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シャンディガフはいかがでしょう?


数週間後。

燈芽とサークルメンバーたちは麗子の案内の元、とあるイタリアンが楽しめるレストランへと訪れた。

店内はテーブル席、カウンター席、完全個室と別れており、飲み会の他デートの雰囲気作りとしても一役勝ってくれそうな造りだった。


「えーと、今日は合コンだっけ〜?」


「まーたオマエはそうやって女子をすぐナンパしようとする!前にも言ったろ!燈芽はそういうヤツが一番大嫌いだって!オマエも嫌われたくなかったら言動には注意しろよ?」


「ははは〜ごめんごめん、こういう雰囲気になるとつい〜」


「……」


席の奥に掛けていた男子二人は上着を脱ぎながら、仲良さげに談笑する。燈芽はその様子を静かに眺めながら、先日芽彩にあった出来事を薄らと脳裏に浮かべた。


「…確かアイツだったよな…。芽彩をストーキングして盗撮してるってヤツ……」


ここ最近芽彩は校内でのみストーカーと盗撮被害に遭っており、度々燈芽のスマホには女性的な口調で芽彩の盗撮写真が送られてくるのだった。

それが彼、谷川たにかわ りんだと断定できたのも、芽彩と行動を共にした際、麗子に協力してもらって設置した監視カメラから撮れた映像に彼の犯行現場がバッチリと映り込んでいたからなのである。

燈芽はそっと芽彩の隣に移動すると、小さく彼女に耳打ちした。


「芽彩…なんで今日参加したの?アイツが来ないならともかく、わざわざいる日に合わせなくても…」


「『いるから』来たんだよ。今日は燈芽くんもいるし、ガツンと言ってやるんだ!うーん、なんて言おうかなぁ…?」


芽彩は力強くそう宣言すると、小首を捻って目を伏せた。そんな健気な彼女の姿に、燈芽は小さくため息を付く。


「…芽彩は強いな…」


刹那、どこからともなく刺さるような鋭い視線を感じる。咄嗟に燈芽はそちらに目をやるものの、メンバーたちが楽しげに飲み食いをしているだけで、その視線の元を探る事はできなかった。



「じゃー次!二次会!!カラオケ行くヤツ!!」


「「ハイッ!!」」


あれからメンバーたちはちょっとしたゲームや会話を楽しみながら二、三時間ほど酒と料理を舌鼓を打ち、二次会はほとんどのメンバーが参加する流れとなっていた。しかし、あれからあまり酒が回っていない様子の凛は手を挙げておらず、席の隅でスマホをいじっていた。


「燈芽くん参加しないの?」


「うん、オレ酒弱いから」


「でもカラオケだよ?最近行ってないよ?燈芽くんの歌、最近聞いてないな、聞きたいな…っ!!」


「…しょーがないな…。オレも行くよ」


「はぁーーーいッ!うたのプリンスさま一名ご参加ァァァァァッ!!!!」


「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!!」」


「…うるせーよ…」


燈芽はまんざらでもなさそうに襟足に手を持ってくると、わしゃわしゃと手を動かした。すると。


「あー、じゃあぼくも」


奥の席に掛けていた凛は途端に顔を上げると、にっこりと笑顔を作ったそして、芽彩の方に向かって首を傾げる。


「二次会もカラオケも、いっぱいいた方が盛り上がるもんね…?」


「……」


どこか狂気じみた眼鏡の奥のその瞳に、芽彩は微かに身構える。しかし、そんな彼女を守るようにして燈芽は彼女の両肩を抱いた。


「来るなら来るで勝手にしろ。少なくとも、オレと芽彩の関係はこのサークルの全員が知ってるし新参者のオマエにとやかく言われる筋合いはない。それに、オマエが芽彩のストーカーをしてる事や盗撮してる事も伝えてある。証拠も全員集めて見せた。だからこの中にオマエの味方はいねえぞ」


途端に全員が頷く。四面楚歌となった凛は静かに俯くと口を紡ぎ、わなわなと震えだす。メンバーの中には少し狼狽える者もいたが、燈芽の心は微塵も揺らがなかった。


「クフ…クフフ…フヘハハハハハッ___!!!面白いことするねえ、キミ。それはぼくがこのサークルにいちゃダメってことかい?それはこのサークルの規定に違反するんじゃないのかい?第一条、どんな者であれ『来る者拒まず』の精神で受け入れ、本人の退会意思又は卒業まで共にサークル活動を謳歌する…。まあぼくみたいなのが入るって想定して作られてないだろうからこんな頭お花畑な規定が出来るんだろうけどさあ?もっと最悪の場合を想定して作った方がいいよ。これからは、ね」


「…ッ…!」


凛はサークル長を見下ろすと小馬鹿にした様子で、嘲り笑った。そして独走状態の彼は今度はにっこりとハリボテの笑顔を作るとメンバーに向かう。


「さて!まずはお騒がせしちゃってごめんね。お詫びに、ここのご飯代ぼくが持つから許して!それじゃ、早速次行こうか!!」


「……うん…」


「規定であるならしょうがないか…」


メンバーたちは早々に会計を済ませてしまった凛の姿に、規定のことや会計の申し訳なさが生じて渋々彼を二次会に連れて行くこととなってしまったのだった。



二次会にて。

先ほどまでは場を回していたのはサークル長だったのに対し、今この会場を回しているのは凛となってしまっていた。しかし、意外にも彼は盛り上げ上手で気が利き、初めは気が引いていたサークルメンバーたちもすっかり酒が回り切った今では最高潮に達していた。


「お嬢さん、シャンディガフはいかがですか?」


「…えっ」


その声と共にグラスを片手に芽彩に声を掛けてきたのは凛だった。燈芽は丁度お手洗いで開けていて、サークル長や麗子はすっかり酒に呑まれて酔い潰れてしまっていた。


「だ、大丈夫です…」


「またまた〜。さっきから芽彩ちゃん、全然飲んでないじゃーん」


「わ、私…お酒弱いから…」


「そんなこと言って〜。ぼく知ってるんだよ?本当は芽彩ちゃん、お酒大好きだってこと…」


「……」


「ぼくと一緒に飲んで、気持ちよくなろ?」


凛は芽彩の隣に座ると下劣な笑みを浮かべ、芽彩の方へと手を伸ばす。そんな彼のいやらしい表情に咄嗟に目を瞑った芽彩は必死の思いで自身の身体を抱く。だが、そんな様子ですらも微笑ましそうに見つめる凛は側のテーブルにグラスを置くと、芽彩の柔らかな手をそっと取った。そして___


「芽彩ッ!!」


唐突に騒音の中響いた声に、二人は同時にそちらへ振り返る。刹那、二人の眼前に飛び込んできた燈芽は束の間に芽彩を抱き上げると凛を鋭い眼光で睨んだ。


「…芽彩に近づくな…」


「おー、怖い怖い!さすが裏で学園の暴君と呼ばれていただけのことあるねえ。ちびっちゃいそうだ…」


「学園…どっからそれを…」


「秘密。…ってあれ?芽彩ちゃん、寝ちゃった?」


凛は席を立つと、燈芽の腕の中で脱力する芽彩の顔を覗き込んだ。すると、そこでは先ほどまでぱっちりしていた芽彩の瞳は閉じられ、酒気を帯びた顔に変わっていた。


「芽彩…?」


おつかれ ‹:)

凛だよ。


まさか登場当日で出してもらえるなんて、ぼくってついてるねえ!!

やっぱぼくって勝ち組なのかな??

っていうのもね。実は数年前まではぼく、人生のドン底にいたんだ。

両親がギャンブラーで自己破産して、中学卒業してからすぐにバイトしてなんとか生きるためだけにお金を貯めてた。

でもそんなある日、黒いポルシェに乗ったおっさんがぼくを見込んでくれて、今の家としばらく生活できるお金をくれたんだ!それで、言うことをそのまま聞いて実行するなら、それに見合った額をバイト代として支払うって…!夢みたいな話でしょ!?!?

ああ……あの人に出会えて本当に良かった…神様、ありがとう…。

あっ、噂をすれば!それじゃ、ぼくはこの辺で。

また明日もお楽しみに〜!まったね〜!!

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