砂上の影
シュウとザルガは「死の砂帯」を越え、ガルファナを目指して砂漠を進む。
途中、巨大砂虫ワームに襲われるが、連携して撃破。
ついに密林の国ガルファナの影を目にし、希望を見出す二人。
だがその背後では、追跡班サンド・ハンターズの偵察魔具が二人を捉えていた。
運命の歯車が静かに回り始める──
砂漠を渡る風が、焼けた岩肌を舐めるように吹き抜ける。
三つの月が並ぶ空の下、黒い影が二つ、砂丘を越えて進んでいた。
「……歩きすぎて、足が砂になりそうだ」
シュウがぶつぶつ言いながら、肩にかけたマジックバックを直す。
その横で、ザルガが淡々とした声を返した。
「この辺りは“死の砂帯”と呼ばれている。夜の方が歩きやすいが……油断するな。砂虫が出る」
「え、砂虫ってあの地中からドーンって出るやつのこと?」
「そうだ」
「あー……うん。現地言葉ってやつね、ワームのが発音しやすいなぁ」ぶつぶつつぶやく。
ザルガの歩幅に合わせながら、シュウは砂の感触を確かめる。
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夜半、砂丘の影に腰を下ろし、土魔法でシェルターを作り焚き火を囲む。
パクった干し肉とパンを噛みながら、シュウはふと空を見上げた。
「三つの月ってさ、なんか時間の流れも違う気がするんだよね。
朝と夜の境目が、妙に短いというか。」
「ふむ……確かに、砂の民も“時を喰う月”と呼んでいたな。
月の満ち欠けが、砂竜の出没に関係していると信じられている。」
「砂竜ねぇ……遭遇したらどうする?」
「戦う」
「流石ですね!」w
ザルガが笑う。焚き火の火がその金色の瞳を照らし、獣じみた牙が一瞬だけ光る。
その笑みに、戦士の誇りと、どこか郷愁が混じっていた。
「ガルファナは、すぐそこだ」
「見えるの?」
「風の匂いが違う。砂に湿りがある。密林の入口が近い」
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それは、翌日の昼前だった。
太陽が真上に昇りきる頃、地面がぐらりと揺れた。
「……おい、止まれ!」
ザルガの声に反応して、シュウは即座に魔力を構える。
地面の下から、空気が抜けるような音。砂が泡立ち、裂け目が走る。
「でたな……砂虫!」
「…目的地到着目前にしてダメ押しの、、。おれ、砂漠モンスターってワームエンカだけだな…」
直径五メートルはある巨大な白い円筒状の体が、砂を噴き上げながら飛び出した。
「ザルガさん!こっち下がって!」
「何をする気だ!?」
「くたばれや!」
シュウが地面に手を叩きつける。
「アースニードル!!!」
地面から巨大な岩の棘がワームの胴体を突き刺さし上げる!
砂煙の中、獣の咆哮が轟く。
「今だ、ザルガ!! 首いけぇ!!」
「うおおおおおおっ!!!」
獣人の筋肉が弾け、黒い剣が閃く。
ワームの頭部が、光の尾を描きながら吹き飛んだ。
シュウは肩で笑った。
「……おお、勝った……っぽい?、なんかびちびちしてるけど、死んだよね…?」
「見事な連携だった、シュウ殿。」
「うーん、想定より派手になったけど、まぁいいか。……これ素材とか取れるの?」
「取れるが、肉は不味いぞ」
「うん、。じゃあ放置でいいや…なんか、気持ち悪いし。てか、やっぱ気配探って移動した方がいいよね、怪獣の奇襲とか、まじでビビるし、噛まれたら死ねるし、ここの砂漠に、いっぱいいるし!」
シュウは気配探索を怠るまいと胸に刻んだ。
⸻
砂の戦いを終え、二人は再び歩き出す。
夕方、遠くの地平に“緑の影”が見えた。
砂漠の果て——そこに確かに、命の気配がある。
「あれが、ガルファナだ」
「おお、ほんとだ。木が見える……! うわ、なんか文明を感じる!」
「文明ではなく、森だ」
「それはそれで文明!」
シュウの軽口に、ザルガは笑いながら首を振った。
その背後、遥か彼方の砂丘の上で、何かが光を反射した。
双眼鏡のような魔導具のレンズが、陽光をかすかに弾く。
——それは、追跡班の先遣偵察魔具だった。
誰もその事実を知らないまま、
二人は、ガルファナの森の入り口へと踏み入っていく。
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夜が、再び三つの月を掲げる。
砂漠の風が静まり、遠く、竜のような声がこだました。
旅は続く。
だが、すでに運命の歯車は回り始めていた。




