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NEXT GEARS  作者: 結城 祐
15/21

誓いの大都市




漆黒の闇夜の湖に浮かぶ一隻の戦艦。


それを覆う様に輝く光の結界。


破壊しようと激しく衝突する水の刃。



「何か手はあるか、ネイラ」


クレイヴは湖の上に浮かぶ敵から目を反らさず言う。

その表情は険しく、自分達は明らかに劣勢だと言う事を自覚しているようだが

臆している様子は無い様だ。



今のところ船は無傷であるが、無数の攻撃により、いずれ結界も消える。

となれば、シャーネルが力を使い果たした今、

クレイヴ達の乗る船も他の二隻と同じく海の藻屑である。



「一応考えはある」



自信があるのか、それともいつも通りの調子なのか、ネイラもまた無表情で敵を見つめながら言った。






「なら、それに賭けてみよう」





二人の後ろから、声が聞こえた。

フォルシオである。


「・・・・・良いのか?」


クレイヴは少々、驚いた表情で言った。


クレイヴにとってフォルシオは第一印象で『少し頭が固い人物だ』と言う印象だった。

だから、まだ案すら聞いていないネイラの策を、すんなりと聞き入れてくれた事に対して驚いたのである。


「良いも悪いも、、、シャーネル・・・と言ったか?

 あんたが居なければ、今頃この船は乗員もろとも沈没していた。

 だから、俺達はお前達にこの船を託そうと思った、それだけだ。


フォルシオは座り込んでいるシャーネルを見てそう言った後、他の兵に聞こえるように叫ぶ。


「いいか!

 今から我らは彼らを前面サポートする様に動く!

 戦術も彼らに任せる事になる!

 この案に異議のある者は!!」


フォルシオの叫びに答える様に他の兵も吠え出した。




「異議なんてありませんっ!」


「その姉ちゃんが頑張ってくれたんだ!

 借りは返さないと、水軍の恥だ!」


「全力で答えます!」




シャーネルの頑張りが、この船の乗員の気持ちを。

クレイヴ達もまとめて一つにした瞬間だった。


「よし、ならネイラ聞かせてくれ、その案を」


「分かった、この作戦は少々リスクが伴うが―――――――」


ネイラは小さく頷き、話し出した。






















――――――――「他の二隻の乗員救出完了しました!!」


兵が船の側面についている梯子を上り終え叫ぶ。


「よし、こちらは準備ができた。

 後はそっちだ」


フォルシオがクレイヴ達3人に向けて言った。


「シャーネル、結界が消えるまで後どれくらいだ?」


クレイヴはフォルシオの言葉に頷いた後、シャーネルに目を移し言った。


「後・・・3分って所かな」


シャーネルは何時もの様子で言った。

調子は少し楽になった様だが、まだ表情には疲れが見え戦えるような状況ではない。


「3分か・・・・そろそろ、行くか」


クレイヴはそう言うと、先ほど兵士が昇ってきた緊急用の梯子を降りていく。

勿論、真下は湖である。


「うむ、では剣を水面へ投げろ」


ネイラが船から顔を覗かせ、クレイヴが下に降り切った所で言う。

すると、ネイラの指示通りクレイヴは背中に背負っている死と黒の2本の剣の内、

黒い方を自分の真下に落とす。


この剣は前にも述べたが、素材が特殊なのであるが当然質量は水より圧倒的に重い。

よって浮力でも補えない分の重さで剣は湖へ沈んでいく。


「よし、では魔力を送るぞ」


沈みかけている剣に対し、手から闇の魔力を放つネイラ。

すると剣とネイラの手が魔力で繋がれている形となり、剣が水面へ浮かび上がってきた。


これは以前ヴァンパイアを倒した時に、剣から魔力を放出させた事を思い出して欲しい。

あれの応用であり、剣には一定量の魔力しか蓄えられないが、

ネイラの手から送り続ける事により剣から魔力が放出し続ける。

それにより、剣と水を魔力で反発させ水に浮かべたのだ。



「よっと・・・・・おっ・・・っとっと」



クレイヴはゆっくりと、剣に乗った。

そう、ネイラが剣を浮かべたのは、それをサーフボードの代わりにする為である。


「乗り心地はどうだ?」


「・・・良くも無く悪くも無く、だな」


剣の上で苦労している様子のクレイヴを見ながら、船の上から意地悪そうな笑みを浮かべて話しかけるネイラ。




「そろそろ・・・3分・・・か」




しかし余り冗談を言っている暇は無い。

先ほど、シャーネルが時間を宣告してから、間もなく3分が経とうとしていた。


「船を動かしてくれ。

 敵を中心に旋回するように、全速で」


ネイラは横に居るフォルシオに告げた。


「分かった!

 奴を中心にして、旋回しつつ全速前進!!」







「結界が消えるよ!

 気をつけて!」





船が動くと同時に、シャーネルの声が船に響いた。




眩い光を放っていた結界が、徐々に消えてゆく。




「よし、剣を発進させる。

 気をつけろ」




そして完全に消えると同時に、ネイラは剣と繋がっている右手を思いっきり前方へ突き出した。

すると、クレイヴの乗る剣は敵の方向へと急発進する。





「うおっ!!

 ネイラッ!!

 加減をしろっ・・・・って、もう船から離れてるか・・・・」


クレイヴがネイラの雑さ加減に文句を言おうとするも、すでに船も剣も別方向へ動き出しているので、それを諦め前方を見る。




一方船は動き出して、水の刃を幾つか回避するも、なおいくつかの刃が船を襲うとしていた。


「今度は先ほどのようにいかん」


ネイラは先ほどの失態を思い返し、真剣な表情で剣を操る右手とは別に、左手を水の刃へと向ける。

すると、左手から闇の魔力を発射し刃を打ち消した。

船が止まっている状態では、左手一本での対処は不可能だが、

旋回している限り、向かってくる刃は少なくなる。


それを狙っての船の動きであるが、その分右手のコントロールは難しくなる。

だが、それを難なくコントロールしているネイラの器用さには、

剣に乗っているクレイヴ自身も感じていた。




「うおっと・・・・・バランスは悪いけど、一応俺に向かってくる攻撃は全部回避出来てるな。。。

 ったく・・・仲間ながら、呆れた器用さだ・・・」



独り言を言う余裕すら見られるクレイヴ。

すでに飛び散る水飛沫で、服だけでなく前進がびしょぬれであるが、傷はひとつも見られない。

敵までの距離はすでに10m程の所まで来ていた。



「よしっ・・・・」


クレイヴは右手に白い方の剣を取った。


「シャーネルが攻撃できない分、この剣で思いっきり攻撃してやるとしますか」


クレイヴがそう呟いている頃には、敵との距離はもう5m程。




「よっ・・・・」



クレイヴが右手を上げると、船の上のネイラも右手を挙げる。

すると、剣は水面から掘り出されるようにしてクレイヴごと宙に上がる。



これで、セイレーンとクレイヴの目線が並んだ。


「まずは一撃」





クレイヴは高速の中、タイミングよく剣を叩きつける

すると、セイレーンの周りに円形の結界が現れた。


『愚かな、その様な攻撃では結界を崩す事は出来ぬぞ』


「だが、さっきの大砲とこの打撃で限界のはずだ」


クレイウはセイセーンの言葉に、湖に落ちながら笑って答える。




「はっ!」


ネイラが空いた右腕でセイレーンへ魔法を放つ。





船から黒色の魔力が一直線でセイレーンに向かう、そして。。。



『パリィィーーン!!!』



いよいよ結界が割れた。

しかし、結界が割れたのみでセイレーンには傷一つ無い。


ならばまた攻撃をすれば良いのだが、ネイラはその場に座り込んでしまった。

剣に魔力を送り続けながらの、敵の攻撃の相殺。

さらに最後の一撃。


それにより、ネイラもまた魔力を使い果たしてしまったのである。



「ほう・・・結界を消した事は認めよう、だがもう攻撃はできまい」


笑みを浮かべながら、手に魔力を溜め、残った船に狙いを定める。










「いや、まだ終わってない」


クレイヴが湖に浮かびながら、小さく言った。










「砲撃用意っ!!!!

 全弾発射!!!」










船から砲弾が発射される。


「なっ・・・・・・」


セイレーンの表情が驚愕へと変わった直後。






『ドゴォォォン!!!』






発射された砲弾は轟音と共に爆発した。


着弾数は8発中、3発だがセイレーンは結界を張っていない無防備な状態。


爆発した煙の中からセイレーンが光を失いつつ落ちてゆく。

そして力無いまま湖へ着水し水飛沫を上げた。



クレイヴは船の上からの歓喜の声を背に受けつつ、すぐさま湖に仰向けで浮かぶセイレーンの元へと泳ぐ。


セイレーンの傍に寄ると、クレイヴは少し安心した様な表情を見せた。

所々服が破れており、体にも生々しい焼け跡が残っているが、まだ意識が有るのだ。


事の真相が分からなってしまっては、これからの動き方も分からなくなる。

それを心配する必要が無くなったからである。




セイレーンは、クレイヴに気が付くと無防備に仰向けで浮かんだまま「ふふっ」と小さく微笑んだ。

それに答える様に、クレイヴも微笑を浮かべつつ話し出す。



「流石に精霊と言えども、生身で砲弾は堪えるみたいだな」


「まさか人間に敗れようとは、考えてもいなかった・・・。

 さて・・・我の命は余り長くは無い様だ・・・何か聞きたい事があるのであろう?」



セイレーンは首を少し曲げて、クレイヴの方を見た。



「あぁ、ごく単純な話さ。 

 さっきあんた言ったよな、この国を破壊しなければ世界は滅びると」


「先程言った事に偽りは無い。

 今、此処を破壊せねば世界は破滅へと向かう」


「その理由だよ。

 さっき言ってた強大な力とは何なのかって事だ」


「それも先程言ったがその存在を知ったのは、つい先程の事だ」


クレイヴの表情が強張る。


「聞いた?誰にだ?」






「魔族。

 奴は名をネクロマンサーと言っていた」








「またネクロマンサーか・・・・・一体何を・・・」


クレイヴは小さく呟いた。

『また』と言うのはネクロマンサーの名を聞くのは今ので二回目。

一回目は旅へ出る前のケルベロスに姿を変えた男の口から、同じ魔族の名を聞いたからである。


とすれば、彼女もまたネクロマンサーの手によって、魔族に姿を変えた者の一人という事になる。

クレイヴは自らに悔しさの感情が込み上げて来るのが分かった。

魔族の犠牲者をまた一人自分の手で葬らざるを得なくなってしまった事に対してだ。


無論、彼ではどうしようもならなかった事は事実であるが、それを理解してもなお悔しさは収まらなかった。



「強大な力自体は我も数年ほど前から感じてはいたのだ。

 だが我は契約主と共にこの地に眠りついた身、故にどうする事も出来ぬまま今日を迎えたのだ」



セイレーンは淡々と語りだした。

夜空を見上げながら、淡々と。





「だが、先程の事だ。

 突然奴の声が我の中で響いてきた。

 

 『我が名はネクロマンサー。

  セイレーンよ、今この国で強大な力が目覚めようとしている。

  これを止めなければ、全世界が破滅へと向かうであろう。

  破滅には破滅を。

  魔族の力より生を得て、自ら救済を与えるのだ』と。



 我はそれに従うしか無かったのだ、強大な力の存在、それも確信へと変わっていき。。。

 魔族として、自らこの国を破壊すると奴と契約を交わした」




つまり、セイレーンは町を破壊し、強大な力を破壊すべく魔族から生を貰い受けたのである。

シャーネルが初めてセイレーンを見た時に言った『精霊とは少し違う』とはこの事だったのだ。

そして揺れの原因も、湖の深くで眠っていたセイレーンが復活した際の

衝撃だと言う事も理解できた。


「・・・・・」


クレイヴは無言でセイレーンの話を聞いていた。

その表情はセイレーンの悲劇を哀れんでいる様にも見えるが、セイレーンはそれを見てまた少し笑った。


「・・・・その様な表情をするな。

 魔族に力を与えられた結果、この有様では格好も付かないが・・・・妙に清清しいのだ。

 お主達に負けた事で別の方法が在るのではないかと、

 俄かにだがそう感じ、人間たちの力の結束に委ねようと思えた。

 さらに魔族の手に踊らされ・・・・我が契約主『ラーゴ』との思い出の地を滅ぼさずに済んだのだ」









しかし、その様に微笑を浮かべながら力強く言うセイレーンの目にも。



うっすらと目に涙が浮かんできていた。










「ただ―――――――」









セイレーンが夜空の星を見つめながら、いや、遠い日の思い出を見つめているかの様に呟いた。





遠い日の。









―――――――――――――――――――――――――――――


『セイレーン、今から俺とお前でこの大穴に湖を作って町を作ろうと思う!』


『何故急にその様な事を?』


『さぁな、何となく、気まぐれってやつか』


『ラーゴらしいと言えばらしいが、雨を降らすのは我の仕事であろう?』


―――――――――――――――――――――――――――――













湖に仰向けで浮かぶセイレーンの体が、黒色の光を帯びてゆく。


クレイヴはこの光景を何度も目にした事がある。


魔族が果てる時の光と同じなのだ。


故にクレイヴもこれからセイレーンの身に何が起こるかも、理解する事は容易である。





「――――――ただ、一つだけ――――――」





遠い日の思い出。











――――――――――――――――――――――――――――――


『・・・凄い雨だな・・・流石セイレーン、俺の相棒だ!

 美人で強くて賢いだけじゃなくて、こんな量の雨を降らせる事が出来るなんて!

 これならきっと、どデカイ湖が出来るっ!』


『・・・・・・・・』


『ん・・・どうした・・・セイレーン?

 って、おいっ!!フラフラじゃないか!?

 無理だけはするなって、言っただろっ!!!』


――――――――――――――――――――――――――――












「――――――――ただ、一つだけ後悔するなら―――――――」


涙がセイレーンの頬を伝い、頬に付く水滴を含みつつ湖へ落ちた。











遠い日の思い出を思い返しながら。。。













―――――――――――――――――――――――――


『見ろ、セイレーン!

 じゃじゃ~ん。

 これが町の家の第一号だっ!!』


『・・・・ぼろぼろだな』


『うるさいっ、文句言うなっ!!

 これでも大雨の中、頑張ったんだ!』


『ラーゴよ、我は今の今まで雨を降らし続け、疲れきっている。

 それなのに、このような木製のボロ屋敷しか用意出来ないとは・・・』




『見ろっ!!セイレーンッ!!』


『・・・今度は何だ?』


『小さいけど植物が生えてるっ!!

 この間までここは荒地だったのに!!

 これはきっと数千年後辺り、この町は俺達の作った湖を中心に、

 凄い発展をしているに違いないっ!!』


『湖を作ったのは我の力。

 それにその様な自信が何処から出てくるのだ・・・。

 こんなちっぽけなボロ小屋から大都市になどなる訳が―――――』


『なら、賭けだっ!!

 俺は人間だから長くは生きれないけどな、死んでも此処でこの場所を見守り続ける!

 どっちが正しいか、見続けるのさ!

 だからセイレーン!お前もこの場所を絶対に離れるなよ、約束だ!」


『分かった』


『あと、町の名前考えなきゃな・・・・そうだな。

 セイレーンがこの湖を作ったんだから・・・『シレーナ』ってのはどうだ?』


『シレーナ・・・・悪くない名だ』

 

―――――――――――――――――――――――――――――















「―――――――ラーゴと共に・・・・この地で・・・・

 再び眠りに付く事が・・・出来ない・・・と・・・言う事・・・か・・・。

 すまない・・・ラーゴ・・・約束を・・・・守れず・・・に・・・」

 






セイレーンは煌くシレーナの大都市を見つめながら、黒い光に包まれ消えていった。。。。。





それを見送ると同時に、クレイヴは歯を食いしばりながら、水面を強く叩く。






魔族が消えた先に向かう場所は、未だ知るものはいない。











久しぶりかどうか分かりませんが、鬱回です。


セイレーンの『町が破壊されるなら自らの手で』と言う気持ちが

彼女を魔族の力に染めさせました。


しかし生を受けた事により、

契約主の言った大都市を肉眼で見る事も出来ました。

それも、生を貰い受けた理由の一つでしょう。

ただ、それを伝えたい相手と同じ場所にいる事は出来ません。

それが魔族の力を得た唯一の代償でした。


さて、次から少しずつコメディー要素も挟みつつやっていきたいので

ぜひともご覧になってください。

では。

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