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①②



ヴィヴィアンはサミュエル達に見送られるように屋敷を出て真っ暗な森へと歩き出した。

自分がアンデッドになってしまったことに大きなショックを受けたのだが、それよりも裏切られた悲しみが勝る。


(もうグログラーム王国に戻れない。わたしの帰る場所はないのね……)


涙が滲んできたが慌てて袖で拭う。

ラームシルド公爵家で優しさを知ってから随分と弱くなってしまったような気がした。

鼻水を啜りながらヴィヴィアンは足を進めた。

黒色の霧で周りが見えなくなっていく。

あっという間に自分が来た場所がわからなくなってしまう。


(迷子になっちゃった.……)


孤独感に苛まれながらもヴィヴィアンは薄暗い森の中を歩き続けていた。

こんなことなら屋敷に滞在させてもらったほうがよかったかもしれないと思ったが、あのままだとサミュエルの優しさにずっと甘えてしまいそうだった。


(このまま死んだらどうしよう……あ、もう死んでいるんだった)


そんな突っ込みをしてみたものの益々虚しくなってしまう。

しかしサミュエルもアンデッド同士、襲われることはないと言っていたので大丈夫かと呑気に考えていた。


ヴィヴィアンは不気味な木の根元に座りながら考えていた。

アンデッドについて知っていることといえば『悪いもの』ということだけだった。

攻撃してもすぐに蘇り、言葉も通じない。

発する言葉は『カエセ』これくらいだと聞いた。


(サミュエル様やキーンさんやアーロさんは他のアンデッドとは違ったわ。言葉も通じて話もできたし、それにとても優しかった)


ヴィヴィアンはアンデッドに避けられているため、実際目にしたことはない。全て人づてに話を聞いただけ。

人間を見れば襲いかかってくる得体の知れないもの。


(どうしてアンデッドは人を襲うのかしら……)


こんなことを今まで考えたこともなかった。

不思議なことに暑さも寒さも感じない。

ヴィヴィアンは自分の青白くなった手のひらを見ながら無意識に涙を流していた。

本当に大切な人は守れずに、大切だと思い込んでいた人達に裏切られた。


(わたしがもっと賢ければ、あの時お父様の忠告に耳を傾けていたら……違う結果になっていたかもしれない)


後悔ばかりが頭に浮かんで、どうにかなってしまいそうだった。

ヴィヴィアンは膝を抱えながら顔を伏せて泣いていた。

どのくらいそうしていただろうか……涙も枯れ果てた頃、顔を上げてあることを思っていた。


(そういえば、こんな風にゆっくり過ごしたのはいつぶりだったかしら……)


多忙ゆえに、こうして休憩している時間はなかった。

そんなタイミングでグーギュルギュルとお腹が信じられないような音を出している。


(アンデッドもお腹が空くのかしら)


不思議な感覚に首を傾げる。

植物や花などもなく、ただ真っ黒な道と同じ景色が広がっていた。

こんなにも不気味なのに、恐怖を感じないことが不思議である。

ヴィヴィアンが食べられるものがないか探しながら歩いていると、広い場所に出た。


そこには小さな小屋や、チョロチョロと流れている小川があった。

もちろん流れている水まで真っ黒だ。


今まで歩いてきた泥に囲まれた場所よりも、マシなような気がした。

しかし今までとは明らかに違う異空間のような場所を見つけた。



「…………ここって」



足が痛くなったので小川の側にあった大きめな石に腰掛けてから側にあった薄汚れた川の水を覗き込んだ。

銀色の髪は艶がなくなり、ボサボサになってしまう。

隈があってぼんやりとしている目元は泣きすぎてまだ眠そうだ。


頭がおかしくなりそうなほど静かな空間でボーッとすること数十分。

不気味な森の中で一人、何故か笑ってしまう。


(一人になったのなんて何年振りかしら)


孤児院では集団生活だったし、ラームシルド公爵家に引き取られてからも常に侍女達が側にいた。

ジェラールの婚約者になってからはますます忙しくなり、こんな風にのんびりする時間はなかった。



「ひっ、く……ぐすっ」



感情がぐちゃぐちゃになって訳がわからなくなる。

婚約者になってから休憩もなくいつも国のために尽くしていた。

寝る間も惜しんで城に行ってから認められたくて毎日欠かさずにずっと、だ。

初めて好きになった人だった。

幸せになれると信じていたのに……。


それが、今はどうだろうか。

全てを失ってヴィヴィアンには何も残っていない。

真っ暗な空と死の森と呼ばれるこの森で、アンデッドとなり惨めに泣いている。


ヴィヴィアンは大きく息を吸い込んでから吐き出した。



「───あのクソ野郎どもめぇ!地獄に堕ちやがれッ」



そう言葉にした瞬間、今まで我慢していた気持ちがブワッと込み上げてきた。



「うあわぁあぁんっ、悔しいよぉ!」



なんで、どうして……そんな気持ちと共に涙が次々に頬を伝っていた。

パタリと後ろに倒れ込んで、両手を広げた。

真っ黒なヘドロで汚れるけれど、そんなことが気にならないくらいに怒りが溢れ出る。

しかしポタリポタリとヴィヴィアンの涙が泥に染み込んでいく度に、そこだけが白く広がってまた黒く染まっていく。



「これって……?」


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