深い関係
それから少しして、俺は早速エミのことをトウガに話すことにした。
正直、彼がどんな反応をするかなんて見当もつかない。相手にもしてもらえないかもしれない。けど、行動を起こさないことにはなにも始まらない。俺は、「人生最期の始まりの日」を境にそれを知った。
「トウガさん。実は、お願いしたいことがあるんです」
「ん?どうしたの?突然改まっちゃって」
「その…エミのことなんですけど…」
「あ、それだったらもう大丈夫だよ」
「…え」
「キョウスケが出ている間に、居場所が分かったんだ。今、ジェイが向かってくれてる。捕まえ次第、すぐに裁判で___」
「ま、待ってください…ッ!!」
「…?」
「悪いヤツじゃないんです。アイツ。俺、会ったんです。エミに。ここ出たすぐ後アイツに会って、落ちてる俺見て話し聞いてくれて…。そしたら、アイツもアイツなりに苦しい人生だったってこと教えてくれて…。話しだけでも、聞いてほしいんです」
俺が静かに言葉を紡ぐと、トウガは顎に手を添えたまま、ゆっくりと頷いた。
「…なるほど。…やっぱそうだったんだね…」
「え?」
俺が言葉を詰まらせると、背後の玄関のドアがゆっくりと音も立てずに開く。するとそこには、呪力によって口を封じられ、黒い縄で身体を縛られたエミの姿があった。
「エ、エミ…!」
俺は慌ててエミの元へと駆け寄り、彼女の身体を縛る縄を無理やり引っ張った。すると、彼女を縛る黒い縄はいとも簡単にするすると解け、エミは苦しそうに咳をしながら、片膝を着いて立ち上がった。
「…ッホ…ェホ…!…はぁ…。やっぱり自殺したら楽になるって聞くけど、そんな簡単にはいかないモンだね。…ありがと。助かったよ」
「いや、俺のせいで…!」
「んーん。アタシを見極めるためとか、アタシに妬いてるとか、話聞いてる限りじゃ、まーそんなとこじゃないの?そこの死神は。今縄解いたのも、アンタの意思でしょ」
「えっ!?」
俺は反射的にトウガを見る。しかし、彼はよそを向いてエミの言葉に一切反応しなかった。
…いや、正確には顔が引きつっていたから、図星なのを隠していたのかも。
「…えっと、とにかくトウガさんはエミのことを受け入れてくれるってことでいいの?」
「…キョウスケが認めたコなら…いいよ」
「あはは、ありがと。じゃ、早速行こっか」
そして、俺たちはユウキを探しに再び収容所へと向かって行った。
収容所の裏口、あまり人気のない死神専用のバックヤードのようなところに着くと、トウガはくるりとこちらに振り返った。
「オレとキョウスケは死神として収容所に入ることはできる。けど問題は、君がどうするかだ。その友人とやらの顔がわかるのは君だけだけど、君は他の死神たちから指名手配されている身でもある。フィルムをシェアしてオレとキョウスケとジェイの三人で探すって手もあるけど___」
「「あっ!!!」」
途端に、エミはどデカい声で何かを思いついたかのように叫んだ。刹那、トウガは慌てた様子でエミの付近を呪力で覆った。途端に彼女の姿は消え、声と気配だけになる。
「な、なに!?てか、わざわざ見つかんないように人目避けてんだからちょっとは気をつけろよっ!」
「ごめんごめん!いや、アタシも死神になれたらって思って!!キョウスケ、アンタも死神になれるんでしょ?じゃあアタシも!!」
「いや、俺は…特別っていうかなんていうか…」
「えーっ!?なんで、ヒドいヒドいヒドい!ケチーーッ!!なんでキョウスケはよくってアタシはダメなのーっ!?」
姿は見えないものの、ジタバタと暴れ回っている様子のエミの姿が目に浮かぶ。それに何より自己主張をする為か、耳元で叫ぶから煩いのだ。
「トウガさん。一時的にエミもなれませんか?死神」
「…オレは、やだ」
「?」
「死神にしてあげたいなら、キョウスケが自分にしたみたいにその子に肉体を造ってあげなよ。どんな風にしたいってイメージして、身体と服頭の中で作って。きっと、その方がオレなんかよりもいいんじゃないの?」
「…そっか」
なんか、さっきから様子がおかしい。エミが来てからずっとだ。どこかよそよそしいというか、冷たいというか…。まぁ、いくら理由を説明したって言ったって、俺の気持ちをトウガさんに話したわけじゃないからね。もしかしたら、今のトウガさんにとってこの件は人ごとで、どうでもいいのかもしれない。
「じゃあ、早速やらせてもらうね」
「…うん!」
俺はエミの手を取ると、ゆっくりと息を吐いて目を瞑った。
イメージはこう。彼女の明るくて活発な雰囲気に合わせて、暗い霊界でも目立つライトブラウンの髪のナチュラルパーマ。メッシュで暗めのローズピンクを加え、アクセントに。そして、服装はみんなと同じように、ロングジャケット。けどそこに遊びを加えてジュエリーの付いたピンやゴールドのチェーンを付けることで、エミっぽさを演出…っと、こんな感じかな!
俺は出来上がったイメージを脳内から彼女の身体に纏わせるようにして流し込んだ。すると、エミの身体や服装は徐々に変わっていく。
「お、お、ぉぉ___」
霧が晴れ、改めてその姿が露わになると、そこには目をまん丸にしたエミの姿があった。
「え…え、アタシ…どう…なってる…?」
「あはは、知りたい?」
「え、うん…でも知りたくないような気もするけど…」
俺の後ろで、トウガの息を飲む音が聞こえた気がする。まぁ、気のせいだろう。
「はい、鏡」
「ありがと…」
俺から鏡を受け取るとエミは自身の姿を見て絶叫。文字通り飛び上がった。
「ええええ________ッ!?!?!?これ、アタシッ!?いや、いやいやッ!男になってるし!しかもなんかイケメンじゃん!?でもなんかアタシっぽい??えっ、ウソ、えっ!?え?えーッ!?」
いやー。同志がいるっていいなぁ。
「ね、トウガさん。早く、俺も」
俺は大興奮しているエミを横目にトウガの方を向くと、彼の前で「気を付け」の姿勢を取った。
「…ねえ、キョウスケもあんな心境だったの?」
ふいに、トウガは俺に質問を投げかける。
「え、うん。まぁ…。さすがにあそこまでじゃなかったけど可愛いなとは思ったし、俺の面影が残ってるのも俺がまだ生きてる感じがして、『生きてていい』って言われた気がして嬉しかったよ。改めて今思えばね」
「…ふーん。じゃ、始めるね」
トウガはどこか嬉しそうに笑うと、俺を呪力で包み込む。そして俺は再びキョウの姿に戻った。
エミが死神の姿になったことで、私たちは堂々と死神専用の通路へと足を踏み入れた。薄暗い廊下を収容所へ真っ直ぐ進んでいくと、向かいから別の死神が歩いてくる。俺はいつもに増して硬い面持ちになっていた。
「ねえ、キョウ」
「ハ、ハィィ!?」
「あはは、なにその返事」
「い、いや…なんか変に緊張しちゃって…」
「そっか。んで、その子の名前なんていうの?」
「え?エミ___」
「前世は女の子だったけど、死神の時に希望して男の子の身体にしたって聞いたけど。オレが死神になったばかりの時はそんなコ居なかったし、珍しいなって思って」
そういうことか。これからもずっとエミって名前で通すのは厳しい。だから、ここで新たに名前をつけようってことなんだろう。でも、エミ自身はどんな名前がいいんだろう…?
「___トウマ。僕、トウマって言います」
「「!」」
間も無く、隣から声が通る。その声はエミ、もとい、「トウマ」のものだった。
「えっ…と、名前の由来とか、あるの?」
「うん。あの子の推し。二次元のキャラだけど、あのキャラがマジで三次元にいたらきっとユウキはもっと長生きしてたし、もしあのキャラとユウキが付き合えてたらきっと幸せだったはず」
「…そっか…」
「だから、僕が今からちょっとでもユウキを幸せにするんだーって想いも込めて、トウマ。どうかな?」
「いいと思うよ」
「「えっ」」
私が口を開こうとした刹那、トウガは静かに言葉を紡いだ。
「すごくいいと思う。正直まだ君のこと信用しきれてないところはあるけど、君の人柄はもう大体わかってるつもり。…とは言っても、君のことを認めたワケじゃない。キョウのお願いだから協力するだけだ。あまりキョウに迷惑をかけるようならすぐにでも正体をバラすからそのつもりで」
トウガはじっとりと重い視線をトウマによこすと、口を一文字に結んだ。
な、なんだろ…。いつもはこんなじゃなくてもっと人当たりいいはずなんだけどな…?
「…なんか…うん…ごめん」
「アハハッ!なんかこの人面白いねっ!アンタたち見てると飽きそーにないやっ!てか、今思い出したけど、もしかしてトウガさんって僕のこと助けてくれた人だったりする?だいぶあの時とは雰囲気が違うけど…」
「…へえ、よくわかったね。さすが死神を欺くだけある」
「おおっ!やっぱり。じゃあついでにもう一つ。あの時僕を殺したのも、キミだよね」
トウマは楽しそうに笑うと、トウガの顔を覗き込むようにして迫った。
「…どういうことかな」
「首を吊ろうとした時。僕少しためらったんだ。紐に引っかけて、背伸びして。でも、コレでホントに死ねるとは限らない。それで苦しい思いして、病院で目を覚ますのだけはイヤだ。そんな思いが頭を過ったんだ。でも次の瞬間、紐が僕の首をスッパリ切る感覚がしたんだ。そしたら、キミとキョウが居た」
…トウガさんが…トウマを殺した…?自殺じゃ、なかった…?
「まぁ、それでよかったんだけどね。僕は死にたかったから。後押ししてくれたことには感謝してる。けど、あのモヤモヤだけは消しておきたいんだ」
「感謝される筋合いはないよ。オレは死神としての仕事を全うしたまでだからね。心を亡くした者は、いずれ死ぬ。特に、君の場合はね。友人を亡くして、罪悪感に苛まれながら男を何人も地獄に叩き落として。けど結果、それで君は心を亡くした。ムダな正義だったんだよ。彼らに制裁を下す必要はあったのかな。結局君が死んだのなら、それを友人は悲しまないのかい?」
「…!!」
「君は友を幸せにすると言った。なら、なぜ君は死んでいる?生きて君が笑うことで、彼は幸せになるんじゃないのかい?」
「…っ。…っるさい、うるさいうるさいうるさいうるさい____ッ!!!オマエに何がわかるんだ!!ユウキはアイツらに殺された!アタシがアイツらを殺さないで誰がアイラに制裁を下すんだッッ!!そうでもしないとアタシは…っ…生きてても死んでても…意味が____」
「無くないよ」
ボロボロと涙を流しながら崩れ落ちるトウマの肩に、トウガはそっと手を添える。
「君の存在が、彼の存在意義なんだ。それは逆も同じこと。親友とかカレカノってそういうことでしょ?もう死んだから意味ないとかじゃない。この世界で会えるなら、まだチャンスはある。会ってしっかり話して、また来世で親友になればいい。それだけの話だよ」
「…うん。ありがとう」
「どーいたしまして。…じゃ、少しでも気持ち落ち着いたなら鼻と涙拭いて。死神がそんな情緒不安定だと怪しまれるよ」
トウガは指を鳴らすと、ポケットティッシュを取り出してそれをトウマに差し出した。
…それも呪力なのか…。ポケットじゃないのか。
「ほら、そろそろ着くよ。気引き締めて!」
トウガは私たちに声をかけるとジャケットの襟をピシリと整え、翼をバサリと動かした。
そんな彼の後ろ姿はいつもより何割も増してかっこよく見えた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました
⸜(*ˊᗜˋ*)⸝
今日は友人との関係についてを考えるようなシーンを入れてみました。
読者様は深い関係を築けるようなお友達さんはいますか!?私は…ボッチちゃんです!!(˶ᐢωᐢ˶)
それでは、また明日!!お楽しみにーー!!




