進展
燈芽は庭園の中央に来ると、この庭園の一番の大目玉と言っても過言ではない、木製の小さな風車小屋へと入った。
中は大人が十人入ってしまえば、ぎゅうぎゅうになってしまう程の造りだった。
しかしこの学校にはとあるジンクスがあり、「この小屋の中のベンチで両思いの生徒がここで愛の誓いを立てると、一生その相手と幸せになれる」という。
燈芽は入り口から内鍵をかけるとそのベンチをずらし、その床の下を六回ノックした。
「___燈芽くんっ!!」
すると床の一部が勢いよく開き、目を赤くして鼻を真っ赤にした芽彩が勢いよく飛び出し燈芽に強く抱きついた。
「大丈夫だった!?ケガしてない!?なにかイヤなこと、言われてない…ッ!?」
「ふふ…。心配しすぎ。ありがとね、芽彩ちゃん。でもオレは大丈夫。そう簡単にあんなヤツにやられちゃうほど弱くないから」
「うぁぁぁぁぁ、よかったよおぉぉぉぉっ」
燈芽は芽彩の背中を優しくさすりながら、小さく笑みを溢す。途端に、抜け穴からこちらを覗いていた拓磨と麗子の二人と目が合う。そんな二人の表情はイヤらしく、そっと穴の奥へと消えて行った。
芽彩が落ち着くと、四人は再び倉庫へと戻ってきていた。しかし昼を過ぎていたこともあり、燈芽を除いた三人はそろそろ空腹を堪えきれなくなってきていた。
「そろそろなにか食べたいね」
「おいらなら適当に誤魔化して買いに行けるかな?」
「…なんでコッチ見るのよ。てか、アンタいつまでもここにいていいワケ?給料貰ってるんでしょ?」
「それがねえ。おいら歩合制なんだよね。しかも全学年の副担任のアシスタントっていう、謎ポジションだし…」
「どういうこと?」
「ほら、教員の仕事ってなにかとブラックじゃん?だから、その補助の仕事がおいらに振られたワケ。でも、どの先生の、とかじゃなくて、全学年の、なんだよ。だから結局やること山積みで…。しかもそのほとんどが双子関連の雑務。おいらは燈芽の応援がしたくてここに戻ってきたのにさ。ってなワケで、双子関連の仕事以外を片付けたから、こっちに来たってワケ!おいらは手を汚したくないのさ〜」
「なんか…拓磨も大変だね…」
「いやいや。まあ確かに、いかに上手く仕事を選別していかに嫌な仕事をサボるか!ってのは難しいとこだけどね。一歩ミスればクビだし」
拓磨は拳を握りしめると、力強くそう話す。しかし、一同は拓磨とは相反対に冷めた目で拓磨を見る。
「それ、教員向いてないんじゃ…」
「まあまあ、細かいことはいいのっ!それに、おいら小細工は得意な方だし、ここ出身ってこともあって生徒たちからの信頼も厚いし。生徒からの授業とか恋愛とか諸々の相談受けたり、相談受けた分野を理解しやすくまとめたプリント作成したりで時間潰すこともちょくちょくあるのよ。あとは、食堂のおばちゃんの愚痴聞いたりね」
「何でも屋かよ…おまえ…」
「へへへ。まあそんなとこ。教員たちにへつらうんじゃ嫌気指すけど、後輩のみんなといっぱいお話しするのは楽しいからね!じゃ、ちょっと買ってくるわ。パスポート貸ーして。おいらの顔パスあれば、ゴールドじゃなくてもこっそりテイクアウトさせてくれるから!」
拓磨はイタズラな顔でウインクすると、三人の前に手を伸ばした。そこに三人はパスポートを乗せる。
「じゃあ、私はナポリタンとポトフ!デザートでプリンで、飲み物はミルクセーキ!」
「私は今日のお任せコースを。ドリンクはホットのストレートティーで」
「オレはー…ハンバーガー…」
「だけでいいの?」
拓磨は書き留めていたペンを止めると、燈芽の方に視線を送る。しかし、燈芽は間も無くして顔を上げると、再び口を開いた。
「トリプル三つで。飲み物はお冷でお願い」
「「え」」
途端に拓磨と麗子は燈芽に視線をよこすが、芽彩はニコニコといつも通りの笑顔で口を開いた。
「燈芽くんとお母さんの分の晩御飯なんだよね。ほら、パスポートもプラチナでしょ?燈芽くんね、色々頑張って食費と雑費は燈芽くんが稼いでるんだって」
「「…え…??」」
「燈芽くんちシングルマザー状態にも等しいのに、お母さんは特殊な状態で収入が不安定だから…。だから動画の配信したり、お家にあるものをオークションに出展したりしてるんだって!すごいよね!!」
「へえ、アンタ意外とやるじゃん」
「ううん。すごくなんてないし、本当はそれ犯罪なんだ。オレがしてるのは、よくニュースでやってる、誰々が数百億横領しましたってのと同じこと。規模が違うだけでね。…やっぱ、オレも結局はあの人の子供ってことなんだよね」
「……」
「あ、ごめん、なんか変な空気にしちゃったね。拓磨、芽彩も麗子ちゃんもお腹空いてるだろうから、急ぎでお願い」
「え?あ、ああ。じゃ、行ってくるわ!」
拓磨はそんな燈芽の漂わせる空気に気圧されながらも倉庫を出て行った。しかし、先ほどから芽彩は物言いたげに燈芽を見つめている。
「…どうしたの?」
「さっき、『芽彩』って…」
「え…?あっ…!ご、ごめん、呼び捨て嫌…だったよね、ごめん…」
「そうじゃなくって…!」
「え…?」
「やっと燈芽くん、私のこと呼び捨てにしてくれたって思って…。嬉しくて…。今まで、どこか壁感じてたから…」
「そ、そっか…。ごめんね、オレ、芽衣ちゃ__芽彩が初めての友達で、初めての…その…彼女…だったから……。急に呼び捨てとかにして嫌われたくないって思ってて…」
「呼び捨てにされたくらいで嫌いになんてならないよ!それに__」
芽彩は背伸びをして燈芽の耳元に顔を近づけ、燈芽の肩に手を置いた。途端に彼の鼓動は勢い付く。
「ファーストキスの相手でしょ?お互いに」
「ッ!!」
芽彩は燈芽から顔を離すと口元に手を添えて小さく笑う。その様子に小首を傾げる麗子。
「なになに、なんの話??」
「ううん!なんでもない!」
そんなにっこりと笑う芽彩の笑顔に、燈芽の鼓動はしばらくの間治ることはなかった。
それから三年の時が経ち、燈芽、芽彩はいじめの標的にされることは減っていた。それも一重に、昨年のある出来事がことの発端である。
………
……
…
ことの始まりは、燈芽と芽彩が中学一年生に進学してしばらく経った頃の話。
いつものように、二人が倉庫で試験対策をしていると、突然扉をノックする音が庫内に響いた。
「誰だろ」
燈芽は卓上にペンを置くと、監視カメラから外の様子を伺う。するとそこには、双子の姿が映し出されていた。
途端に燈芽は一瞬顔を歪めたものの、間もないうちにいつもの調子に戻ると、口を閉ざして席に戻っていった。しかし、それも束の間に扉の向こう側から声が聞こえてくる。
「燈芽…開けて…。聞いてほしいことがあるの…。どうしても、今話したいの……」
姉、「綾生」はか細く弱々しい声でそう告げると、ドアに両手をついた。そんな様子を見た芽彩は、ふと燈芽の方を見る。
「ねえ…。なんか気の毒だよ。少しくらい話聞いてあげようよ」
「知らないよ、あんな人たち。今まで散々オレたちに嫌がらせしてきたんだから。今更構う必要なんてないよ」
「でも…」
「…逆に、これが演技で芽彩になんかあったらってのが一番嫌なんだよ。今までこんなこと一回もなかった。だから今回のこれは絶対ただごとじゃない。オレ一人だったら出てもいいけど、芽彩がいる以上そう簡単に出るわけにはいかないよ」
「……だとしても、私は出る!!」
「ちょっと、芽彩___ッ!?」
お疲れ様ー
燈芽だよ。
なんか久しぶりな気がするのはオレだけ??
でも、また久しぶりに君に会えて嬉しいな。
あと、礼昴が遅くなってごめんって。それと、もう残りがねぇって絶叫してた。
ある意味、オレも今後戻りできないような状況にいるから仲間なのかもしれないな。
それじゃ、今回はちょっと短い気がするけどここまでで。
また次回をお楽しみにー。




