一筆啓上ケモ耳巨乳メイドが見えた
三十代半ば社蓄で彼女ナシ童貞一人暮らしで孤独死確定の俺は、連日の残業に疲れた身体を引き摺りながら、ただ寝るだけのために帰る1LDKアパートに向かう。
夕飯も風呂も、気力の萎え切った俺には、もはやどうでもいい。
生きるも地獄、死ぬも地獄。
何処かで仏に会ったなら、俺は仏をコロすかもしれん……
汗臭い身体に鞭打ち、せめてもの楽しみである「惰眠」を貪ることだけを目的に、俺は半ば意識を失いかけた状態で、アパートの鍵を開けようとした。
(鍵が、開いている?)
半死状態の俺でも、この時ばかりはさすがに緊張感に包まれ、鋭い警戒心に全神経が支配される。
部屋の中から、明らかに、誰かの気配がする。
いったい誰だ? 俺は、合鍵を渡すような相手などいないし、大家が勝手に入り込むことなどありえない。
ってことは、ど、ど、ドロボウ?!
おいおい、俺の部屋漁っても、ゴミと積みプラしかねーぞ?!
このまま警察に向かうか? 大家に駆け込むか?
いや、だが……なんか、様子がおかしい。
ゆっくり開いたドアの隙間から見えたのは、
「ぶるんっ!」と打ち震える、大きな大きな乳房。
いや正しくは、大きな乳房を頼りない布で覆い隠した、可愛らしい少女の横向きの姿だった。
(なんだ、なんだこれは……?)
このドアの向こうには、俺様ヘブンでも待っているのか?!
人間、極限まで疲労していると、何故か逆に性欲が増幅するという話を、どこかで聞いた。
もしやこれは、極限まで疲労した俺の脳が生み出している幻覚なのだろうか?
確かに先月も幻覚を見たが、あの時は天井から生えてるお爺さんの上半身だったし。
それにしても、こ、これは……幻覚にしては、妙に存在感あるなあ。
しばらく隙間から覗いて様子を窺った俺は、それが夢や幻ではなく、現実の「巨乳メイド」であることを確認した(ほっぺ痛い)。
そうか、そうかそうか。
なんだかよくわからんが、神様は日々真面目に働く俺の為に、ご褒美を用意してくださったに違いない。
そうでなければ、淋しい独身の俺の汚部屋に、こんな巨乳で美人なメイドが降臨するわきゃあない。
見ろ! ケモ耳まで着け、スカートからシッポまで垂らしたそのメイドは、俺の為に料理まで作ってくれているではないか!
俺の覚悟は、今、決まった。
よし、今こそ俺様ヘブンに浸るため、煮詰まり切った童貞パウヮを解き放つ為、このドアを堂々と開こうではないか!
これが夢なら私は永遠に眠り続けましょうと、どこかの長生きな超人も言っていた。
よぉし、今こそ帰宅るぞ名も知らぬマイハニー☆
ガチャリ、と音を立て開くドア。
その向こうに立つ俺に向かって、その美少女巨乳メイドは、愛らしい笑顔を向けてきた。
「お帰りなさいませ、ご主人様♪」
どう見ても、FやGでは済まない、とてつもなく巨大なむ、胸、ムネ、オパイ!!
それが、揺れる、揺れる!
ほぉれ見ろ! やっぱり現実じゃないか!
俺は、この俺は、煮詰まった三十ン年の童貞パワーを高め、遂にはケモ耳メイドを召喚出来る、本物の魔法使いになっちゃったじゃないの!
あー、酒なんか飲んでないのに、なんだか酔っ払ったような気分になって来た♪
俺は、笑顔のまま突っ立つメイドに向かって、レッツルパンダイブを敢行OKェYEARェェェェェ!!!
次の瞬間。
アパート中、そして周囲に、少女のかん高い悲鳴が響き渡った。
俺の部屋は、201号室。
そしてここは、202号室。
あのイケメンの、如何にもヤリーチンな兄ちゃんが住んでる部屋じゃないですのん。
いっけねぇ、こいつぁうっかりだ!
数分後、飛び出して来たアパートの住人達に取り押さえられた俺は、更に十数分後、帰って来たイケメン兄ちゃんにしこたまブン殴られた。
三度目だもんなあ、そりゃあそうか。