第二十六話:節約と浪費
買い物は、いつもより少し遠いスーパーを選んだ。
とりあえず歓迎パーティーメニューってことで、赤から三番の鍋の素を買う。牡蠣にエビ、ホタテに鶏肉。豪華すぎる顔ぶれだ。
七海、ごめん。お金めっちゃ使うけど許して……。
節約と健康のために夕飯と弁当を作る決心をしたのに、健康はともかく節約には全然なってない。その事実に、今日は仕方ないと目をつむる。
「うーん。パッとしない……」
白菜ともやし、ニラと焼き豆腐、油揚げをかごに入れ、スイーツコーナーで足を止めた。けど、いかにもなケーキがない。諦めて近くのケーキ屋を探し、少し遠い場所に一軒見つけた。
「あ、お菓子食べるかな。あとジュース」
会計をしようとして、ふと思い出す。
しかし、何が好みかなんて分からないし、聞いてくればよかった。もともと俺も七海も間食はしないし、ジュースも飲まないから、どれがおいしいとかも分からない。
「この辺の、バームクーヘンとかドーナツにするか」
珈琲が好きな七海がいる。最悪食べてもらえなくても、七海の珈琲タイムに出せば消費できる。
俺は一人で納得して会計を済ませた。会計金額が見たくないような額になっていて、顔を背けながらタッチ決済する。早く忘れてしまいたい……。
「これ、男が一人で入って大丈夫か?」
スーパーから二十分ほど車を走らせて到着したのは、メルヘンチックな店構えのケーキ屋だった。テラス席には女性しかおらず、男一人での入店をびびってしまう。
しばらく入口あたりをうろうろしていると、カラン、とベルの音を立てて店のドアが開いた。
「お待ちのお客様ですか?」
やばい、と冷や汗をかいて頷く。
「こちらへどうぞ。カウンター席でもよろしいですか?」
なんて言われて断れず、通されてしまった。
俺、ケーキ買いに来ただけなのに……。
ため息をつきながら自分にあきれる。通されたからには頼むしかないとメニューを開いたが、同時に貧乏ゆすりが始まった。
「紅茶一杯六百円……」
俺なんて午後の紅茶で十分なのに、と焦り出す。ケーキセットで一〇〇〇円と書かれているのを見て、脳裏にはさっきのスーパーの会計が浮かんだ。
「紅茶だけ……いや、ケーキにして水もらう?」
悩んだ末、せっかくケーキ屋に来たんだしケーキを食べようと決めて店員を呼ぶ。
「この、イチゴのケーキ一つ」
文字しか書いてないからどんなものか分からないけど、一個七百五十円もするんだから大きいんだろ。そんな考えで頼んだ。
――が、数分で到着したのは拳ほどのサイズだった。
「庶民が来る店じゃなかったか……」
ましてや、味の違いなんてみじんも分からん俺が来る場所じゃなかった。
けど、ビジュの良さだけはさすが七百五十円。宝石みたいな艶があって、今度七海を連れてきてやろうかと本気で思うくらいには女子が喜びそうだった。
「……あっま。え、甘」
せめて味わって食べようと、ドカンと一番上に乗った大きなイチゴを食べる。すると噛んだ瞬間、ジュワッとあふれ出す甘みに驚いた。これが高いイチゴってやつなんだと、思わずケーキを見つめてしまう。
「これにしよ」
俺は一瞬でこのケーキの虜になり、買って帰ることを決めたのだった。




