第一章 リース!リース!農業知らずの農水族
蓬莱国国会議事堂、農林水産委員会室。今日は農機具価格高騰対策について重要な審議が行われている。その中で、農水族のエース格として注目されているのが、第十二選挙区選出の借田賃貸議員(通称:コンバインリースマン)である。
「借田議員、米生産農家が抱える大きな問題が稲作機械の高騰、とりわけ大型コンバインの価格高騰です。どのような対策をお考えですか?」
委員長の質問に、コンバインリースマンは自信満々に答えた。
「はい!それはもう、リースです!」
「リース・・・.ですか?」
「そうです!農機具が高いなら、リースにすればいいんです。リース、リース、すべてリースで解決です!」
委員会室がざわめいた。確かにリースは一つの解決策だが、あまりにも単純すぎる答えである。
「具体的には、どのようなリース制度を・・・?」
「具体的には…えーっと…とにかくリースです!」
実は、コンバインリースマンは農業については全くの素人だった。農家出身でもなく、農業大学を出たわけでもない。それなのに農水族議員として活動しているのは、選挙区に農家が多いからという理由だけだった。
「借田議員、コンバインの使用頻度を考えると、リースよりも農家組合による共同購入とかの方が…」
ベテラン議員からの指摘に、コンバインリースマンは慌てた。
「いえいえ、リースの方が絶対お得です!リースなら初期費用がかからないし、メンテナンスも込みだし…」
「しかし、長期的なコストを考えると…。好事例として、例えば、南西諸島のサトウキビ事業では、農家の若者集団の事業に補助金を出して、耕作からハーベスターでの収穫までを通して行っています。高齢の農家にも農村の若者にも良い施策だと喜ばれているようですが・・・」
「いえ、今まさに高騰している米問題は、主食の生産、国民生活に関わる農政の最重要問題です。嗜好品の砂糖とは違います。ハーベスターはリースの需要がないからやむなくそうしているのです。長期的にもリースです!キホンはリース、リース、何でもリースで解決できます!」
もはや「リース」しか言えなくなっている。
質疑終了後、廊下でコンバインリースマンの秘書、田中農業氏が心配そうに声をかけた。
「先生、今日の答弁はちょっと…」
「何だい、田中君?リースの素晴らしさが伝わったと思うけど」
田中農業秘書は、実家が農家で農業のことをよく知っている。だからこそ、コンバインリースマンの発言の問題点が分かるのだ。
「先生、リースにも色々問題があるんです。まず、リース料金が高騰したら農家の負担は結局重くなりますし…」
「大丈夫、大丈夫。リース会社が頑張ってくれるよ」
「それに、コンバインは年に一度しか使わないので、実は購入よりもリースの方が高くつくことも多いんです」
「そうなの?でもリースの方が聞こえがいいじゃないか」
コンバインリースマンは、リースの実態を全く理解していなかった。ただ「新しくて格好良い解決策」だと思っているだけだった。
「先生、そもそもコンバインって何か分かってますか?」
「コンバイン?もちろん知ってるよ。コンバイン(結合)する機械でしょ?」
田中秘書は頭を抱えた。コンバインは稲刈り機のことなのに、「結合する機械」だと思っている。
「先生、コンバインは稲刈り機です」
「え?稲刈り?稲って何を刈るの?」
もはや絶望的なレベルの農業知識不足だった。
事務所に戻ると、コンバインリースマンは得意満々でテレビのインタビューに答えていた。
「農機具の価格高騰問題は、リースで解決できます。私はこれを『リース革命』と名付けました」
「リース革命ですか?」
「そうです。すべての農機具をリースにして、農家の負担を軽減するんです」
記者は感心したふりをしたが、内心では「本当に大丈夫なのか?」と思っていた。
翌日の新聞は「借田議員、リース革命を提唱」という見出しで、コンバインリースマンの発言を報じた。
しかし、その記事を読んだ農機具リース会社の社長たちは、目を輝かせた。
「これはチャンスだ。政治家がリースを推奨してくれるなら、料金を上げても文句は言われないだろう」
「そうですね。需要が増えるなら、リース料金の値上げは当然です」
こうして、コンバインリースマンの「リース革命」発言をきっかけに、農機具リース会社は一斉に料金を値上げし始めた。
一週間後、田中農業秘書のもとに農家からの苦情電話が殺到した。
「借田議員のせいで、リース料金が上がって困ってます!」
「コンバインのリース代が去年の倍になりました!」
「これじゃあ、買った方が安かったよ!」
田中秘書は青ざめた。予想していた通りの事態が発生したのだ。
「先生、大変です。農家からの苦情が...」
「苦情?何の?」
「リース料金が高騰して、農家が困ってるんです」
「リース料金?でもリースは安いはずじゃ...」
コンバインリースマンは、自分の発言が引き起こした事態を理解できずにいた。
「先生、リース会社が先生の発言を受けて、一斉に値上げしたんです」
「え?僕がリースを勧めたから、値上げされたの?」
「そうです。需要が増えると思って、料金を上げたんです」
コンバインリースマンは、初めて事の重大さに気づいた。
「それじゃあ、農家の人たちが困るじゃないか...」
「はい、とても困ってます」
その夜、コンバインリースマンは初めて農業について真剣に考えた。自分の軽率な発言が、農家の生活を苦しめてしまったのだ。
「田中君、僕は間違っていたのかな?」
「先生、間違いを認めることが最初の一歩です」
「そうだね・・・でも、どうやって責任を取ればいいんだろう?」
これが、コンバインリースマンの農業学習の始まりだった。




