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最狂タッグ

 ルームサービスは私の肩にそっと手を置くと、そこからひんやりとした温もりを感じた。

 再び死神として生命を宿して初めて知った、コイツの温かさ、そして、感触。ふわふわとしていて弾力があって、それでいて、真冬の水道水のように冷たい。

「…ありがとう。私も、頑張るよ」

「なら早速、情報収集だね。死神に転身している線も踏まえると…。ピンクがかったの羽根の死神も探していこうか。ジャケットにはショッキングピンクも入ってると思う。女の子に限らず、男の子も見てね。キョウと同じく、性転換してるパターンもあるから」

「分かりました。…因みに、なんでピンク…?」

「羽根には心の色が出るんだ。ジャケットには差し色として羽根の色が入る。心模様が転写されると言っても過言じゃないね。だからエミのタイプから察するに、ピンクなんだ。ピンクは可憐さや華やかさを表しているからね」

「確かにそんなイメージだけど…。可憐…ねぇ…」

「正確には、女性らしさって言ったほうが良かったかな?後はカラーリングにもよるけど、エ◯さやセッ◯スを連想させたりとか__」

「うわぁぁぁぁ!!!消される!!やめてくださいぃぃぃぃ!!!」

「ははは、ごめんごめん。ともかく、そういうことだから。少なくとも、オレは前世でも今世でもムリなタイプ。さ、行こっか」

 トウガは私にニコリと笑いかけると、上空に向かって羽ばたいた。

 なんでわざわざそんなこと言ったんだろ…。

 私は頭にハテナを浮かべながら、彼の後に続いた。


 収容所を上空から眺めてみると、そこには意外な景色が広がっていた。

 中からは気が付かなかったものの、某夢の国の航空写真のように一部の建物の真上は真っ平で、色がないのだ。やはりどこも、手を抜けるところは手を抜いているのか…。何事も出し切る力は程々が一番…。

「あっ、キョウ。あそこ」

「え?」

 トウガが指差した先には、どこか見覚えのある死神が居た。

「あれ…どこかで…」

「カーリャだ。今日は現世に行くって言ってたのに…。どうしてこんな所に居るんだろう」

 訝しげな顔をしてトウガは降りていくと、そっと建物の影に隠れる。私もその横で、息を潜めた。

 カーリャは監視されているとはつゆ知らず、収容所の大通りを闊歩している。しかし突然に立ち止まると、通りすがりの華奢で可憐な少女の魂に声を掛けた。が、何を言ったのか、すぐにそっぽを向かれてどこかに行かれてしまった。

 もしかして、ナンパ…?

「あれって…仕事サボってるんじゃ…」

「うん。ちょっとイタズラしちゃおっか」

 トウガは悪い顔で笑うと、私の身体に触れた。

「えっ」

 途端に私は真っ黒な霧に包まれ、身体の形が変わっていく。視線はだんだんと低くなっていき、ある程度ボリュームのあった胸もぺたんこになる。そして気が付いた頃には、トウガは見上げるほどの巨人になっていた。

「と、とうがしゃん…あ、あれっ!?」

 あからさまに、呂律が回らなくなっている。視線も低いし、顔も手も、なんだか丸い。一体どうなった…!?

「いやー、やっぱキョウスケはかわ…いや、いじりがいがあるなぁ……。じゃなくって…!カーリャの好みに合わせて、五歳くらいにしてみたよ。自分自身の年齢をいじることはできないけど、他人ひとの年齢調整は、その人自身の呪力によっては可能なんだ。それじゃあ後はキョウに頼んだよ!いってらっしゃいっ!」

 トウガは無理やりに私の背中を押すと、カーリャのすぐ側へと突き出した。その拍子に私は蹴つまづいて、大通りに飛び出すと共に派手に転ぶ。

 なんだこの身体!頭重すぎだし、下半身力入らなすぎだろッ!!

 するとそこをタイミング良くしてか、悪くしてか、カーリャに見られてしまう。

「…大丈夫?」

 ゆっくり静かに、カーリャが近づいてくる。バレたのか…?

「起き上がれる?」

「は、はい…」

 私はカーリャの手を借りて、そっと立ち上がった。だが彼はじっとこちらを見ていて、何も言わない。

「あ、あにょ…。助けてくれて、ありがとーごじゃいましゅ…」

「いや、そんな。一人なの?」

「はい」

「保護者の人は?」

「いないでしゅ」

「じゃあ、ここには死神の人と二人で?」

「そーでしゅ」

「…そっか」

 途端にカーリャの顔つきが変わる。きっと、私をどうにか悪いようにしようと考えているんだろう。

 …そんなの、トウガさんが許さないだろうけど。

「じゃあ、しばらくオジサンと過ごさない?」

「いーんでしゅか?」

「うん。オジサンも一人で寂しかったし、君も、もう寂しくないからね!オジサンが面倒見てあげるからね!」

「やったあ〜!」

 子供のフリ…意外とムズイしダルいな…。

「それじゃあ、行こっか!」

「うんっ!」

 そして、カーリャは私をおんぶすると、収容所を出た。けれどその刹那、どこからか殺意とも取れる視線を感じたのは言うまでもない。


 カーリャから様々なことを聞きながら着いた先は、トウガ宅のすぐ側。

 あれから分かったことは、彼はトウガを嫌っているわけでは無く、黒幕から指示されてパパラッチしていたこと。

 てっきり私はセイロクだと思ってたけど、どうやら彼は関係ないみたい。

 黒幕の命令に背けばカーリャ自身の身が危ういため、パパラッチを辞めるわけにはいかないけれど、黒幕の正体はわからないらしい。その上、仕事を引き受ける際はいつも人伝の人伝で指示を受けているんだとか…。

 そして今回のトウガを追っている件に関しては、関与している死神に心当たりはあるものの、確信は持てない、というものだった。

「とうちゃぁ〜く!ほんじゃ、早速上がって上がって!!」

「お邪魔しまーす!」

 私はトウガの救助を今か今かと待ちながら、笑顔でカーリャの部屋に入った。

「すごい、広おーい!」

「でしょー!ほら、こっちにおっきいベッドもあるよ!」

「ほんとー!?」

 まずいまずいまずい!!そのままベッドインなんてしたら、こんなヤツ一体何しでかすことか…!!早く助けて…!

「おいでー!」

「わあーいっ!」

 私は無邪気な少女のフリをして、ベッドにダイブした。そして例のごとくその上を飛び跳ねる。それをにこやかながらも、獲物を狩るハイエナのような眼で見る、カーリャ。

 やばい…心臓の跳ね上がる音が聞こえる…。トウガさん、ちゃんと居るよね…?

「…オジサンさ、今日ちょっといっぱい動いて疲れちゃったから、少し寝ていいかな…。良かったら、君も寝ない?」

 お決まりの誘い文句…ッ!どう逃れる!?もういっそのこと、ダッシュで逃げるか!?いやでも!!こんな身体じゃ到底走れない!!

「え、えと…その…私、まだ眠くなくて…」

「そっか。じゃ、お布団に入るだけでも___」

 その時だった。

「焼け堕ちて…死ね____」

 トウガの低く恐ろしい声と共に、壁一面が黒い炎で包まれる。それは一瞬にして辺りの家具へと燃え移り、炎は瞬く間に部屋全体へと広がった。

「「ヒィィィッ!?」」

「遅くなってごめんねっ!…まさかこんなことになってるなんて……。でももう大丈夫。オレが___」

 すると目の前にトウガが現れ、私を抱き上げる。そして、身体に呪力を纏わせると何やら足元に円形の魔法陣が浮かび上がり、異国の文字が刻まれていく。

 もしかしてコレって、アニメとかでよく見る転移とかの魔法陣!?

「やりすぎですッ!!!」

 私は急いでトウガの腕からすり抜けると、カーリャの元へ駆け寄った。いくらコイツが変態だからって情報は漏らすだけ漏らしてくれたんだし、助けなきゃ…!!

「今、助けます…!」

 家はこの一瞬で半分以上焼け落ち、カーリャ本人もガレキに潰されたのか、意識が朦朧もうろうとしている。

 私はなにがなんだかよくわからない中、必死の思いでカーリャを抱え、外に向かった。そしてその刹那、私の意識は途絶えた。



「……ウ。キョウ。あ、やっと気づいた…!大丈夫…?まさか呪力を使い切ってまであんなヤツを助けるなんて…」

「迷惑かけて…ごめんなさい…。呪力…?どういう…」

「死神の身体でいう、体力とか生命力みたいなもん!使いすぎればバテるし、体もちょっと疲れ気味で重くなったりする。反対に回復してくれば、身体が軽くなって、テキパキ動けるようになる」

「使い切るったって、私そんなこと何も___」

「わ、わたくしのせいで…」

「うわぁっ!!」

 突如背後から声がしたと思ったら、そこにはカーリャの姿があった。

 良かった。もう元気そうだ。

「…無事だったんですね」

「はい、おかげさまで。それで先ほどの話なのですが、キョウさんが倒れてしまったのは私が原因で…。私を助けてくださった時、キョウさんは私とキョウさんを囲うようにして呪力を放っていて。微弱な呪力であれば炎を防ぐくらいのものでしたでしょうが、キョウさんのものは違いました。立ちはだかったガレキを焼き尽くして、私たちの前に道を作っていったのです。しかし、キョウさんは外に出た途端倒れてしまって…。まぁ、それも当然ですよね…。あれだけの呪力、一体こんな華奢な身体のどこから…」

 そんなことが。全く記憶にないけど、正義のヒーローみたいだ。なんだか昔憧れてたものになれたみたいで、少し誇らしい。

「わからないです。でも、助けられて良かったです。結構危ないところでしたもんね」

「…逃げられるものならお前一人で逃げれば良かっただろう。キョウをこんな危険な目に遭わせるなんて……」

「お言葉ですがトウガ様。あの時点で逃げることが可能な死神は貴方様だけだと思います。それに今回の件、まだ説明していただいておりません。早く説明していただけますか?」

「うっ…」

 マジか。気まずい。

「す、すまなかった…」

「家が全焼してるのにそれだけですか。…ふふふ…。笑っちゃいますね。せめて次の家の頭金は払ってもらいますよ。それとしばらくの間の家賃もね。ついでにこの子も___」

「____ジェイ…」

「ハイでちゅッ!」

 ぽつんとトウガが呟くと、途端に白煙を立ててルームサービスが現れる。刹那、カーリャの頭に触れると、彼は硬直する。…いや、正確にはそのまま意識が飛んだと言った方が正しいかもしれない。

「何したの?」

「脳全体の神経を停止させたでちゅ。それで記憶を改ざんしているでちゅ。でも、悪いのはコイツでちゅ。自分でなんとかするでちゅ。……キョウさんはトウガ様『だけ』のものなんでちゅ…」

 ルームサービスはカーリャの頭をいじりながら、俯き気味に言葉を紡ぐとその顔に影を落とす。

「え?」

「おい」

「な、なんでもないでちゅ!忘れてほしいでちゅ」

「あ、う、うん。ところで、改ざんって…政治家とか社長とか偉い人のニュースでよくやってるヤツ…?」

「ジェイは記憶を見たりいじったり、移したり…とにかく、記憶のスペシャリストだからね。何か困った時に頼れば、すごく頼りになるんだよ。もちろん、それ以外でもね」

「へ、へぇ…。てか、ジェイ?」

「うん、コイツの名前」

「え、名も無きって…」

「そろそろ名前を付けようと思って。ついこの前付けたばかりなんだ」

「そうなんでちゅ!ボクジェイって名前を授かりましたでちゅ!これで上級魔物に転身したでちゅ!改めて、よろしくお願いしますでちゅ」

「え、うん、よろしく」

 こんな短い間にそんな出来事が…。『ジェイ』か。覚えておこう。

「トウガ様!完了しましたでちゅ。コイツ、どうしまちゅ?」

「うーん…設定は?」

「ナンパした相手のタバコの不始末でちゅ」

 最高すぎる…っ。

「じゃあ、設置点は収容所のラグジュアリーホテルの中にしておこうか。また別の相手としてて気が付かなかったって設定の方が、より全焼の現実味が出るからね。ホテルの中も多少乱しておけば相手が帰った程にできるから、いいんじゃないかな?」

「おお〜。現実味ありまちゅね〜!ボク、全身全霊で協力するでちゅ!」

 コイツら、マジエグいな…。

 そして私は、悪魔の顔を浮かべた二人の後に付いていった。



 カーリャの始末が終わると、私とトウガは二人、部屋に戻ってきていた。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました

⸜(*ˊᗜˋ*)⸝

遂にルームサービスくんが名前を獲得しました!!

(ノ˶>ᗜ<˵)ノ

ここだけの話、実はルームサービスくんはサブキャラで、こんなに登場する予定じゃなかったんです。

でも、気づいたら意外とキョウスケと仲良くなってた事や、お助けキャラが居ないことに気が付き、「おー、コイツなら適任だ!」ってなった結果、ジェイくんがストーリーに本格的に組み込まれることとなりました!!

( *>ω<*)/

いやーー、めで鯛!!愛でたい!!

改めて、これからもルームサービスくんこと、ジェイを宜しくお願いいたしますm(*_ _)m


それでは!また明日もお楽しみに〜!!


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