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「それなのにっ、それなのにあんな人たちを庇って死ぬなんてぇぇ……!せめてぽっくり逝けていたら剣で刺されることもなかった。あんな思いをしなくて済んだのにぃ。最後に愛する人にキスして欲しいなんて思ったわたしが馬鹿だったんだわ!」


「…………」


「わたしは本当にぃ、どうしようもない馬鹿なの……!うわああぁぁん」



金色の鍵を両手のひらで握り込んで、ヴィヴィアンはその場にうつ伏せになり倒れ込むようにして涙していた。

部屋にはくぐもった泣き声が響く。



「あんな二人をアンデッドから守ってわたしは死んだの……?こんな人生ってあんまりだわ」


「……アンデッドに?」


「はい。どうやら背中から攻撃されたみたいで」



今までヴィヴィアンはアンデッドに出会ったことない。

そっと背中に触れてみるが、もう痛みはなくなっている。


男性はヴィヴィアンの前に膝をついて何かを確かめているようだ。

不思議に思ったヴィヴィアンは上半身をゆっくりと起こした。

金色と赤色のオッドアイが滲んで見える。

何か言いたげに開いた形のいい唇から出た言葉は衝撃的なものだった。



「この傷は、アンデッドから受けた傷ではない」


「アンデッドでなければ誰がやったというのですかっ!?」


「…………」



アンデッドでなければ誰にやられたのか、わかってしまうではないか。


(違うって言って……!お願いっ)


本当は薄々わかっていた。

わかっていたけど、これでもしヴィヴィアンが思った通りのことが起こってしまえば今度こそ立ち直れない。

けれどもういっそのことトドメを刺してもらった方がいいのかもしれない。

そう思ったヴィヴィアンは鼻水を啜った後に顔を上げた。



「言ってください!」


「だが……」


「お願いします!言ってくださいっ!」



ヴィヴィアンは覚悟を決めたように男性を見た。

涙を堪えるように震えて唇を噛んでいるヴィヴィアンを見下ろした男性は静かに口を開く。



「背中には斜めに斬られた跡がある。恐らく、背後から剣か何かで斬られたのではないか?」


「……ッ!」



男性は割れた鏡を指差した。

背中には上から下まで容赦なく斜めに斬られた服と血の跡が見えた。


(やっぱり……そうだったんだ)


本当はわかっていた。

腹部に容赦なく刺された剣はジェラールのものだからだ。


それにヴィヴィアンのそばにアンデッドは近づいてこない。

あの場で剣を携えていたのも、ヴィヴィアンに剣を向けられたのも、たった一人しかいないではないか。


それに今まで頑張って積み上げてきたものを、あっさりと失ってしまった。


ヴィヴィアンを守ろうとしたなどと言って、マイケルやモネ、またはアンデッドのせいにしてあの二人は幸せを掴むのだろう。

こんな結末になってしまうなんて思いもしなかったのだ。


ヴィヴィアンから力が抜けてしまう。

その場に座り込むようにして倒れ込んだ。

ここが天国ではないというのなら、ヴィヴィアンは報われないと思った。

どれだけ涙を流しても叫んでも、もうヴィヴィアンに何もない。

言葉にできない悲しみはヴィヴィアンの心を蝕んでいく。


そのままどのくらいの時間が経過しただろうか。

もう泣き疲れてぐったりとしたヴィヴィアンは最早涙も出てこなくなった。

多少、スッキリとした気持ちになったヴィヴィアンは目を擦りながら、自らを落ち着かせるように呼吸を繰り返していた。



「…………気持ちは治ったのか?」


「ぐす……少しは」


「そうか」


「取り乱して、申し訳ありません」


「いや……構わない」



淡々とした受け答えに感情はこもっていない。

腫れた瞼を開けて、ヴィヴィアンは確認するように口を開いた。



「わたしは……死んだのですよね?なのにどうして死の森に?これは夢ではないのですか?」


「違う」


「違うって、どういう意味でしょうか?」


「このタイミングで言いづらいのだが……」



そう言って男性は言葉を濁している。

ヴィヴィアンを気遣ってくれるのがわかった。

少しの優しさでも傷ついた心にはよく沁みる。

ヴィヴィアンは男性に向かってニコリと微笑んだ。

男性は僅かに目を見開いた。



「大丈夫です。お気遣いありがとうございます。ですがもうこれ以上、最悪なことなんて起こらないと思いますから……遠慮せずに言ってください」



これ以上、何を言われても落ち込むこともへこたれることもない。

そう思っていたヴィヴィアンに衝撃な事実が告げられる。



「お前はアンデッドになったんだ」


「…………へ?」


「正確には…………で……だろうが」



その後の男性の説明は全く耳に入ってこなかった。

ヴィヴィアンの頭の中には『アンデッド』という言葉が反響していた。

今まで聖女として人々をアンデッドから守ってきたのだが、まさか自分がアンデッドになるなんて誰が想像しただろうか。


(わっ、わたし……アンデッドって、ほんとに?)


しかし青白い自分の肌を見ているとそうではないかと思えてくる。

ヴィヴィアンは振り向いて先程、背中の傷を見た鏡を探していた。

そして割れた鏡に飛び込むようにして覗き見る。



「ひっ……!」



顔に外傷はないが、背中や腹部にも剣で斬られた跡がくっきりと残り、聖女服を赤黒く染めている。



「ひゃあああぁぁっ!?」



ヴィヴィアンの悲鳴と共に部屋が揺れた。

そのままどのくらい固まっていただろうか。

ヴィヴィアンは首をゆっくりと動かして男性に確認するように問いかける。

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