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NEXT GEARS  作者: 結城 祐
20/21

別れる運命-狂い出す歯車-そして覚醒



列車はインティスのガラス張りの建物を掠める様に走っている。

つい先程まで何も無い草原を走っていたとは思えない程の景色の変わり様だ。


『――間もなく、イーストインティス駅に到着いたします。

 皆様、お荷物等お忘れの―――』


インティスに入国して間も無く、お決まりの車内アナウンスが流れた。

見たことも無いインティスの高い建物の数々に釘付けになっているシャーネルは

列車の窓に張り付かんばかりに外の風景を見ていたが、ふとアナウンスを聞いて先程のタナトスに教えてもらった内容を思い出した。


「そう言えばさ、クレイヴ~。

 私達はどの駅で降りるの?」


シャーネルの言う『どの駅』と言うのは、このインティスでは余りの国土の広さ故に

駅が一つでは列車の乗客に様々な支障をきたす為、駅が計9つもある。

クレイヴ達の方面で最初に止まるのが東に位置するイースト駅。

他の3方位にもそれぞれ駅があり、その間にも各一個ずつ。

残りの一つは中央駅となっており文字通りインティスの中心に位置している。


つまり8方位プラス中央で合計9つと言うわけだ。


その為遠方からの客もそうだが、インティス内を移動するのみの国民も移動手段として大多数が利用しているのだ。


「あぁ、今日はもう日も暮れてきたからな。

 このまま南のサウス駅で乗り換えるのも体力的に厳しいからな。

 宿屋が多いイースト駅でいったん降りよう」


クレイヴは質問に答えると同時に、席から立ち上がると手荷物のチェックをし始めた。

尤も殆どの荷物は列車に預けてある為、ほんの軽い確認程度ですぐに席につき直した。


間も無く到着すると言っても、荷物の受け渡しがある為に、十分な停車時間がある。

それ程焦る必要はないのだ。


「えっ、それじゃ今夜は観光できるって事っ!?」


宿屋と言う言葉に反応して、シャーネルの大きな瞳がより一層輝きを増す。

その目はまるで好奇心旺盛な子供の様だ。


「そう来ると思ったよ・・・。

 まぁ良いよ、昨日の戦いも頑張ったし、

 俺も大都会とやらを歩いてみたいしな」


「やったぁ!

 これでようやく人間界に降りてきた甲斐があったよ~」




「2年間一緒に居て、今それを言うのかよ・・・」





「よっぽどクレイヴの傍が暇だったんっしょ~。

 うう~、かわいそーなシャーたん」


そう言って泣くフリをわざとらしくクレイヴに見せつけるタナトス。




「いや・・・それなりに色々連れて行ったはずなんだが。。。

 それにシャーたんって、何時からそんな呼び方に・・・」


「だってクレイヴったらディラモートでの買い物くらいしか連れてってくれないんだもん。

 後は依頼の時にちょこっと遠出するだけで、戦ったらすぐ帰っちゃうし」




「自分のターゲット達成したら主を置いてさっさと家に帰るのは何処の二人だよっ!?」



クレイヴの悪態が車内に響く中、列車はイースト駅に停車した。
















「わ~い、観光観光っ!」


列車を降りて、荷物を受け取った3人は駅の構内にある地図の前に居た。

その際クレイヴは再びネイラを召還する。

もちろん騒ぐシャーネルの首根っこを掴む事を忘れてはいない。


「シャーネル、観光は宿を探してからだって。

 決して早い時間帯とは言えないんだから」


「クレイヴの言うとおりだな。

 遊んでから宿がありませんでは笑い話にもならん。

 それに私は戦闘直後の体のままだ、少しでも早く休みたい」


ネイラは少々疲れた様子で、淡々と語った。

確かに列車が発車する直前にクレイヴの精神内に戻した為、

ネイラの体自体は戦闘から、数時間後の体のままだ。


シャーネルは列車内で多少なり休んだのか、元気は有り余るほどある様子だ。


「うん、分かった。

 荷物も無い方が良いもんね」


「おっ、流石シャーたん、聞き分けが良いっ!」


「えっへん!」



タナトスの如何にもなヨイショに胸を張るシャーネル。

タナトスもタナトスでネイラの身を案じて、休ませてあげたいと言う念があるのだろう。


「・・・え~と、地図によると・・・この駅をでてすぐの所に大きいホテルがあるみたいだな。

 そこへ向かうとするか」


「それで良いっしょ。

 別に特別な日でもないから、観光客も多くは無いし。

 俺もここにくると何時も利用してっからね~、普通に良いトコだし」


「よし。

 なら、まずはそこへ向かうか」


「「お~!!」」




「・・・」


シャーネルとタナトスの活気ある声の後に、ネイラは呆れたような声を発した。

疲れているからではなく、心の底からの声である事である事は間違いないだろう。

















『ガチャ』


ホテルの4階の一室の金属製の扉を開けると、そこはなかなかにいい部屋であった。

ワンルームへ続く廊下には洗面台とバスルームの扉があり、

部屋の中心には大きめのベッドが二つ、さらに最奥にあるガラス張りの壁からは町の景色が広がっており、

4階という高さからでも、夜の中に煌く都会の光の美しさが十分な程に感じられる。


「へぇ、なるほど流石は都会だな。

 普通の宿泊代でも都会の光は楽しめるのは、悪い気がしないな」


クレイヴは部屋の奥に行くなり、そう言って窓の外の風景をみながらそう言った。


「わぁ~、本当だぁ~~、綺麗だね~」


シャーネルもクレイヴを追って窓の外を見るなりそう言った。




一方ネイラは・・・。



「・・・ベッドの質が良さそうだ」



もはや休む事しか考えてないようである。



「もう寝る事考えてるのか・・・」



クレイヴは呆れた様子でネイラに言った。



「わぁ~、本当に気持ち良さそ~!」




シャーネルもネイラの言動に反応し、ベッドに興味を示した所で悪態を着く前にクレイヴはある事に気が付いた。


「あれ、タナトスは何処だ?」




「ん~?タナちゃんなら暫くここに留まるからって、違う部屋を頼んだみたいだよ~」


「あぁ、そうか。

 アイツここで、例の死神の任務があるんだったな。

 で?何処の部屋だ?」


「この部屋の隣の408号室だって~」


「じゃあ、出かけるついでに最後の挨拶でもするか。

 明日は朝早いし、アイツも任務が忙しいんだったらこれから会えないかも知れないし」


「なぁんだ、やっぱりクレイヴも何だかんだ言って、タナちゃんの事認めてるんだ~」




クレイヴはシャーネルの言葉に面倒くさそうに、頭をボリボリ搔いて反論する。


「認めてるも何も。。。

 一応短い間だったけど一緒に旅した訳だし、挨拶でもしておかないと気持ち悪いだろ。

 ただそれだけだ。

 じゃ行くぞ~」


「は~い!

 ほらっ、ネイラもベッドばっか見てないで行くよっ~!」


「・・・・」


シャーネルは部屋を出る際に、ベッドを見ているネイラに手招きをしながら呼びかけるも、

大した反応が見られないので「先行くからね~」と言いつつ隣の部屋へと歩いて行った。


「・・・・まったく・・・。

 元気すぎるのも問題だな」


ネイラは結局、観光には乗り気にはなっていない様だったが、

一回大きな溜息をつくと、部屋の出口へと歩いていった。



ネイラが部屋のドアを閉めると、隣の部屋の前でクレイヴとシャーネルが怪訝な顔をして立っていた。


「どうした。

 タナトスに挨拶するのでは無いのか?」


その様子を不思議に思ったネイラが、二人に近寄りつつ聞くとクレイヴは首を横に振ってからネイラを見た。


「いや、もうすでに出かけちまったらしい。

 さっきまでシャーネルと騒いでたくせに、最後の挨拶も無いって・・・。

 ったく、テキトー極まりない奴だな・・・」


どうやら部屋にはすでに鍵が掛かっており、タナトスは居ない様である。


「まぁ昔からそうだもんねぇ。

 神出鬼没で、時々顔出したと思ったら、次の瞬間には居なくなってたりね~」


「そうなのか。

 じゃ、こっちも勝手に行動させてもらっても文句無しって事だな」


「そだね~」



そう言うと3人は、夜のインティスの街へと繰り出そうと降りの階段の方へ歩きだした。






その頃、ホテル玄関口。


「あ~ぁ、結構楽しかったんだけどねぇ。

 またどっかで会えますかねぇ」


タナトスは、ホテルの玄関から出て建物の4階を名残惜しそうに見上げてそう言うと、

夜にも関わらず混雑する街中の雑踏へと姿を消していった。




 









「ふ~ん、ここは宿泊施設が多いし、旅客が多いから半ばリゾート地みたくなってるんだぁ。

 ワクワクするぅ~!」


シャーネルは、ホテルの一回で手に入れたホテル近辺のガイドブックを片手に、あちこちをキョロキョロ見回している。

流石のシャーネルもここではぐれたらマズイと思っているのか、それとも以前の迷子事件がキッカケなのか、

クレイヴとネイラから先行しつつも離れないように歩いている。


「・・・夜なのにここまで明るいとは、まるで眠らぬ街だな」


夜間であるにも関わらず、街のあらゆる光が放つ明かりで街頭も必要ない程に明るい街並みに、流石のネイラも驚いている様子だ。



シャーネルとネイラが言うとおり、街のいたる所に噴水やらジャンクフードを売っている露店、道端で芸をしている者等、

街は光量と言う意味だけではなく明るい。


特別な祝い事や祭りが開催されている訳でもないのにお祭り騒ぎである。

確かにこのエリアはガイドブックが示すとおり、世界中から人が集まるリゾート地。

もちろんこのエリアの経済もそれによって潤っているのは言うまでもなく、行政がそれを狙い積極的に奨励している。


このような大きい国では、『各地域の特色が他のエリアと被らない様にし、如何に発展させてゆくか』が、行政の最大のテーマなのだ。

そして、その中でも『観光地』という特色を持つのがイーストエリアというわけだ。



「あっ!!!」



「っと・・・いきなり叫ぶなよシャーネル。。。

 後ろから姿が見えてても普通にビックリするだろうが」


ガイドブックを見ていたシャーネルが突然声を発して歩を止めた為、クレイヴは反射的にピタッと足を止めてそう言った。

ネイラもそれに合せるが、彼女に驚きの顔は見られない、クレイヴより付き合いが長いだけの事はある。

シャーネルの突発性には、もう慣れたものである。


「あと十分で花火だよ、花火っ!!

 毎晩、10時に私達の泊まってるホテルの近くであるんだって!」


「・・・それで?」




結果は分かりつつも、クレイヴは後頭部を掻きながら呆れ顔で聞く。





「戻れぇ~~~!」




「やっぱり・・・」


「いい加減慣れろ、落ち込む暇があったらな。

 でないと、また見失うぞ」


ネイラはいたって冷静にホテルに戻り始めるシャーネルの後を追ってゆく。


「・・・それは確かなんだけど、何でちょっと嬉しそうなんだよ、ネイラ」


「さぁな、クレイヴの気にする事ではない」


「はっ・・・!!

 まさかお前部屋に戻って寝るつもりじゃ・・・」




「・・・・」



図星なのかネイラは一言も言葉を返さず、歩をやや早歩きにしてシャーネルの後ろに付くのであった。












刻刻と、時は迫る。


インティスの中心、天界の楽園との繋がりの塔『エリュシオン』の頂上から、タナトスはシレーナのある方角を見つめる。




一筋の涙を流しながら。





「ごめんね・・・カロナリア・・・」





『ドンッ!ドンッ!!・・・ドンッ!!』


その言葉と同時に、盛大な花火が東の方角に上がった。


涙が粒となって地面へと落ちた。









地が微かに揺れる。







「・・・・!!!

 まさか・・・・そんな・・・!」





目を見開くタナトスの目からは―――――





涙は消えていた。








凡そ一年ぶりの更新!


いやはや、物語が動き出します。

タナトスの涙の訳とは。


いつかあるであろう、最終回にて全ての謎が明かされる・・・予定!


↓ブログ(U日和)も不定期更新中!

http://u0831.blog89.fc2.com/

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