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イジめてみたくなった

  俺は上がった息を整えながら、ルームサービスと親しげに話す男の顔をゆっくりと見た。

「…なんか、お久しぶり…です」

「ふふ、久しぶり。キョウスケ。会いたかったよ」

 ここは、俺が死神になった場所。そして、キョウに生まれ変わった場所でもある。…今思い返せば、この人が俺に居場所を作ってくれた、そんな気がする。

「また、オレと暮らしてくれる?」

「…!もちろんですっ!!」

 俺はトウガから差し出された左手を、しっかりと握りしめた。



 二日ぶりにトウガの部屋に入ると、その部屋は大分荒れていた。カンやちり紙が机や床に散乱し、キッチンには食事をした後の皿が溜まっている。いつもは見ない分厚いファイルや本なんかもソファの横やベッド脇に置いてあり、この二日間の乱れた生活が伺える。

「…何があったの?」

「い、いや…別に…ちょっと仕事のストレス…的な…?」

「トウガ様、実はキョウが_キョウが_ってずーっと言ってて、もうゾッコンなのなんのって…。トウガ様、そんなにキョウさんのこと好きになっちゃったん___」

「うっ、うるさい…ッ!てか、オマエまだいたのか!?早く戻れッ!!」

「わぁぁっ!!」

 トウガは一気に赤面すると、その顔面を押さえつけるようにしてルームサービスに手を押し当てた。すると、あの時と同じように微かに白煙を立て、消えてしまった。

 …トウガさんが俺のことずっと考えてた…?いやでも、「俺」じゃなくて「キョウ」か。じゃあ、ちょっと違うのか。

「ごめんね、ヘンなトコ見せちゃって。気にしないで」

「あー、うん。それと一つ気になってたんだけど…」

「うん」

「前トウガさん、パパラッチを欺くために収容所に行かせられないって嘘ついたって言ってたよね?それって結局、向こうとしてはスクープとして捉えちゃうんじゃないの?」

「というと?」

「俺とトウガさんが二人で生活を続けるってなったら、それこそ連れ込み疑惑!みたいになって、週刊誌に取り上げられて…みたいな。よく芸能人である感じの…」

「それを狙ったんだよ」

「へ?」

「オレはパパラッチが誰だか、見当は付いてたんだ。だから、ソイツにある程度の情報が流れるように仕向けた。そしたら食い付いてくれたよ。まんまとね」

 トウガは怪しげな笑みを浮かべると顎を上げ、そこに人差し指を添えた。

「ちなみに、誰だと思う?」

「え、俺の知ってる人なの?」

「うん」

「え…じゃああの裁判の時いた…」

「うん、カーリャだよ」

 マジか…。トウガさんリスペクトしてるように見えて、裏では蹴落とそうとしてたなんて…。マジで人って読めないな…。

「ああいう場面では受刑者の基本情報は平等に裁くためにも全部共有しないとダメなんだけど…。アイツは特に私情を挟みやすい性格だからね。キョウスケがキョウだってことと、オレと知り合いだってことは伏せさせてもらったよ…っても、今回ばかりはオレが私情挟んだけどね」

 トウガは最後に付け足すように言うと、失笑する。

 …でもちょっと待てよ。俺があそこに連れてかれたってことは、最悪俺がカーリャを通じてセイロクに居場所がバレちゃうってケースもあったはず。トウガさんが居るから万が一のことにはならないだろうけど、相当リスキーだったよな……。

「え、じゃあ俺がちょっとの間死神やってたこと知ってたの?知ってたなら、それで色々詮索されたりしない?それと、ルームサービスくんから死神は転生はできないって聞いたんだけど…」

「うん。知ってるよ。でもまだ手帳も持ってないこととか、現世上がりのこともあって転生が許可されたんじゃないかな。それと、詮索されるってことはまずない。勝手に行動したヤツは退職処分プラス、全待遇取り消しだからね例えば、転生の許可、とか。そんで、多分アイツ(ルームサービス)が言ってたのは悪魔や精霊の生まれ変わりの死神が多かった時代のことかな」

「そっか…。最初は死神の仕事って意外と緩いかもって思ってたけど、結構シビアなんだね。死神も死神だけじゃないみたいだし」

「そう。悪魔や精霊でも知識を身につけて、肉体と『怨の魂』を宿すことが出来れば、死神になれるんだ。アイツらは精神生命体だから、幽体同様、死神になるにはキョウスケみたいに肉体を得る必要があるんだ」

「じゃあそれでトウガさんも?」

「いや。オレは元々人だったってのもあるけど、こっち来て直接雇用だったから元の身体をそのまま代用したんだ。怨の魂も元からあった。元々、怨の魂ってのは誰かを強く恨んだり、強い憎悪の気持ちが実体化したモノを指すんだ。けどそれは人である以上、誰もが持ちうるもの。特にオレの場合、それが人一倍大きくて強かったんだ」

 そこまで言うと、トウガは俯いて悲痛な表情で口籠る。

「…トウガさん…?」

「だから、死神になった___…なのにさ。笑っちゃうよね。人を呪わば穴二つって言うのに。オレ、キョウスケまで巻き込んじゃったんだよ…。…ほんと、サイテーだな…」

 トウガはそう言うと、どかりとソファに腰掛け、垂れた前髪を掻き上げた。

 でもトウガさんが誰かを恨むとか全く想像できないな。それにもしかして裁判でのこととか、キョウとして接してた時のこと、色々気にしてるのかな…。それなら、なおさらちゃんと伝えなきゃ。

「俺は好きだよ。トウガさんのこと。キミが居たから今俺はこうしてここにいられてるし、今、生きてて良かった…死んでるけど…まぁとにかく、こうして意識があって良かったって思ってる。だから、そんな風に思わないでください!トウガさんがそばに居てくれないとダメなんです。俺は」

「「えぇ____ッ!?」」

 途端にトウガは跳ね上がるようにして立ち上がると、再び静かに座り直す。そして、小さく俯くと口元に手をやり、俺から顔を背けた。

 あれ、なんかヘンなこと言ったかな?

「そ、その…好きってのはどういう____?」

 え。

「人として…?」

「え」

「違うの?」

「へ__ッ!?」

 トウガはすっとんきょうな声を上げると目を大きく見開き、視線を泳がせながら顔のあちこちを触った。

 …なんだよ、そんな顔もするのか。もっといじめたくなるじゃん。この身体、もう一回キョウにできないのかな…。

「ねえ、またキョウにしてくれない?それとも、俺でもできるの?」

「で、でで、できるかわからないけど…やり方は教えられるよ…。身体の造形や服装なんかを頭でイメージして、呪力を身体に纏わせるんだ…。でも、なんで今____!?」

「ふふっ、なんででしょう?」

 教えたってことは、欲しいのかな。「私」が。

 俺は言われた通りに頭の中にあの時の自分自身の身体や服をイメージして、自分の身体に触れた。すると、あの時のトウガと同じような真っ黒な霧が俺の手から吹き出し、俺の身体を包み込んでいく。

「…ッ!!」

 視界が晴れると、そこには目を丸くする彼。多分、成功したと思われる。なんとなくの身体の感覚や、肌に服の擦れる感覚で分かる。

「どう…かな?」

「ど、ど、どうって…!なんでできるのッ!?」

「さぁ…?」

 試しに出してみた声もカンペキ。私は見事、キョウに戻れたようだ。

「それじゃあ、もうちょっといじめちゃおっかな…!」

「な…っ」

 トウガを強引にソファに押し倒すと、その上に私も跨った。眼前の彼の顔は強張っている反面、どこか期待しているようにも見える。

「欲しいの?」

「どどどど、どーゆーコトッ!?キョ、キョウは男でしょッ!?」

「でも、身体は女の子だよ」

「そ、そーだけど…っ!でも…ほら…っ、大切な人と___」

「大切な人だよ、キミは」

 私は耳元で囁くと、キスの口をして、唇を鳴らした。刹那、トウガは肩をびくりと反応させる。

「や、やめ…っ」

「やめない」

 私は無理やりにトウガの着ていたジャケットを脱がせ、ゆっくりと、一つずつシャツのボタンを開けていく。

「ま、ま、待って……。オレ…こ、心の準備が…ぁ…」

「知らな〜い」

 眼前のトウガは顔をリンゴのように染め、なんとも言えない表情でこちらを見ている。

 一つずつ外されていくボタンの下からはあの時ベッドの上で見た時と同じ、彼の綺麗な肌が見えている。そして遂には、彼の艶やかな肌が剥き出しになってしまった。

 …どうしよう、イタズラのつもりだったけど結構雰囲気が出てきてしまった…。どうにか邪魔とか入ってくれないかな____

「お邪魔しますでちゅーッ!き、緊急事態でちゅ____ッ!!!って、にゅぁぁぁぁッ!?ト、トウガ様の、ハ、ハダカ…」

 私が切に願ったその瞬間、ボワンと大きな音を立てると私たちのかたわらに慌てふためいた様子のルームサービスが突如として現れた。

 ナイスタイミングッ!!

「きゅ、急に入ってくるなと言ってるだろ!!…メッチャいいとこだったのに…」

 トウガは私のついた両腕の間で口を尖らせる。

 どうやら彼はもっと欲しかったようだ。

「ご、ごめんなさいでちゅ…。で、でもホントに緊急事態なんでちゅ!あのエミってヤツが…!裁判官引っ掛けて、脱走したみたいなんでちゅ!!なんでもその裁判官がエミと面識があったみたいで…。最悪、既に死神に仮転身してる可能性もあるんでちゅ…!」

「なっ…!?」

「エミって、この間の?」

「そうでちゅ。裁判所はいくつかあるんでちゅが、その内の一番収容所から遠くて、市役所に近い…つまり、『ココ』に近い裁判所から脱走しちゃったんでちゅ…!」

「脱走ってそんな大事おおごとなの?」

「いや。脱走はよくあることだよ。裁判で転生が許可されなかったら彷徨うハメになるし、何より収容所に居心地の良さを感じる人も多いからね。けど今回は、その『エミ』ってヤツが問題なんだ。普通、裁判官になる死神は裁かれる側と面識がないのが当たり前。ま、いうてオレたち死神は軽く百歳以上は生きれるから、メチャクチャ出会いが多いんだ。けど、基本的には浅く広くがこの業界の暗黙の了解。とすると、なんでエミとその面接官の間で面識があったのか。それは多分、あの子がオレが案内した後に収容所の外に出た経験があるからだと思うんだ」

「なるほど。でも脱走なんかしたらすぐに見つかったり、怒られたりしない?」

 …一応、今は年齢については触れないでおく。七話の尺的に。

「するよ。だから多分、エミはその辺も巧妙に作戦を練ったんじゃないかな…」

 すると、ルームサービスは何かを思い付いたかのように無い肩を震わせた。

「どうした?」

「来ましたでちゅ!仲間の聴取のデータによると、エミは裁判所に行く途中、案内と逸れたフリをして裁判官の死神と接触。すぐに戻るように諭されたが、裁判をあまりに怖がるエミの様子に同情してしまった裁判官は、社宅へエミを招く。一晩すると落ち着いた様子だったので、収容所へ送り届けたものの裁判になった刹那、脱走。実力行使で止めることはできたものの、裁判官はそれをしなかったようでちゅ」

「相当沼ったんだな、裁判官の人…」

「まだ若い子みたいだったからね…感情が動きやすかったのかな」

「どうするでちゅ?」

「決まってるでしょ」

「「とっ捕まえて、ぶっ倒す」」

 思わず私も声を上げると、その声が被る。

 おぉ。こんなことあるんだ…。てか、なんでトウガさんはこんな人をわざわざ助けたんだろう?こんな人、肉体と一緒に魂も朽ち果てさせれば良かったのに…。

「じゃ早速、ネズミ退治といこうか」

 そう言って笑うトウガはどこか楽しげな反面、私を裁いた時のような氷の冷たさも持ち合わせていた。



 私たちは再び収容所へと戻ると、そこは先ほどと同じように、たくさんの魂たちで活気に満ちていた。

「トウガさん、どうして収容所へ?脱走したなら行先は人気ひとけのない所とかじゃないんですか?」

「普通はそうなんだけどね。でも今回のパターンから予測するに、他にも協力者がいるって想定した方が無難かな」

「え?」

「普通最初に案内を任されるのは絶対にエンジェビルなんだ。これは収容所の全体像を把握しているからってこともあるんだけど、精神への影響を受けにくいからってこともある。それなのに今回エミを案内をしたのは、死神だった…」

「ちょ、ちょっと待ってください!私が絡まれた時はフロントの子が対応して、そのままどこかに…。あの後裁判所に行ったんだとしたら、その子はどうなったんですか?」

「…考えにくいけど、その関わっていたと思われる死神の階級によっては、そのエンジェビルは殺されているかもしれないね」

「そ、そんな…っ」

「大丈夫でちゅよ。この件が解決すれば、アイツの無念も晴らせるでちゅ」

 ルームサービスは私の肩にそっと手を置くと、そこからひんやりとした温もりを感じた。

 再び死神として生命を宿して初めて知った、コイツの温かさ、そして、感触。ふわふわとしていて弾力があって、それでいて、真冬の水道水のように冷たい。

「…ありがとう。私も、頑張るよ」

最後まで読んでいただき、ありがとうございました

⸜(*ˊᗜˋ*)⸝

ルームサービスくんの触り心地ですが、スクイーズの柔らかめの突っ張りがないバージョンをイメージしてもらえれば分かりやすいかな?


そして今日はそっち系のシーンを導入した……(,,- -,,)

手が、手が滑ったんだよお…。キョウちゃんが、あの子のSっ気が、暴走したんだよお……。

まぁブロマンスで出してるからね(˶ᐢωᐢ˶) その辺大丈夫だよね? (˶ᐢωᐢ˶)


それでは!明日もまたお楽しみにーー!!

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