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新しくない出会い

 カーリャの始末が終わると私とトウガは二人、部屋に戻ってきていた。

 帰り道でも少し話していたが、部屋ではお茶とおせんべいを片手に、カーリャから聞いた話の続きをトウガに話していた。

「___そっか。じゃあ仮にアイツを殺したとしても、また他のヤツが…って可能性もあるのか。…めんどくさいな」

「人伝ってのがまた、ね」

「だね。誰なんだろう。黒幕って」

 やっぱりここはアイツが嘘付いてて、セイロクだろ…ってめっちゃ思ってるけど、多分トウガさんもそうだよね。立場的なもので言えないんだろうけど。

「わかんない…。でもまた私たちの邪魔してくるようなヤツがいたらさ!二人でぶっ飛ばせばいいじゃん!」

「…ふふ、キョウらしいね。ありがとう。そう考えてみようかな」

 トウガは硬い表情を崩すと、そっと笑った。

 …やっぱり、この人には笑顔が似合うな。


 それから私たちは本来の目的である、「エミの捜索」についてを話し合った。すると、カーリャから新たに情報があったことが分かった。

「実はオレたちがカーリャと接触する前、カーリャはエミの担当をした面接官と会っていたみたいなんだ。カーリャの記憶によると、彼はよく収容所内のシアターとラグジュアリーホテル内の喫茶店に訪れていたらしい。明日、行ってみてもいいかもね」

「了解。じゃあ明日のアラームよろしくね。私、起きれないから」

「え、オレ?」

「うん。だってスマホもないし、そもそも朝ムリだし…。トウガさんしか頼れないもん」

「オレしか、頼れない…」

 私がちゃっかりトウガにお願いすると、彼は少し俯いて、ポツリと言葉を溢した。その顔はどこか照れているようで、嬉しそうでもある。

「…ん?」

「なんでもないなんでもないっ!!それじゃあ、寝よっか!電気消すよ」

 二人でベッドに移動すると、トウガはパチリと灯りを消す。そして彼は私がいるベッドに腰掛け、私の横に入ってくる。

 これ、側から見たらカレカノなのかな?歳の差カップルなのかな?トウガさんはどう思ってるのかな?…なんかちょっと、暑いな…。

「どうしたの?すごいドキドキ聞こえるけど…?」

「…え?」

 私はその言葉に思わず心臓に手を置くと、自分でもびっくりするくらいに鼓動が速くなっていることに気がついた。

 な、なんでだ!?そりゃあ久しぶり…?にトウガさんと一緒に寝れて嬉しいけどさ…!普通こんなになるか…!?

「な、なんで…!?」

「キョウ」

「な、な、なに…!?」

「抱きしめてもいいかな」

「ふぇぇッッ!?」

「イヤならしないよ」

 嫌じゃない、でも恥ずかしい。どうしよう…。

「あ…その…えと……えと…」

「するね」

「え」

 トウガはそっと私を包み込んだ。温かく、優しい感覚。彼の体温がじんわりと服を通じて、私の頭や背中に伝わってくる。

「…あったかい…」

「ふふ。オレ、体温高いんだ。…キョウ、もしかして冷え性?」

「…うん。なんかダサいよね。私の周りに冷え性の男子なんて居なかったのに…」

「ダサくなんてないよ。オレも昔は冷え性だったし。それに、オレが温められるから……」

 な、な、なにを言っているんだァァァッ!?!?もうこの領域まで行ったら、カレカノじゃないか…っ!お、俺は…そういうのじゃ…ッ!!!

「ご、ご、ご、ごめんなさいッッ!俺…っ、気持ちはありがたいですけど…ッ、スミマセン…ッ!」

「あっ…!キョウスケ…!!」

 俺は咄嗟に布団を出ると、トウガを残して彼の部屋を出た。



 部屋を飛び出して、死神居住区の街をトボトボと歩く。

 こっちに来てこんな気持ちになるのは初めてだ。まさかまた、こんなモヤモヤするなんて。

 俺、トウガさんに酷いことしちゃったなぁ…。怒ってるかな…怒ってるよな…。でも、まだ受け入れられる気持ち…持ってない…。いや、持っていいのかわからない。俺は身体は女でも、中身は男。トウガさんに失礼すぎる気がする。

 俺はふと横を見ると、路地裏のような細い道を見つけた。

 丁度いいや。今の俺にぴったりだ。

「おにーさん、そんな暗い顔してどーしたの?」

 俺は深いため息をついてその場にしゃがみ込もうとすると、後ろから声をかけられた。するとそこには、エミの姿があった。

「……」

 今の俺には、この女にムカつく気力すらなかった。ただただ、どうでも良かった。

「えー、スルー?酷くなーい?話、聞くよー?」

「ほっといてよ。どうせアンタなんかにわかんない」

「それ、自殺した相手でもマジで言えるコト?」

「…え」

 振り向いた先のエミの顔は、真剣な眼差しをしていた。

 コイツはこんな顔もできるのか。想像もつかなかった。

「話し、聞くよ?」

「…わかったよ」

 そして俺は、仕方なくトウガさんと俺の関係、そして俺の想い、これからどうしたいかについてを赤裸々に話した。初めはもう二度と会うことのない相手だからと思って割り切って話していたが、エミは何一つとしてバカにすることなく、真剣に俺の話を聞いてくれた。

「___なるほどね。そりゃーアレだ。もしかしたらキミ、気づいてないかもだけど同性愛者ってヤツなのかもね。いわゆる、LGBTQ」

「発音だけは聞いたことあるけど…。まさか…俺が…?」

「そーだよ〜、そのまさかだよー!すごいじゃーん、アタシの周りにも一応いたけどこれまた死んじゃったから激レア人種〜!パチパチパチパチ〜〜っ」

「軽いな…。てか、なんでまた」

「んー、話せば長いんだけどね。辛かったみたい。アタシ以外みんな、その子を拒絶するから。だからアタシ、恨んだよ。そのみんな。殺してやろうかとすら思った」

 そんな過去が…。

「その子…ユウキもね、男の子だったんだ。でも、トランスジェンダー…あ、生まれ持った身体と実際の性別が違う人のことね!で、中身が女の子だったから、好きになる相手がみんな男の子で。だから、いつも好きな子ができた時はキモチ隠すのが辛そうだったんだ。でも、高校二年の時。クラスの真ん中タイプの男子が、それに気づいて学年中にばら撒いて…。気がついたら、ユウキは不登校になってた。好きな子も、拒絶してた。ユウキの親も、そのこと知った時は、『どうかしてる』って…ありえないよね…。自分の子供なのに。そっからだよ。ユウキがおかしくなったの。夜になったら外に出て、いろんな女の子と遊ぶようになった。危ない場所にも、行くようになった。そんな中、学校帰り会いに行ったら…死んでた」

 俺は、言葉が出なかった。きっとエミのこの言葉はウソじゃないだろう。胸に突き刺さるようなこの痛みも重さも、それがきっと、人一人の人生を表しているんだろう。けれど、それならなぜ、エミは過ちを犯してしまったのか…。知りたい。

「そっか。ならエミはさ、なんでたくさん男の人苦しめるようなことをしたの?結果としてエミも追い詰められちゃったんなら、本末転倒なんじゃないの?」

「えっ。なんでそれ知ってんの!?ま、いいや。その苦しめた男ってのはね、みーんな、ユウキを苦しめた男たち。キモいって言ったり、あからさまに避けたり。その中にユウキが好きになったヤツも居たよ。だから、アタシめいいっぱい可愛くして、そいつら誘惑して、立派なお葬式開いてあげることにしたの。ユウキの親に話したら、好きにやっていいって言ってくれたからさ。そんでイン◯タでその子の話したら、LGBTQの人がいっぱいお葬式参列したいって言ってくれたから…。一人じゃなかったんだよ。ユウキ。だから、ユウキは最期、報われたの。私は三人の男子除いて、あのクズ共を社会的にも金銭的にも抹殺しちゃったから、地獄行き確定だけどね!アハハッ!」

 これでもう、確定した。エミは悪いヤツじゃない。友達想いの、いいヤツだ。

「最後に一つ、聞いていい?」

「なーに?」

「なんで裁判の前、脱走したの?」

「え、そこまで知ってるの?なになに、アタシのストーカー?ハハハッ!そんなのカンタン!最期に一目、ユウキに会いたかったんだ!ちらっと聞いた話なんだけど、相当なワルじゃない限り、一年から二年はこの収容所で過ごして、邪念や無念を晴らすんだって。中には居心地が良すぎてどんどん無念を思い返してはそれを晴らしていく魂さんもいるらしいけど…。あの中にいる死神さんたちは、肉体を必要とする無念を晴らしたいヒトのために居るっぽいよ」

「え。肉体を用いた快楽はなんとかって聞いたんだけど…」

「うん、本当はダメなんだって。けど、暗黙の了解ってヤツ?無念があるままだと、転生できないらしいから、それで死神さんたちが一部のヒトのために、身体をあげてるらしいよ。……ここだけの話、死神さんたちにも性欲あるらしいから肉体を授けた条件として、コッチの身体を求めてくる人もかなりいるみたい…。裁判官の人がコッソリ教えてくれたから、かなり有力情報だよ」

 トウガさん、それ知ってたから「身体を使ったことはできない」って言ったのかな…?

「…そうなんだ。…実は俺さ、死んだ時助けてくれた人…死神?とまだ繋がりあって。もしかしたらエミのこと助けてくれるかもしんないから、ついてきてくんない?」

「…マジ?なんか最近アタシ指名手配されてるような気がするんだけど…騙されてない?」

 勘は鋭いんだな。

「事情は俺から説明する。あの人も物分かりの悪い人じゃないから大丈夫だよ。…多分」

「…わかった。アンタを信じるよ」

 そして、俺たちはトウガ宅へと向かっていった。


 トウガの部屋の前に着くと、ドアの内側からは黒い霧が漏れ出していた。部屋の中からも、何やらおどろおどろしい空気が漂ってきている気がする。

「「な、なんだ…?俺…やっぱり…」」

「「アンタ、なにしたの!?」」

「「いや、何も…!いや、したけど…!話した通りだよ!俺___」」

「「アンタが行って謝るしかないでしょ!アタシはなにもできないよ!」」

「「うわぁぁっ、押すな、押すなッ!」」

「「静かにっ!ホラ、はよ行ってこいッ!」」

 俺は無理やりにドアの真ん前に押し出されると、スレスレのところで立ち止まる。殺気とも取れる感覚がドアの向こう側から伝わり、俺は思わず身震いした。

 い、行くか…。

「あ、あのぉ…。ただいま戻りましたぁ…」

 部屋は暗く、ほぼなにも見えない。いつもに増してじっとりと重い空気が、俺にまとわりつく。

「あのぉ…」

 俺がさらに不安に駆られた、その時だった。

「キョ、キョウスケェ______ッ!!!!」

「うわぁ___ッ!?」

 「何か」が俺に抱きつくようにしてすがってくる。そして俺ともども、床に倒れ込んだ。

「うぁッ!」

「良かった…オレ…嫌われたかもって思ってた…。戻ってきてくれて、ほんと良かった…」

 暗くてよく見えないけど、彼はそう言うと俺を抱きしめた。鼻をすする音が暗闇に響き、俺の首筋にぴとりと雫が落ちる。

 …大人のくせに。こういうところが好きなのかもな。

「電気、付けるよ」

「えっ!?ダメダメダメ…ッ!!」

 俺は彼の背に片腕を回したまま、ローテーブルの上の電気のリモコンに手を伸ばして室内灯を付けた。そしてその灯りに照らされたトウガの姿は、眼鏡を外し、顔も涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった、普段の彼とは縁遠い姿だった。

「あはは。改めて、ただいま。トウガさん」

「…おかえり、キョウスケ!」

 トウガは鼻水と涙を拭うと、顔をくしゃっとさせて、笑った。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました

⸜(*ˊᗜˋ*)⸝

今回久しぶりにエミが登場しました!

比較的ぞんざいに扱われてきた彼女でしたが、今回からはちょっと変わった役回りになっていきそうな予感ですね…!

これからのエミの活躍に、こうご期待です!!


それでは、また明日もお楽しみに〜〜!!

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