T・I・O 元プログラムの私が待望の人間になれたのはいいけれど、世界がイマイチカオスです。監察官って聞いてないです!(しかも美少女に変身するおじさんを添えて)
T.I.O シリーズ 番外編
書いているT.I.O本編の前の話。世間はお盆ということでご当地な感じで書きました。
○序章
地方都市に最近できた2階建の円形の遊歩道、真新しいが平日の昼下がりでは人の通りも閑散だ。駅直結の遊歩道ではあるが、その駅の対面の建物整備が遅れているので、正直なところコレを使ってどこへ行く?と言う感じになっている。強いて言えば道路を挟んだ商店街への道筋もあるが、狭い道路1本挟むだけなので、果たしてここの階段を登る意味はどこにあるのか。いずれ下の横断歩道を封鎖でもするのだろうか。
改めて配置を整理すると時計回りにメインの駅、細い道路を挟んで商店街と、整理が遅れていることを象徴する空き地。それから大きな道路を挟んで、一応のビジネス街になって、また道路を挟み、ローカル線の駅になっている。
そしてそのビジネス街側の手すりにもたれかかって、まばらな往来を眺める女性が二人。
一人は青髪のストレートヘア、前髪はかきあげた感じで、背中に大きくpoliceの印字があるブルゾンを羽織っている。背丈は女性としては大きい方に分類される。隣の女性は小柄なので相対的により大きく見える。表情はどこか虚ろで、目の下には若干のクマがある。
「エリさん、良いですか?こんな目立つとこにいたら、見つかるものも見つからないですよ。」
もう一人の女性が声をかける、彼女はピンク髪のミドルヘア、同じくpoliceのブルゾンを羽織っているが彼女の所属は、救護関係なんだなと一目でわかるデザインだ。
「良いのよ、わかりやすい方が」
エリと呼ばれた方の女性が目も合わせぶっきらぼうに答える。人通りが少ない上に、こう言った格好だ、円形の反対側を歩く人も少し訝しんで歩いていく。
そうなんですか、と呟く小柄な女性、ブルゾンの内側に着ているシャツに律儀に付けてある名札には、苗字は隠れて見えないがサヤカという記載がある。彼女は周りをキョロキョロしながらエリに言う。
「そもそもここって南署の管轄で、北署の私たちがいて良いんですか?」
ここでやっとエリがサヤカの方に目を向ける。
「良いわけないけど良いのよ別に、後なんで別に良いって言ってんのにアンタはついてきてるのよ。良いのよ、別にペアになったからって言っても、いつも一緒じゃなくて良いのよ」
言葉も言い方もキツいし、その意図は邪魔だからどっか行ってろ。でしかない。
だからついて来てるんです、という言葉を飲み込み、状況を確認するために言葉を発する。
「ここにくると読んでるんですか?」
サヤカの言葉にジトッとした目を向けて大きなため息をつくエリ。
「ここしか無いの。田舎なんだから。」
サヤカの理解が追いつく前に、エリの目つきが変わる。
「ほら言った通りじゃない。」
自分たちの反対側の通路で明らかにこちらを見つけてから挙動がおかしい男女複数人のグループがいる。よく見ると男5人、女性は1人だ。探しているグループと構成は同じだ。彼らは完全にこちらを認識し、走り出す。メイン駅の方から商店街の方へ真反対の自分達が間に合うとは思えない。なんでエリはこっちに陣取ったのかわからない。
「せっかくだし、使うわ」
エリはニヤニヤしながらそう言って腰のホルスターから銃を出す。拳銃ではなく鉤爪とウインチがついた特殊な銃だ。
「それを使うためだけにここに!?」
「良いから!ほら!サヤカ!先に走って!ほら!」
どっか行けって言ったり、走れって言ったり、無茶苦茶だ。とにかく走って不審者をおいかける。
当のエリは、手すりから数歩離れて助走をとり、手すりの上を蹴って飛ぶ。
跳躍の最高点で静止するその刹那に、先ほど取り出した銃を構えそのグループの進行方向上の屋根の骨組みを狙い、撃つ。
火薬のはぜる音、鉤爪が骨組みを捉える音が重なる。
銃を両手で握り直し、スイッチを入れる。巻き取られるワイヤーに引っ張られる身体。落下するよりも強烈な巻き取りで一直線に進んでいく。
グループは少しばらけつつ走っている、タイミング的に先頭には間に合わない。前から3人目に自分の照準を合わせる。そいつ一人とその真後ろの女性が確保できればそれで良い。
円形の中をエリが飛んでいく。引っ張られる感覚、速度感が、もう大丈夫と告げた時、銃の別のスイッチを押し、鉤爪を解放する。
照準を合わせた彼と目が合う。驚きと恐怖に囚われたその目を見て自分の鬱屈とした僻みが少しは楽になるかと思ったがそうでも無いようだ。
アクション映画さながらのジャンプとワイヤーアクション、思った以上に真新しくはない浮遊感とこれから訪れる物理的以外の衝突に若干の思いを馳せ、その彼の鎖骨に右足裏を差し込む。
鎖骨が砕け、体ごと壁にぶつけられる感触が伝わる。鎖骨が折れれば腕があがらないからこいつはもう脅威では無い。
左足から着地し後ろの二人に向き直る。男女一人づつだ、女性は腰を抜かしてへたりこんでいる。男は女性を連れていくか自分だけ逃げるか迷ってる。そこへサヤカが走ってくる。
「あとは任せた」
エリはそう言って先に逃げた二人を追う。
「え!あ!はい。」
走り去るエリを背中で感じ、男と対峙する。
男は少し安堵した顔になる、殺意の塊だったものが去り、代わりに来たのは小型な女性だ。組み易いと感じるのは当然だろう。
「未成年者略取の現行犯です、おとなしくしてくれますか」
努めて冷静に告げる。彼というより数は少ないが周りに対して言う。
男は悩む、戦意はあるようだ、迂闊に近づけない。サヤカはこの段になってから、自分が使うべき武器について考えてしまった、警棒かテーザーか。意識が一瞬逸れる。
その瞬間男が背を向けて走り出す、逃げる気だ。
助かった。と思いつつホルスターからテーザー銃を抜き、構え、撃つ。
腑抜けた空気音をともに弾丸が発射され、彼の背中に弾が刺さり、電極が発動する。
大声をあげ倒れる男。しばらくは動けないだろう。
サヤカはへたりこんでいる女性に歩み寄り声をかける。
「長谷川洋子さんですか?」
その女性は黙って何度も頷く。それを確認して、サヤカは無線機に呼びかける。
「こちら豊田、誘拐されていた長谷川洋子さんを確保しました、場所は駅前の円形遊歩道。応援求めます」
もう一度繰り返し、以上と通信を切る。北署が南署管轄で大捕物、怒られるだろうから、事実だけ伝える。
「はぁー」
大きなため息をつく。
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急に警察に襲われた二人は遊歩道を降り、アーケードを走る。追いかけてくる警官は一人だ。おそらくお互いが、相手が犠牲になれば良いと考えている。
先頭を走る男は後悔した、寄せ集めでやるべきじゃなかった、しかし成り上がるチャンスが転がっていたならやるしかなかった。でも失敗だった。だから逃げるしかない。
ひと区画走り商店街の中に入る。全国展開した大型スーパーの一号店があったが、今はマンションになってしまった通りを走り、古臭いおもちゃの横を通り抜ける。
後ろから追ってくる気配はない、ここを抜けて公園に行こう、茂みがある。
商店街を抜けて公園に入る、見回すと誰もいない、隠れるより先に行くべきだ、本能が告げる。一息入れて走り出そうとした、その時。
「残念」
聞き覚えは一切ないが、あぁ、多分あの人だっていう声がして振り返らず走り出そうとするが、彼の意識はそこで切れている。
○次章 大川課長
「あのねえ!限度っていうもんがあるやんか!」
北署刑事課で怒号が響く、大柄の女性はどこ吹く風、小柄の女性は言われる度に体がビクつく。
「結果論じゃないやん!ねぇ!出来立ての屋根に傷つけてほんまにぃ」
本人はいたって真剣な怒りをぶつけるが、いかんせん方言の語尾が優しく見えて迫力に乏しい。「聞いてるん?ねぇ!」
北署刑事課長の大川はイタズラの度が過ぎた子どもを叱るテンションで二人を詰める。そう見直すと生意気な姉のエリと正直な妹のサヤカと言う構図に見える。
エリに関しては都会の方で双子の姉が失踪している。失踪からしばらく経つが、若干ヤケになっているのが伝わってきているのを察した上層部の判断で、祖父母がいたこの街に出向となっている。サヤカは要はエリのお目付けで一緒に出向となっているが、ご覧の有り様である。
ただ、上層部の判断の要因にはこの大川の存在もあった。彼女は、叩き上げの課長であり慈愛のある人との評判であった。だがしかし、いま彼女は怒っており、慈愛とは程遠い状況だった。
「葛城!独断の理由はなに?時間的猶予はあったはずやん?」
この地が初めてのサヤカからすると、やん。が多い方言だなと言う感想を持つ。しばらくはこの「やん」が引っかかるんだろうなぁ。と感じていた。
「主犯からの連絡が直前だったからです」
ウソだ、とサヤカは思った。あの場でしばらーく、待っていたはずだ。
「そもそも囮捜査は原則禁止やん、それで得た証拠は裁判じゃあ通じないんよ?なんでやったん?」
「たまたまです」
はー、と大きな息を吐く大川。諭すように言う。
「来てすぐに大手柄かもしやんけどさ、こっちの心配もあるやんか。」
黙っているエリ、不貞腐れて話を聞かないその風体は完全に不良娘のそれだ。大川は構わずあれやこれやでエリを詰める。
「課長!署長がお呼びです!」
大川を呼ぶ声がして、お説教は一旦終わりを見た。
「今日はおしまいね、後で次の話しましょう」
そう言って大川は署長室へ向かっていった。
「はぁ、もう、エリさん、あんな子どもみたいな態度取っちゃダメですよ」
「知らない。そもそも来てすぐに信用しろって出来ないじゃん、アンタも一緒」
そう言ってツカツカとどこかに歩いて行ってしまった。
サヤカは、内面から来るザワザワを感じつつ、歩いて行くエリを眺めるだけだった。
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「いえ、ですからね、署長、そんだけ組織も人手不足だし、被疑者の独断で人集めてただけで」
署長室から漏れる大川の声、来て間もない上に身勝手な行動をした我々を庇う道理はないように思うがなぜだろう、とエリは思う。言われっぱなしでは面白くなかったので、せめて一言言ってから辞めてやろうと思ってきたが、漏れ出る声に足を止める。
大川の声だけ漏れ聞こえ、相手の署長は何を言っているかは聞こえない。
そう、今回の誘拐も、捕まえた件の彼が一人で計画し、アングラな方法で人をかき集め実行したのだ、彼の上役の組織は一切関係ない。
「ええ、ええ、だから、今どきなんですよ、ええ、そう、乗せられる子も多いんですって、そう、だからたまたまですよ、都会の経験値でね、そう、首都の方でも多いじゃないですか?」
組織だった犯罪ではないという時点で、そのアングラな方法を当たって見たら、この地域での案件はそれしかなかった。
「ええ、そうなんです、消えるんですよ、メッセージがね。だから証拠も保全できないから、ええ、そうなんですって」
そうなれば簡単だ、通信の秘密保持をうたうプログラム使って連絡を取るだけだ。
「ええ、だからそうなんです、身元も確認せんと、ノコノコ出てきて、警察のブルゾン見て慌てふためく、ええ、そうなんです、そんなもんなんです。そう言う子がね、巻き込まれるんですよ。しかも突拍子もないことするんです。ええ」
言い方が悪いがずいぶんと間抜けなやつだった、みんなでノコノコ出来てきて、仲間だと思っているやつがいるところに警察の格好した人間がいて慌てふためく。
納得の範疇を超えているが、こう言うのにホイホイとのせられる人間がいると言う点は理解しておかないといけない。首都の方から異動してきたばかりだが、刑事畑では無い署長に説明するのは骨が折れるだろう
あ、退職届持ってないや。
ふと冷静になって肝心なことを思い出してしまった。
なんだ辞める気無いじゃん私。
気がついてしまったので、次にすべきことを考えるために居室に戻ろうとした時。
「葛城さん、どうしたん?」
げ、もう出てきたの?
大川はいろいろ気づかないふりをして話を続ける。
「ちょうど良いじゃない、戻りながら話しましょう」
歩き出す二人。
「首都の方から異動してきたばっかやん、署長。刑事畑やないやんか、せやで説明すんのは大変やん」
先ほどのエリに対する激情はどこへやら、今日明日の天気を話すように、この地域独特の「同意のやん」を連発し、感想を述べる。この話し方は祖母を思い出す。
「やっぱりみんな、おおらかやんか、この辺。やからさ、葛城さんが来て良え刺激になるやん」
そうですか、と、しおらしく応じてしまった。
「せっかくやでさ、もっと葛城さんの話聞いて良い?」
良いですよと答え、少し身の上話をした、と言っても自分とこの地域の関係だけだ。祖父母存命の頃は、よくこのあたりに来ていた程度のことだ。深掘りする前に刑事課についてしまった。
刑事課に着き課長と別れた後、心配そうなサヤカが寄って来たが、エリは一瞥しただけだった。
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この後なんやかんやあって事件を一つ解決するのはまたしばらくしたら書きます。




