スクープ。
――トンネルに入るときは、ドアを開けておきなよ。
深夜の岡山、人通りのほとんどない山中のトンネル。
中川大輔は、後輩の千葉綾子と並んで、古いセダンのボンネットに腰を下ろしていた。
「おばけトンネル」などとささやかれて久しい場所だ。
令和の世に本気で怖がる者などいるはずもない。それでも局は「怖い映像が欲しい」と言った。
ならば昼間のうちに、崖の切り立ち、苔むした擁壁、薄暗い坑口の威圧感を、無理にでも画面に詰め込むしかない。
夜になれば、その蓄積が少しは効いてくるだろう――そう踏んで、二人は夕暮れまで周辺を散策していた。
そのときだった。
「きゃあっ!」
千葉の悲鳴がトンネル方向から響いた。
大輔は予備のカメラを回しながら駆けつける。彼女を取り囲んでいたのは、七人ほどの少年たちだった。
手にはそれぞれ溶けかけのアイスを握りしめている。
「おっちゃんたち、幽霊みにきたの?」
「テレビの撮影だ。君たちはこの辺の子かい?」
「うん。下に商店があってね、崖を越えれば近いんだ」
別れ際、少年の一人が少しだけ声を落として言った。
「ここに幽霊が出るかどうかは、わかんないよ。でもね、トンネルに近づくときは、車のドアを開けておいた方がいい。
みんな、急にドアが開かなくなって、車を置いて逃げ出すんだから」
忠告は、妙に具体的で、妙に説得力があった。
零時を過ぎた頃、トンネルの真ん中あたりに、赤く燃える火の玉が現れた。
本当に現れた。
二人は興奮を抑えきれず、カメラを二台回したまま坑口へ近づいた。
少年の言葉が頭の片隅にあったため、自然と運転席と助手席のドアは開け放たれたままだった。
坑口近くまで来たとき、火の玉はふっと消えた。
代わりに、トンネルの奥から「ひひひひひ…」という、乾いた笑い声が響いた。
千葉は足を止めた。
大輔は「スクープだ」とばかりに彼女を置き去りにして、暗闇の中を一気に駆け抜けた。
しかし、そこには何もなかった。気配すらなかった。
撮影を切り上げ、車に戻る。千葉は相当に怯えたのか、失禁したらしい。
途中でコンビニに寄ろうとしたが、二人とも財布が見当たらない。大輔のポケットに残っていた小銭だけで用を足すのが精一杯だった。
免許証の再発行手続きに、その後しばらく手間取ることになる。それでも、撮れた映像は立派なスクープになった。
数日後。
次のロケに向かう前、先日使った車の掃除をしていた大輔は、助手席の足元に、見覚えのないアイスの棒が何本か転がっているのを見つけた。
食べた覚えなど、あるはずもなかった――
読んで頂き有り難う御座います。




