第十八話:実る努力
七海の問いに答えられずにいると、俺が黙る理由を察したのか、七海が口を開いた。
「そんな難しく考えなくてもさ。推薦で行けば? それか、社会人枠とか」
「私も指定校推薦だったし」
その言葉に、思わずため息が漏れた。
「あ、言っとくけど、自己推薦っていうのもあるから。AOっていうんだけど」
「私の通ってた大学、内部進学と同じくらい、何かしら推薦の人が多かったよ。周りに共通テストとか一般で入ってきた人、ほとんどいなかったし」
懐かしむように腕を組む七海を見て、俺は赤本を握り直す。
「そんなのあるの? 俺でも行ける?」
食い気味に聞くと、七海は「う〜ん」と考えて、軽い口調で言った。
「まあ、一般とか共通テストで行くよりは確率あるんじゃない? 知らんけど」
適当すぎて焦るのに、言ってることはなんとなく分かる。
少しだけ、希望が見えた気がした。
「七海の指定校推薦っていうのも、自己推薦みたいなやつ?」
そう聞くと、七海が「あー」と罰が悪そうに頭をかいた。
「なんていうか。学校で成績いいともらえるやつ」
同じ“推薦”でも、俺とは訳が違う。
そう思った瞬間、胸の奥がちくりとした。微妙な顔をしてしまったのも分かって、余計に落ち込む。
「……まあでも、すごいもんじゃないよ」
「過疎ってる学校とか、ぶっちゃけ進学率あんま高くない高校にも配られるようなもんだし」
「たまたま余ってたから指定校もらって進学した、なんて人も少なくないよ」
自傷気味に言う七海に、むっとした。
「七海はさ。違うんじゃない?」
少し声が荒くなる。
こんなに努力家で、ひたむきに頑張る七海が、余ってた推薦で進学したみたいに言うのが許せなかった。七海が私立の進学校に通ってたって昔聞いた。努力したはずだ。
努力の先を信じて進む七海が、俺への配慮で自分を下げるのは、なおさら嫌だった。
「んー。どうだろ」
「指定校って僻まれるし、よく思わない人は五万といるから」
意味が分からなかった。僻まれるのはともかく、よく思わないって、なんでだ。
理解できない話に、俺はただ驚いた。
「俺は、すごいと思うし……」
「大学であんな“有名人”だった七海だし。誇らしいんだけどな」
七海は大学では有名人だった。
一年のゼミで書いた学内論文はいいところまで行ったらしく、賞金で一万円分の図書券をもらってきた。二、三年は参加賞止まりだったらしいけど、四年で雪辱を果たして最優秀賞。十万円分の商品券をもらって、一緒に旅行にも行った。
勉強でも優秀で、学外の活動では年に数回イベント運営もやってた。毎年スーツを着て、発表会で成果物を発表しに行ったりもしてたし、その甲斐あってか、卒業式では卒業生代表までやった。
友達との写真も多かった。
羨ましいより、ずっと誇らしかった。努力が実るプロセスは、七海が俺の中に作ってくれた。
「有名人だったの……あれじゃん」
「ぽんずのご飯買い忘れたの思い出して、授業中にネットで買い物してたからじゃん」
「ペイペイ!って爆音で鳴ったあと、スクラッチちゃーんす!ってやったからだよ……」
「先生にめっちゃ怒られたやつ。忘れられない」と頬をかく七海は、やっぱり七海だった。
「とにかく!」
「まずはいっちゃん、社会人枠での受験を考えて、面接と小論文の練習!」
「あ、あと出願忘れないで」
誤魔化すように言う七海に、「分かった」と俺は少し笑いながら返した。




