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コドモからの成長


十時。


その後燈芽は落ち着かないまま支度を済ませると、早々に家を出て芽彩の家の前に着いていた。しかし閑静な住宅街の中に佇む彼女の邸宅の周りには飲食店がなく、燈芽は呆然と立ちすくんでいた。


「…早く来すぎた…。てか、これじゃいつも通りの時間じゃん…。つい身体がいつも通りの時間に…」


すると家の玄関が開き、中から一人の女性が出てくる。


「…あら、燈芽くん?おはよう」


「あっ…おはようございます。…その……」


「芽彩よね?ちょっと待っててね」


「えっ?あっ、ちょっ…!」


たじろぐ燈芽を置き去りに、芽彩の母は足早に家の中へと入っていく。そして間も無い内に芽彩が玄関から顔を出す。寝巻き姿にブカブカなサンダルを履いた彼女は無愛想な顔で燈芽を見ると、黙って門戸を開けた。


「お、おはよ…芽彩。ごめんね、起こしちゃったよね…?」


「……」


燈芽は玄関を潜ると躊躇いがちに家の中に足を踏み入れた。すると。


「あっ、芽彩。じゃあお母さんたち出掛けてくるから」


「えっ?」


「ああ、燈芽くんは何も気にしなくて大丈夫よ。あなたのことはずっと見てきて、どういう子かもう十分に分かってるから」


「…うっ…」


「それじゃ、二人ともお留守番よろしくね。もしお出掛けするなら、戸締りしっかりね!」


芽彩の母はにっこり笑って言うと、二人の脇を通って芽彩の父と共にどこかへ出掛けて行ってしまった。途端に、二人は静寂に包まれる。


「……」


「燈芽くん」


「ひぇぁ…っ!?」


「お腹すいた」


「…え?」


芽彩はふらふらと一人でに家の奥へと入って行くと廊下を抜けてキッチンに入り、棚から一斤の食パンを取り、寝ぼけ眼でパン切り包丁を持つ。


「ちょちょちょッ!!!危ない!!!オレやるから!!どのくらい?」


燈芽は慌てて芽彩に駆け寄ると、その手から包丁をそっと取る。


「このくらい」


芽彩は両手をめいいっぱいに広げると、眠たそうな瞳でにこりと笑った。すると、彼女の腹が「グゥ」と短く鳴る。


「…まあ、芽彩だしそれなりに食べるか…」


燈芽は未だにふらふらとしている芽彩から目を離すと、パンに手を添え包丁を入れる。すると、背後から鈍い音と共に芽彩の影が消える。


「芽彩!?」


咄嗟に振り返ると、そこには膝をついて冷蔵庫にもたれかかりながら夢に片足を突っ込んだ状態の芽彩の姿があった。怪我をしている様子はないものの、よくよく見ると目の下にクマができている。


「…パン、しまっておくね」 


燈芽はパンを元の棚に戻すと包丁とまな板をシンクに置き、芽彩を彼女の部屋へと連れていった。



薄暗い部屋の中、芽彩の寝息だけが部屋に静かに響く。そんな彼女の寝顔を燈芽は静かに眺めていた。


「…芽彩…」


燈芽は柔らかく温かな芽彩の手のひらをそっと包み込むと、自身の手とゆっくりと絡める。そんな彼の顔はどこか儚げだった。


「…とーがくん……」


「わ…っ」


しかし、刹那の間に芽彩は寝返りを打つと燈芽のその手を腕ごと抱き寄せる。半身ベットに引き摺り込まれた燈芽は必死に胸の鼓動を抑えながらも、芽彩に腕を貸す。しかしその体勢も長くは続かず、遂に燈芽は大きく身体を動かしてしまった。


「…ふぁ…あれ…燈芽くん…?なんでいるの…?」


「ご、ごめん。キッチンで芽彩が寝ちゃったからここまで連れてきた。腕枕とかはしたけど、それ以外のことは何もしてないから……」


「そうじゃなくて…。お家…上げたっけ…?」


「…え」


燈芽は呆気にとられた様子でマジマジと芽彩を見つめる。だが、芽彩は構わずに続けた。


「あれ、お母さんとお父さんは?」


「出掛けるって言ってどこか行っちゃったよ」


「あー…そういえばなんか前言ってた気が…。じゃあ今日は二人っきりなのか」


「え」


部屋の入り口から辺りを見回していた芽彩は振り向き様にニヤリと笑うと、ゆっくりと燈芽に歩み寄った。


「ねえ、二人っきりだって」


「う、うん。なんで二回も言うの…?」


「大事なことだから」


芽彩は床に座り込んだ燈芽の手を強く引き上げると、彼女のベットの上へと誘った。


「な、なにするつもり…?」


「燈芽くん、お家上がったの久しぶりだよね。それに、こうして二人っきりになるのは多分初めてだし。…ね、嫌じゃなければなんだけど……」


「……うん、いいよ」


燈芽は静かに頷くと床に手をつき芽彩のベットの上へと上がる。すると芽彩は燈芽の胸に飛び込み、彼を強く抱きしめた。


「ふふっ。大好き…。燈芽くん」


「オレも大好きだよ」


燈芽は静かに囁くと芽彩の頭を抱え、腰に手を回す。そんな彼の手の温もりに芽彩は少しずつ胸の高鳴りを抑えられなくなってきていた。


「…燈芽くん…」


「どうしたの?」


「キス…したい…」


「へぇッ!?」


「…だめ?」


「だ、だめじゃないけど…!」


「じゃあ燈芽くんから…して…?」


芽彩は燈芽から身体を離すと微笑みとも誘いとも言えない笑みを浮かべる。しかしそんな彼女の顔に心を射抜かれ、燈芽は思わず身体を硬くする。


「…しないなら、しちゃうよ?」


「…ッ!?」


途端に芽彩は目を伏せると、燈芽の唇にそっと口付けをする。互いの唇にそれぞれの体温がじっくりと馴染み、その柔らかな温もりを感じ合う。


「…っ…」


幾度と唇を合わせ、二人の身体は少しずつ熱を帯びていく。その身体は互いが互いを欲し、指を絡め、足を絡め合う。


「…もっと…いい…?」


燈芽は柔らかに唇を離すと、芽彩の瞳を真っ直ぐに見つめた。そして、その濡れた唇に優しく指を触れる。


「…っ…」


「いや…?」


「ううん…。…もっと……」


囁くようにして言葉を紡ぐと燈芽と繋がれた手をそっと握りしめ、彼に絡ませた足を彼女の方へと強く引き寄せた。


「…っ…!!」


「ねぇ、焦らさないで…早く…」


布の擦れる音と二人の高鳴り続ける鼓動が部屋中に響く。燈芽の目の前に広がる芽彩の瞳は普段とは打って変わって甘くとろりと垂れ、その顔は薄暗い部屋の中でも分かるほどに耳まで赤く染まりきっている。


「…するね」


燈芽は芽彩のあごに手を添えると、優しく唇を合わせた。


「…んッ…!」


彼女の唇に彼の舌が優しく触れる。途端に芽彩の身体は大きく脈打ち、声にならない声が飛び出す。突然の芽彩の反応にすかさず燈芽は口を離そうと頭を浮かせたが、芽彩はそんな彼の頬に手を添えた。


「…!」


『もっと』


そう訴える芽彩の瞳に燈芽は思わず彼女の頬骨に手を添え、唇を交える。そして。

芽彩の唇を優しく撫でるようにして燈芽の舌が通り抜けると、その先で芽彩の舌と少しずつ絡む。絡んでは解け、絡んでは解け、それを繰り返していくうちに二人の昂りは最高潮に達していた。


「芽彩…オレ____」


お疲れ様ー

燈芽だよー。


ねえ…こんなところで言っていいのか分かんないけどさ…。

芽彩が可愛すぎて…っ、好きすぎて、マジでやばいんだけど…っ。

オレ、どうやって抑えればいい?今までこんな気持ちになったことない。この気持ち、なんなんだ?家族に対する気持ちと似たような想いであって、でもそれとは全く違う、芽彩の幸せだけを心から願う純粋な気持ち…。なんか不思議なんだよ。

芽彩のこと考えてると嫌なこととか頑張れるし、多少の無理も乗り切れる。なんかあったらメチャクチャ心配するし、それでケロッとしてたら膝から崩れ落ちるくらい安心する。

マジでなんなんだ…。

……って、こんなところで話すことじゃなかったね。改めて思ったわ。

…オレ、芽彩のこと一生かけて幸せにする…。何がなんでも……。

そんじゃ、今日はこの辺で!また明日もお楽しみに。

またねー。

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