イツメンと家庭事情
「ほう…。良い度胸じゃねェか……。じゃあ勝負だ」
「なに」
「俺はこれから、テメェらを地獄に叩き落とす。それに耐え切ることができれば、テメェの勝ちだ」
「ハァ__ッ!?そんなの勝負じゃ……!」
「ま、精々頑張れよ」
燈芽が言い終わるよりも早く、父はケタケタと笑うとその場を去っていった。
「…いいさ。僕は芽彩ちゃんを守るって決めたんだ。パパがどんなことしてきたって、絶対に僕が芽彩ちゃんを守りきってやる…」
燈芽は小さく呟くと拳を握りしめた。そんな彼の瞳には、固く強い意志が込められていた。
それから五年の月日が経った。
父に芽彩との関係が知れてしまってからは学校内での二人の生活は更に窮屈なものとなっていたが、二人には心強い味方がいた。
「__またこんなところにいたの?朝から先生たちピリピリしてるから授業受けにくいったらありゃしないわ」
校舎裏の今は使われていない旧体育倉庫の扉を勢いよく開けたその女子生徒は、その奥で寛いでいた燈芽と芽彩を呆れたように見下ろした。
「麗子ちゃん」
そう名を呼ばれた彼女は五年前のあの時、食堂で芽彩に絡んできたクラスメイトだった。
その後、燈芽と芽彩はそれまで通り振る舞っていたものの、学年の女子のうちでは微かに燈芽の真相が噂され、一部の女子の間では憧れの的となっていた。
初めのうちは二人を毛嫌いしていた麗子だったが、燈芽の芽彩に対する大きな愛情、芽彩の燈芽に対する純粋な想いに触れていくうちに、麗子は陰ながら二人の恋を応援するようになっていたのだった。
庫内は多少埃っぽいものの、二人が持ち込んだと思われる家具や雑貨が倉庫の片隅に置かれ、二人は悠々自適に過ごしていた。
「燈芽。アンタは頭も良くて運動神経もバツグンだからいいでしょうけどね、今回の範囲は芽彩の苦手分野なのよ?こんなところに連れ込んでどういうつもりなの!?」
「麗子ちゃん、落ち着いて。私が燈芽くんにお願いしたの…」
「えっ…?」
「校内だとね、燈芽くんに頼ってばっかで勉強に集中できないから、私がここで教えてもらってるんだ。燈芽くん、教科書見れば全部分かるって言ってて…」
「やっぱアンタ、ヤバいわね…」
燈芽はちらりと視線を麗子に移すものの、テキストに視線を戻す。しかし、刹那の間に立ち上がった。
「…来たか」
「「え?」」
すると途端に倉庫のドアが開き、若々しいスーツ姿の教員が入ってくる。その顔はどこか見覚えのあるものだった。
「よっ」
「誰にも言ってないよね」
「当たり前じゃん!燈芽と芽彩は新入生だった頃からの仲でしょ?学校卒業するまで…なんなら、死ぬまで?おいらは一緒にいるよ!」
その教員は「にひひ」と温かな笑みを浮かべる。
彼こそ、二人がまだ一年生だった時に学校のいろはを教えてくれた高等専門学校生の男子生徒だったのだ。
「じゃ、みんな集まったことだし。久しぶりになんかしたいね」
「おいら職員室から改ざん用に作られた答案用紙持ってきたよ。これ使って折り紙でもする?」
「なに変なの持ってきてんのよ」
「怒られないの?」
「大丈夫大丈夫、さっきバタバタしてたから。それにこれ、何百枚の内の数枚だから。バレないよ」
「どうやって使うの?」
「普通のテスト用紙と一緒だよ。まずは答案を書く。次に回収したものを正解数に応じて問題文だけ書き換える。この答案用紙のインクは特殊なプリンターを使えば消すことができて、再びプリントすることもできるんだ。だから改ざんに重宝されている」
その教員、「拓磨」は三人の前でスマートフォンで撮った動画を見せた。そこには、改ざんの記録がありありと残っている。
「ホントだ…。答案は同じなのに、問題だけ違う…」
「これ、文科省に言わなくていいの?」
「言った所でねえ。燈芽のお父さんでしょ?お金の力には勝てないでしょ。あのプリンターだって、提供したの燈芽のお父さんだってウワサだし」
「…信じたくないけどね」
燈芽は俯くと、吐き捨てるようにして告げた。その顔にはどこか影が落ちている。
「ね、ねえ…燈芽くん」
「…ん?」
「ずっと気になってたんだけど、燈芽くんはいつからお父さんと仲悪くなったの?」
「…生まれた頃からだよ」
「え…」
「生まれた頃から、ずっと。オレは本当は生まれる予定のない子供だったから。だからあの人は俺を死ぬほど憎んでるし、オレもあの人を死ぬほど憎んでる」
机に伏せて言葉を重ねた燈芽に、倉庫内はじっとりと重たい空気が漂う。途端に交互に顔を合わせた三人は僅かの間に沈黙した。
「あっ、でもさ。燈芽はお母さんとは仲良いんでしょ?」
「うん。オレが勉強ができるのも、運動が得意なのも、全部母さんのお陰。きっと母さんも敵だったら、今頃オレはここにいなかったと思う…。マザコンってワケじゃないんだけど、母さんはオレにとって、大切な人なんだ…」
「へえ、アンタって意外と家族想いな所とかもあるのね。自己チュータイプかと思ってた」
「失礼だな。こう見えてオレは親切にしてくれた人にはちゃんとそれ相応の対応をする人間だよ。まあ、その逆もしかりだけどね」
「燈芽くんはヒドイことする人はコテンパンにやっつけちゃうもんね!!」
「やっつけてるんじゃないよ、追い払ってるだけ」
燈芽は困ったように笑うと、キラキラとした眼差しを向ける芽彩の頭を優しく撫でた。
「しかし面倒な家だよな。父親は愛人と不倫してる上にDV野郎で、兄姉は不正まみれのリーダー格。おいらなら絶対、家出してるよ」
「オレも家出したい気持ちは山々なんだけどね。母さんがいるから。それに、今はワンシーズンにいっぺん、じいちゃんとばあちゃん…あ、母さんの方のね。が来てるから、その時は幸せな家庭でいなきゃいけないんだ」
「どういうこと?」
「じいちゃんたちは、オレたち家族の実態を知らない。昔、あの人…父さんはじいちゃんの経営する会社で正社員として働いてたんだけど、秘書見習いとして働いてた母さんと結婚したんだ。その時二人にはじいちゃんの会社の跡継ぎになってもらう予定だったみたいなんだけど、兄ちゃんと姉ちゃんが生まれてからは話がズレてっちゃって。父さんは株主として会社を支えるけど、母さんは引き続き会社で秘書見習いとして続けるって…」
「待って待って、なんでそうなるの?全然話が違うじゃないの!!」
「うん。あの人は最初っからじいちゃんの会社の跡継ぎになる気なんて更々なかったんだよ。だから、あの人の実家のコネを使ってじいちゃんの会社の大株主になったんだ」
「…腑に落ちねえなあ……」
「それでね。その数年後に今の家を買って、その間もないうちに資金繰りが厳しいだろうってんでじいちゃんたちが兄ちゃんと姉ちゃんの養育費ってことで、少額だけど、仕送りをしてくれるようになったんだ。そっから。あの人が調子に乗り出したの」
「それまではまだ良かったの?」
「マシだったって言い方が正しいかな。あの人、二人の世話も家事もほとんど家政婦の人たちと母さんに押し付けて、父親のいいとこしかやってなかったみたいだから。それ以降は外に出ては女の人と遊ぶようになって、家事も育児もめっきり放棄するようになったって。いわゆる、ネグレストってやつ。一応、二人から嫌われないようにっておもちゃ買ったり、遊んだりはしてたみたいなんだけどね。家事も母さんと家政婦の人たちで回してやっとだったって言ってたっけ…」
「タダのクズ男ね。お母さんもなんでさっさと別れなかったのかしら」
「二人がいたから。そう簡単に別れを切り出せなかったみたい。そんな中会ったのが今の愛人。んで、オレが生まれる一年前にその人とトラブルがあって、憂さ晴らしに母さんに絡んで、母さんが妊娠して…。それが分かった時、あの人は母さんに中絶させようとしてたみたいで…。でも、それよりも早く母さんはじいちゃんとばあちゃんに報告してた。だから、妊娠を祝いにって駆けつけてきた二人を見て、あの人は一気に青ざめちゃって。まぁ、そりゃそうだよね。レイプした相手の親なんだもん。だから、じいちゃんとばあちゃんが来る時は表面上は幸せな家族なの」
全てを話し終えた燈芽は「はあー」と深いため息を吐いた。その顔はいつもに増して疲れが滲み出ている。
「…なんかごめん」
お疲れ様( ˶˘꒳˘˵ )
麗子よ。
先に1つ、礼昴から伝言を伝えておくわね。
「昨日は突然お休みしてしまい、申し訳ございませんでした!<(;_ _)> 本日はなんとか書き上げることができたので、ぜひ、ご覧いただければ幸いです!…って、後書き読んでるならもう読んでるか…笑」
____とのことよ。
礼昴、スランプみたいね。…やあね、スランプなんて。突然勝手にそんなのになられて、私たちの性格を捻じ曲げられたらたまったもんじゃないわ。
天の声『唐突に来たんだよ、しょうがないんだよ( ߹ㅁ߹)』
知らないわよそんなの。やるって言ったのはアナタでしょ?自分でどうにかしなさいよ。
天の声『ヒデェ(´;ω;`)…でもいいもん、いいもん!( `^´ )昨日帰りに買ってきたリポビタ剤めっちゃ効いてるし、それでこの谷を乗り切るもん!!!』
あら、割り切りの早いこと。それじゃあこれ以上アナタの醜態を晒すわけにもいかないでしょうし、終わりにするわね。
天の声『うるせえーー!!!\\\٩(๑`^´๑)۶////』
ではまた明日、お楽しみに。ご機嫌よう。




