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正直寂しかった、でもめっちゃ嬉しい

 翌日。俺がフロントに降りていくと、初日に俺たちが助けた、「エミ」がソファに座っていた。

 映画館の幽霊くんが言ってたっけ、呼ばれるまで時間かかることもあるからその間に「オトモダチ」できるかもって…。もしかしたら、エミをその相手にできるかも…。この格好で気づいてもらえるかは分からないけど、こういうのは賭けだし。声だけ掛けてみるか。

「あ、あのー…」

「キャ_______ッ!ちか____んッ!!」

「えっ!?」

「誰かーッ!助けて___ぇ!!」

 声を掛けた途端、エミは金切り声を上げる。必然と俺には疑念の視線が集まり、虫の居所が悪くなる。

「お客さん、どうしたでちゅ?」

 早々に駆けつけてきたルームサービス…いや、顔も格好もみんな一緒だから分からないけど…が、エミに声をかける。

「この人が…。私のおっ◯い後ろから触ってきたの…」

「はぁ…っ!?」

「…お客さんでちたか…」

「「えっ??」」

「それでちたら、コチラでトクベツなお詫びをさせていただくでちゅ。着いてくるでちゅ。ヒヒヒヒヒ……」

「うんっ!」

 なにやらルームサービスもどきは悪魔の顔を見せていたような気がしたが、エミの方は彼の言葉を鵜呑みにした様子でルンルンと彼の後についていった。

「災難でちたね」

「え?」

「昨日はどうもでちゅ」

「ああ、昨日の」

 どうやらこっちが本物のルームサービスのようだ。

 どっかから見てたのかな。

「お客さん、さっきのヤツ…。とんでもないヤツでちたよ」

「そうなの?」

「そうでちゅ。男引っ掻き回してカネを貪りまくる、とんでもない悪女でちゅ。けど、その被害者の内の三人が友人関係にあって、弁護士に相談したことによって追い詰められたらしいでちゅ。アイツも相当なメンヘラみたいでちゅから、嫌われたことと責められたことで病んじゃって自殺したみたいでちゅ。悪いのは自分自身だと思うんでちゅけどね…」

「情報通だな、オマエ…」

「えっへん。なにを隠そうボクは、トウガ様の右腕でちゅから」

「えっ?」

「あっ…」

 その刹那、ルームサービスはあたふたとしだすと慌てて口を開く。

「ち、違うでちゅよ!?冗談でちゅ、そんなのこのボクに務まるワケないじゃないでちゅか、やだなー!ボ、ボクはタダの名も無きエンジェビル!この幽体収容所で働く一労働霊でちゅ、あははははは…」

 急に流暢りゅうちょうだし…。てか、コイツら属名あったんだ…。

 俺はいぶかしげな目でルームサービスを見ていると、急に彼はだらんと手を垂らした。

「わかったでちゅ…。話すでちゅ…」

 え、まじ?

「ボクはトウガ様に唯一直接仕えることを許された魔物でちゅ。ボクが選ばれたのは霊生最大の誇り…!でも、トウガ様は魔物や精霊含め、自我を持つものと接するのをとことん嫌うでちゅ。なのにあの人は八方美人だから、周りにいい顔するのは上手いんでちゅ。フィルム見た時もお客さんにもニコニコしてるなーって思ってたけど…。だんだん顔つきが変わってきたでちゅ…。あんな顔、見たことないでちゅ___一体、トウガ様に何したでちゅ?ボクのトウガ様をおかしくしないでほしいでちゅ…っ!!」

 何したって言われても…。確かに俺はいくつかイタズラはした。女になったからには女としての生活を満喫したかったから、女らしく振る舞った。女らしく接した。それだけだけど…。

「わかんない。でも、またあの人に会って何か聞いてみれば、分かるかも。…正直、俺も聞きたいことがある」

「…そう、でちゅか」

 ルームサービスは静かに言葉を紡ぐと、小さく頷いた。

「…それだったら、一緒に来るでちゅ」

「え」

 ルームサービスは俺に背を向けると、半身こちらに振り返った。

「本当はダメでちゅけど…。トウガ様のこととなると、話は別でちゅ。ほら、来るでちゅ」

「あ、ああ…」

 俺はルームサービスの案内の元、幽体収容所をわずか一日にして後にした。



 移動し続けること二十分ほど。やっとのことで、前を行くルームサービスは動きを止めた。

 俺たちが着いたその場所は、俺が一番初めにトウガに連れ出された、深い堀と高い塀に囲われた城だった。飛ぶことができるこちらの世界では一見そんな設備は皆無に思えなくはないが、この建物全てはセイロクの管轄下にあるらしく、少しでも受刑者が不審な動きをすれば即刻斬首されてしまうらしい。

 ____しかし、死神の身体の時はいくら動き回っても中々疲れなかったのに、この身体だと疲れが回るのが早い。なんでだ?

「着きましたでちゅ。大丈夫でちゅ?トウガ様からはお客さんは霊力もバツグンに強いって聞いてたけど…一般以下な気がするでちゅ」

「…やっぱそうだよね____はぁ…俺も_なんかおかしいって思うんだッ___死神から、戻ったから____?」

「うーん…それはボクにもわからないでちゅ。とにかく、霊力補給しまちゅね」

「頼む___」

 肩で息をする俺にルームサービスはそっと近づくと、自身の天使の輪を外して俺の頭の上に浮かべた。

「え___」

「三分待つでちゅ。この輪っかが自動でお客さんの最適霊力値を計測して、注入してくれまちゅよ」

「はぁ…」

 カップ麺と同じ時間で俺も完成か。あー懐かしー。食いてー。

 待つこと三分。ルームサービスは俺の頭の上から天使の輪を取り外すと、自身の頭頂部に戻した。

 確かに最適値ってだけあって、身体のコンディションは最高だ。身体も軽いし、頭もスッキリしている。

「それじゃあ行きまちゅか。ボクは最後まで行けないでちゅけど、頑張るでちゅ!応援してるでちゅよ、キョウスケさん」

「…え、うん。ありがとう」

 コイツ、初めて俺の名前を…?でも、どこか身体が強張ってたな…。どういうことなんだ…?


 それから更に移動すること数分。案内されたその場所は、「いかにも」な雰囲気の怪しげな石造りの門構えの城。鉄格子の重々しい雰囲気の門を潜り、ギシギシと音を立てる巨大な跳ね橋を渡る。

 中に足を踏み入れた刹那、壁一面のロウソクの灯りが消え、前にふわふわと浮かんでいたルームサービスもぼわんと微かな白煙を立てて消えた。

 思わず俺は後ずさるものの、そこに先程入ってきたはずの扉の感触は無く、古びた石レンガの壁に変わってしまっていた。

 アイツが言ってたのはこういうことだったのか!?

「来たか」

 暗闇の中、低く声が響く。

 トウガさんじゃない、別の人だ。他の死神か?…とにかくここは、トウガさんのこともあるし、俺の素性は隠した方がいいかも。

「はい」

「ほぅ、中々肝が据わってるな。ここは貴様を裁く場だ。貴様がこの後再び人として過ごすに値するか、それとも、朽ち果てるべきか。それを我々で決めるのだ」

「我々…?」

 すると暗闇の中から二人の死神が現れ、部屋の壁のロウソクが再び灯る。一人はとても冷淡な面持ちで俺を見据えていて、もう一人は暗闇の奥に立っていてよく見えない。

「私はあくまで貴様の聞き取り役に過ぎない。判断はあの方に行ってもらう。死神の中でも数少ない、慧眼の持ち主なのだ」

 それって…。

「…私語を慎め、カーリャ。余計な話は無用だ。…して、オマエはなぜここへ来た?」

 冷たく、氷の刃のような声が響く。初めて、その顔が薄らと壁のロウソクの光に照らされてちらりと覗く。思わず俺は、息を飲んだ。

 やっぱり、トウガさんだ。でもなんだろう。今まで見てきたあの人と全く違う。別人みたいに冷たくて、今までみたいな温かさを微塵も感じない。これが本当のこの人なのかな…。

「なぜって…」

 「流れで」「トウガさんが転生を勧めたから」本心ではそう言いたい。でも、そんなこと言ったらこの「カーリャ」って人がどういうか、どんな反応するか分からない。ここは一芝居、打つか。

「決まってるでしょ、自殺して、死んだからですよ。死んだらみんな、結局ここに流れ着くんでしょ?ルームサービスの子に聞きました」

「ほう…?」

「貴様…トウガ様になんて口の聞き方を…ッ!!」

「良い、まだ子供だ。気にしていてはキリがないだろう。続けるぞ。…ルームサービスとは、先程の者か?」

「そうです」

「なるほどな…。カーリャ、何か質問は?」

「…貴様、なぜ自殺した?」

 あれ。情報共有してないんだ。珍しいな。ルームサービスくんにはしてたみたいなのに。

「現世でのルーティンが嫌になったからです。周りに頼れる人もいなくて、家も学校も自分の居場所が分かんなくて。だったらもう、死のうって」

「そうか」

 …そうだよ。俺は、嫌になったんだ。あの世界が。親が、周りが、そして何より、自分自身が_____

 だから、わざわざ死んだんだ。そしたら楽になれるって。

 なのに、なんでかまた苦しい。なんなんだよ、コレ…この人、何考えてんだよ。なんで目の前に居んのに、話しかけられないんだよ。笑えないんだよ。触れられないんだよ…!てか、誰だよ___ッ!俺、またすげぇ苦しいよ____

「……よく、頑張ったね」

 トウガは俯くと、小さく言葉を溢した。その顔にはあの時と同じ、温かな笑みが薄らと滲んでいる。

「「え?」」

 カーリャは驚きの余り、咄嗟にトウガの方に振り返ったものの、その時はすでに元の氷のように冷たい顔の彼に戻っていた。

「聞き間違い…ですかね…」

「なんの話だ」

「なんでもないです…」

 複雑な表情でカーリャは答えるものの、俺は少し、いや、かなり喜びを噛み締めていた。

 やっぱ、トウガさんはトウガさんなんだ。俺のこと、考えてくれてたんだ!

「結論はいかがしますか?」

「…若い魂なのが気になるな」

「と、言いますと?」

「老いてくると魂のエネルギーの消費も莫大になるだろう。それゆえ、転生時の消滅を避けるためにも転生を急がなければいけなくなる。しかし若ければエネルギーも莫大にあるし、エネルギーの消費量も少なく、そう転生を急ぐ必要はない。転生は許可して、しばらく霊界にて滞留という結論はどうだろうか」

「なるほど、とてもトウガ様らしい発想だと思います。良いと思います!」

 そっか。滞留って言ってそのまま俺がここから脱出できて死神に戻れれば、俺はまたトウガさんと仕事ができるってことか!流石だ…。この人、悪知恵も働くんだな〜。

「キョウスケ、結論を出そう」

 カーリャは俺に向き直ると、冷徹な声を上げる。

「貴様を霊界にて、三十年の滞留処分とする。異論は認めん!さァ、即刻立ち去るが良いッ!!」

 カーリャはジャケットをマントのようにしてはためかすと、俺が入ってきた所と同じ場所に再び扉が出現した。

 …次はいつ、トウガさんと会えるかな。

 俺が何気なくトウガさんの方に目をやると、彼は小さく笑って俺にウィンクをした。



 俺は一人来た道を戻り、今度は旅館に向かった。受付にはラグジュアリーホテルに入った時と同じようにエンジェビルたちが並び、それぞれの対応をしている。

「あの時は俺も、こうなるなんて考えもしなかったな…」

 俺はふっと息を吐くと、白く透けた自身の手に目を落とした。

「まぁいっか。部屋に行こう」

 そして俺は受付の最後尾に並んだ。


 エンジェビルの案内で部屋の前に到着すると、案内の彼は慎ましく襖に手を掛け、そっと開ける。刹那、イグサの匂いが鼻を抜け、昔よく行っていた祖母の家の記憶が脳裏に過ぎる。

「…やっぱ畳はいいな…」

「それでは、失礼いたちますでちゅ。ごゆっくりどじょー」

「ありがとう」

 前から薄々思ってたけど、この締まらない感じが絶妙。女将とか、ホテルマンみたいな人が完璧なもてなししてくれるのも良いけど、逆にコイツらが小さい子の一生懸命なお手伝いみたいな接客してくれるから心から休めるってのはあるな…。

 俺は窓際の一人掛けの椅子にゆったりと腰掛けると、静かに窓の外を眺めた。ガラスの向こう側では、小さいながらも厳かな造りの日本庭園と、満点の夜空に美しく煌めく月が見えた。

 …俺一人じゃ、つまんないや。こんなきれいな景色、俺だけで見ても何も感じれない。誰か一緒に楽しめる人がいればいいのに。

「お待たせいたちましたでちゅ。お食事、お運びいたちましたでちゅ」

「え?俺食事なんて頼んでない…」

「いやいや何をおっしゃいまちゅお客さん。ここに確かに、書いてあるでちゅ。ほら」

 エンジェビルは膳を持って俺の部屋に入ってくると、膳を机の上に置き、札を俺の眼前に持ってきた。が、そこには何も書かれていない。

「え」

「ボクでちゅ。お迎えに上がりまちたでちゅ。あまり大きな声では言えないでちゅので、一言だけ言うでちゅ」

「えっ…あっ…うん」

「とある『偉いお方(・・・・)』からの伝言でちゅ。『今すぐ、そのエンジェビルの案内でオレの指示した場所に来い。来なかった場合どうなるか…分かってるよな?』…以上、伝言お伝えしまちたでちゅ。じゃ、早速行くでちゅ」

 ルームサービスはどこから取り出したのか、一つのフィルム(記憶)を俺に掲げると、そこには彼が見たと思われる光景が映し出されていた。その映像と合わせるようにして、脳内に直接その光景の音声が響く。

 一瞬しか見れなかったけれど、間違いない。あの顔は、あの声は、「あの人」だ。

 すると、ルームサービスはぐいと俺を引っ張る。

「おわっ!?引っ張るなよ!」

「あのお方が、早く連れて来いって言ってたでちゅ。急がないとボクが怒られるでちゅ」

「だ、だからって…おいぃぃぃッ!!」

 俺は強引にルームサービスに引っ張られ、早々に旅館を後にした。


 それから収容所を抜け、死神専用通路である市役所の裏道を通り、どこか見覚えのある所に来た。あれ、ここって…。

「お待たせしまちたでちゅ、___様…」

「大丈夫だよ、ご苦労様。ずいぶん早かったね」

「いつもに増して、お急ぎのご様子でちたので…」

「…ははは…そう見えた?アレでも結構抑えたんだけどな…。やっぱオレも、まだまだ未熟ってことか…」

 俺は上がった息を整えながら、ルームサービスと親しげに話す男の顔をゆっくりと見た。

「…なんか、お久しぶり…です」

「ふふ、久しぶり。キョウスケ。会いたかったよ」

最後まで読んでいただき、ありがとうございました

⸜(*ˊᗜˋ*)⸝

最後の男は誰だったんでしょうね??(´˙꒳˙ `)

はい、わかった人挙手ッ!!

お、キミ、アタリ!!(テキトー)笑

正解はまた次回の冒頭で!!

それではでは!!また明日!お楽しみにー!!

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