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おばあちゃんっ子とブラコンとシスコンとマザコン


「母さんッ!!!」


燈芽は一台の車の元へと駆け寄って行くと、後部座席のドアを無理やりに引いた。すると、中から服を乱雑に脱がされ、半裸姿の橙里がドアから転げ落ちそうになる。しかし、燈芽はそれを咄嗟に支えると、後部座席に押し戻した。


「母さんッ!?!?オ、オマエ…ッ、なんなんだよ…ッ!?!?」


「…それはこっちのセリフだ。こんな大人の世界に入り込むなんざ、百億万年早ェんじゃねェのか?ガキ。言っておくが俺はコイツが置いてったモンはとっくに燃やした。仮に証拠やら裁判やらと手ェ打ったとしても、俺には『権力』ってモンがあるんだよ。だからテメェらは俺から逃げられない。ククククッ…。…だが、家からウザってェ連中がいなくなるのはせいせいするし、このまま別居は許可してやるよ」


「…ッ!!」


「どうした?初めから分かってたことじゃないのか?…なァ?」


父はイヤらしい笑みを浮かべると、深い眠りについている橙里の濡れた身体をいじった。


「「ヤメロ____ッッ!!!!」」


「グァァ____ッ!?!?」


燈芽は途端に絶叫すると車内に飛び込み、無我夢中で父の腕に噛み付いた。刹那の間に燈芽の歯は父の腕に減り込み、父は短く悲鳴とも絶叫とも取れない声を上げた。咄嗟に、父は二人を乱暴に腕から引き剥がす。


「…っ、テメェ。あまり調子乗ってんなよ…ッ?次は貴様の番だ」


「……」


父はそう言い残すと橙里と彼女の鞄を車外の砂利の上に乱雑に放り、砂埃を撒き散らしながら去って行った。


「母さん…ッ!!とりあえず…救急車!!あと…みんなにも連絡…っ!!」


そうして九月のいつもに増して暑い夜は更けていった。



それから一晩明けて。

燈芽は病室のベットに横たわる橙里の手を静かに握りしめていた。その両隣で静かに佑と綾生が彼女の寝顔を見つめる。


「……元はと言えば、全部オレのせいなんだよな」


「…え?」


「そもそもオレが生まれて来なければ母さんがここまで苦労することはなかった…。オレばかりが母さんに大変な思いをさせてる…。オレなんかが生まれてきたのが間違いだったんだ……」


「…アホか」


「えっ」


「そもそも生まれる生まれないは自分で選べるもんじゃないし、そんなこと思ったら母さんに失礼だろ」


「…ごめん…」


「……って、先に言ったのは燈芽だろ?」


「…え」


「俺は燈芽が弟で良かったって思ってるし、俺たち家族の中で一番母さんを大切にしてるのも尽くしてるのも、燈芽だと思う。それに生まれた環境がどうであれ、大切にするって決めたのは母さん自身なんだ。だから、そんなこと言うな。それ以上言うなら……」


「…?」


「こちょこちょするぞッ!!」


「あ、アホかッ!てか、静かにしろよ病院なんだぞここッ!!」


燈芽は溢れかけていた涙を拭うと、佑を押さえつけ無理やり椅子に座らせた。すると、その二人の会話が聞こえてか聞こえなくしてか、橙里の身体がピクリと反応する。


「「母さんッ!?」」 「ママッ!?」


三人が途端に椅子から立ち上がった刹那、橙里はゆっくりと目を開く。


「…あれ、私…。あ、みんな、おはよう…」


「ママ!!大丈夫!?気分は?」


「うん、大丈夫だよ。…私、どうなったんだっけ…?」


「…どこまで覚えてる?」


「バスロータリーで乗り換えしようとしていたら、燈芽の姿が見えて少し遠くから声掛けたんだけど一回振り向いたらそのまま行っちゃって。暗くて燈芽かどうかは分からなかったけど、でも、背丈とか歩き方とか姿勢とか…そういうのから見て燈芽かなって思ったんだけど…信号渡った所で脇道入ってっちゃって、おかしいなって思って着いてったら…記憶が…」


「…なるほどね。役者でも雇ってオレのクローン作ったのかな…。小賢しい……」


「とりあえずママはその後のことは知らない方がいいよ…。まだ引っ越ししたばかりで気持ちも落ち着いたばかりなんだし…」


「…それでも知りたい。教えて」


「…分かった。じゃあ、燈芽。説明お願いできる?」


「うん。じゃあ、昨日あったことを順番に話していくね___」


燈芽は昨晩の出来事を包み隠さず全て話した。案の定橙里は何度も胸のせり上がりを感じながらも、彼の話を聞き終えた。しかし話を聞き終える頃には彼女の全身には冷や汗が滲み、その顔は真っ青に染まっていた。


「……やっぱり、警察に相談しようよ…」


「…うん、昔は私も同じことを考えて警察署に行ったことがあった。けど、どんなに証拠を揃えても最後には『お引き取りください』の一点張りで。きっと、裏であの人が動いてるんでしょうね。今の私たちじゃどうにもできないのよ…」


「…っ」


橙里の言葉に燈芽は強く唇を噛み締める。だが、この出来事が新たな彼の人生の分岐点になっていることとはまだ誰も知る由もなかった。



それから約一年の時を経て。

燈芽は順調に順風満帆な高校時代を送り、橙里、兄姉も順調に日々を送っているかのように思えた。しかし。


「じゃあ、今日も遅くなるから。ご飯、冷蔵庫にあるもの温めて食べてね」


「分かった。ありがとう」


橙里はいつものように朝の支度を手早く終えると、仕事の鞄を片手に家を出た。兄姉は平日なのにも関わらず、未だのんびりとしている。


「二人とも、今日講義は?支度しなくていいの?」


「あー…今日は休みなの」


「俺は今日午後からで」


どこかよそよそしい様子の二人に疑問を抱きながらも、燈芽は支度を済ませ家を出る。しかし、最近ではこの光景は日常となっていた。それもひとえに橙里の身と家族の間に起きた一つの出来事がきっかけである。


「あっ、ヤバ!佑!もうこんな時間だよ!そろそろ出なきゃ」


「うぉっ!?だからさっき支度しようって…!」


「うっさいな!燈芽にバレたら一番責任感じるタイプなんだから、極限までバレないように慎重に行動しようって言ったのはアンタっしょ!」


「うっ…」


「はい〜アタシの勝ち〜!」


「それ、オマエの悪いとこだぞ」


「ア・ア・ア・ア・ア・ア・ア…何も聞こえませーんっ」


「ほら、支度できてるならふざけてないでとっとと行くぞ!母さんの出勤時間とかあんだからなっ!?」


「あっ…!はぁい!!」


二人は口を動かしながらも見事な連携プレーをいくつもこなし、ごく僅かな時間で身支度を整えた。



その後二人は早々に家を出ると、佑の運転する車でとある場所に来た。すると中から幼い子供の可愛らしい笑い声が聞こえてくる。


「「お邪魔しまーす」」


二人が玄関を潜ると、奥の部屋の襖から小さく可愛らしい男の子がひょっこりと顔を出す。


「たっく!あっちゃん!!」


「おはよー!燈介(とうすけ)!」


「もう歩けるようになったんだね!さすが我が弟!!」


「燈介」と呼ばれたその子供は太陽のような笑顔で二人の元まで駆けてくると、二人の温かな両手に手を合わせた。


「燈介ー!」


「ママ〜」


「…あら、二人とももう来てくれてたのね。いつもごめんね、燈介の面倒見てもらっちゃって…」


「ううん。全然大丈夫だよ!講義はパソコンからでも受けれるし、何より可愛い弟だしね!」


「そうだよ。まさかこの歳になって弟ができるなんて思いもしてなかったけど…。でも、アタシは燈介を家族に迎えられてすごく嬉しいよ!!」


「アナタたち…」


そんな三人の隣で、燈介は無邪気にニコニコと笑っている。すると、奥の部屋から祖母が顔を覗かせた。


「橙里、そろそろ時間でしょ。早く出なさい」


「あっ…!ごめん、ありがとう!!じゃあ燈介のことよろしくね!」


「うん。分かった!仕事頑張ってね!!」


「うん、ありがとう!じゃあ行ってくるね!」


橙里は慌ただしく四人に挨拶を告げると、玄関から飛び出して行った。途端に燈介は寂しげに玄関に手を伸ばし、「ママ〜」と短く声を上げた。


「…母さん、なんで育休取らなかったのかな」


佑は遠い目をしながら、ポツリと呟く。すると、それに反応するかのように祖母が口を開いた。


お疲れー( *・ω・)ノ

キョウスケだよー


なんか久しぶりにここ来た気がする笑

……やっぱおばあちゃん家っていいよね。

畳の匂いとか、おばあちゃんの優しさとか、夜更かしとか。

いろんな思い出が詰まってて、そこに行ったらなんかしがらみから解放されるって言うか、子供になれるっていうか……。

またいつか、会えたらいいな。おばあちゃん。

……∑(ºωº`*)ハッ!

なんかしんみりしちゃった!ゴメンっ!!

そんじゃ、なんか中途半端だけど今日はこの辺で!!

また次回、お楽しみにーー!!またねーっ!!

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