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魔女ときこりの一家

作者: ありま氷炎

 ある森にきこりの一家が住んでいました。

 ある日、国を大飢饉が襲いかかり、きこりの一家は明日の食べ物も手に入れることも難しくなりました。


 きこりの切った木を運んでお金を得ても、買える食べ物がありません。

 きこりの一家は食料品を町で手に入れてました。


 ある夜、きこりの妻は言いました。


「子供たちを森に捨ててしまおう。二人ならどうにか生きていける」

「それはだめだ」

 

 きこりは妻に反対しましたが、話しているうちにいつの間にか妻の言葉に頷いていました。


「明日、森に連れ出して、子どもたちを森の奥に置いてくるわよ」


 妻はきこりに明日の計画を語ります。

 子どもたちは、食べ物が少なくてお腹も空いていたので、眠ることができず、その話を聞いていました。

 兄であるヘンゼルは、心配する妹グレーテルに大丈夫と微笑みました。


 翌朝、きこりの妻は子どもたちを叩き起こし、パンのかけらを二人に持たせ、森に連れていきます。

 きこりは反対でしたが、妻の言葉には逆らえません。

 ヘンゼルはそのパンのかけらを家に帰る目印にしようと決め、両親にわからないように歩くたびに少しずつパンをちぎって、落としていきました。パンくずは鳥たちの餌になるのですが、ヘンゼルは気づきませんでした。きこりの妻は気がついていて、浅はかな知恵と内心馬鹿にしていました。

 

 そうして森の奥に到着して、きこりは木の枝を集めました。子どもたちのために暖を取るためです。火を焚いていれば暖かいし、森の獣にも襲われないと思ったからです。

 妻はそんなきこりに対して腹を立てながらも、猫撫で声で子どもたちに言います。


「私たちは森で薪を集めるから、二人はここで待っていな。お腹が空いたら渡したパンを食べるんだよ」


 きこりの妻は微笑み、きこりの手を掴むと森の中に消えていきました。

 もちろん、二人は薪を拾うことはなく、そのまま家に帰りました。

 妻は子どもたちがすぐに追いかけてくるのを避けるため、薪を拾っていると思わせるため、木に木の枝をくくりつけ、風で音が鳴るようにしました。その音を聞いて、子どもたちは両親がまだそばにいると思っていました。

 パンを食べ終わり、暖をとっていると眠くなり、二人は寝てしまいました。

 目覚めると真っ暗で、ヘンゼルはグレーテルの手を取り、音が鳴っている方向へ行きました。

 両親の姿はなく、グレーテルは泣き出してしまいました。

 それを宥め、ヘンゼルは自身が捨てたパンのクズをたどり家に戻ろうと言いました。

 けれども、パンくずは小鳥によって食べられ、目印は全部なくなっていました。

 ヘンゼルも泣きそうになりました。

 そこにからすが現れます。

 からすはパンのクズが美味しかったことのお礼を言い、ご馳走が食べられる場所に案内すると言いました。

 言葉を話せる烏を不気味だと思ったのですが、ヘンゼルはグレーテルの手をとってからすの後を追いました。


 すると、なんとおかしの家があるではないですか。

 夢ではないことを確認した後、二人は家に近づきました。


「美味しいよ。食べてみて」


 からすがそう言って、クッキーでできた屋根をつつきます。

 グレーテルは大丈夫かなと兄ヘンゼルの様子を窺います。


「……食べてしまおう」


 ヘンゼルは兄といえども、まだ十歳です。

 子どもに過ぎなく、甘い誘惑に勝てなかったのです。

 二人は思い思いにおかしの家にかじりつきました。


 そうしてしばらく食べていると、家の扉が開いて老婆が現れました。

 どこかで見たことがあるような老婆です。


「ははは。引っかかったね」


 老婆はどこにそんな力があるのか、二人を縄で縛り、牢屋に入れてしまいました。


「さあ、計画通りだ。ヘンゼルはあの女と同じでいい匂いがする。けれども痩せ過ぎだ。もう少し太らせてから食べよう」


 ヘンゼルは牢屋に入れられたまま、けれどもグレーテルは外に出されました。

 もちろん自由ではなく、手首には鎖を付けられました。


「グレーテル。私の言うことを聞くんだよ。ヘンゼルを太らせて食べてしまうんだ。お前さんはまだ若いから必要ないけどね。へへへ」


 老婆はグレーテルを連れると台所に連れていきました。

 

「さあ、ここでヘンゼルのために料理をするんだ」

「料理?そんなことできない」

「忘れたのかい?私が教えてやっただろう」


 老婆の声色と姿が変化しました。

 それは、きこりの妻でした。


「お母さん、どうして!」

「ヘンゼルを食べるためだよ。ヘンゼルは妖精の血を引いているんだ。甘くて美味しい。若さの源さ」

「私もそうなの?」

「違うよ。お前は私、大魔女の子さ。ヘンゼルの母親は私が食ったんだ。美味しかったねぇ。たらふく食べて家で寝っ転がっていたら、ヘンリーが戻ってきたんだ。ああ、私は一目で恋に落ちたよ。私はヘンリーに魔法をかけた。私を妻だと思い込むね。ヘンゼルは邪魔だったが、いつか食べてやろうと思って我慢してきたんだ」

「そんな、お母さんが……。私が魔女の子だなんて」

「グレーテル。魔女の娘としてお前に命じる。ヘンゼルを太らせるんだ。お前も少し味見するといいよ」


 魔女であり、母である女は不気味に笑います。


「九年待った。私が若さを保っているうちに、新しい妖精の血を得るんだ。ヘンリーは老いた私を抱きたいとは思わないだろうからね。へへへ。どうせ魔法をかけてるからわからないけど」

「あんたは私のお母さんじゃない!魔女め!」


 グレーテルは実の母である目の前の女が憎くてたまりませんでした。

 ヘンリーを食べるなんてとんでもないことです。

 

「ああ、邪魔だね。実の娘だと言っても、邪魔にしかならないなら、いらないよ」


 魔女はそう言うと、ナイフを持ってグレーテルを切り裂こうとしました。

 けれども、それはできませんでした。


「お父さん!」

「ヘンリー。どうしてあんたが!」

「ずっとおかしいと思っていた。そうか、お前はイヴリンではなかったんだな。イヴリンはすでに殺されていたなんて」

「バレちまったかい。だが、まだ魔法はかけられる!」

「お父さん!」


 魔女が杖を掲げた瞬間、牢屋にいたはずのヘンゼルが魔女に飛び掛かりました。きこりも我に返り、息子に加勢します。杖がない魔女は魔法が使えません。

 声も出せないように、その口に布も巻きました。


「お兄ちゃん!お父さん!」

「ヘンゼル、グレーテル」


 きこりことヘンリー、ヘンゼル、グレーテルは再会を喜び合い、抱きしめ合いました。

 ヘンゼルを助け出したのは、妖精でした。

 母イヴリンの仲間です。

 ヘンゼルが落としたパンくずを食べた小鳥の一匹が妖精にヘンゼルのことを話し、心配した妖精が様子を見にきて、牢屋に入れられていたヘンゼルを助けたのです。

 妖精は弱く、自身では魔女と戦うことができず、牢屋から出すことしかできませんでした。

 けれども魔法を使えない魔女は、妖精にとっては脅威ではありません。

 仲間イヴリンを殺されたこと、これまで妖精が魔女に食べられてきたこともあり、魔女は拘束されたまま、妖精に連れていかれました。

 そこで妖精たちは長年の恨みを晴らすのでしょう。


 妖精は半分妖精でもあるヘンゼルを妖精の国に誘いましたが、彼は断りました。

 きこりの父と妹と仲良く、人間の国で暮らすことを選びました。

 魔女がいなくなり、妖精が安心して暮らせるようになり、荒れていた森や田畑に再び恵みがもたらされました。

 そうして大飢饉はおさまり、きこりたち一家もお腹いっぱい食べられるようになりました。

 また魔女が隠していた宝石も見つけ、きこりたちは豊かな生活を送れるようになりましたが、きこりは森で暮らし続け、再び新しい妻を迎えることはありませんでした。

 ヘンゼルは半分妖精の身であることを利用して妖精を狙う魔女を狩ることを生業とし、グレーテルは彼女自身が魔女の血を引いており、魔法が効かないため、ヘンゼルを手伝いました。

 魔女ハンターとなった二人は今後も魔女が悪さをしないように魔女ハンターを組織化させました。そうして魔女はハンターに狩られ、妖精たちの安全は守られ、大飢饉は二度と起こることはありませんでした。


(めでたし、めでたし)

 

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