Light of Awakening
「・・・花火と言うのはここまで地が揺れる物なのか?」
「いや、ガキの頃見たときはここまで揺れなかったと思うが・・・」
花火が上がったと同時に起こった僅かに地の揺れを感じたネイラがクレイヴに確認をした。
シャーネルとネイラは花火を見るのはこれが初めての事なので、疑問に思うのも仕方の無い事だ。
だがクレイヴは『この揺れ』が花火特有の響きとは違うと感じていた。
これは音の振動による物ではなく、他の何かであると。
「おいっ、シレーナが大変な事になってるらしいぞっ!
大通りのヴィジョンに行ってみようぜっ!」
突然3人のすぐ傍にいたグループの内の一人が。そう言って駆け出した。
その言葉が耳に入ってきた3人は思わず顔を見合わす。
「シレーナって・・・」
「あぁ・・・」
そう、シレーナとはつい先程までクレイヴ達がいた国の名である。
クレイヴとシャーネルは思わず顔を見合わせた。
「・・・彼らに付いていこう。
まだ悪い知らせと決まったわけではない。
その『大通りのヴィジョン』とやらに答えがあるのだろう?」
顔を見合わせる二人を急かす様に、ネイラは二人の間を通って歩きだした。
街の人々について行けば騒ぎの原因が分かると判断した為である。
「そうだな・・・」
「うん・・・」
通称『ヴィジョン』、正式名称は魔導式空間投影装置。
光魔導エネルギーを空気中の分子に投影して3元色に発光させ、立体が浮かび上がる装置で、
その装置に対応する映像記憶装置が記録した映像を、あたかもその場に存在するかのように映すことが出来る。
世界では大国と呼ばれる国でしか日常に取り入れられていない、最新魔導科学装置である。
3人が人の流れに従って歩き始め、ものの数十秒の所にそのヴィジョンはあった。
元々彼らが泊まるホテルが大通りに面していた為、それほど距離が無かったのだ。
幅30メートル程の大通りの中央に、円形で直径15メートル程のヴィジョンが、
そのサイズに見合った大きさのシレーナの上空からの立体映像を映し出していた。
おそらく上空にある結界の一部に装置が取り付けられているのだろう。
悪い知らせと決まった訳ではない。
その言葉に希望を見出したいのは、感情を持つ者として当然の事であった。
しかし、そのヴィジョンに映る光景はその希望を打ち砕くのに十分な光景であった。
「あの場所って・・・・!!!」
シャーネルの口から意識せずとも、愕然とした様に声がこぼれ落ちた。
シレーナの国のある一部が綺麗な円形型に火の海となっていた。
しかも、その周辺の家も先程の振動からか半壊状態である。
彼らが今朝出発した駅もほぼ全壊状態である。
それもそのはず、シレーナから離れたこの地でも揺れが分かるほどだったのだ。
現地ではどれほどの衝撃があったかは想像するに容易い事だった。
シャーネルが気をやったのは、その円形の中心である。
その場所は彼らが一夜を過ごしたあの家の辺りなのだ。
「あぁ、間違いない。
フォルシオの家だな・・・無事であって欲しいが」
「・・・待って・・・カロナリアはっ!?
あの子はあの家から動けない・・・」
クレイヴが祈るような思いでヴィジョンを見つめる隣で、シャーネルはハッとした顔で言った。
「最悪の事態も、視野に入れなければならないな」
ネイラは表情一つ変えずに、一つの・・・限りなく大きな可能性を口にした。
それはシャーネルにとっては受け入れ難く、
淡々としたネイラの語り口に、言い様のない怒りが芽生えるのに時間は掛からなかった。
シャーネルはネイラの両肩を勢い良く掴んで、ネイラの体を揺さぶった。
それに反発する事なく、ネイラはそんなシャーネルの目をじっと見た。
「何でっ!?」
何でそんなに冷静でいられるのっ!?」
「よせっ・・・シャーネル」
クレイヴは咄嗟に声を荒らげるシャーネルを止めようとするも、
シャーネルは声を荒らげたままネイラの肩を揺らし続けた。
「あの子は病気でも必死に生きようとしてっ!!
冒険の話とか将来の夢とか、普通じゃ考えらんないくらい未来に数え切れないくらいの希望を持っててっ!!!
まるで自分の病気の事なんて無かったみたいに明るい笑顔で笑ってたのに・・・・何でっ、何でなのっ・・・・!!」
「なら、それで現実が変わると思うか?」
ネイラの言葉がシャーネルには痛いほど理解できた。
理解できるけど、受け入れたくなくて。
自分の思いをぶつける場所が無くなって、でも声を出したくて。
シャーネルの目には感情が溢れるのと同じように涙が溢れ出していた。
「それはっ・・・!!
でもっ!!こんなの・・・余りに、惨すぎる・・・・。
あんなに夢や希望に満ち溢れてた子が・・・。
自分の運命も笑顔で受け入れて、必死に生きようとしてた子が・・・ううっ・・・」
ネイラの肩を掴んでいた拳が綻んで、倒れ込むようにネイラにもたれ掛かり、
彼女の胸の中でシャーネルは抑えたくても出てしまう嗚咽をもらしていた。
「夢や希望は、現実を直視せずして叶うものではない」
ネイラは先程の厳しい口調から一変した優しい声でそう言って、
胸で声を押さえ泣くシャーネルの背中に手をまわし優しくさすり、言葉を加える。
「私達に出来る事をやろう。
今は泣いてても良いんだ。
でも必ず・・・あの子にとっても、私達にとっても最善の事をやるんだ」
「うん・・・・」
クレイヴには心無しか、ネイラが微笑んでいるように見えた。
それは、彼女が悲しみを隠す為か。
それともシャーネルを安心させる為か。
どちらにせよクレイヴにとって、その顔はとても心強く見えた。
シャーネルが落ち着くまで二人をそっとしておく事にし、
クレイヴは再びヴィジョンの方に目をやり、これからの動向を考え始めた。
そもそもの旅の目的はポルトにて謎の男二人から王の奪還。
そして二人の男が話す『真実』を聞く。
その二つであった。
しかしディラモート国王の命を背負っているとは言えども、シレーナもまた一国。
それも共に戦った友の命の危機なのである。
恐らく間も無く、世界各国の救援がシレーナに送られるだろう。
それでも自分達はそれを黙って見ているだけで良いのか。
そのような気持ちの一方で、
一国の王子に頭を下げられ、王としてではなく父として国王の救出を頼まれた立場も捨てられない。
「ちっ・・・どうすりゃ良いんだよ」
そう言って唇を噛み締めるクレイヴは、ヴィジョンの中を悔しげに見つめた。
燃え盛る炎、逃げ惑う人々、崩れる建物。
眠りかけていた街が揺さぶり起こされていく様を、見ているしかない自分に情けなさすら感じていた。
「・・・・ん?」
しかしクレイヴじゃそんな中で、ある『異変』をヴィジョンの中で発見した。
正確にはヴィジョンの中のシレーナにだが。
「・・・何だ、この光は・・・?」
シレーナの街並みの中でやけに一点だけ光っている部分が見受けられたのだ。
それは先程も述べていた被害の広がっている円の中心にあった。
炎の中で一点だけ、上空からでも分かるほどの輝き。
「おいっ、なんだあれは・・・?」
「何か光ってないか?」
「揺れの原因かしら?」
辺りにいた人々もヴィジョンの中に映るシレーナの『光』に気がつき始め、
勝手な想像を各々話し始める。
「クレイヴ。
また何か起こったのか?」
街の人々の声を聞いて、シャーネルとネイラはクレイヴの元に歩み寄ってきた。
「あぁ、詳しくは全く分からないけど、怪しい光がシレーナの街中にあるんだ」
「ほう・・・」
そう言われてネイラはヴィジョンに映る映像を訝しげに凝視した。
「それよりもう大丈夫なのか、シャーネル?」
「うん、泣くだけ泣いたし。。。
何より、泣いてるだけじゃ始まらないもんね」
シャーネルは口元をキュっと結び、気合が入った顔で頷いた。
「おう、その調子だ」
「・・・あれが例の光か」
ネイラは微笑を浮かべながら、シャーネルとクレイヴのやり取りを横目で見た後、
直ぐ様表情と視線を戻しそう言った。
「あぁ、そうだ。
二人はどう思う?」
「う~ん・・・、ちょっと分からないなぁ」
「私もだ。
この場では判断しかねる」
クレイヴ自身も二人が何かを知っているとは思っていなかった為、
気持ちが落ち込むとまでは至らないが、依然として気になる様でヴィジョンから目を離そうとしない。
そんなクレイヴを見てネイラが釘を刺す様に言った。
「クレイヴ、まさかとは思うが・・・。
シレーナに戻ろうと思っているのか?」
「・・・迷ってるだけだって。
どうすれば良いか、な」
「全く・・・・、お人好しに囲まれている私の身にもなって欲しい物だな。
それでは身が幾つあっても足らんぞ」
はぁ、とネイラが珍しく溜息を大きくついてそう言った。
「へ?」
「自分に出来る事からやれと言っているんだ。
任せられる所は他の連中に任せればいい。
何故、全ての物事に関与する必要がある?」
「だけど―――――」
「クソッ、こうしちゃ居られねぇ。
シレーナには古い友人が居るんだ!
俺ぁ、今からシレーナにいって出来る限りの事をしてくる!」
「私も行くわ、小さい頃育った国だもの・・・」
「俺も、放っておけねぇよ!!」
ヴィジョンの映像を見ていた街の人々が、一人また一人と駅へと歩きだした。
壊れゆく街を見て『助けたい』と言う思いを抱くのは誰もが同じなのだと、クレイヴは思った。
「自分に出来る事から」、ネイラが言った事はこう言う事なのだ。
一人で全てを解決しようとしては破綻するのみ、
見知らぬ人々であってもそれぞれに役割があって、知らず知らずの間に協力し合っているのだ。
「・・・わかった。
明日の朝、ポルトに向かおう。
そんでもって、あの男二人組をさっさと処理して、即効でシレーナに向かうっ!
それで良いよな?」
「オッケ~!」
「・・・調子の良い奴だな、まったく・・・」
元気に返事をするシャーネルと、気の変わり様の速さに呆れるネイラであった。
しかし方針は改めて定まったと言えども、依然謎の光は正体不明のままである。
腹は決まったものの、分からないとなれば気になるのが心理と言うもの。
未だにクレイヴは謎の光から目が離せないでいた。
「・・・・しっかし、何なんだろうな、あの光は」
「まだ言ってるのか。。。
私はさっさと部屋に戻って寝たいんだが。
久しく真面目な事ばかり言ってたら、眠くなってきた」
「久しくって・・・自覚あるんかい。
てか、さっきの真面目そうなセリフは『早く部屋に戻りたいから言った』とかじゃ無いよな・・・?」
「さぁな。
だが考えても分からないものは仕方ないだろう。
先に部屋に戻ってるぞ」
「あはははは~~~」
ネイラはクレイヴの言葉に顔色一つ変えず、澄ました顔のままアクビをすると、ホテルの方向へと歩き出した。
その様子を見て何時もの様に笑顔が溢れるシャーネル。
「ったく、マイペースなこって・・・。
俺たちも戻るぞ、シャーネル」
「うんっ」
そう言ってクレイヴが歩き出そうと、ホテルの方向へ歩き出そうと体の向きを変えたその瞬間。
「うおっ!?
ネ、ネイラ、何で立ち止まってんだよっ!?」
ネイラはとっくにホテルに歩いていっているものだと思い込んでいたクレイヴは、
目の前に突如として現れたネイラの後頭部に顔面をぶつけてしまった。
黒く長いロングヘアーから香る甘い香りが鼻を擽るが、そんな事は気にして居られない。
何も無いものだと確信して歩きだした場合、それは歩き出しの速度だとしてもぶつければそれなりに痛いからである。
特に強打した鼻を抑えつつ、ネイラにクレームを送るクレイヴであるが一切返事は返ってこない。
それどころか反応すらしない、まるで何かを視界に捉えて離すまいとするかのように動かない。
「ネイラ・・・?」
そのただならぬ雰囲気を感じたクレイヴは、ネイラの視線の先を目で追ってみた。
「っ!?
お前らは・・・・」
「・・・・誰?」
影は二つ。
赤く長い髪をなびかせる青年と、大柄の男。
クレイヴとネイラの反応はこれで正しいはずである。
居るはずのない者が。
旅の目的であるディラモート城内に現れた正体不明の二人がそこ立っていたのだから。
シャーネルのみ彼らを初めて見る為、警戒の欠片も見られない様子で頭を傾げている。
何もアクションを起こす事が出来ない3人を目に捉えたまま、大柄の男が低い声で響かせるように言った。
「教えてやろうあの『光』―――――『レシピエント』について」
その頃インティスの中央部の塔『エリュシオン』にて。
塔の内部は途中幾つかの階層を除いては、
石造りの螺旋階段のみとなっている。
その延々と続くような階段を登る一人の影。
「まさか『あの子』が・・・・・『レシピエント』に・・・・」
その人物の顔。
『死神タナトス』の顔には――――――笑みが浮かんでいた。
さぁ、いよいよ物語も核心に入ってきました。
と、言っても伏線はまだまだ沢山残っております。
謎のワードも出てきましたね。
『レシピエント』
この話の最終章、最重要ワードである事は断言しておきます。
後は~。
この話のAwakeningには二つ意味が込められてましてね。
まぁ実際は一つだけなんですが「迷いから覚める」と「覚醒」の二つ。
そんだけだね、深い意味は多分無いっ!
ではまた。




