第十二話:回ってきたツケ
「ねえ、いっちゃんはさ。仕事とか、今後どう考えてる?」
七海に下ろされたぽんずは、ご飯へ一直線。俺は七海の顔が見れないまま、その背中をぼんやり見つめていた。
「あぁ、えっと……」
当たり障りのない嘘を探す。
そろそろ派遣じゃなくて正社員を考えててさ、とか。転職も考えてる、とか。
――そう、いつものように、何も考えずに嘘を吐けばいい。
でも頭に浮かんだのは、悲しい目で「そっか」と言って、それ以上聞いてこない七海の顔だった。
大工から派遣施工管理に変わるとき、散々言われたことがよみがえる。
――正社員経験なしで、いきなり正社員になるならさ。営業でもなんでもやります、って気持ちじゃないと無理だよ?
――それに、大工経験を無駄にしたくないから施工管理に、って……派遣じゃなきゃまず無理だよ
当時二十二歳。就職したばかりの七海に言われて、俺は正直、社会に出てすらいないやつの言葉なんて当てにならないと思っていた。
――年収六百万?少なくとも五百万以下では働きたくないって……いくら大工やってたって、職種未経験でしょ?
――無理だよ。未経験で三百万もらえればいい方。学歴だって中卒で、応募できる企業も限られてるんだから
書類選考が通れば御の字。面接まで行けないのは当たり前。百社受けて、面接に辿り着けたのは数社だけ。
それも「面接確約」をうたう会社だった。結果は全部、惨敗。
でも営業なんてやりたくない。事務も、頭が痛くなるからやりたくない。
そう言い張る俺に、七海はため息をつきながらも面倒を見てくれた。
――え、飲み会?嫌だよ。男の先輩と二人でしょ?ありえないって
そう言ってた七海が、ある日、四つ上の先輩とサシで飲みに行った。
俺は愛想を尽かされたんだと思った。
「かもしれない」に振り回されても仕方ない――そう言い訳して、七海のアドバイスを散々無視してきた。ツケが回ってくるのも分かってた。
それでも、昔、元カノに浮気された話をした俺の気持ちを踏みにじられた気がして、許せなかった。
――浮気?はぁ……施工管理やってる先輩に、いろいろアドバイスもらってきただけだよ。夕方店入って七時には帰ってきたし。酒も一滴も飲んでない
七海はそう言って、さっさと風呂に入って寝た。
次の日、言われた。
――施工管理をほんとにやりたいなら、派遣で経験積むのが一番現実的。資格取れたら、経験と資格をひっさげて正社員募集してる会社に挑戦。それしかない
――それが嫌なら、選り好みせず仕事を受けるか、父親の元で大工を続けるか。どっちかだよ
大工の職場は七海の職場から遠い。
一時間以上の通勤を嫌がって、職場の近くに住みたいってわがままを言ってたのは、俺のほうだった。
その瞬間、七海の中で何かが切れたのが分かった。
――……じゃあ、同棲しなくていいや
七海に同棲しなくてもいいやと言われ、単純に同棲できるなら、派遣でもいいか。
施工管理の正社員に、いつか就職できるだろう。そう思っていた。
そんな考えで派遣になって七年。資格ひとつ取れず、派遣に落ち着いていた。
七海の問いが、今さらの現実を全部ひっくり返してくる。
喉が熱くて、言葉が出ない。
「……ちゃんと考えて、また明日、話してもいい?」
俺に出せた最適解は、それだけだった。
これ以上、嘘と計画性のなさが露見したら――いよいよ、関係が壊れる気がしたから。




