第二十話:世間の目
自分のレベルを突きつけられたみたいで、やる気は下がる一方だった。
七海に話したら、きっと「いっちゃんはさ〜」って言いながら肯定してくれる。……そう思うと、甘えたくなる。
でも、七海にばかり頼っちゃだめだ。
自分の気分くらい、自分で上げろ。
そんな気持ちで、知恵袋をダウンロードしてみた。昔、七海が悩みに答えたりしてたって言ってたし、「励ましてほしい」って書いたら、誰か一人くらいは励ましてくれるかもしれない。
――ほんとに、軽い気持ちだった。
けど、俺に突きつけられたのは世間の厳しい目だった。
——30でまだ派遣やってるってやばいだろ。彼女よく捨てないよ。私なら捨ててる
——鼓舞?なに言ってんの?大学?30歳でしょ?金の無駄
俺が書いたのは、こんな投稿だ。
『30歳男/派遣施工管理/資格なし。だけど大学に行って色々勉強したいと思っています。ブランクが長くてモチベ維持が大変なのですが、鼓舞していただけると幸いです。』
たったそれだけ。
なのに返ってくるのは、否定ばかりだった。励ましなんて、どこにもない。
世間から見たら、やっぱり“今さら”なんだ。
やめとけ、真面目に働け。身の程を知れ。
現実を、またひとつ突きつけられた。
「鼓舞してくれって言ってんのに……日本語読めないのかよ、こいつら。暇人が」
自分の情けなさと、誰にも認めてもらえない理不尽さで、口が悪くなる。
若い頃から感じていた生きづらさは、歳をとるにつれてどんどん膨らんで、胃のあたりに居座った。
「……うわ、寝てた。お腹空いた……」
うなだれている俺の横で、七海がソファから体を起こした。起きたばかりなのに、もう腹が減っているらしい。
その声を聞いた瞬間、俺の悩みが急にどうでもよくなった。
……七海らしい。
「カップ麺食べる?」
「まじ? 今からまずくない?」
時計はもう三時。晩飯が怪しくなる時間だ。
「あ、じゃあさ。二人で一個はどう?」
俺の意見を聞く前に、「そうしよ!」と七海は飛び起きてキッチンへ向かった。
七海と暮らしていて、幸せを感じるのは――案外、こうやって振り回されてる時なのかもしれない。
そう思って、俺は勝手に納得して笑ってしまった。




