第三十話:ストレスの所在
ギリギリ三時のおやつに間に合い、俺と綾香ちゃんは紅茶。七海は俺たちと向かい合うように座り、ハンドミルでコーヒー豆をひたすら挽いていた。
「二人とも、本当にケーキいらないの?」
俺は今食べると本日二つ目になるし、綾香ちゃんは遠慮しているか、ほんとに夜食べられなくなるから断っているのだろう。
「ちぇー」
ぷくっと子どもみたいに頬を膨らませ、不服そうにする七海。その雰囲気が面白いのか、綾香ちゃんは紅茶を片手に七海の表情をちらちら見ていた。
「七海は食べていいんだよ?」
そう言うと、七海は悩ましげに眉を寄せた。
「昼食べずに出てきたから、これからなんだよね。それにケーキまでいくと、さすがに夜ご飯やばいかなって」
珍しいこともあるもんだと、俺は思わず驚いてしまった。普段は三時だろうと四時だろうとがっつり食べて、夜もしっかり食べるのに。
「体調悪い?」
思わず聞いてしまうほどには珍しかった。
「朝、バナナ二本食べていったら、思ったより腹持ちよくて……」
昨日、七海の朝ご飯用に買ったバナナが早速効果を発揮していたなんて、普通は思わないだろ。気休め程度のつもりだったのに、燃費の悪い七海をちゃんと助けてくれた。俺は、これからもバナナを買ってこようと思った。
「七海さんは、そんなに沢山食べて、お腹の調子とか……悪くならないんですか?」
コーヒー豆を挽き終えた七海が、リュックから今日食べる予定だった昼飯を取り出してキッチンへ向かう。そのタイミングで、綾香ちゃんが口を開いた。
「あー。何食べてもへっちゃらだねー」
確かに七海が「お腹が痛い」って騒いでるのは見たことがない。あっても、薬が効かなくて唸ってる生理中くらいだ。
「羨ましいです……私、ご飯食べた後ってお腹壊しやすくて」
綾香ちゃんのその言葉に、俺ははっとした。今日の晩飯、赤から三番……辛いやつだけど大丈夫か……?
ちゃんと苦手なものとか聞いてから買い物に行けばよかったと、心底後悔した。
「それ、毎日?」
そんな俺とは裏腹に、七海は真面目な顔で聞いた。
「あ、はい。特に朝とか、夕方で。ほとんど毎日です」
ほとんど毎日って、それ大丈夫なのか?
白井は何も言ってなかったし……。
「断定はできないけど、ストレス性の腹痛かもね。私も病院行ったら“過敏性なんちゃら”って言われてねー。私の場合、毎日朝限定だから、会議とかたまにお腹痛すぎて死にかけるね」
そう言った七海は、真面目な顔から一転してケラケラ笑い始めた。
初めて知った。七海が、そんなふうに毎日つらい思いをしてたなんて。しかもストレス性。
ストレスの原因が俺なんじゃないかって、頭が真っ白になった。
「もしそれだったら、早く病院行かないと……いけないですか?」
心配そうな綾香ちゃんの言葉に、俺も焦りを覚えた。
「行くに越したことはないかな。なんか違う病気隠れてるかもだし。何より、私医者じゃないからねぇ」
その言葉に、綾香ちゃんが小さく「そうですよね。すみません」と謝る。
「ただ、ストレス性だったなら、することは決まってるよ」
そう言う七海の顔は、最近見た中で一番輝いていた。




