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ちいさなヒーロー


橙里は遠い目をすると、その視線を噴水からどこか遠くの方へとやった。


「ママとパパの出会いは、おばあちゃんの紹介でね。その時パパはとってもお仕事ができる優秀な人で、おじいちゃんが社長をしている職場の新人社員さんだったの。でも、一つ教えれば十個できちゃうくらいの人だったから、仕事に慣れたらすぐに昇進させようってなって、恋人が居ないならママを…って。話しがどんどん進んで行っちゃって」


「パパ、本当はすごい人だったんだね」


「うん。でもね」


「うん」


「ママと結婚して、昇進って話が出てきたら、パパ、今まで全然そんなこと言ってなかったのに、急に子供が欲しいって言い出して…。それで生まれてきたのがお兄ちゃんとお姉ちゃん。最初は結婚したから幸せな家庭を作りたいって思うようになってくれたのかなって思ったんだけど…パパはその後育休取るフリして辞めちゃって…。しかもママがお兄ちゃんとお姉ちゃんのお世話頑張ってる裏で他の女の人と遊んでて……」


「……」


始めのうちは昔を懐かしむ様に穏やかに語っていた橙里だったが、少しずつ、彼女の顔は悲しみの色に染まっていった。そんな橙里の顔を見て燈芽は拳を強く握りしめる。


「それで三年前。パパがキツい香水の匂いとお酒の匂いをさせながら帰ってきたの。ここ一、二年、お兄ちゃんとお姉ちゃんを連れてそうやってお外から帰ってくることがあるのは燈芽もなんとなく知ってるよね」


「…うん」


「その日、パパがいつもよりすごく機嫌が悪くて。ママ、パパに近づかないようにしてたんだけど、急にパパの方から来て…」


「殴られたの…?」


「…まあ、殴られたことには殴られたけどね。いつもよりはまだ痛くなかったよ」


「…?」


「…まあその後色々あって、燈芽が産まれたの。最初はママも、燈芽のことを受け入れきれなかった。でも、あの時あの人の本性に気付けなかったのは私。逃げるって選択肢を取らなかったのも私。だったら、折角私を選んでくれた燈芽の命を大切にしようって…!だからママ、決めたんだ。燈芽がママのお腹の中にいるってパパに話した時、『この子は絶対私が守る、誰にも傷つけさせない!!』って…。…まぁ、全然その誓いは守れてないんだけど…」


橙里は「ごめんね」と苦笑すると、黙って俯く燈芽の方を見た。


「…ママ」


「なあに?」


「行こう」


燈芽は突然立ち上がると、橙里の手を引いてどこかへと走り出した。



そして着いた先は自宅の玄関前だった。先ほどまでは女の声が聞こえて来ていたものの、今となってはすっかり静まり返っている。


燈芽は静かに息を飲むとポケットから鍵を取り出して、鍵穴へと近づける。


「ま、待って!!」


橙里は小さな声ながらも、慌てた様子で燈芽の手を取った。


「まだこの中にはパパ以外にも誰かいるかもしれないんだよ…?まだダメだよ…!」


「だいじょうぶ」


燈芽は静かに呟くと、そっと橙里の手を握り返す。


「ぼくがママを守るから」


その瞳は、三歳児とは思えない程に凛としていて逞しいものだった。



燈芽がそっと部屋を開け、二人は音を立てないよう、慎重に自宅に忍び込む。ドアの外からは聞こえなかったが、奥の父の寝室からは何やら父と女の甘ったるい話し声が微かに聞こえてきていた。


「燈芽、ママから離れちゃダメだよ」


「ママもね」


二人は息を潜めながら、父の寝室へ一歩、また一歩と近づいていく。すると、その会話は少しずつ鮮明に聞こえてきた。


「____ねえ。まだ結婚できないの?」


「しょうがないじゃんまーたん。少なくともあのクソガキが中学生になるまではヨメの親の監視が離れないんだよ〜」


「ん〜?どーゆーこと?」


「本当は子供はあの双子だけしか産まないって予定だったのにヨメが酔って俺に絡んできてさぁ…。そんで出来ちまったんだよ」


その言葉に橙里はぴくりと反応する。しかし、腹の底から喉元まで込み上げてきた思いをなんとか飲み込むと、隣室の入り口側のクローゼットの中へと隠れた。


「えぇーッ!?奥さん、社長令嬢って聞いたから素敵な方想像してたのにそんな…(はした)ない…」


「ホントだよなぁーっ?そんで出来ちまったモンは仕方ねぇってんで、とりあえず向こうの親に報告したらまぁ大喜びしちまってさぁ…。幼い双子に新生児ってなったら大変だろうからってんで、下のガキが中学卒業までは仕送りを続けるとよ」


「へえ。奥さんの親御さん、優しいじゃん」


「まあな。カネの面ではスゲー助かってるよ。三ヶ月にいっぺん、こっちに監視に来るのがうぜえけどな」


そこまで父が言うと、女は「まあまあ」と父を宥めた。しかし、そのドアの向こうではクローゼットに隠れた橙里は服に埋もれながら震えていた。


「…ママ?」


「あんまりだよ…」


「私は燈芽のこと頑張ってここまで育てて、お父さんとお母さんだって、燈芽のことや二人のこと、私たちのことを心配して来てくれてるのに…!あの人は何もわかってくれてない…!!どうして…。ねえ、燈芽…ママはどうすれば____」


橙里は燈芽のいた方を向くが、そこに燈芽の姿はない。慌てて橙里はクローゼットの中を見渡すもののそこに彼の姿はなく、扉の外にも燈芽と思しき影は見当たらなかった。


「「キャァ____ッ」」


「「オマエ、なんでココに____ッ!?」」


途端に寝室の方から響く二つの叫び声。橙里は咄嗟に寝室の方へ駆けていくと、そこには目を剥く光景が待っていた。


燈芽が下着姿の父と女の前に仁王立ちして、二人が被っていたであろう布団を地面に引き摺り下ろしていたのだ。


「燈芽____ッ!!」


橙里は一目散に燈芽に駆け寄るとその身体を抱き上げようとするが、彼はこれまでにないほどの抵抗をすると呆気に取られる父と女の居るベッドの上によじ登った。


「パパ、この女の人、誰?」


燈芽は意図してかしなくしてか、不気味な笑顔で父に迫る。


「キ、キ___貴様には関係ねェだろッ…!!さっさとアッチ行きやがれ…ッ!!」


「関係なくないよね?ここはぼくたちのおうちだし、パパはぼくのパパだもん。パパのおともだち(・・・・・)なら、ぼくも仲良くしたいな」


燈芽は眩いほどに屈託のない笑顔を浮かべながらジリジリと父に迫る。しかし、その異様さが反対に父の気を狂わせた。


「アァァァァァァァァァッ!!!!!」


「あれ」


父は絶叫すると、それっきり泡を吹いて倒れてしまった。すると燈芽はちらりと女の方を見る。


「…おともだちさん?ぼくと遊んでく?」


「…ヒィッ!?」


ニコニコと燈芽は笑いかけるものの、女はビクリと肩を震わせるとそそくさと服ををかき集め、着替えもままならない内に部屋を出て行った。それを見届けた燈芽は小さく息を吐く。


「ママ、これでパパも良くなるかな?」


「…わからない。でも、おうちにあの人が来ることはもうなくなるかもね。ありがとう、燈芽」


「どういたしまして!!」


そう言って誇らしげに笑う燈芽は、まだこれから起こる更なる災いをまだ知らぬのだった。




それから約三年程の月日が経った。


燈芽はいよいよ小学生へと進級し、橙里の日々の努力と祖父母の支援もあって兄弟と同じ私立の小学校へと入学した。無論そこには彼自身の血の滲むような努力も込められている。


日々のトレーニングを欠かさなかったからかその腹は薄らと六つに割れ、二の腕と腿は少し太くなっている。しかし、橙里以外の家族には秘密裏に行っていたトレーニングの為、一切のふれあいがない彼らの家庭では、橙里以外に彼の体型を知る者は居なかった。


「燈芽、今日はいよいよ入学式だね!」

おつかれー( ´ ꒳ ` )ノ

ひっさしぶりの、キョウスケだよ〜。


影薄いけど、一応視点俺だからねー。ここに出る権利はあるのですっ!

…え?どゆこっちゃって?あー、なんかね、その時々の章で出演してるキャラクターじゃないと出ちゃダメって謎の決まりがあるらしくって…。

天の声『あー、それ、辞めることにしたー』

…ふぇ、いつから?

天の声『今日』

え…

天の声『みんなの存在忘れられても悲しいし、何より、ショタトウガとキョウスケ、橙里だけで回すわけにはいかんでしょ。ジェイもご好評なんだから』

あ、お、おう…。まあ…礼昴が決めたことなら…。でも、流石にトウガは…来ないよな…?

天の声『…さあ?』

あぁぁ…最悪だ……

天の声『キョウスケ、クヨってないで締めだよ、締め』

あぁ…。えと、俺は近いうちにまた引きこもりになるかもしれません。それは明日かもしれません。どうぞお楽しみにー…。


何その締め!!ちゃんとやってよ(`^´)  いや、だって俺、それなりに落ちてんだよ?好きって伝えた直後にあんなことされたこっちの身にもなってよ… いや、その心理を知るために過去編やってるんでしょ?キョウスケもちゃんと見てよ! わ、わかったよ…

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