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過去編 紅音の思い出1


――復讐姫は夢を見る。

今は遠い、あの日々のことを。




過去編 紅音の思い出1



 1976年5月


 高校に入学してから一ヶ月ほど。

 私、篠川紅音はクラスで思いっきり浮いていた。

 心当たりは……まぁ、ある。

 まず、入学当初の入学式で大遅刻し、その時点で周りから『変わってる奴』扱いを受け、その上話しかけられても、『ああ』か『そうか』程度の返事しかしないんだから、周りから浮くのは当然だろう。

 ただ、私は『友達が要らない』……とまでは思ってないが『友達が欲しい』とも思っていなかったので、あまり気にしていなかった。

 それなのに、


「なぁ、さっきの授業の木村、面白かったよな」


 なぜか、私にしょっちゅう喋りかけてくる男がいた。

 そいつの名前は、月原一騎(つきはらかずき)

 私の隣の席で人懐っこい笑みを浮かべているこの男は、ざっくり言うと『クラスの人気者』と称されるタイプの人間だ。

 つまり、私とは真逆のタイプの人間。

 それなのに、なんで私なんかに話しかけるのかというと……単に人が良いだけなんだろう。

 だからこそ、周りによく人が集まってるんだろうし。

 ただそれでも、気になって、


「お前、どうして私に話かけてくるんだ?しかも、しょっちゅう」


 私と話しても、大して面白くないだろうに。

 そう思いながら尋ねると、


「ん?そりゃ、篠川が美人だからだけど?」


「……」


「目だけで怒るの、めっちゃ怖いな……。半分冗談だから許して……」


 ……じゃあ、半分は本気なのか?

 と、ツッコミそうになったが、妙な方向に話が進みそうだから、結局私は黙ってしまう。

 そんな私に対し月原もいつもの調子で、


「マジな話をすると、喋ってて楽しいから。篠川の反応、結構面白いし」


「?私、お前に対してまともな返事できていた覚えがないぞ」


「うん、確かにそうだな。でも、篠川って結構表情豊かだからさ。さっきだって、ちょっと怒ったのもすぐわかったし」


「……そうか?」


 自分の顔は、自分では見えないからよくわからない。


「『目は口ほどものを言う』って言うけど、篠川は目が大きいからかなりわかりやすくて、話してて楽しい。それに、相槌のタイミングとか微妙な言葉の選び方とかで、話ちゃんと聞いてくれてるのはわかるしな。俺が一方的に話してるのに退屈そうじゃないから、気付いたらついつい一杯喋っちゃってる。だから、いつもなんか悪いな。……いや、ありがとうの方が正しいのかな、これ?」


「それ、私に聞かれても困るだけなんだが……」


 私は月原の様子がおかしくてつい苦笑を浮かべてしまう。

 ……なるほど。

 確かに、意識してみると私は表情がよく動く(たち)なのかもしれない。


「あ、もう次の先生来てるな」


 月原はそう言うと体を前に向けて、鞄へ手を突っ込み教科書を探す。


「……」


 私も右横に向けていた時の顔を前に向けて、次の授業の準備を始めた。

 この時の私は、隣の席の男のことを『物好きな奴』ぐらいにしか思っていなかった。




 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 過去編 篠川紅音と月原一騎

挿絵(By みてみん)



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