二人のその後(2)& 「アンタがそんなクソだなんて思ってなかったよ」
一階のフロント前を通り、そのまま通路を直進するとそこには温泉の「ゆ」の字が書かれた赤と青の暖簾が見えてくる。
よほど楽しみだったのか、双子は暖簾が視界に入るなり勢いよく美香の手から離れ、走り出した。
「あっ、ちょっと待って!危ないから走っちゃダメよ!」
「「温泉____!!」」
美香は急ぎ足で二人の後を追う。そして__
「ちょっと待ったぁ____ッ!!!」
「ん?どうしたの?キョウスケ」
「どうした、じゃないよ!こっから先の展開なんて想像できるでしょ!」
「え?」
「女風呂だよ!俺たちが見たら覗きじゃん!!」
俺はトウガの側に置いてあったリモコンを取り上げると、彼から引き離した。すると、トウガは口を尖らせて俺の手中のリモコンに手を伸ばす。
「何言ってんのー。可愛い女の子の裸なんて滅多に見られないんだし、サイコーのご褒美じゃん。キョウスケだって男ならわかるでしょ?オレはね、こういう最後のご褒美がサイコーに美味しいから、死神続けてんの。キョウスケもやってみなよ。マジ最高だよ?」
「……」
「ん?」
「最低だよ、お前」
「え、なに、どうしたの急に」
「俺はもうエミとユウキ…桃花と奏のことを友達だと思ってる。だから、第二の人生を歩み出したあの二人の背中を押すことはしても、嫌がるようなことは絶対にしたくない。側から見たらただのいい子ぶってるヤツなんだろうけど、俺が俺であるためにも、もう俺はこれ以上あの二人には関わらない。だから__」
俺はレコーダーからDVDディスクを取り出すと、トウガに見せつけるようにしてディスクに呪力をめいいっぱい込める。すると。
パシ___
一筋線が入ったかと思えば、その線は瞬く間もなく全面に広がり、ディスクは粉々に砕け散った。
「な__ッ!?」
「俺は友達を守るためならなんだってする。それに…」
「アンタがそんなクソだなんて思ってなかったよ、トウガ」
「…っ」
「もしかして俺のことを女にしたのも、俺のことをオカズにしたかったから?それともオカズの領域超えちゃって、禁忌を犯したかった?」
トウガは俯いて黙り込み、何も答えない。
結局そうなのか…。
全部俺の早とちりで、トウガから俺に対する感情なんてものは一切何も無くて、この人はただ仕事で、その後の自分自身の快楽のためだけに俺と接してたんだ。そう考えると、なんだか全部が虚しくなってくる。今まで向けられてきた笑顔も、言葉も、温もりも、全てが偽りだったと……。
「何考えてんの…」
視界が涙で滲む。トウガは何も答えない。
「…ねえ。じゃあこれだけ教えてよ。俺のことどう思ってんの?ただの都合のいいやつ?遊び相手…?」
トウガは微かに口を開いた。そして、小さく息を吐く。
「そんなんじゃないよ。……キョウスケは、助けたかったから助けた。それだけ」
「…そっか」
答えになっていない答えと、イマイチ読みきれないトウガの心に焦ったさを感じながらも、俺は静かに答えた。
でも、これで一つわかった。トウガは俺を望んでいない。俺も、もうこれからはトウガを望まない。望んじゃいけない。やっぱりあの変な感情は、「変」だったんだ。
「…じゃあこれからは俺、きちんと転生のめどが立つまではリンドウと二人で死神やるんで。…あ、ちゃんと格好はバレないように__キョウでやるのでご心配なく。…リンドウ」
私は姿をキョウに変えると、宙に向かってリンドウを呼び出した。刹那。リンドウが淡い光に乗って現れる。
「はい、お呼びでしょうか。キョウ様」
「これからは私、リンドウと二人でって形がメインで動くようになるから。改めてよろしく」
「えっ?トウガ様はよろしいのですか?」
「うん、とにかく二人がいいの。それじゃ、行こう」
「あっ、キョウス___」
トウガは何か言いかけていたが、それを言うよりも早く、私たちは彼の自室を去って行った。
私は頭にのぼり切った血を落ち着かせるため、収容所へ足を運んだ。人気のない所に行けばまたトウガのことばかりを考えてしまって、どうにかなってしまいそうだったからだ。
でも、どうして……。
「キョウ様…本当に大丈夫ですか?トウガ様となにかあったのでは__」
「いやいや、本当になにもないよ」
「…そうですか。では、本当はタブーなのですが…失礼しますね」
リンドウは静かに言葉を紡ぐと、私の頭にそっと触れた。途端に、私の頭から溢れ落ちるようにしてフィルムが流れ出る。
「な…ッ!?」
「……」
彼女は目を細め、ゆっくりと私の記憶を見ていく。リンドウと私の間に広がる透過して見える私の記憶は、先ほどまでの残酷なやり取りが映し出されている。
「…なるほど。やはりキョウ様はご存知なかったんですね…」
「はぁッ!?そんな…っ、知ってるわけねえだろ!まだ会って一、二週間程度のヤツの性癖なんて…」
「…。着いてきてください」
リンドウは静かに告げると、私の記憶を戻し、収容所の奥へと足を進めた。
そして着いた先は、いつだったか私が幼女に変装し、カーリャと接触したあの繁華街だった。
「なんでこんなところに…」
「カーリャ様にお話を伺いに。あの方はトウガ様と歳も近くて、死神様に就任した年月日も近いのです」
「…へえ」
前の私だったらきっと、もっと驚いてたし色々思うこともあっただろう。しかし、この心は重く沈み、心と頭からは言葉も色も失せている。それくらいにトウガの言葉は重く深く私の心に突き刺さり、私の思考を一気に鈍らせたのだった。
「あっ、カーリャ様!」
「おおっ!リンドウちゃんじゃないの。どうしたの急に。もしかしてまたお手伝い?」
以前と同じように繁華街で街行く人々の流れに逆らい、一人挙動不審な動きをしていたカーリャはリンドウと顔を合わせるなりすぐに笑みを浮かべた。
「いいえ、今回は違います。実はカーリャ様にお尋ねしたいことがありまして。今、お時間よろしいでしょうか?」
「え?うん、大丈夫だけど…」
「ありがとうございます!では早速行きましょうか」
リンドウはにっこりと笑うとカーリャと腕を組み、歩き始めた。
「ここって…」
「お恥ずかしながら、今の私の家です」
「…へえ」
そして着いた先は、収容所のラグジュアリーホテルの上層階だった。いくらかは整っているが、いつかのトウガの部屋同様、資料の束があちらこちらに散らばり、ジャケットやバスローブなどがソファに乱雑に掛けてある。
「カーリャさんはちゃんとしたお家持ってないの?」
「…この間、焼けちゃったんで…。今、精霊の子たちが空きを確認してくれている最中なんです。それにあの時、大事な資料のデータも燃えちゃったので中々家探しの時間が取れなくて……」
「なんかごめんなさい…」
「いえ、悪いのはトウガですから。それで、リンドウちゃん。聞きたいことって?」
あれ。今トウガのこと、呼び捨てした?
「はい。お話しというのも、そのトウガ様のことなのです。お話しすると長くなってしまうので省かせていただきますが、カーリャ様の知るトウガ様を教えていただけませんか?」
「…そんなことを知ってどうする?」
「え?」
途端にカーリャの態度は一変し、空気はズシリと重くなる。この様子だと、何か裏がありそうだ。
「悪いね、リンドウちゃん。確かに俺とアイツは古い仲だし、俺の記憶でもアイツのことを話せることはたくさんある。けど、そのほとんどはもうリンドウちゃんも知ってることだよ」
「……」
カーリャは大きく息を吐くと、深く腰掛けたソファで頭の後ろに手を組み、大きく身体を逸らした。
この様子だと、彼からこれ以上の言葉は出てこないだろう。俺は俯いて次の言葉を探すリンドウを一目見ると、カーリャへと静かに問いかけた。
「もしかしてさ」
お疲れちゃーんっ!
カーリャだよ〜!⸜(* ॑꒳ˆ* )*
ねぇねぇ聞いた?
トウガもさ、幼女好きだって話!!
俺、何気にトウガとはそれなりに話してる方だとは思ってたから、ちょっと意外っていうか…めちゃくちゃ驚いてるんだよね!!
どっちかっていうとアイツは仕事に関してはバカ真面目で、担当した相手の転生後のことは一切興味ないみたいな、ドライなヤツだと思ってたから…。あんな顔みたの、初めてかも。
あ、ちなみに誤解されたら困るから一応言っとくけど、本当は俺、トウガのライバルだからね!?同期であり、好敵手!みたいな!!( `^´ )
一応本人の前では向こうが立場が上だからそれっぽく振舞ってるけどさぁ…。いつかは俺が勝つ!
٩⁝( `ᾥ´ )⁝وうぉぉぉぉお!!
んじゃ、ということで!!また明日もお楽しみにーーっ!!




