守る者と破壊する者と・・・
3人はシレーナの駅近くにある酒場に来ていた。
薄明るい青色のライトに照らされる店内は、男臭さ溢れる一般的な酒場と違い、神秘的な雰囲気が漂っている。
「・・・・ん?」
情報収集の為に立ち寄った3人であるが、店内は客が全くいない。
店自体は中々の大きさで、ここまで大きければ深夜でも多くの客で賑わっていると踏んでいたクレイヴは、
店内へ一歩踏み込んだ所で思わず立ち止まり、店を間違えたのかと店内を見渡した。
しかし、カウンター越しに置かれる大量の酒樽を見ると、やはりここは酒場なのだ。
店内は酒特有のアルコールの香りが漂っている。
さて、そうは言っても3人の目的は酒ではない。
食事ついでに、揺れの事で何か知っていないか、情報を手に入れる為だ。
酔ってしまっては行動に出る所ではなくなる。
「ま、まぁ、客がいないのは拍子抜けだけど、とりあえず何か食べよっ。
ネイラの元気が見る見る内に無くなってるからさっ!」
「そうだな、話はマスターにでも聞いてみるか」
クレイヴがそう言うと、3人は木製のカウンターの席に腰を掛ける。
カウンターにはややガッチリ体系で立派な顎髭を生やした男性が一人。
何処から見てもここの店主なので座る場所に迷う事はなく、座ったのは彼の目の前である。
「マスター取りあえず・・・そうだな。
今後の事も考えて酒はやめておこう・・・・何か美味しいもん3つ、オススメを頼む」
「随分大雑把な注文だな。
あんたらさっきの列車の乗客か?
大きなアナウンスが聞こえたが」
「あぁ、そうだ」
「じゃこの国の新鮮な魚介類を使った冷静パスタなんかどうだい?
内陸部から来たんだろ、だったら魚介類なんかあんまり食えねぇだろ」
マスターは、白い歯をこぼしてニッカリと、店の料理を自慢するかの様に言った。
「魚介類か、あまり口にした事は無いな。
それにしよう、頼む」
どうやら味には自信があるようでクレイヴもそれを察し迷わず、マスターオススメのそれに決めた。
と、言うよりさっさと料理を出してもらいたいだけのようにも見えるが、兎に角プロのオススメに従って悪い事は無いだろうと判断したのである。
「・・・・ほらよ」
店のマスターは注文を受けると、ささっとカウンター越しに手を動かし3つの料理を出した。
ものの10秒程度である。
いうまでも無く早すぎる。
「随分早いな、新鮮と言う割には作り置きか?」
料理を指差して、クレイヴがいう。
「いや違うんだ、ついさっき、ほんの1分前までコレを注文してた客が大勢いたんだがよ。
作っている途中でみんな出て行っちまったんだ」
「出て行った?」
「ああ、一人の常連客がよ、急に入ってきたんだ。
んで『おいっ、湖が大変な事になってるみたいだぞ』って言ったら皆、酒の勢いで見に行っちまった。
ビンも揺れの影響で落ちて割れちまうし・・・・ったく良い迷惑だぜ。
そうそう、多分あんたらの列車が止まったのも、その異変が原因かもな」
「・・・湖か。
何が起きているのか分からないけど、見に行く価値はあるだろうな。
コレを食ったら行ってみるか」
「うん、そだね」
「・・・・(ぱくっ)」
返事をするのも面倒くさいのか、ネイラはさっさと食事に手を着け始めていた。
「よほどお腹空いてたんだね」
「・・・・あ」
「ん、どうした?」
シャーネルがネイラを微笑ましく見ていると、ネイラはパクリと料理を口に入れた瞬間何かに気が付いたのか、
目を鋭くして一言漏らした。
「・・・・美味しい、これ」
「おお!そうか。
これはもともとあんた等に出すもんじゃなかったし、何より二人ともベッピンさんだからなぁ。
よし!この料理は特別料金でサービスするよ」
「・・・・悪いね」
クレイヴは頭で軽めに礼をすると、自らも料理に手をつけるのであった。
「ここから湖への最短距離は西方向だ。
つまりあっちだな」
食事を終えたクレイヴ達に、マスターはわざわざ店先に出て湖の方向を指し示す。
食事中のやりとりでクレイヴ達には分かっているが、とても良心的な人物である。
「マスターは見にいかないの?
一緒に見に行こうよ」
シャーネルは首を傾げながら言った。
「ん~またあんたらみたいな客もいるかも知れないしな。
美人の誘いを断るのは惜しいけどよ、客を前にして居なくなったら商売屋失格ってもんよ。
「ははっ、それもそうだな。
さて・・・と、本当に感謝するよ。
タダ同然で食わせてもらって、道まで教えてくれるなんてな」
「気にすんな、こっちはこっちで楽しかったぜ。
またシレーナに来る事があったら、顔出してくれ。
旅先で怪我の無いようにな」
「あぁ、仕事柄怪我無しは無理かもしれないが。
できる限り気をつけるさ」
「そんだけ言えりゃ安心だな、じゃあな」
「ああ」
マスターが店内に消えていくのを見送ると、3人は先程指の指されていた方向へと歩き出す。
とは言っても、湖という大雑把な話しか聞けてないので、あまり急ぐ気配は見られない。
大問題が湖のこの場所で起きていると言う確信があるのならば急ぐ気はするのだが、問題であるかどうかすら怪しいのだ。
さて列車の外からも見えたとおり、シレーナで湖が見られる場所は多い。
むしろ、陸よりも湖に接している場所の方が多い位で、列車から降りてどの方向へ進んでも湖に突き当たる程である。
「やっぱり、多少の被害は在るみたいだな」
クレイヴは歩きながら町の状況を確かめる様に、夜道にキョロキョロと目配せしながら言った。
駅同様にガラスが割れている家もあれば、街の噴水の一部が壊れていたりと、謎の揺れの傷跡が見受けられる。
無論そこには、応急の措置を施そうとする人々も多く存在し、夜中とは思えない程に騒がしかった。
「クレイヴの精神内に居たから、飽くまで視覚的な感想に過ぎないが。
あの揺れにしては、正直被害が小さいと思うのは私だけか?」
何の気なしなのか、それとも本当に不思議に思っているのか分からない程にネイラは感情を込めずに言った。
確かに、被害があるのはほんの一部の建造物のみである。
クレイヴもそこでふと思った。
列車内での揺れは、この程度の被害で済むようなものではなかったのだ。
頑丈な列車のパーツが破壊される程の衝撃。
クレイヴはこの国の木造またはレンガ造りの建造物を見る。
「確かにあの揺れだと、地上で全ての建物が被害を受けて無いと可笑しいな。
ここは恐らく頑丈な建物ばかりじゃない、地震が滅多に起こらないこの国の建造物で耐えられるのは・・・」
「ってことは・・・揺れは列車の付近で起こっていたかもしれないって事?」
「となると、やはり湖の問題が揺れの元である線が濃厚か」
「少し急ぐか・・・・」
三人は推測を確信へと仕向けるべく、歩を進める速度を上げる。
先程の酒場のマスターの話に寄れば、あともう僅かで到着である。
「わぁ・・・何あれ。
まるで大きい噴水みたい」
家々が立ち並ぶ通りを走り抜け、景色の良い広場に到着した3人。
湖を見たシャーネルは最初に一言そう漏らした。
この広場は湖に沿ってレンガ造りの床が町の端、湖の端まで伸びており、広場と言うよりは『町と湖の間の大通り』と形容した方が分かりやすい。
そこにはもうすでに噂を聞きつけてきた人々が大勢おり、上空からみたら人々がびっしりと湖に張り付いているようにすら見えるであろう程だ。
その人々の多くが驚きの表情を浮かべており、尋常では無い現象が目の前で起こっている事を物語っている。
あまりに広大で向こう岸が見えない、広大な湖。
その中心・・・と目視でそう断定は出来ないが、3人のいる場所から見た限りシャーネルの言う『噴水』はあった。
湖から一本の水柱が上空に上がっていたのだ。
闇夜の湖に不気味な噴水が天に向かわんとばかりに。
「何だ、あれは・・・」
クレイヴも思わず目を疑った。
これ程の人が集まれば、人為的で無い事は確か、では自然現象かと問われればそうともいえない。
説明が不可能なのだ。
「見てっ、水柱の下の辺りが、だんだん膨らんで、丸くなってきてるっ!」
水柱の下部、シャーネルの指差す所が徐々に膨らみ丸みを帯びてきた。
そこからはうっすらと光が溢れている。
丸みが増す程に、内側の光度も増しており、とうとう水柱との連結部分以外は完全な球体となった。
すると、水柱が短く収束していく。
ただしそれが進むほど、今度は球体の大きさも増してゆく。
そして、水柱が完全に収束したとき、水の球は宙に静止した。
「光が更に強く・・・・」
球体内側の光が目で直視出来ないほどに強まった時。
『パシャァァァァーーーーーン!!!!!!』
水が弾ける音がした、ただそれは人間が水面を叩いた時のそれとは似ても似つかない音だ。
水が破裂、いや爆発した音とでもいえよう。
その衝撃は町全体が音で揺れているのではないかと言うほどの轟音であった。
音を聞くだけで、人々が逃げるには十分な危険信号となった様だが、一部の人々は光が収まるのを待っていた。
3人も然りである。
ただし、他の人々はその好奇心すらも凌駕するような、光景が湖にはあった。
先程の球体の場所に皆が一斉に注目した。
「何だあれは!!!」
「バ、バケモンだっ!」
「結界にひびが入っているぞ!!
皆逃げろッ!殺されちまうぞっ!!!」
人々は先程の球体のあった場所に居る『者』を見ると一目散に逃げ出した。
前線に残ったのは、3人を含めたごく少数の人々のみである。
「あいつが、あの揺れの原因か?」
「断定は出来ないが、そう考えるのが妥当だ」
「・・・女の人みたいだね。
あの球体から出てきた所を見ると、普通の人じゃないね。
でも、精霊とも少し違うような・・・」
先程の水の球体から出てきたのは一人の女性であった。
髪の色は水色で長く美しい髪が特徴的である。
今は目を瞑っており動く気配はないが、それは闇夜でもハッキリと分かる位に神々しい光に包まれており、間違いなく生きていた。
そして次の瞬間。
どの様な原理かは解らないが、町に女性の声が響き渡る。
「我が名はセイレーン。
此の湖の主にして、水の精霊也。
此の地を守る主として、此の町に眠る強大な力を我が手にて葬り去る為、ここに蘇る。
今一度、町を葬り去り無に帰す事で救済を与えん」
その声は、何処か悲しげな声であったが、内容を聞く限り穏やかな状況でない事は確かである。
「セイレーン・・・か。
この町の名の『シレーナ』の由来となった精霊だな・・」
クレイヴは何かまた面倒な事になってきたと思いながら大きく溜息をつく。
「先程、列車の中でクレイヴが私に話した伝説の話か」
ネイラは先程精神内で聞いた話を思い出す。
豪雨を降らせ巨大湖を作り出し、このシレーナの発展に大きく関わった精霊の話である。
「何を言ってるのか分からないが・・・兎に角町を破壊すると言ってるのは確かだな。
まだ多くの人が家で寝ている時間帯だから、避難も出来ていない。
タナトスも何処にいるのか分からないし、どうしたら・・・」
「クレイヴ!
どうしようか迷ってる場合じゃないよ!
ここは私たちで何とかしなきゃ!」
「ちっ・・・そうだな。
だが、あいつは湖の真ん中から攻撃しようとしている。
あいつに俺達の存在を気が付かせる手段がないと、この国は攻撃される一方だ」
クレイヴの言うとおり、ここは国である。
湖の大きさも去ることながら、湖に面している国の土地も広大で、湖に沿って歩くだけでもどれだけ時間が掛かるか分からない。
幸い、此処から敵が見えると言っても、大きさは豆粒ほどにしか見えないので、正面に立てるかどうかすら分からないのだ。
まずは近寄らないと、どうしようもないのだ。
「君たち!何をしている!
民間人は早く避難しなさい、戦いに巻き込まれるぞ!」
唐突に3人の後ろから男性の怒鳴るような大きな声が聞こえた。
3人は一斉にその声の聞こえた方向へ振り向いた。
胸元に『シレーナ軍』と書かれた青色の軍服を着た男が立っていた。
険しい目つきに大きな体、どうやらこの国の軍隊の兵士のようだ。
「あんたは、この国の兵士か?」
「私はシレーナ水軍第一戦艦隊隊長、フォルシオ=ディ=アクアだ。
軍用の船に向かう途中に避難勧告をしている。
早く避難しなさい!」
これを聞いたクレイヴは他の二人に小声で言う。
「水軍か・・・・それなら俺達の出る幕は―――――」
「・・・彼らには申し訳ないが、恐らく人間の兵器で適う相手では無い。
普通の精霊相手ならどうにかなるが、あのセイレーンと言う精霊は、どうもそれとは違う何かを感じる。
軍隊が向かって行こうが、死にに行くようなものだ」
「でも、いきなり船に乗せてくれる訳が・・・・・あ」
と、クレイヴが言いかけたとき、ある物を旅の前に渡された事を思い出した。
(たしか、旅の前、王子に渡されたあれがあったはずだ)
「君たち、何をこそこそ言っている!
何でも良いが、早く避難しなさい、いいね!!」
そう言って、走り出そうとするフォルシオ。
「待ってくれっ!
俺はディラモート王国直属騎士団 団長クレイヴ=フォードだ。
あの、精霊はただの精霊じゃない、是非船に乗せて手伝わして欲しい」
「・・・君があの大国の騎士団長?
だが・・・ディラモート王国に水軍は無い、君が乗った所で足手まといになる可能性がある」
「いや、俺の後ろに居る二人は俺の契約神・・・じゃなくて、契約した精霊達だ。
目には目を、精霊には精霊をだ。
頼む、船に乗せてくれ」
クレイヴはフォルシオの目を真っ直ぐ見て言った。
「君の精霊か・・・よし、分かった。
私の乗る第一戦艦のみ搭乗を許可しよう。
さぁ、着いてきてくれ」
クレイヴの目を見たフォルシオは、クレイヴを信用するに値する人物と認めたのか
同じ目つきで力強く頷いて、走り出した。
「よかったね~、クレイヴ。
あんな台詞あんまり言えないからね。
かっこよかったよ~『俺はディラモート王国直属騎士団長だ』って・・・痛いっ!」
走りながらシャーネルがクレイヴの声を真似しだした、余りに似てないのでネイラはそっぽを向きつつ小さく笑ったが
言われた本人は相当恥ずかしかったらしく、クレイヴは顔を赤らめながらシャーネルの頭を強く叩いた。
「真似するなっ。
今は黙って走れっ!」
軍の船は先程の距離からそれ程遠かった訳では無いようで、黙々と走り続ける事30秒。
着いた先は、湖に面した大きな倉庫のような建物だったが、中に入ると4人の目の前には、3つの大きな金属製の船が並んで船舶していた。
「わぁ・・・これが船かぁ・・・。
思ってたより大きいねぇ」
シャーネルが両手を広げて、驚いたように船全体を見回す。
「船には乗った事はあるが、ここまで立派なのに乗ったことは無いな。
以前、親父に連れられて乗ったのは、木製でもっと小さかったからな」
「さて、感心している暇はないぞ。
直ぐに出航だ、町の結界が破られて町が破壊されてからでは遅いからな。
さぁ、俺達が乗る第一船はこれだ、さぁ、そこから船に乗るんだ」
すでに船に乗っているフォルシオは、船と地面を繋いでいる木製の板を指差した。
3人は指示に従って、駆け足で船に乗り込む。
「隊長、何ですか?
こちらの方々は」
一人の兵隊がフォルシオに話しかける。
気になるのも仕方が無い、日頃の訓練と全く違うプランで事が進もうとしているのだ。
「いや、それはこれから話そう」
フォルシオは甲板の中央へ歩くと、船に居る兵隊全員に聞こえるように大声で話し出した。
「皆聞いてくれ!第二戦艦、第三船艦の者もだ!!
過去に湖に魔物が現れる度に、我々はそれを倒し、町を守ってきた。
しかし今、前代未聞の強大な敵を前にしている!
だが臆する事は無い、我々はこれまでの戦いを自らの誇りとし、戦いに打ち勝とうではないか!!
いいか!臆する事だけはするな!運命か否か、あの大国ディラモートの騎士団長と精霊も加勢してくれている。
勝利のみを見つめて戦おうではないか!!!」
『オオォ!!!!』
フォルシオの声に、倉庫内の船の全てから、建物全体が震えるかのような雄叫びが上がる。
兵士の士気が最高潮となると同時に三つの船が同時に動き出した。
「流石だね」
「あぁ、そうだな、見事に3つの船を纏めて士気を上げてる。
確かに負ける気がしてこないな」
船は魔力を利用した動力でゆっくりと速度を上げ、倉庫を抜ける。
船の並び順は左に第二、右に第三、真ん中にクレイヴ達が乗っている第一戦艦という布陣。
町を背にした風景は湖しかなく、昼であれば美しい青が広がっていると思われるが
今は夜中、あたり一面闇が広がっている。
しかし、やはり敵は見えている。
闇夜に一人が浮かんでいる。
船は魔力を動力源に、みるみる速度を上げ、いよいよ目標を100m以内に捕らえた。
「目標、大砲の射程距離内に捕らえました!
隊長、命令を!」
甲板に装着された大砲を構える兵隊が、声を大にして言う。
その姿は未知なる生物を前にしたからか、早く撃たせて下さいと言わんばかりの必死な表情を浮かべていた。
「ここから、人間程の大きさの目標に当たる可能性は無いに等しいが、威嚇にはなるだろう・・・。
大砲番号1から4まで発射!!」
『ゴヴーン!!!・・・ゴヴーン!!・・・ゴヴーン!!!・・・ゴヴーン!!!』
と轟音を発しながら、闇夜の湖へと発車される4つの砲弾。
残念ながらセイレーンの周りの水が飛沫を上げただけであったが、またセイレーンに新たな動きがあった。
「人間達よ。
無謀な戦いに挑むとは、命を捨てるようなものぞ。
例え、我を倒した所でこの町はいづれ滅び行く・・・それどころか世界の全てが破滅へと向かうのだ」
セイレーンの体はピクリとも動かず、宙に浮いているだけだであったが、3つの戦艦全てにこの声が響いた。
「町が滅びるだって!?」
セイレーンの言葉を聞いて、兵隊達の顔に動揺の表情が浮かぶ。
「待て、うろたえるな!!
奴の言葉を鵜呑みにするな、動揺を誘う作戦だ!!
一旦動力を停止し・・・俺が話しかけてみよう」
そう言って、フォルシオは兵士たちの感情を抑制しようとするも、フォルシオも少なからず動揺せざるを得なかった。
自らの命を懸けての戦いが、無意味以下であると告げられたのと同意なのだ。
動力が停止し船の速度が徐々に落ちてゆく。
そして船が完全に止まると、辺りは静まり返り、水面の波の音だけが一定のリズムで耳に入ってくる。
フォルシオは一呼吸おいて、船の先端へ歩き出した。
セイレーンへの距離はおよそ、30m程。
声を張れば相手に聞こえる距離である。
「私はシレーナ水軍第戦一艦隊隊長、フォルシオ=ディ=アクアだ!
何故このような行為をするのか、詳しくお教え頂きたい!!」
「・・・・正確な事は解らぬが、強大な力がこの町から目覚めようとしているのだ。
それを阻止するのがこの湖を作り町を発展させた我の成すべき事。
だが、時間は余り残されていないのだ、全てを破壊する、それ以外に方法は無い」
「そのような、不正確な情報で殺される我々は、その家族はどうなるのだ!!」
セイレーンの言葉を聞いたフォルシオは、より一層強い口調で返答をする。
「大きな世界を守る為に、多少の犠牲は必要。
それが我が栄えさせた町なら尚更の事」
「くっ・・・ならば、何故その存在を我々に伝えたのだ?
逃げられると言う可能性もあるだろう」
「破壊される理由も伝えられず、殺される人々が不憫だと思っただけの事だ。
・・・言う事はそれだけでよいのか」
「・・・仕方ない。
先程の残りの大砲第5から8まで全て発射っ!!
距離は近い、必ず当てろ!!!」
『ゴヴーン!!!・・・・ゴヴーーン!ゴヴーーーン!!!』
「大砲、全弾命中です!」
船内の兵隊から歓喜の声が上がる。
しかし、フォルシオとクレイヴ、ネイラ、シャーネルの4人は大砲が爆発し、煙が上がる場所をじっと険しい目で見つめていた。
「・・・・・!!!
来るっ!!!」
シャーネルが叫び、先程フォルシオがいた船の先まで走り出す。
一瞬で兵士たちの歓喜の声が止んだと思うと、次の瞬間、絶叫が響き渡った。
前方の煙の中から、サーベルの刃の様な形をした水が船に向かってきた。
『水の刃』とでも言えるそれは、3つ出現しており、それぞれが各船へと向かっていたのだ。
「っ!!・・・・ダメッ、左右は間に合わない!
ネイラお願いっ!」
シャーネルは船の正面に立つと正面に大型の結界を張る。
しかし、焦りが混じった言葉通り、左右の船までは守りきれていない。
「防御は苦手だと、この前言ったはずだが・・・」
そう言いつつも、ネイラは高くジャンプすると、左右の手から闇の魔力を放出し左右の刃の根元に数分狂わず打ち込んだ。
すると、左右の船に当たる直前に水の刃は水飛沫となり、姿を消した。
正面の刃もシャーネルの結界により消滅。
一難は逃れたと思い、ホッとする兵隊たちだったが、次の瞬間。
「うわぁぁ!!」
聞こえて来たのは、絶叫ともいえる大勢の悲鳴。
右の戦艦が、縦に真っ二つに切れていた。
先程発射した刃の後ろにもう一つ、刃を飛ばしていたのだ。
「!!」
驚きの表情を浮かべる船の乗員達。
だが、驚いていても相手は待ってはくれない。
間髪居れず、左に戦艦も真っ二つに切れた。
金属製で剛性に優れた戦艦が、いとも容易く切れてしまう。
その威力に船に乗る兵士は皆身震いし、次は我が身であると言う恐怖にさらに体を震わした。
「・・・真ん中の船員の力量が高い事は一目瞭然。
ならば左右の船を一気に叩けばよい」
冷めた声でセイレーンが言う。
「・・・油断したか」
ネイラが珍しく、唇をかみ締めて顔を歪める。
最初の攻撃からの波状攻撃を予測できなかった自分への後悔からであろう。
しかし、後悔しても後の祭りである。
左右に浮かんでいた船はその乗員の悲鳴と共に無残にも闇夜の湖に沈んでゆく。
「ちっ・・・至急救命用の船を浮かべろ!!
左右共に、全てだ!」
命令された兵達はすぐさま、船の左右に2つずつ付けられた小型の船を繋いでいる縄を取り外し、水面へ落とした。
「残るは一隻のみ。
時間が無いのだ、一気にゆくぞ」
力量を瞬時に測ったセイレーンの狙いはそこだった。
左右の船の救助による、第一戦艦への追い討ちだ。
見る見るうちに、セイレーンを中心に水の刃が無数に現れ、船に向かってきた。
その数、無数。
「神々しき光の要塞よ。
万物より我を守りたまえっ!!!上級防御魔法 シャイニングフォートレス!!」
シャーネルはそう大きく唱えると、シャーネルを中心に光が広がり、自身乗っている船のみならず沈みゆく2隻の船ごと包み込んだ。
そうでもしないと救助がままならない所か、被害者が増えてしまう、瞬時にそう判断したのだ。
しかし、兵士にとってその光は別の意味での救済をもたらしていた。
光は、湖に放り出された兵士でさえもその窮地を忘れる程に輝かしく美しかった。
いや、窮地であったからこそ、『希望の光』に見えているのかもしれない。
「っ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
だが、自体はよい事ばかりでは無かった。
あまりに急な判断ゆえに己の体力を考慮してなかったらしく、
シャーネルは魔法を唱えた後、息切れをしながら床に座り込んでしまった。
「シャーネル!大丈夫か!!」
「シャーネル!」
とっさに駆け寄り、しゃがみ込んでシャーネルの体を支えるクレイヴとネイラ。
「・・・あはは・・・ちょっとだけ・・・無理しちゃったかな」
「このような広範囲に強大な防御魔法を使えばそうなるに決まっている。
だが・・・良い判断だった。
そうでもしなければこの船は左右の船よりも酷い状態になっていただろう」
先程の魔法は一度使えば効力が切れるまで残り続ける。
よって未だ輝きを失わず、先程から魔法によって作られた巨大な壁に向かって、
水の刃が無数に衝突しており、それが弾かれた際の水飛沫が、
船の甲板へ雨のように降り注いでいる。
シャーネルの判断が無ければ、船は原型を留めていなかったであろう。
シャーネルはネイラから滅多にない賞賛の言葉を貰うと、
彼女は苦しげな表情の中でも『エヘヘ』と少しだけ誇らしげに舌を出して笑った。
「さて・・・と」
ネイラがそう言って、立ち上がった。
雨のように水が降る中、鋭くも涼しい目つきで湖の上に浮かぶ敵を見つめた。
その表情は、城が襲撃されたときのそれに似ていた。
「クレイヴ」
いつもと違うトーンで名前を呼ばれ、ネイラの表情の変化に気が付いたクレイヴも立ち上がった。
「シャーネルも全力だしたのだ。
次は・・・わかるな?」
「言われなくても解るさ。
今度は俺達が本気を出す番・・・だろ?」
「流石我が主だ。
シャーネルの努力を無駄にしない為にも、全力でセイレーンを倒す」
「あぁ、俺もそう思ったよ」
闇夜の湖に浮かぶ光に包まれた一隻の船とそれに対面する一人の女性。
町を守る者と、破壊する者。
その目的もまた様々である。
しかし、どちらが答えなど誰も解ってはいない。
戦いで答えが出る事すら解らない。
湖での戦闘が激しさを増してきた一方。
「カロナリア・・・ごめんね・・・・・・」
町の駅から近い位置にある一軒のレンガ造りの家の二階では、
タナトスがベッドで眠るカロナリアと呼ばれた少女の手を握り、その頬を涙で濡らしていた。。。。
頭の中に出来ている全体のストーリーの一部分にようやく触れる事が出来ました。
セイレーンの言う強大な力は今後大きく関わってきます。
そして、タナトスもこの戦いに大きく関わっている事は確かです。
最後に出てきたカロナリアと言う少女も大きく関わってます。
てか、大体関わってます(爆
それでは。