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②②



ヴィヴィアンはサミュエルの行動に驚いていた。

彼が自分からヴィヴィアンに触れてくれたこともそうだが、跪いてまるで大切なものを扱うように手を取っているではないか。


(ここに来たばかりの時もそうだった。サミュエル様は泣き噦るわたしの話を最後まで聞いてくれたし、今もまだよくわからないけど側にいるととても落ち着く)


それはジェラールとはまた違った感覚だった。

追いかけても掴めない、頑張って周囲に認められることで彼の気を引きたいと思っていた。

ヴィヴィアンはいつも焦っていたし、寂しさを感じていたような気がする。

しかしサミュエルはヴィヴィアンを包み込むように受け止めてくれる。

感じるのは安心感と温かさ。


ヴィヴィアンがそう考えていた時だった。

赤と金色の瞳がスッと細まったかと思うと、黒い髪がサラリと流れる。

サミュエルが立ち上がり、ヴィヴィアンの頬に触れた。



「何か困ったことがあれば屋敷に来ればいい。ヴィヴィアン」


「え……?」


「なにか……この森にとっていい変化が起こっているような気がする。動物たちがヴィヴィアンに縋るのも何か理由があるのだろう。感謝している」


「……!」


「ありがとう」



サミュエルが触れる部分に熱をもつ。

しかしその熱が冷めてしまうほどに、ヴィヴィアンの真横では黒い煙が出続けている。


(手を離した方がいいって、言った方がいいのかな……)


そんな声をかけるかどうかヴィヴィアンが迷っていたが、サミュエルは気にした様子はない。


ヴィヴィアンはこの一週間で気付いたことがある。

これまでアンデッドは一方的な悪だと決めつけて何も考えることなく敵視してきた。


この一週間、アンデッド達の側にいてわかったことは彼らは何かに苦しんでいるということだ。

しかし今も人の形をしたアンデッドはヴィヴィアンの側に近づいてこない。

いくらマイケルやモネを探そうと森を歩き回っても、誰も見当たらない。

代わりに動物型のアンデッド達はヴィヴィアンについてくる。


(この森に本当に人型のアンデッドはいるの?マイケルは?モネはどうなってしまったの……?)


いくら考えても答えは出ない。

毎日、マイケルやモネを探していたが手がかり一つ見つからない。

ヴィヴィアンは今までの行動が正しかったのか、己がやってきたことは何だったのかを考えていた。


仮にアンデッドを統べるはずの冥王と呼ばれるサミュエルがこんなにも優しく敵意もないのも不思議だった。

その反面で空虚で、この黒い煙のように今にも消えてしまいそうだ。


(アンデッドたちは何を失ってしまったの……?やっぱり動物達のように本来の姿に戻りたいのかしら)


人の形をしたアンデッド達が呟く『カエセ』という言葉に意味があるのだとしたら。

そのことを説明したくてもヴィヴィアンはうまく言葉を紡ぐことができなかった。



「あのっ、わたし……!」


「冥王様、とりあえずこの女から離れてください!」



すかさずキーンが割り込むように入ってきて、ヴィヴィアンの体をサミュエルから引き離す。

手が離れたことで黒い煙がスッと消える。

そしてここで意外なことが起こる。



「キーン、ヴィヴィアンは我々の大切な仲間を救ってくれた。感謝すべきだろう?」



そんなサミュエルの言葉に同意するかのように、動物達はキーンの行動を咎めるように気を逆立てたり、唸ったりしている。

まるでヴィヴィアンを守ろうとしてくれているのだと思った。



「……みんな」



まだ短い期間しか共にいないけれど、動物達はヴィヴィアンに心を開いてくれているようだ。



「冥王様が、そう言うのならば……」



キーンは渋々ではあるが頷いた。

しかし余程不満なのか血が滲むほどに唇を噛んでいる。

そしてヴィヴィアンに鋭い視線を向けているではないか。

ギリギリと歯が擦れる音はここまで届いていた。


アーロがキーンを宥めている間、サミュエルは何かを探るように、じっとヴィヴィアンを見つめている。

今まで見たことがない端正な顔立ちは、今まで国で一番かっこいいと思っていた元婚約者、ジェラールよりも遥か上を超えるだろう。


今まで愛情があったからそう見えていただけなのか、サミュエルが飛び抜けて美しすぎるのかはわからない。

しかし間違いなく今までヴィヴィアンの価値観を覆すものだ。



「好きなだけここにいていい。何か困ったことがあれば頼ってくれ」


「いいんですか!?」


「ああ、もちろんだ」


「ありがとうございます。サミュエル様……ですが屋敷への道がわからなくて」


「そうか。なら今辿ってきた道をアーロに……」



サミュエルとそんな話をしていたときだった。

どこからかミチミチという大きな音が聞こえてヴィヴィアンが後ろを振り向くと、小さな小屋が震えるように揺れている。



「も、もしかして……!」



ヴィヴィアンがそう言った瞬間だった。

ドォン、大きな音と共に色々な破片が弾け飛んでいくのをスローモーションのように見えた。


(うそっ……小屋が!)


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