないだろ?!
・・・とりあえず三日前だ。
三日前の夕方を思い出してみろ。
少し時間やるから!」
そう言って、クレイヴは剣を前方の敵に向け、その敵めがけ走り、剣を振り落とした。
――――三日前、夕方・・・・
レランガート第二の都市ディラモートの周りの何も無い荒野。
その荒れ地にポツンと立つ二階建ての大きくも無く小さくも無い家。
その家からは青年の怒りの声が聞こえてくる。
「おい、シャーネル!!なんでこんなに高額を請求されてるんだ!!!」
クレイヴが、部屋の修理屋が置いていった領収書を持った手を、ブルブルと震わせながら叫ぶ。
クレイヴが持っている領収書には、数字と見るにしてはまだ良いが、
お金として見ると頭が痛くなる程の数字が書かれている。
「な、何でって言われても・・・。
移動費・・・とか??」
この、シャーネルと呼ばれている銀髪の眩しい程の美女はやや動揺して答える。
「・・・確かに、町からここまで結構な距離があるが、そこまで移動費はかからない筈だ」
クレイヴは領収書から目を離さず言う。
「・・・私は修理屋さんが来て少し言葉を交わしただけだよ?」
「・・・言葉を交わしたってどんなだ」
「えぇ・・・とぉ。
ドアがノックされたから、ドアを開けて、挨拶して・・・」
「そこまでは大丈夫だな」
「それで、その後"絶対に壊れない位、丈夫にお願いします"って」
クレイヴは思った。
それだ、と。
「それで??」
「修理屋の人が、少し高くなりますけど??って言ったの」
「・・・それでシャーネルは――――――」
「お願いします。。。。と」
シャーネルが上目づかいでクレイヴを見る。
「はぁ〜〜」
溜息をついているクレイヴ。
「ごめ〜ん・・・」
「シャーネル、落ち込む事は無い。
神様に家の留守番させるからバチが当たったに違いない」
そう豪語するのは、もちろんクレイヴでは無い。
今二階から降りてきたネイラだ。
「そうだ、そうだ〜〜」
「何でそこでシャーネルは無罪になる!!?
・・・まあ、いい。
明日また依頼探してくるから」
「頼むよ〜チミぃ」
クレイヴを指差して偉そうにそう言ったのはシャーネル。
「・・・シャーネルも付いてこい!!」
「えぇ〜・・・」
「えぇ〜じゃ無い!!」
次の日・・・・。
レンジャーギルド、ディラモート支部にて。
「何・・・・?
つまり今ディラモート近郊で完了できる依頼は無い・・・と?」
「ええ、そういう事になります」
「それは困ったな・・・」
次の日、クレイヴはディラモートのレンジャーギルド支部に訪れた。
何か近場で完了できる依頼はないかと受付嬢に尋ねてみたが、そう都合よく依頼は見つからないもので
そのような依頼は見つからなかった、と返事が返ってきたのだ。
ディラモートのような大都市には、その大きさに見合うだけの戦力がある。
その為、このようなケースも珍しい訳ではない。
訪れるタイミングが全てなのだ。
何時もなら出直す事もあるが、今回ばかりはそうはいかない。
兎に角、クレイヴには大金を支払うための金が"今"必要なのだ。
仕方が無い、とクレイヴは受付嬢に言った。
「それじゃ、ここから一番近い所でこなせる依頼内容を見せてくれ」
「はい、・・・・こちらになります」
受付嬢は手際よく、分厚い紙の束からその依頼内容が書かれたものを抜き出しクレイヴに差し出す。
「・・・Aランクか・・・まあいい、コレでいこう」
「了解しました」
「あ〜何とか思い出した」
ポンっとシャーネルは手で相槌を叩く。
「ふぅ、これで最後っ!!・・・」
クレイヴは仲間が全て倒され、動揺している敵に剣を振り下ろす。
魔獣は断末魔の叫びをあげ、その場に倒れた。
敵ではあるものの、生き物を殺したと言う事には変わりは無い。
そのような考えから、クレイヴは何時も戦闘が終わった後は複雑な表情をする。
「クレイヴお疲れ〜」
シャーネルの明るい声を聞き、クレイヴの表情は元に戻る。
「・・・で、思い出したんだな??」
「うん」
「だろ?、やっぱりシャーネルがわるか・・・」
「クレイヴが悪い!!」
「何故そうなるっ!?」
「ん〜〜・・・何となく??」
「聞くな!!
もういいっ!
先に進むぞ」
「りょうか〜い」
「・・・全く・・・五月蝿い二人を仲間に持ってしまったものだ」
ボソッとネイラが発した言葉は、対象の二人には聞こえなかった。
案外ネイラが一番大人なのかもしれない。
どうもです。
前の話とは違った、新しいストーリーがココから展開していく訳ですが、真の意味でのストーリーはまだ始まってない"かも"です。
まずは、この三人を良く知ってもらおうという次第ですが、あくまでも"かも"ですので、関わりがある話かも知れません。
そこの所は想像にお任せします。
何処からこのドタバタな三人が世界と大きく関わっていくのか!!乞うご期待下さい。




