第二十七:気まずい雰囲気
気づけば帰る頃には三時間ほど経っていて、時計は二時を指していた。
「やばい。昼飯!!」
家のすぐ側の信号で止まった時に思い出す。家には、預かった子が一人。
多分あのくらいの年だと、人の家の冷蔵庫から勝手に何か引っ張り出して食べたりしないだろうし、間違いなくお腹空いてる。
「コンビニ?いや、今日さすがに使いすぎだ。俺の金じゃないし……」
信号が青に変わるタイミングで、別のことも思い出した。
「あ、俺、昨日仕事行ってないから油淋鶏残ってるじゃん」
なんなら七海の弁当も冷凍しておいた気がする。
「ただいま」
家に帰るなり、真っ先に冷蔵庫にケーキを隠した。二階に向かって小さく「ただいま」と言うと、ドアが開く音がした。
「お、つかれさまです」
降りてきた子が、気まずそうに言う。俺も親しいわけじゃないし、「ただいま」はなれなれしかったかと反省した。
「おなかすいてるでしょ?ご飯チンするね」
気まずさを誤魔化すように、そそくさとキッチンへ向かい、冷凍庫をあさる。やっぱり昨日のがあった。
「あ、その。夜、食べれなくなりそうなので」
その言葉に手が止まった。
「あ、ごめん」
七海も俺もよく食べる方だし、ガッツリじゃなければこの時間に食べてもさほど影響がない。むしろ、お腹が空いたと夕飯を急かされなくて済むくらいだった。
「あ、じゃあ。お菓子とジュース、あるよ」
小分けのバームクーヘンとドーナツを出すと、「ありがとうございます」と言って数個取ってくれた。ジュースもコップに注いで渡せば、リビングの机に置く。
「いただきます」
食べ始めたところで、足下を可愛らしい音を立てて歩いてくる生き物がいた。
「こら、ぽん。人のご飯狙わないの」
ぽんずがバームクーヘンに狙いを定めて、じっと食べている子の前から動かない。
「ブルドック……初めて見た」
「触ってもいいですか?」
そう聞くその子に「いいよ」と短く答える。あとは二人で勝手に遊んでくれていた。
ぽんず……気まずい雰囲気をどうにかしてくれてありがとう。
心の中で感謝しつつ、同時に謝罪もした。
ぽんず……ブルドックでもなければ、フレブルでもないんだよな……。
パグって、コアなのかな。俺は勝手にそう納得した。
そう思いながら、冷凍庫横のラックから砥石を選ぶ。箱から出して水につけたところで、動きが止まった。
「七海、二時間残業って言ってたよな……」
やってしまった。深いため息と一緒に、その場にしゃがみ込む。
鍋なんて、七海が帰ってくるまで完成しないものを選んでしまった自分を、会計前に止めてやりたいと心底思った瞬間だった。
七海、多分帰ってくるのは早くて八時、遅いと十時くらいだろう。家の最寄りから会社までは四十分くらい。
だけど、どんなに疲れていてもポケモンのレイドだけはこなしてくるトレーナーだ。真っ直ぐ帰ってくるわけがないのだ……。




