デマって流すもんじゃね?
翌朝。
燈芽と佑、綾生が三人揃って登校すると、その周りは異様な空気に包まれた。
それもそのはず、いつもはただでさえ滅多に登校しない二人に加え、その二人がいじめの標的とする相手と親しげに話しながら登校しているのだ。疑問に思わない方が難しいだろう。
三人は周りからの視線や声を掻い潜ると、既に職員会議の始まっている職員室の扉を開けた。
「失礼します」
「おお、二人とも。どうした____って、なんで…ッ!?」
初めはうわべの笑顔をこちらに向けていた職員一同だったが、奥に控えていた燈芽が一歩前に出るなりすぐさま全員の顔色が変わる。
「先生たちに聞いてもらいたいものがあるんです」
燈芽はポケットから小型の録音機を取り出すと静寂に包まれる職員室の中、その場で再生ボタンを押す。
『____ってワケで、俺たちはやっぱり学校に行きたいし燈芽のこともこれ以上苦しめたくない』
『____テメェらの学校に献金してんのは誰だ?俺だろ…ッ!テメェらが俺に逆らう権利なんてェのはねェんだよッ!!』
「これは録音のほんの一部です。二人に証言してもらえれば学校の不正はたくさん出てくるでしょうし、ちょっと調べれば献金名目の賄賂の証拠なんかもボロボロ出てくるんじゃないですか?オレの知人の記者にこの秘密を書かれたくなければ、オレたちの要望を飲んでください」
燈芽の堂々かつ、冷淡な忠告に一同は一斉に顔を青くし、怖気付く。特にその首謀者である理事長の代替役であった校長は顔面蒼白になり、顔中に冷や汗をかいていた。口止め料として少しばかりのおこぼれをもらっていたからだ。
「校長先生」
「ひ…」
「お願いがあります」
「は……ぃ」
「兄ちゃんたちの名前でいじめを指示するのはもうやめてください。芽彩…オレのクラスメイトの東 芽彩に手を出すのも、もうやめてください」
「ゎかりました…」
「それと最後に。変なデマを信じるなってHRで全学年全クラスに伝えてほしいのと、オレとその周りに手を出したらボコボコにされて病院送りにされるってデマを流してほしいです」
「ん?それだとなんか矛盾しない?」
途端に後ろに控えていた綾生は小首を傾げると隣の佑の顔を見た。彼もまた不思議そうな顔をして小さく頷く。
「うん、でもそれでいいんだ。結局人ってどんなゴシップでも信じちゃうもんだから。それがより自分にとって疎遠であって滑稽であればあるほど信じやすくなるし、叩いたり首を突っ込んだりしたくなるもんだから」
「そっか…?」
二人は理解していない様子で頷き、目の前の校長は魂の抜けた様子で呆然としている。
「いいですか?」
「えっ…!?あ、ああ…!」
「明日になっても何も変わっていなかったら、記者の方に情報を渡す予定なのでそのつもりで。ではまた」
燈芽は冷たく言い放つと、職員室から足早に去って行った。
………
……
…
それから時は戻り、現在。
日々の生活はすっかり穏やかなものとなっていたが燈芽自身が流したデマのせいか、怖いもの見たさに力自慢の生徒が彼を訪ねてくることが度々あった。そして今日も。
「今井 燈芽ってヤツはどこだ!?」
「あー…オレだけど」
荒々しい声と共に彼のクラスに取り巻きを連れて一人のガタイのいい男子生徒が入ってくる。
それを見た燈芽やクラスメイトたちは驚きも騒ぎもせず、手慣れた様子で男子生徒の相手をする。
「タイマンだ、今井!」
「…はぁ。ここだと迷惑かかるから、屋上ね」
「なんだ、チビってんのか?」
「どうしてもここでやりたいってんなら、マジで病院送りになるかもだけどいいの?」
「ハァ?笑わせんな」
「あー…みんな。救急車呼ぶ準備よろしくー」
燈芽はこちらの様子を見ていた群衆に声を掛けると、重たい腰を上げた。
「…じゃー____」
そして彼は、ふっと浅く息を吐く。その刹那。
「グ……ッ!?___」
燈芽は瞬く間に膝を曲げると男子生徒の鳩尾を蹴り上げ、彼を後方に吹っ飛ばした。まだ臨戦体制にも入っておらず、気の抜けていた彼は言うまでもなく立ち上がれなくなってしまった。
「…っしと。久しぶりだったけど余裕だったな」
「ちょっと、燈芽くん」
「ん?」
すると、すぐ側で一部始終を見ていた芽彩が唐突に立ち上がり、燈芽に声を掛けた。その顔はどこか強張っている。
「前回こんな事があった時も私言ったよね…。相手の人に燈芽くんの実力を示す事はしても、ケガだけはさせないでねって…」
「えっ…!?あっ…その……」
「『覚えてない』なんて言わせないよ?あのデマを流したのはキミ。だからその後始末をしなきゃいけないのもキミ。最初からこういう結果が予測できてたなら、ちゃんとそれ相応の対応をするべきだよね」
「は、はい…」
芽彩は詰め寄るようにして縮こまる燈芽に迫ると、落胆とも憤りともいえない様子で燈芽に背を向けた。
「あっ…芽彩…っ!」
「この話はもう終わりです!」
冷たく突き放すようにそう告げると、芽彩は腹に手を当て横たわる男子生徒に手を差し出した。
「大丈夫?立てる?とりあえず保健室行って診てもらおう」
途端に男子生徒は閉じていた瞳を開けると、痛みに顔を歪めながらむっくりと身体を起こした。
「…大丈夫だよ、ありがと」
「…?うん」
そして、取り巻きたちに介抱されながらゾロゾロと教室から出て行った。
翌朝。
燈芽は朝日に顔を照らされて目を覚ます。隣に目をやると、大きく口を開け一筋のヨダレを垂らした佑が気持ち良さげに眠っている。
「…なにか来てるかな…」
枕元のスマホに手を伸ばすとLINEを開く。しかしその画面はなにも変わり映えがなく、画面の奥の燈芽と芽彩が楽しげに笑っているだけだった。
「…やっぱダメだな…。オレ…」
燈芽はスマホを元に戻すと再び布団に潜る。本来であれば三連休初日である今日は芽彩と出掛ける予定を組むものだが、昨日の今日である以上そう簡単に組めるものではない。
しかし、そう思っていた刹那。
『ねえ、今日ひま?』
突然の着信音と共に芽彩からのLINEが入る。途端に燈芽は飛び起き、即座に芽彩に返信する。
『うん、ひまだよ』
『じゃあどっか遊びいこ』
『集合場所は燈芽くんちのエントランスでいいよね』
『え、迎え行くよ?』
『わかった待ってる。12時からでいい?』
『うん!じゃあ12時に芽彩の家に迎え行くね!』
返信し終えるとそっとスマホを置き、静かに息を吐く。
「…いつもよりちょっと遅いな…。いつもの時間でも物足りないって言ってるくらいなのに…。やっぱ相当怒ってるのかな…。それともオレ、もう愛想尽かされちゃったのかな……」
燈芽は深い溜息を吐くと、ダラダラと身支度を始めた。
おつかれーー!⸜(*ˊᗜˋ*)⸝
芽彩だよ!!
ねえねえ聞いてっ。
好きな人とケンカした時ってさ、どうすればいいのかなっ!?(´-﹏-`;)
さすがにあの時、私も言いすぎたなーって思ってたら色々考えちゃって昨日全然寝れなくて……!
朝燈芽くんにLINEした時とかも昨日お風呂入ってないし、もしお家上がるってなった時お部屋汚いしで色々しなくちゃだから時間もだいぶ遅めで設定して…。
うぁぁ…っ、ダメだもっとおしゃべりしてたいけどそろそろお風呂入ったりしなくっちゃ…!
じゃあまた明日もお楽しみに!!またねー!!(*´꒳`*)/




