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玉の輿に乗った派遣施工管理と、眩しすぎる彼女  作者: 伊織


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第八話:昼食の弁当

 特に何事もなく、順調に進んでいる現場をぼーっと眺めて二時間。スマホは十二時を指していた。


「山本さん、休憩ですよ?」


 ほとんど働いていないのはいつものことだが、遅刻の罪悪感で休憩に入るのをためらっていたら、白井が声をかけてくれた。


「わかった」


 何もしていないのに、やけに疲れた気がする。重い足取りで車に戻り、持ってきた水筒と――と、作業道具の中を探って手が止まった。


「はぁ……カップ麺忘れた」


 お湯だけ持ってきて、肝心のカップラーメンを忘れていた。深いため息が落ちる。


「今日、早退しようかな」


 今度は、ぽんずが体調悪いことにでもするか。そんなことを考えながら、車のシートを倒した。


「……会社なんて辞めたい。働きたくない」


 弱音と一緒に目を閉じる。行儀悪くハンドルに足を乗せているのが外に丸見えでも、知ったことじゃない。もうどうでもよかった。


 コンコン。


 数十分は寝た気がする。窓が叩かれて目を開けると、ドアの前に白井が立っていた。


「お弁当。半分、食べませんか?」


 人の弁当をもらうなんて――断ろうとした。けど、寝る前まで我慢できていた空腹が、今はもう我慢できそうになかった。


「……いただきます」


 白井を助手席に乗せ、弁当の蓋にご飯を分けてもらう。運転席で箸を取った。


 少し水気の多いご飯。塩こしょうでシンプルに味付けされた豚肉。薄味のおひたし。

 不完全なのに、あたたかい。


 その中に、少し茶色い卵焼きを見つけて、最初の一口に選んだ。


「だしの素、使ってる?」


「あ、はい。使ってますよ!」


「料理するんですか? よく分かりましたね!」なんて言う白井を横目に、目頭が熱くなった。


 母親の卵焼きは砂糖だけで、お菓子みたいに甘かった。俺はそれが好きだった。

 卵焼きって、どこの家でもそうなんだろうって勝手に思ってた。


 でも七海の卵焼きには、だしの素が入っていた。だしの素に砂糖、醤油。初めて食べたとき、衝撃で――俺の固定観念がぶち壊れたのをよく覚えている。


「久しぶりに食べた。ありがとう」


 素直に礼を言うと、胸がまた痛み出す。

 そういえば弁当なんて、七海が大学を卒業する頃までは作ってもらっていた。


 たまに、すごいヘンテコな“ダークマター”が飛び出してくる。でもその味は、母親の味よりずっと俺好みで、しっくりきた。ヘンテコ料理すら、愛おしくて、おいしかった。


 思い出がよみがえるほど、心が沈む。

 七海もきっと、俺と似たようなものを食べているんだろう。自分でいろいろ作って食べるのが好きだったのに、今は毎日昼に食堂のマヨ唐丼(から揚げにマヨ)を食べているらしい。入社して七年、ほとんど毎日同じだとこの間聞いた。


 俺が言えたことじゃない。でも健康も気になるし、なにより――食を楽しむ余裕すらないんじゃないかと思うと、不安がよぎった。


「体が資本の仕事ですからね。ご飯抜いたり、適当に済ませちゃだめですよ。カップラーメンより、せめて少し高くても宅配食やお弁当にした方がいい。食をおろそかにすると、いろんなことに影響が出ますから」


 改めて礼を言おうとして、言葉が引っ込む。

 白井がほんの一瞬、暗い表情をしたように見えた。


「先、行ってるので。まだ寝てても大丈夫ですからねー」


 先に戻る白井の背中が、さっきより少し寂しそうに見えた。

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