静かな世界
世界は静かだった。
かつては病魔が人々を蝕み、病院は常に満床、死は日常茶飯事だった。だが、ある日、突然、全ての病気が消えた。
科学者たちは混乱し、医師たちは失業し、製薬会社は倒産した。世界は、病気という脅威から解放されたことで、まるで夢の中にいるようだった。
人々は長生きをするようになった。事故や災害さえなければ、人間は自然な死を迎えるまで、何十年、何百年と生きることができるようになった。
しかし、不老不死ではなかった。
寿命は依然として存在し、それは人それぞれに定められていた。
そして、人々は新たな問題に直面した。
永遠に続く人生の中で、何をすればいいのか。
目的を失い、生きる意味を見失った人々が続出した。
かつては病気と闘うことで、人々は生きることの意味を見出していた。
だが、病気が無くなった今、人々は生きる目的を見つけるために、新たな闘いを始める必要があった。
それは、自分自身と向き合い、人生の意味を追求する闘いだった。
世界は静かになったが、人々の心は、新たな波に揺さぶられていた。
彼らは、永遠に続く人生の中で、どのように生きるか、どのように死を迎えるかを、真剣に考え始めた。
そして、その答えは、一人ひとりの心の中に存在していた。