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「皆、聞いてくれ……ヴィヴィアンの体はアンデッドによって穢れてしまい、もう聖女としての力はなかった。それにこのままではアンデッドになってしまうかもしれない。この状況で城に運ぶわけにはいかない。わかるな?」


「そんな……」


「ヴィヴィアン様、なんとおいたわしい」



死の森に入り、もう戻れないことはヴィヴィアンも聞いて知っている。

しかしアンデッドに触れたら聖女の力がなくなるとは思えないし、アンデッドになるとは聞いたことがない。

周囲からは啜り泣く声が聞こえた。

ジェラールの口からは次々に都合のいい嘘が紡がれていく。



「ああ……ヴィヴィアン。これでサヨナラだ。我々はこの件を報告しなければならない。ベルナデット、行こう」


「ジェラール殿下、先に行っていてくださいませ。ヴィヴィアンにお別れを言ったら、すぐに追いかけるわ」



ベルナデットがそう言うとコツコツとブーツの音が遠のいていく。

そしてベルナデットの泣き声がこちらに近づいている。

騎士達に「最後の挨拶を」と言ったベルナデットはヴィヴィアンの耳元で小さく呟いた。



「最後に真実を知れてよかったわねぇ?」


「……っ」


「ジェラール殿下やこの国のことは全部、わたくしに任せて頂戴。アハハッ、惨めねぇ」



そう言ったベルナデットは立ち上がる。

頬を潰される強烈な痛み。

ベルナデットは足でヴィヴィアンの頭を踏みつけにしているようだった。

それも周囲にはドレスで見えないのだろう。


それを振り払えないことが悔しくて堪らなかった。

騎士達の悲しげな声が耳に届いた。



「クソ女からわたくしのものを全て取り返してやったわ!ああ長かった……この国に〝聖女〟なんていらないのよ」



しかしそれを止めることができないまま、ヴィヴィアンの意識は落ちていった。



「ウフフ…………さよなら。お馬鹿さん」



二人はずっとヴィヴィアンを騙していたのだ。

愛していた人と信じていた人に裏切られて殺されてしまう。

目元からは涙も流れていなかった。

そして投げ捨てられる感覚と暗闇に落ちていくような感覚にヴィヴィアンは目を閉じた。




* * *




ヴィヴィアンは貧乏だったが、両親に愛されて育った。

母親は不思議な力を使っていたことをなんとなくではあるが覚えていた。

キラキラと眩い光を見ていると心が落ち着いた。

それにいつも「どうにかしてあの人を救わないと!」「ヴィヴィアンも手伝ってね」と言っていたことを思い出す。

それが何かはわからなかったけれど、とても大切なことだと子供ながらにわかっていた。


(大きくなったら、お母さんと誰かを救えたらいいな……)


しかしヴィヴィアンの六歳の誕生日。

不運なことに三人で街を歩いてプレゼントを買いに行く時に、貴族の馬車が歩道に突っ込んできた。

ヴィヴィアンを守るように事故で両親が亡くなってしまう。

その時にヴィヴィアンは『聖女』としての力を開花させた。


ヴィヴィアンは小さな手から銀色の光を出しながら、無意識に両親を治そうとしていたそうだ。

中から降りてきたのは貴族だった。

ブラウンの髪に冷たい紫色の瞳の男性と、モカブラウンの長い髪の少女。ヴィヴィアンよりも少し大きくてドレスを着た美しい少女は顔を歪めて「きったない」と言い、ヴィヴィアンに背を向けた。

高位貴族だったらしく、この事故は罪に問われなかったらしい。


ヴィヴィアンの持つ力に気づかれることなく、手から光を出す気味の悪い子供として評判の悪い孤児院に引き取られることとなった。


ヴィヴィアンは両親を亡くして絶望していたが、弱肉強食の世界に放り込まれ、そこでも過酷な運命に翻弄される。

両親に愛されて守られて育てられたヴィヴィアンにとって、生きるためには奪わなければならないこの場所は地獄に思えた。


ヴィヴィアンが両親を亡くしたことを悲しむ時間はなかった。

生きることしか頭になく、食べなければ死んでしまう。

ヴィヴィアンは必死に生に縋りついた。

まだ子供で適応力が高いことが救いだったと言えるだろう。


ある日、食事の取り合いで怪我をした部分がすぐに治っていることに気づいた。

そして自分の手から出る光が傷を治すと気づいた瞬間に、街に行ってこっそりとお金を稼いでいた。

成長するとともに、その力は大きくなっていることに気づく。


ヴィヴィアンが十歳になる頃には、その噂は街から貴族へと広まり、ついには社交界に広がりを見せた。

しかし貴族達はプライドからか誰もヴィヴィアンの元に来ることはなかったが、ラームシルド公爵は違った。


『わたしの病を治してくれないか?』


公爵は温かいパンをヴィヴィアンにくれた。

骨ばった優しい手がヴィヴィアンのボサボサだった銀色の髪を撫でたことをよく覚えている。

ヴィヴィアンは「お金をたくさんくれるなら」と答えた。

お金を貯めて孤児院から出ること……ヴィヴィアンはそれだけを目的に生きていたからだ。


劣悪な環境の中、女の子はある程度成長すると酒に溺れてばかりいる神父に売られることも知っていた。

髪を引かれて泣きながら連れていかれる女の子達をヴィヴィアンは見ていたからだ。


ヴィヴィアンの要求に応えるようにラームシルド公爵は目の前に見たこともないほどの大金を見せた。

ヴィヴィアンは目を輝かせてから、ラームシルド公爵を見た。


ヴィヴィアンの目には悪い部分が黒く見えた。

その黒い部分に銀色の光を吸い込ませる。

そして病を瞬く間に治してみせたのだ。


あんなにも苦しんだ病を一瞬で治したヴィヴィアンを見て、ラームシルド公爵は特別な力を持つ少女だと確信したそうだ。


そしてヴィヴィアンを保護して、公爵家に養子に迎え入れた。

「力を悪用されないように。正しく導けるように」

そう言ったラームシルド公爵がどんな人物かはいまいちわからなかったが、いつも酒臭い神父よりはマシだと思い、ついて行くことにした。


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