第二十三話:無責任と責任
「あの、これ」
半ばヤケクソで引き受けた俺に、白井が封筒と紙切れを差し出した。
少しシワシワの紙切れには「お食事券」と書かれていて、店名は――今俺が車を停めている、この焼肉屋だった。
嫌な予感に背筋が凍る。
封筒の中を確認すると、二万円ほど入っていた。
「ばか、やめろって!!」
生活費なのか謝礼なのか知らないが、受け取れない。
ろくに子育てもできないのに金だけ受け取ったら、余計に後から拗れる。俺は封筒も食事券も突き返した。
「そんな……」
白井は困った顔でうつむく。
うつむきたいのはこっちだよ。
ため息が喉まで出かかったけど、押し問答してる時間もない。
「……とりあえず、早く家帰って支度させろ」
「住所教えて。俺、迎えに行く」
それだけ言って車に乗り込む。白井の驚いた顔を横目に、駐車場を出た。
出たところで、何か解決するわけじゃない。でも、あの空気の中にこれ以上いられなかった。
「はぁ……娘って……女の子だよな?」
どうしよう。七海に頼むしかないことが、絶対出てくる。
コンビニの駐車場に停めて、スマホを握る。
七海にまた負担をかける。後先考えないくせに責任が取れない男だって、何度も言われてきたのに――またやった。
呼び出し。七海。
「……あ、いっちゃん?どうしたの?」
こういう時に限って、ワンコールで出る。
「ごめん……」
「ごめんって。え、もしかして事故でも起こした!?」
焦った声で怒られる。俺の運転が危なっかしいのを、七海は知ってる。
「いや、そうじゃなくて……」
「そうじゃないなら、どういうこと?」
歯切れの悪い俺に、イライラが混じる。
「同僚がコロナで……」
「娘、預かるって言っちゃった……ごめん」
言った瞬間、遅れて別の不安が湧く。
――娘が感染してない保証なんて、どこにもない。俺は何も考えてなかった。
「え、いっちゃんの同僚?やばいじゃん」
「娘ちゃん、まだ幼いの?うちのご飯食べれるかな。というか私、作ってる時間ないかも……」
なのに七海は、俺を責めなかった。
「俺、しばらく休みだろうし。家事も育児も任せて」
せめて最大限、迷惑をかけないように言うと――
「……なら、いいんじゃない?」
歓迎ムードみたいな返事に、俺は唖然とした。
いつもの七海なら絶対怒る。怒られて当然なのに。
「今日から来るの?」
「私、多分二時間残業だけど、大丈夫そう?」
“二時間残業”の言葉で、胸がきゅっとなる。忙しいのに。
それでも七海は、当たり前みたいに段取りを始めていた。
「今日から。大丈夫。俺、ちゃんとやるから」




