シャンディーガフは未知の味
「はい、どうぞ。昨日来てもらう前にハウスキーパーさんにお願いして部屋きれいにしてもらったから汚いって思うことはないはずだけど…」
「…お邪魔しまーす…」
芽彩は恐る恐る部屋に上がると、確かに凛の言う通りその部屋は文句のつけどころがないくらいに片付いており、手前の寝室のベットに関しては先ほどまでいたホテルのベットと相違ないまでの整い具合であった。
「…嘘ではなさそうだね…」
「当たり前じゃーん!それじゃあ芽彩ちゃん。早速だけど、ぼくとお布団いこっか」
「…はい?」
「因みにここではキミに拒否権はないよ。一回キミが拒否するごとに燈芽くんの身体はなんらかの傷を負うことになるってことを理解した上で行動してね」
「…ッ!!」
「…っても、ぼくも悪魔じゃないから、多少の交渉には応じてあげるけどさ。でも、一緒のお布団で寝るのは絶対だよっ」
凛はにっこりと笑顔を作ると、芽彩を自身のベットの上へと誘った。
「ささ、遠慮しないで!自分の家だと思って寛いでよ。ぼくも全然気にしないからさ…。ね?芽彩…」
刹那。彼のベットにちょこんと腰掛け、辺りを警戒しながら見渡していた芽彩の正面に影が落ちる。途端に彼女は凛に押し倒され、服を無理やり脱がされる。
「やめて___ッ!やめて___ッ!!」
「あー…そういえば言ってなかったね。この部屋、なんか知らないけど全室完全防音らしいんだよね。だからここでいくら芽彩が叫んだところで、超意味ないんだよね。残念だけど」
「…ッ!」
「ぼくといちゃいちゃするの…そんなイヤ?」
「当たり前じゃん…ッ!私には燈芽くんがいるの…っ!燈芽くんは私の全部で、燈芽くんがいるから私がいるの…ッ!!」
「あー、わかったわかった…。うっさいよ…そのよくわかんないバカップルの謎理論……。じゃあぼくが___」
芽彩のあまりに必死な姿に、凛は呆れ果てた様子になると押し倒した彼女の上から静かに離れ、あぐらをかいて座り直す。
そして、狂気じみた笑顔になると首を傾げて口を開いた。
「そんな二人をグッチャグチャにしてあげる♪」
それからというもの凛が芽彩を解放することは一切なく、彼女は彼の思うがままに翻弄されていた。それが証拠に芽彩の衣服はあちこちに散乱し、先ほどまではしっとりと纏まっていた髪は乱れ、その艶やかな身体は汗ばんでいる。
そんな彼女の姿に満足そうに笑う凛は今も尚、彼女の身体を蝕み続けていた。
「ふへへへ…っ。やっぱキミのことお持ち帰りして大正解…。ねえ、もっとカワイイ顔見せて?ぼくの前で、イッてみせてよ…」
「…この…変態……」
「またまたそうやって強がっちゃって〜。だからホント、カワイイんだよねえ?でも本当はさあ___」
凛は動かしていた身体を止めると、その顔をグイと芽彩の耳元まで近づけた。そして、甘い声で囁く。
「超、イきたいんだよねえ?さっきから、すっごい締まってるもん……♡」
「……ッ!!」
「ねえ、教えてよお…燈芽くんとはいつもどのくらいしてるの?身体の相性は?ぼくと、どっちのが気持ちいい??」
凛は身体を滑らかに動かしながら芽彩に問いた。
その顔はどこまでも下劣でイヤらしく、彼女の心を強く締め付けるようだった。しかし反対に、彼のその身体は燈芽以上に芽彩の本能を刺激し、この上ない快感に陥れようとしていた。
「…い、イヤだ…ッ!もう……っ、ヤメて…!」
芽彩は必死に身体を起こし、身体を上から押さえつける凛の両肩を押し上げようと力を込めるが、到底彼女の力では彼には遠く及ばなかった。
「…ね…お願……っやめ___」
間も無くして彼女は、ふとした感覚に襲われる。
イヤだ___絶対に。
芽彩は激しく身体を駆け巡る感覚を堪え、理性を必死に保とうと身体に意識を張り巡らせた。しかし、その刹那。
『愛してるよ、芽彩』
唐突な凛からの言葉に緊張の糸が解けてしまった芽彩は、全身の筋肉も緩み、ずっと堪えられていた本能も解放される。
「ふふっ、やっとイッてくれた。でもまさか潮まで吹いちゃうなんて…。そんなにぼくとのセ◯クス、気持ちよかった?」
「……ごめん…ね…燈、芽…くん___」
芽彩は最後の気力を振り絞りそれだけを言い残すと、静かに目を閉じて気を失ってしまった。
それから一体どれくらい時が経ったのか。
時計もカレンダーも存在しないその部屋の中で、芽彩はゆっくりと目を覚ました。そのすぐ側では彼女の見慣れぬ男が一人、ベットの上に腰掛けていた。
「…あ、目覚めた?」
「……誰?」
「…え?」
「ここ…どこ?私…何してたんだっけ…」
「あー…。なるほどね」
凛はニンマリと笑うと、貼り付けたような笑顔を作り、そっと芽彩の隣に座った。
「ここはぼくのお家。キミはぼくと一緒にデートしてたんだけど、昨晩キミの元カレに誘拐されかけちゃって…。ぼくがいたから良かったけど、キミ一人だったらどうなってたことか…。うぅーん、やっぱキミはぼくのお家でずっと過ごしてもらった方がいいのかもねえ……」
困り果てたようにそう告げた凛に、芽彩は少し考え込む。
整った部屋。穏やかそうな性格の彼。自分自身のことは名前と幼少期の記憶、親の顔くらいしか思い出せない。今は、彼を信じるしかないのかもしれない。
「…ありがとう。じゃあちょっとお言葉に甘えちゃおうかな……」
「うん!どんどんぼくを頼ってね!芽彩ちゃん!」
そして凛は、芽彩を優しく抱きしめ子供のように無邪気に笑った。しかしそんな腕の中の芽彩の首元には赤く色濃く染まった大きなキスマークがいくつもあり、彼女の身と心はすっかり彼に支配されてしまっていた。
それから数週間の時が経ち、すっかり芽彩は怠惰な暮らしに慣れきってしまっていた。
それに加え、凛からは自身がしたことをそっくりそのまま燈芽がした事として吹き込ませ、更には父が橙里にしたような悪行の数々も芽彩の周りや芽彩自身に頻発したと言い聞かせたことにより、遂には彼女を男性恐怖症へと陥れられてしまった。
「ねえ…凛くん」
「なに?」
「夜だったら一緒にお散歩できないかな…。私、凛くんとデートしたい…」
芽彩はその身体を凛に貪られながらも、少し寂しそうに呟いた。
芽彩の日々の暮らしはあまりに窮屈なもので、朝起きてから夜寝るまでの一日はキッチリ全てが凛の手によってスケジュール化されていた。それも、そのほとんど全ては彼女自身の手で行われることはなく、凛に『介護』されるかのような日々を送っていたのだった。
初めは大きな疑問を送っていた芽彩であったが、芽彩自身が記憶喪失であったことや凛の作り出した嘘で強いストレスを受けているだろうとのことで彼の手による世話焼きが始まったのだった。
「気持ちは嬉しいけど…時間関係なく外は危ないから……。いくらぼくがそばにいても、ぼくは無敵のボディーガードじゃないからまた芽彩ちゃんを危険に晒しちゃうかもしれない。前はギリギリ守れたからまだ良かったけど、次はないかもしれないんだよ……」
「…ごめん。それでも私、キミとまた外に行ってみたいの。何か大切なことを忘れてる気がするんだ…。ここ数週間ずっと、頭のどこかで引っ掛かり続けてる…。キミと外に出れば、思い出せる気がするの……」
その言葉にふと、凛は燈芽の顔を思い浮かべる。
「へえ…。じゃあ試しに出てみる?外」
「いいの!?」
「代わりに」
お疲れ様⸝⸝ᵕ ᵕ⸝⸝
久しぶりの麗子よ。
私が幹事を務めた飲み会を終えてから一ヶ月…。
あれから、芽彩の姿が見えなくなってしまったの。
それに加えてあのストーカーも居なくなったし…。なんだか嫌な予感しかしないのよね…。燈芽も結構ヤケになっているし。
それなのに私たちで必死に探しても、警察に相談しても全然手掛かりの「て」の字も見つからなくって。
……芽彩、大丈夫かしら…。
じゃあそろそろ、燈芽も戻ってくるから…。
アナタも、芽彩の無事を祈ってくれると嬉しいわ。それじゃあ、また明日ね。




