第十四話:灰色の空
しばらく俺は、ベランダで七海と話していた。ここ数日が嘘だったみたいな穏やかな時間に、心が落ち着く。
話題が尽きるまで話して、それぞれの部屋へ戻った。
寝室のベッドシーツはひんやり冷たい。けれど体を滑り込ませれば、やんわり暖かいぽんずの温度があった。
その日はベッドに入ってすぐ眠れた。
次の日。目覚めたのは七時。いつもよりずっと早いのに体がすっきりしていて、妙に頭が冴えていた。
「あ、惣菜だけど弁当置いてあるから。俺、ちょっとスーパー行ってくる」
昨日炊いたご飯をタッパーに詰めて、惣菜で選んだ油淋鶏も入れる。弁当を作り終えると、財布だけ持って玄関へ向かった。
珍しく早起きしていたのは俺だけじゃなかった。七海も起きている。
「え、七海。なんか買ってこようか?」
「いや? 私も行く」
なぜか七海まで車に乗り込んできて、俺は困惑しながら愛車を発進させた。
「仕事は?」
今日はまだ木曜だ。休日じゃない。遅れないのかと聞くと、七海はポカンと固まって、すぐに笑い出した。
「今日は病院にピルもらいに行く日だよ。有給取ってるの。貯まってるしね」
「あっ……」
そういえば、言ってた気がする。弁当いらなかったか。
「お弁当はありがたくお昼にもらうね。どうせ私、一人だとご飯食べないだろうし」
俺の心を見透かしたみたいに言って、七海は「お弁当なにかなー」と遠足当日の朝の子供みたいに足をぶらぶらさせた。
プルプル。
着信音。俺のスマホだった。
「あ、もしもし。白井です。山本さん、今日、完全休工だって知ってました? 今会社から聞いて、びっくりして……」
弾丸みたいな勢いで、一息に言う白井に俺は呆気にとられた。
「今日、警報か何か出てたっけ? 曇ってはいるけど……」
「関東、空前絶後の大雪警報ですよ!」
「いや、どうせ雪なんて降らないだろうし、うちブラックだから大雨警報でも仕事するじゃないですか。だから、休工って聞いて“ただ事じゃない”って思って……」
え、今日雪降るの?
そんな顔で七海を見ると、七海も首を傾げた。たぶん七海も知らない。




