誘いの波動
いつの間にやら辺りはすっかり夕暮れ色に染まり、長閑な山村も夕焼けの色の顔を覗かせる。
窓の外の風景がゆっくり動き出し、徐々に離れてゆく。
列車は次の駅へと進んでゆく。
さて、夕暮れ時のオレンジ色の自然はこちらを見ろとばかりに色鮮やかであるが、そのような風景などには目もくれず、車内では騒がしい男女が2人。。。
「あのな~、本当にあと30秒だ、30秒遅れてたら完全に乗り遅れてたぞ!」
「いいじゃん、間に合ったんだから~」
クレイヴとシャーネルは向かい合う席で、静かな車内では大きすぎる程に大声で口論をしていた。
「間に合ったのも、俺があの館で時計を必死に探したからだ。
他に誰一人時計なんか気にかけてもいなかっただろ?
俺が一人で必死に探しだして、もうまずいって言ってるのにも拘らず、紅茶を啜ってただろっ!」
「だって、美味しかったんだもん、タナちゃんの家の紅茶」
「でしょでしょ?あれさぁ、元からあの家にあったんだけどさぁ、美味しくってぇ――――」
「ってか、なんでお前が俺の横に座ってんだよ!!!」
クレイヴは、横に座りながらごく自然に会話に入り込んできたタナトスに対し怒号を散らす。
「だってさぁ、ネイラちゃんの席が空いてるワケでしょ?
・・・乗らなきゃソンって感じ?」
「別に損でも何でも無いだろ」
「あ!そうそう、それにこの列車に乗ってけば終点はインティスじゃん?
俺さぁ、インティスでちょうど良い任務があんだよねぇ。
あと一週間で締め切りだから、まぁこの際にさっさと終わらしたら楽っしょ?」
「明らかに今思い出したろ、その任務」
「細かい事は気にしなぁ~い、気にしなぁ~い。
みんなはそっからポルトに向かうワケっしょ。
そしたら、俺はみんなの帰りを待ちながら任務を遂行しちゃって、もっかいインティスにて合流。
したら、みんな仲良く我が家へお帰りなさぁ~いって寸法かねぇ」
「・・・なんか上手くまとめられた気がするな」
口調の軽さの割りに、意外と真っ当な計画を即座に作るもんだと、感心するクレイヴ。
「これでもねぇ、タナちゃんはすっごく賢いんだよ?
天界でもトップクラスのキレ者なんだよ~」
「ふ~ん・・・人は見かけに寄らないもんだな」
そう言ってクレイヴはタナトスを見る。
「――――って昔、タナちゃん自身が言ってた」
「自画自賛かよ」
タナトス、まだまだ未知の能力が秘められた存在である。
「・・・そういやさ、話は変わるけど・・・・」
クレイヴは一息つくと、席に座りなおし、話し出した。
「城で会った、二人組いたろ。
正確には侵入者だけど」
「二人組ぃ?
だ~れよ、それ?」
体を前に倒し、右隣のクレイヴの顔を見てタナトスがいった。
「あぁ、俺達の旅の1番の原因だ。
さっきは急いでて話は途中で終わったが・・・・」
「あ~さっきチラっと聞いた、ポルトに人質がいるって話の事ね」
クレイヴが時計を探している時に、旅の目的等は大まかにシャーネルが説明していたので、すんなりとタナトスも理解したようである。
「うん、それがどうかしたの?」
「あの二人が言ってただろ。
間もなく一人の男と出会い、そいつとポルトを訪れたとき真実をどうとかって・・・・あぁ、あの時シャーネルは兵士の治療で忙しかったか」
当時を思い出すように、少し上を見ながら話すクレイヴ。
「うん、でも大体分かるから、続けて」
「でさ、その男ってのは・・・」
クレイヴとシャーネルは二人揃って横にいる、明らかに女にしか見えない死神に焦点を定める。
「・・・・はいはい、パスパス。
そういうのは信じないってゆうかぁ、ポルトに用事は全然ないんだよねぇ。
ってなワケで、俺という線はプッチン!切れちゃいましたとさっ」
手でチョキを作って切る動作をしてみせるタナトス。
「・・・はぁ、確かに、こんな軽い奴があんな硬派な奴らに予知できないよな・・・。
明らかに見た目は女だし」
「ってかさぁ、何で信じてんのさ、そいつ等をさぁ。
現時点ではそいつ等ワルモンっしょ、大悪党っしょ、極悪人達って見解っしょ?」
「それもそうだけど、何か・・・無視できない何かがありそうなんだよな」
そう言うと、クレイヴは何か遠くを見つめるような目で、暗闇に染まりつつある窓の外の風景を見る。
「私も話し聞いたら少し気になってきたなぁ。
次の町かどこかで、片っ端から男の人に話しかけてさ、自然について来たらビンゴッ!とかは?」
「さっすがシャーネルちゃん、名案っ!
俺もやってみよっかな~、一応付いて来てるワケだし、何かしら協力しないと批判の嵐っしょ」
「変な事やるのは止めておいた方がいい。
大体お前らに誘われたら大概の男は自然に付いて来るだろうし。
何よりシャーネルッ!お前を放って置くと忙しさが2倍・・・いや5倍程になるから大人しくしてる事」
手の平に顎を乗せ外の流れる景色を見ながら、かったるそうに答えるクレイヴ。
「え~、つまんない~」
「俺もシャーネルちゃんがいなかったら、暇になっちゃったりしちゃうんですけど~」
「お前らがコンビで町を歩くのが一番ダメだ!
タナトスはどうせ付いてきただけだから、いなくなったら置いてけば良いが、シャーネルは置いていけないからな」
「ひっどい言い方~。
そんな事言ってると地獄送りにされても文句言えないかんね~」
タナトスは冗談らしくそう言うと、両手を頭の後ろに回し、シートにもたれ掛かった。
「はいはい、地獄へでも何処へでも送ってくれ。
少なくとも生きてるうちは安全だろ」
クレイヴ、二人の相手に疲れたのか、窓の外に目を向けたまま、大きく溜め息を吐く。
「・・・ねぇねぇ、タナちゃん。
クレイヴもちょっと疲れてるみたいだから、晩ご飯でも食べに行こっか」
シャーネルはタナトスにそう言うと、「・・・クレイヴね、怒ると結構怖いんだよ」、とタナトスの耳元でコソコソ付け加えた。
「あっ、賛成~。
ちょうどお腹すいちゃったんだよねぇ。
クレイヴのリアクションも悪いし」
「クレイヴ~良いよね?」
「・・・・」
クレイヴは先程自分が言った、二人を野放しにするとマズイ、という事も車内なら問題無いと思ったのであろう。
聞いてないのをアピールするように同時に自分の腕を枕にして、座席の上で横になった。
「・・・ま、返事が無いならいいっしょ。
お金は俺が全部払っちゃうから、五月蝿いのが二人消えてるうちに休憩しちゃってねぇ」
そう言って、タナトスは手をヒラヒラ振ると、シャーネルを引っ張って列車の奥の方へと消えていった。
「・・・自分達が五月蝿いの分かってるなら、静かにしてくれ・・・」
クレイヴはそう一人で呟くと、溜息をついて静かに目を閉じたのであった。
一定のリズムのまま、列車は日が沈み、月明かりにのみ照らされている草原に敷かれたレールの上を走る。
月に照らされている草や木の葉は、風向きに合わせて皆同じ方向を向いているが、列車付近の草は列車を避けるように広がっている。
「・・・ん・・・・・・・・結構長く寝ちまったみたいだな・・・」
クレイヴにとって、列車の人間の鼓動に似たリズムが心地よかったのか、すっかり深い眠りに入ってしまっていたようだ。
隣を見るとタナトスが、正面ではシャーネルが、寝る前の五月蝿さなど微塵も感じられないほどスヤスヤと熟睡しているようだ。
「・・・静かってのも慣れないもんだな・・・」
『話し相手になろうか?』
クレイヴに話しかけてきたのは、乗り物酔いにより実体化を解除せざるを得なくなったネイラだ。
現在はクレイヴの精神内に居るので、周りには聞こえないがクレイヴと精神内で会話を交わす事が出来る。
『なんだ、起きてたのか?
てっきり俺の精神の中でも居眠りしていると思ってたよ』
『私でも飽きる程寝てしまった、という事だ。
というより、ここでは寝ていても何も身体的実感が沸かないから、寝ても意味が無い』
『・・・でも、天界でも寝ていたってシャーネルが言ってたぞ?
天界からこちらに降りる際に肉体を貰い受けるって言ってただろう?』
『天界では天界用の肉体がある。
クレイヴの言う事が正しかったら、私とシャーネルが天からクレイヴの前に現れた時、お互いに何かしら反応があるだろう。
でもお互いにこの姿だったから、何も反応しなかった、そうだろう?』
『確かにな、シャーネルだったら直ぐにでも喰らいつきそうだもんな』
『理解できた所で、私も一つ質問があるのだが』
『何だ?』
『いつインティスに着くのかだ』
『あ、まだ言ってなかったか?
まぁいい、何も無ければ明日の夜だよ。
日が昇って、もう一回日が沈む頃には着く予定だな』
『案外早いのだな』
『それでもかなりの距離さ。
この列車だって結構な速度出てるからな』
そう言って目線を車外に移すと、流れるような景色の中先程の草木は姿を消し、月明かりに照らされ藍色に染まった水辺が現れた。
車内にいるので外からの音は聞こえてこないが、その風景から静寂が広がっている事は安易に想像できる。
「お、もうシレーナに着いたのか」
その湖を見ながらクレイヴは一人呟いた。
『何だ?ここは?海か?』
クレイヴの目線を通して景色をみたネイラがクレイヴに聞く。
『いや、向こう岸が見えないから無理も無いけど、これは湖だ。
人間界じゃ誰でも知ってる昔話で、ウン千年も前の話らしいが、ここは単なる大きな穴だったらしい。
勿論水も無ければ、人が集まる訳が無い、単なる荒地だ。
そこである水の精霊とその主が何を思ったかここに大雨を降らした、どれ程続いたか分からない程にな。
その後大陸一の湖がここにできて、緑も増えた。
勿論そうなると人も集まる、水源を中心にこの大陸が誇る大国『水の都シレーナ』に発展したんだ。
多分もう直ぐ大きな都市が見えてくるはずだ』
『成る程な、それ以来干乾びていないのもその精霊の力なのだろうな』
『ま、昔話だから、本当の話かどうかも分からないけど』
「・・・・もうシレーナ・・・か」
クレイヴは突然隣から聞こえてきた声に驚き身をビクつかせた。
「起きてたのか」
「ん~・・・正確にはたった今起きたんだけど~、んなこた気にしない気にしない」
大きく両腕を上方へ伸ばしながらタナトスは言った。
「で?」
「は?」
どうやらクレイヴの『で?』の意味が伝わらなかったようで、タナトスはキョトンとした表情を見せる。
「シレーナに何かあるのか?」
「独り言のつもりだったんだけど、結構聞こえちゃってたワケか・・・。
そんな大きな事じゃ・・・いや、俺にとっちゃ結構重大かもしんないけど。。。
ま、ちょっとした知り合いがいる訳よ。
人間界に長くいると人間の知り合いもそっこら中にいるってワケ」
「そうなのか?
あぁ・・・でも確かこの列車はここには止まらない予定だから、残念だったな。
また今度個人で尋ねてくれ」
どうも様子が変だと感じつつも、列車は止まり様が無いので深くは聞かないことにしたようだ。
「・・・止まらないなら、しゃ~ないかぁ。
んじゃまだ眠いし~、もう一眠りしよっと・・・・」
タナトスは少し残念そうな顔をしたが、すぐに横になったのでクレイヴは気が付かなかった。
クレイヴはそのまま何の気無しに、もう一度外へ目を向けようとしたその時だ。
それはもう列車が怒号を発したかのようだった。
突如列車が大きく揺れたのだ。
まるで何かが大地に衝突した様に。
「っち・・・・何だ?
地震ってやつか?」
クレイヴは子供の頃、遠方から来た旅人から聞いた、地面が大きく揺れる自然現象の名を口にする。
「違うっしょ、コレは。
地震はこんな風に物が衝突する様な揺れじゃあ無いからさぁ」
タナトスは地震を経験した事があるのだろう、何時もと変わらない口調でそう言った。
「じゃあ何なんだよ・・・」
車内は騒然としていた。
突然の原因不明の大きな揺れ、それだけで乗客がパニックになるのには十分だった。
この列車に乗っているのは巨大大陸の内陸部に住んでいる人々が殆ど、即ち地震等で地面が揺れる事など耳にした事すらない人が多いのである。
無論地震を知っている者も、この場合はパニックであることは間違いがない、タナトス曰くこれは地震ではない為だ。
この車内のパニック状態を打ち消す為か、唐突に車内にアナウンスが響いた。
『お客様にご連絡を申し上げます。
ただ今の原因不明の揺れの際、列車に故障が生じた恐れがあります。
従って最寄のシレーナ駅に車両点検の為、緊急停車いたします。
出発の目処は立っておりませんが、点検時間に最低でも4時間は掛かるものと思われます。
申し訳ありませんが、お客様のご理解とご協力をお願いいたします』
車内のアナウンスを聞いたクレイヴは、徐に立ち上がってシャーネルの頬を弱めに叩いて起こそうとしだした。
「・・・・ん・・・・むにゃ・・・むにゃ・・・・違うよ~。
それはね~カボチャじゃなくて大きいピーマンだよ~・・・むにゃ・・・・」
「おいっ、シャーネル。
どんな夢見てるか知らないが、早く起きろっ」
クレイヴは、列車の揺れに全く反応無しのまま寝言を言うシャーネルを叩き起こした。
「・・・何?何か用?」
「用じゃなくて、列車が揺れたんだよ、それもかなり大きくな」
「・・・・・90度位の急カーブでも曲がったんじゃない?」
(ポカーン!)とクレイヴは黙ってシャーネルの頭をグーで叩いた。
「イテテ・・・・・もう揺れてないから良いんじゃないの?」
「・・・そうじゃなくて、それで列車が緊急停車するから、町に行くかどうか聞いておこうと思っただけだ。
後で話を聞いて何で起こさなかったか、問い詰められるのも嫌だしな」
「どんな所なの?」
「水の都」
その一言で眠気で死に掛けのような目に輝きが宿った。
「行く!!」
「へいへい、やっぱりそうだよな」
2,3度相槌を打つクレイヴ。
どうやらシャーネルにとっては、寝るよりもまだ見ぬ地への冒険の方が勝るようである。
「お前もその知り合いの所へ行くんだろ?」
「・・・・・・どぉして、止まっちゃうのかねぇ・・・・・」
眠る姿勢のまま、元気の無い様子でそう言った。
「ん?どうした?
別に強要してる訳じゃないから、降りたくないなら別にいいんだが・・・」
「・・・・・・・」
本当に寝ているかのように一言も言葉を発さないタナトス。
考え事でもしているのか、体を動かす事もしない。
「おい、調子でも悪いのか?」
と、クレイヴが隣からタナトスの顔を覗き込む。
「・・・な~んでも無いっ。
降りるに決まってるっしょ~、こんな楽しそうな事滅多に起こんないからねぇ」
クレイヴの目の前には、先程の声のトーンから予測した表情とは違う笑みを浮かべた顔が有った。
また例のドッキリの一種か、と思うと同時に自分の席に倒れるように勢いよく戻り、何故か大きく息を吐いた。
この手のハプニングには色々と厄介事が絡んでくる、そのような考えが染み付いてしまっているクレイヴにとっては、どうも嫌な予感がしたのだ。
それが杞憂に終わったという安堵の溜息であろう。
「一応言っておくけど、騒ぎだけは起こすなよ。
飽くまでも時間つぶしでしかないんだから、問題起こして出発に間に合いませんでした、じゃ笑えないからな。
それと―――――」
嫌な予感が完全に消えたわけではないが、取り合えず何時ものように注意を促す調子くらいは出てきたのか、円滑に注意事項が問題児の耳へと突進する。
「分かったよ~、心配し過ぎだって~」
その注意事項の内容に心当たりがあるのか、嫌がって顔を歪めるシャーネル。
「と・に・か・く!
勝手な行動は慎むように」
「は~い」
「あっはっは、引率の教師とその生徒みたいなんだけどぉ~~」
「タナトスッ!!
お前も例外じゃない!!」
「ごめんなさ~い」
二人の会話を他人行儀で聞きながら爆笑するタナトスにも勿論刃は向けられるようである。
もちろんそんな事は計算ずくで、タナトスはわざとふざけた様子でよそ見しながら謝ってみせた。
「・・・・ったく」
『クレイヴ、落ち着いた所で一つ質問があるのだが』
会話がひと段落した所を見計らって、ネイラが心の中でクレイヴに言ってきた。
勿論会話は外へは聞こえていない。
『なんだ?』
『・・・列車と言うのは90度の急カーブを曲がれるのか?
構造的に不可能の様な気がするのだが』
『結構前の話掘り出したな、オイ・・・・・・・』
『・・・・先程から少々気になってな』
『一応答えると無理だな』
「あっ、見えてきたよ~」
揺れが起こってから1分程で、夜景に浮かぶ巨大な都市が4人の視界に入ってきた。
その都市は真夜中だというのに、まるで地平線上に月が在るかのような光を発している。
月に形容される所以は、巨大都市での電気の普及率もさることながら、水の都ならではの外見のシステムにある。
水の都である事をを強調する為、都市を守る半球状の結界の内側から巨大な噴水で水を噴射しており、
結界にぶつかった水は結界を伝って半球状に都市を包み込む。
それが内側の都市の光を反射し、外側から見るとまるで半月が地上に在るかのように見えるのだ。
シレーナはこの幻想的な風景の為に、各地から人が集まり、リゾート地的な一面も持っており、都市の経済の一角を支えている。
「・・・きれいだね」
「だな」
シャーネルもその幻想的な雰囲気に魅せられてしまっているようで、ややうっとりした表情でその風景を眺めていた。
「シャーネルちゃん、驚くのはまだ早いんだよねぇ、これがさぁ」
「ん?」
「ほらほら、あれ」
タナトスが指差した先には、すでに水を纏った巨大な結界が迫ってきていた。
そして、列車はそのままの速度で水の壁を突き抜け、あたり一面に光に照らされた水飛沫が舞い散った。
まるで星に囲まれている様である。
「わぁ・・・・・・」
その水の星々に負けないほどシャーネルの大きい瞳は星だらけの様に見えるが。
さて、列車についた水滴が疎らになる頃には、一行をのせた列車はシレーナの中心地にある駅に到着した。
列車の中は未だに先程の揺れからか騒然としており、ほぼ全ての乗客は荷物を持って列車から外に出て行く。
一方クレイヴ達は慌てる様子も見せず、混雑が解消されるのを待つために暫く座っていることにした。
「なんか、本当に水の都って感じだね」
駅のホームはこれまでに停車した駅のどれよりも豪華で、所々に噴水がありそれを彩るように青色の装飾品が駅の至る所に飾ってある。
その優雅な雰囲気も今は、慌しさ故、微塵も感じられないが。
車内の様子が一段落した様に、見えてきたので3人は列車から降りる事にした。
クレイヴは列車から降りるなり、直ぐにネイラを召還し、これからの動向を話し合う事にした。
「俺達はやる事は特に無いが、タナトスはその知り合いの所に行くんだよな?」
「ま、そうさせて、もらっちゃおうか。
皆と行動すんのも楽しそうっちゃ楽しそうなんだけどねぇ。
残念だけどこっち優先って事で」
「へいへい、勝手にどうぞ。
重荷が減って悲しむ奴はいないからな」
「それはど~も~。
いってきま~す」
タナトスはそう言って手をヒラヒラ振り、歩き出すと駅の人混みの中へ消えていった。
「さてと、俺達はどうする?」
「どうするって言われても・・・私達ここ初めてだし。
とりあえず、適当に歩いてみよっか、いいよね、ネイラ?」
「私は一向にかまわん」
「それじゃ、しゅっぱ~つ」
この町シレーナは『水の都』と呼ばれるだけあって、あらゆる建物が水を連想させる涼しげなデザインとなっている。
駅の構内も例外ではなく、至る所がガラス張りになっており、そこを水が伝っている。
しかし、今はどうも様子が違ったようで、シャーネルは一歩踏み出した所でその異変に気が付いた。
硬いものを踏んだのか足元でバリッと砕けるような音が鳴ったのだ。
「あ、何これ・・・ガラス?」
駅の床に転がっていたのはガラスだった。
「成る程な、どうも騒がしいと思ったら、ここの一部ガラス張りになってる壁が全部割れてるんだ。
多分さっきの揺れが原因だろう、どうやら列車だけが揺れた訳じゃなさそうだ」
確かに駅構内の壁からは、先程までガラスを伝っていた水が入り床にはちょっとした水溜りが至る所に見受けられた。
「揺れってさっき言ってた?」
シャーネルは寝ていたときの事を思い出して、クレイヴを見る。
「ああ、でもタナトスは地震じゃないと言っていた。
・・・・何かあるかもな、これは」
「じゃ、それ探しに行こうよっ!
その原因を見つけたら、これ以上問題は起きないから列車も早く出発するかもしれないよ?
ネイラも良いよね?」
「私は一向にかまわん」
「・・・シャーネルの言う事には一理あるけど、地震が滅多に起きない地域で謎の揺れ。
多分そこら辺はこの国の軍がやるだろうし・・・民間人なら兎も角、俺達はこの国の人間でも無いんだぞ?」
他国での行き過ぎた行動は時に国の間の問題になり兼ねない。
最悪、戦争が始まることだって考えられる。
「そんな目立つ事しないよ?
ちょっとした野次馬みたいな事で、飽くまでも探すだけっ」
「なら、いいが。。。
ネイラも良いか?
面倒くさい事になっても」
「私は一向にかまわん」
「・・・ネイラ、さっきからそれしか言ってないけど、どうかしたの?」
先程から「私は一向にかまわん」と言って、頷くだけのネイラに違和感を覚えてシャーネルが心配そうに顔を見る。
ネイラはゆっくりと手をお腹に当てた後にこう言った。
「・・・お腹空いた・・・・」
「「あ・・・・」」
ここに来て、朝からネイラが食事を一回も取っていない事に気が付く一行。
3人は情報集めも兼ねて、食事が出来る場所へと歩を進めるのであった。
「ふぁ~・・・・眠い・・・・」
そういえば眠ってもいない。
さて、謎の揺れ、タナトスの行動、クレイヴ達の行動。そしてネイラの食事はどうなるのか。
タナトスの意味深な言葉の数々は後に繋がってゆきますので、よく覚えておいて下さいね。
あとついでに、ネイラは身体を保存したのに何故お腹が空いたのかを記しておきましょう。
酔い等の身体的な状態は保存されます、だから怪我などは保存されたままです。
身体を維持するためのエネルギーは人間界での体自体を維持する為に随時使われております。
故にお腹が空いているし、眠気も自動的に溜まってゆきます。
後付みたいですが、コレが真実です(ビシッ)。
ですが質問は受け付けます。あと、面白くてもつまらなくても感想は受け付けてます。
そう言えば、最近感想に返事?が出来る事を知って、ちょっと困惑です。感想を下さった方ありがとうございました。拙い文ですが、これからも私の小説をよろしくお願いいたします。