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ソーセージ


視界が晴れてくると、眼前に広がっていた景色は見覚えのあるものだった。


ここって___


「みんな、怖がらせちゃってごめんね。特にユウキくん、オレ、そんな物騒なヤツじゃないからちょっと話しを聞いてくれないかな…?」


トウガはいつもに増して穏やかな声を出すと、ユウキに優しく話しかける。私たちはいつの間にか、彼の部屋に戻ってきていたようだった。


「…いいけど。殺すんじゃないなら、わざわざこんなところにまで連れてきてなんなの…?」


先ほどまでとは打って変わった様子のトウガに、少しの戸惑いを見せたものの、せっかくの楽しみが邪魔されたからかユウキはムスッとした顔でそっぽを向いた。


「うん。実はどうしても見せたいものがあったんだ」


「見せたいもの?」


トウガは静かに呟くと、トウマにそっと触れる。呪力が彼の全身を包み込み、霧のように漏れ出す。すると、どこか遠慮がちなエミの姿が露わになる。


「…エミ!!」


「ユウ…キ…。えへへ…。アタシも死んじゃった」


霧が完全に晴れ、彼女の姿が元通りになると、エミはためらいながらもユウキの前に出た。


「…ッ!!バカ!!!」


刹那。ユウキは大きく振りかぶると、エミにビンタを喰らわせた。


「ぼくがいつエミに死ねなんて言った!?知ってるよね、エミ。ぼくが自殺じゃないって!!ママに殺されたって!!!」


「でも…。理不尽だよ…っ。ユウキは何も悪くないのに…!あんなの、残酷だよ…!ユウキは知らないだろうけど、ユウキのママは『これで自由だ』って言ってたんだよ!?あの人が産んだ命を、あの人が殺したんだよ!好きな人が同じ性別だったってだけで…!!アタシは……。悔しかったんだよ…」


「…エミは知らないと思うけどね。ママ言ってたんだ。ぼくが産まれるすぐ前、エコーの形は女の子だったんだ。けど、生まれてみたら男だった。パパもママも、女の子が良かったからそれはもう喜んで女の子用のベビー用品を買ってたみたいなんだけど、ぼくは男だったから…。知っての通り、怒ったパパは勢いでそのまま家を出て以来お金を取りに来る時以外会わないし、ママは男のぼくなんか興味ないから育て方雑だし。だから尚のこと、ぼくがトランスジェンダーだってことが許せなかったんだと思う。だって、これでもう女の子の可能性は消えちゃったんだから…」


「…知らないよ。そんなの」


「え」


「そんなの、知らないよッ!!アタシはただユウキのことが好きで、いつもずっと一緒に居たいって思ってた!!家族みたいに思ってた!初めてカミングアウトしてくれた時も嬉しくて、もっともっと親友を超えた『何か』になれた気がしたのに…っ!!性別がどうとか、中身がどうとかアタシには関係ないの…!…ねぇ。…お願いだから…っもうアタシの前から居なくならないで……」


「…ごめん」


エミはユウキの肩にすがるようにして抱きつくと、ずるずると崩れ落ちた。その顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになり、いつもの彼女らしさは微塵も感じない。


「泣かないで。ほら、ぼくここにいるよ。大丈夫。もう離れないから」


「ほんと…?」


「うん。約束」


「約束…」


「来世はホントの家族になろう。それで、一緒に幸せになろう」


ユウキはエミの前にしゃがみ込むと、その視線の先に小指を差し出した。


「ん」


「うん」


「「ゆーびきり、げーんまん、ウソついたら針千本のーます!ゆびきった!!」」


二人は息を合わせると、小指を離す。


…でも、そんなこと可能なのかな…。


「トウガさん…?」


「…うん。でも、ムリじゃない」


え、心読んだ!?でも、何か策がありそうだ。


「二人とも、今日はもう疲れたでしょ?奥にベッドがあるからそこで寝て。オレたちはテキトーに寝るから」


「えっ、でも…!」


「いーからいーから!元はと言えば、オレが勝手に連れてきたのが悪いんだし」


「じゃ、じゃあ…お言葉に甘えさせてもらいます」


二人は顔を見合わせると、楽しげに笑った。エミのあんな顔を見るのは初めてだ。


…私もあんな風に笑い合える友達が居れば、もう少し長生きできたかもしれないな。


ドアを挟んだ向こうの部屋から漏れ出す明るい空気は、私の心を僅かに締め付けた。




エミとユウキが寝静まった頃。早速、私とトウガで緊急会議を開くことにした。が、なんとその場所は一度部屋を出て隣室となる場所にある彼の所有する倉庫の棚の裏から行けるエレベーターの上の小部屋。

小部屋自体はある程度トウガが出入りしている気配は感じられるものの、その倉庫は長らく手が付けらた様子はなく、ホコリを被っていた。


「…なんでこんな場所…。しかもめっちゃ散らかってるし…」


「あはは…ごめんごめん。これでも頑張って片付けた方なんだけどね…。一階だと声が二人に聞こえちゃうから…」


「…?」


「あっ、いや、その…。こっちのが落ち着いて話せるからさ!!ほら、二人が寝てるのにオレたちの話し声で起こすのも申し訳ないじゃん!?」


「あー、なるほど」


さすがトウガさん。大人だなあ。


「じゃ、じゃあ、早速オレの計画を話してくね!」


「はい」


トウガはモニター前のデスクチェアに腰掛けると、私を一人掛けソファに促した。


「ええとね。まず、転生時に来世で確定で家族として産まれさせるなら、双子にするしかないんだ。原理としては、一卵性双生児いちらんせいそうせいじみたいなものかな?」


「いちらんせーソーセージ…?」


「ソーセージじゃないよ、双生児。簡単に言えば、一つの受精卵に一つの精子が受精して同時に母体で成長して生まれた人のこと。まあ、クローンって言えばわかりやすいかな。…悪い例えだけど。だから、血液型も性別も一緒になるんだ」


「ほぉー…?」


「んで、話を戻すけど、転生する時は基本的には魂は一つずつ現世に送り届けるんだ。ただ、それだとめちゃくちゃ手間がかかるから、フィルムのデータを元に、相性チェックをして一気に向こうに送ったりもする。そこそこ良いなら親子又は兄弟。めちゃくちゃ良いなら、双子。そんな感じで。でも、さっき言った双子にさせる場合は、二つの魂を一つにするんだ。その方が、転生時の魂の消滅のリスクも減るし、何より、母体の中で『孤独』や『悲壮感』を感じにくくなるからね」


「へえ…。ん…?でも、親子とか双子でも仲悪い人居るじゃん。それ、相性良いの?」


「うん。相性の話は母体をメインでチェックするからね。そもそも、現代医療や人体がある程度進化したから、出産が基本的には誰でも考えられるモノになったけど、昔はそうじゃなかったから。出産っていったら命懸けで、産まれてきても五歳までには死んじゃうなんてことザラだったんだ」


「そんなすぐに死んじゃうって考えたら、大切に育てようって思うね…」


「でしょ?で、そんなわけだからせめて身体の中だけでも健やかに元気に育てるようにって意味合いも含めて、相性チェックをしてるってワケ。産後の相性がいいかどうかは、その人たち次第だよ。多少なりとも、元の魂の性格は受け継いでるからね」


「なるほど…。じゃあ、結局エミとユウキは?相性的にはどうなの?」


「二人の相性はすごくいいと思う。けど、転生時に魂から前世の記憶は浄化されて全部無くなるんだ。稀に、記憶が強烈すぎて浄化されきれてなくて残ってるって人も居るけどね。だから、来世で二人がどうなるかはあの子たち次第かな」


「そっか。…来世では幸せな人生を送れるといいね、二人とも」


トウガは目を伏せると、ゆっくりと頷いた。


私はロクに友達も居なくて、いつも休日返上して出勤してばかりで私に目もくれないクセに、余計な所で口出しをする父ちゃんを嫌ってた。朝忙しなくパートの支度をしながら私の世話を焼き、夜遅くに帰ってきては散らかった部屋を見てガミガミと叱る母ちゃんをウザったく思ってた。けど今思えば、それは間違ってたのかもしれない。


…思い返せば数ヶ月前、父ちゃんは新規プロジェクトを任せられてそれを成功させれば昇進するって言ってた。そうすれば給料も上がって、有給でもっとたくさんいろんな所に行けるって。母ちゃんにももっと楽させられるって。


母ちゃんもこの間新しく簿記の資格取るって言ってたっけ…。簿記となんかの資格があればどっかの大手商社の必要人材になれるって意気込んでた…。


……あれ、なんで俺、死んだんだ…。なに大事な時に、二人に迷惑かけてるんだ……?俺は俺のことばっかで…なんで…


「キョウスケ?」


「…あれ、俺…。なんで___」


 気がつくと、俺はボロボロと涙をこぼしていた。身体もいつの間にか、元に戻っている。


「…大丈夫、オレがいるよ」


「でも…俺が……二人を…。父ちゃんと母ちゃんを…。俺が……っ」


涙は溢れるのに、苦しくない、熱くない。本当は、苦しいはずなのに。


そうだ、俺、死んだからだ。身体が無いから、もう、苦しくなれないんだ。涙の雫さえも、感じられないんだ。本当に俺は、馬鹿なことをしたんだ……。


「キョウスケ」


 トウガは俺の名を呼ぶと、優しく俺を包み込んだ。途端に、俺の身体は呪力で包み込まれ、再びできた身体に彼の温もりが伝わる。


「…ありがとう。私___って、え」


しかし、その新たにトウガが俺に授けた肉体は元の俺の姿だった。服装も、生きていた時に俺が好んで着ていた部屋着を着ている。


「な、なんで……」


「苦しみたいのに苦しめないのは辛いから。…オレもね、生きてる時似たような経験あったんだ。辛いのに辛いって言えなくて、逃げたいのに逃げられなくて。死んだ時はもう、無意識だった。でも、後から思えばオレを支えてくれた人はずっとオレのことだけを守ってくれて、心配してくれてた。なのにそんな大切な人を置いてけぼりにしてしまった。だから、キョウスケの気持ちはなんとなくだけど分かるんだ」


「……」


「いっぱい泣いて、いっぱい苦しみな。今できることを今しなきゃ」


俺はトウガの言葉に背を押されたかのように一気に声を上げて咽び泣いた。走馬灯のように、今までの父ちゃんと母ちゃんとの記憶が浮かんでは消え、浮かんでは消えを繰り返し、最後に頭に浮かんだのは、三人で幼少期に行った、夢の国の記憶だった。


あの頃は父ちゃんもたくさん遊んでくれることが多くて、笑顔の絶えない家庭だった。俺は、肌で幸せを感じていた。なんでその気持ちを忘れちゃったんだろう…。


「…ありがとう。もう、大丈夫」


「うん」


トウガはそっと俺のことを離すと、側に置いてあったティッシュケースを温かな顔で俺に差し出した。


「はい、よかったら使って」


「うん…。…鼻、赤い?」


「ふふ…。すごく」


俺はティッシュケースを受け取ると、思いっきり鼻をかむ。鼻の奥がツンとして、胸の内が少しすっきりとする。


「ありがとう。おかげで楽になった…。…でも、トウガさんは俺じゃなくてキョウが良いんじゃないの?キョウの方が、もっと助け甲斐が___」


「違うよ」


「え」


「オレは、キョウスケのことが好き。確かに可愛い女の子とか、キョウスケの面影があるキョウとかも好きだけど、やっぱりオレの一番はキョウスケなんだ」


「…え」


俺は、トウガの言葉の意味がわからなかった。


好きってなんだ?


キョウよりも、俺が好き?女じゃなくて男が好き?それはユウキと同じような恋愛感情を指すのか、それとも男の友情のようなものを指すのかどっちなんだ?


てかなんだ、この俺の気持ちは。なんで、嬉しいんだ。


「それってどういう意味?」


「え?」


「いや、深い意味が無いならいいよ」


「え」


「俺、今日疲れたから寝るね。おやすみ」


「あ…うん!おやすみ…!」


俺は部屋の隅に敷かれた布団に横になると、間もない内に睡魔に襲われ、そのまま深い眠りに落ちた。

おつかれーっ!(^ ^)


トウガだよー。

今日は著者(礼昴)の自信作の回らしい。

ちなみに、一応言っとくけどキョウスケのこと本気だからね?オレ。

でも、なんかキョウスケのこと見てると昔のこと思い出すんだよ。まだオレが生きてた時代のこと。

天の声『それ以上言ったら、消す(キャラ消滅)よ…?( *´˘`*ꐦ)』

ヒィ…ッ!?なんか、聞こえた…ッ!!

じゃ、じゃあなんか今日は悪寒がヒドイから今日はこの辺で…っ!!

また明日もお楽しみに!!

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