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子ヒツジの毛布

作者: ラン

ある朝一匹のヒツジの男の子が産まれました。

お母さんはその子ヒツジをとても可愛がりました。

お母さんは毎日子ヒツジにお歌をうたってあげました。

いろんなお話も聞かせてあげました。

眠るときは子ヒツジを抱きしめて眠りました。



子ヒツジは元気いっぱいに大きくなっていきました。

「みてみて、お母さん、僕こんなに早く走れるよ!」

子ヒツジはそこらじゅうをかけってみせました。

「ねぇ!お母さんみて!僕こんなに高くジャンプできるんだよ!」

子ヒツジはピョン、ピョン、ピョン、と跳ねまわってみせました。

ええ、すごいわね。と、お母さんは優しく言ってくれました。



子ヒツジはお母さんが大好きでした。

「ねぇお母さん僕のこと好き?」

子ヒツジはお母さんにいいました。

ええ、もちろん好きですよ。

「僕のこと一番好き?」

ええ、一番好きですよ。

子ヒツジはうれしくなってお母さんに抱きつきました。

お母さんも子ヒツジを優しく抱きしめました。



子ヒツジはお母さんにとても甘えました。

「僕、真っ赤な野イチゴがたべたいよ!」

はいはい、と、お母さんは言って、険しい山道を越えた先に生っている野イチゴを子ヒツジにとってきてあげました。

「お母さん僕ドングリの実がいっぱい欲しい!」

お母さんはいっしょうけんめいドングリの木をゆらしてとってあげました。

お母さんは子ヒツジのお願いをなんでもきいてあげました。



ある冬のとても寒い寒い夜に子ヒツジはお母さんにこんなお願いをしました。

「お母さんとっても寒いよ。僕、お母さんの暖かい毛でできた毛布が欲しいよ」

お母さんは少しだけ子ヒツジの顔を見つめたあとに、いつものように、ええ、いいですよ。と優しくいってくれました。

それからお母さんは自分の毛でできた柔らかくて暖かい毛布を子ヒツジに作ってあげました。



子ヒツジは大喜びで毛布にくるまりました。

毛布の中はポカポカでお母さんのいい匂いがしました。

子ヒツジはすごく幸せな気持ちでいっぱいでした。そしてすぐに眠たくなりました。

するとお母さんが言いました。

「坊や、これからひとに出会ったら優しくしてあげるんですよ。困っているひとがいたら助けてあげるんですよ。」

子ヒツジはわかったよ。と、言って眠ってしまいました。

「おやすみ、私の可愛い坊や」



朝になって子ヒツジが目をさますとお母さんはいなくなっていました。

子ヒツジがどんなに待っても待ってもお母さんは帰ってきませんでした。

子ヒツジは悲しくなって泣きだしました。いっぱいいっぱい泣きました。

さみしくて、悲しくて、心細くて、不安で、お母さんに抱きしめてほしくて子ヒツジは泣きました。



やがて子ヒツジは思いました。

「お母さんは僕のこと本当は好きじゃなかったんだ。だから僕をおいてどこかへいってしまったんだ。」

子ヒツジはやけをおこしました。お母さんが作ってくれた毛布を谷底へ捨ててしまいました。

そしてまた泣きました。



泣き疲れておなかがすいた子ヒツジは食べ物を探しに森のなかへ入っていきました。

すると大きな木のしたにウサギさんがいました。

ウサギさんは震えながら子ヒツジに言いました。

「足が痛くて動けないよ、ヒツジくんたすけて」

ウサギさんは足にひどい怪我をしていました。

子ヒツジはおなかがすいて早く食べ物を見つけたかったので、知るもんか!と思いました。けれどお母さんが困っているひとがいたら助けてあげなさいと言っていたのを思い出しました。

子ヒツジは少し考えたあと、ウサギさんを助けてあげることにしました。




子ヒツジは怪我に効く薬草を摘んできてウサギさんの足にはってあげました。

川から水をくんできてウサギさんにのませてあげました。

木の実やヤマブドウをとってきてウサギさんと一緒に食べました。

「ありがとう。君はとっても優しいんだね。」

ウサギさんにそう言われて子ヒツジはなんだか嬉しくて心がほっこりと温かくなりました。

そして早くウサギさんが元気になってほしいなと思いました。



子ヒツジはウサギさんが元気になるまで一緒にいてあげることにしました。

毎日ウサギさんの足に薬草をはってあげて食べ物や水を届けてあげました。

そしてウサギさんにお母さんの話をしました。

毎日抱きしめてくれたこと、いろんなお歌やお話を聞かせてくれたこと、一番好きだと言ってくれたこと、

お母さんのことはなんでも話しました。そして自分をおいていなくなったことも話しました。

するとウサギさんは言いました。「そんなに優しいお母さんが君をおいていなくなるはずがないよ!きっと今頃君を探しているよ。

いつか君を迎えにきてくれるさ!」

子ヒツジはなにも言わずにウサギさん早く元気になってね。とだけ言いました。



その日は朝から雪が降って冷たい風が吹き荒れていました。

「寒い、寒いよ」

ウサギさんはブルブルと震えて今にも凍えてしまいそうでした。

子ヒツジはなんとかウサギさんを助けてあげたいと思いました。

どうしたらいいのか必死で考えました。

そして今日みたいに寒い日にお母さんが毛布を作ってくれたことを思い出しました。

子ヒツジは自分の毛でウサギさんに毛布を作ることにしました。



毛布ができあがると子ヒツジはウサギさんを毛布に優しくくるんであげました。

「あぁ、なんて暖かくて幸せな気分なんだろう」

そう言ってウサギさんは眠ってしまいました。

子ヒツジは良かった、と思い安心しました。

ところが毛布を作ったので子ヒツジの体には毛がなくなりました。

子ヒツジの体は寒さでどんどん弱っていきました。

子ヒツジは寒さにブルブルと震えながらこのままだとウサギさんが目をさましたときにきっとウサギさんは悲しむことになるな、と思いました。

そのとき子ヒツジはお母さんがどこへ行ってしまったのかわかりました。

「あぁ、お母さんはお母さんよりも一番僕を好きでいてくれたんだね。ごめんなさい。」



ウサギさんが目をさますと子ヒツジはいなくなっていました。

そして二度と子ヒツジはウサギさんの前に現れませんでした。

春になってウサギさんは思いました。

「きっとヒツジくんのお母さんが君を見つけて迎えにきてくれたんだね。ヒツジくん良かったね!君のおかげですっかり足も良くなったよ!ありがとう。優しいヒツジくん」



おしまい
















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