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僕とガイアの異世界戦記  作者: icefish
突然の異世界
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ザイード追跡班、出動す。

王国ザイード崩壊後、黒髪の男シュウと黒い虎ザルガは“王国壊滅の首謀者”として指名手配される。

教会と残存軍は「砂塵の狩人サンド・ハンターズ」を結成し、異邦人の追跡を開始。

四人の追跡者——騎士レオン、魔導士マルタ、審問官ロウ、盗賊カシム——が動き出す。

王都の焼け跡を調査した彼らは、未知の力の痕跡を確認し、黒髪の男の正体と真意を探るため砂漠の果てへ向かう。

半壊した王宮の残骸。奇跡的に残った白い大理石の会議室は、かつての威厳を取り戻そうとでもするかのように静かに佇む。宰相が怒声をあげる。


「盗賊の似顔絵が完成した!

黒髪の男と黒い虎の獣人、宮殿を破壊し、宝物庫を襲った盗賊だ!

ギルドにも通達しろ! 許すまじ!」


その声は、壁の外までかすかに響き、砂塵が舞う王宮跡に緊張を張り巡らせる。将軍は腕を組み、深く唸った。


「精鋭部隊を動かす。しかし、砂漠の果てまで逃げられたら厄介だ。その前に捕らえてやる……」


城外の荒野は、夕日に染まる砂の海が果てしなく広がり、遠くガルファナの街まで続く道のりはまだまだ長い。瓦礫の中、兵士たちは互いに顔を見合わせ、緊張の糸を張り詰めたまま歩を進める。遠くの砂丘の陰に、影のように砂竜の尾が揺れる——まるで王宮の悲鳴をなぞるかのように。



その声は、教会主導で組織された追跡班にも届く。噂はすでにギルドや冒険者連盟に流れ、懸賞金となって砂漠の各地に掲示される。


『【緊急通達】黒髪黒目の男、南方砂域に出没。

王国壊滅の首謀者と断定。目撃情報に懸賞金二十金貨。』


熱砂の報告が届いたのは、神聖庁ルゼリアの鐘が三度鳴った午後だった。


王都ザイード壊滅——


「これは神の啓示だ」

「いや、罰だ」

「異端の仕業に決まっている」


そんな声が渦巻く中、臨時政庁は教会主導で立ち上がった。その最初の決定——


“黒髪の異邦人”を探し出し、神の名のもとに裁け。


こうして組織されたのが、ザイード残存軍追跡班、俗称「砂塵の狩人サンド・ハンターズ」である。



選ばれし三人と一人


ルゼリアの中庭に、四つの影が集う。

• レオン・ヴァルド:第三騎士団長。規律を重んじる戦士で、常に冷静だが、その瞳には過去の戦場の火が残る。

• マルタ・セリオン:宮廷魔導士。知識欲が強く、やや皮肉屋。理屈で物事を割り切ろうとする一方、魔法に対する好奇心は人一倍。

• ロウ・ファルド:教会審問官。神の意思を最優先とし、感情を表に出さない。祈りと観察を重んじる男。

• カシム:元盗賊。粗野で軽口だが洞察力が鋭く、荒野での生存能力は随一。金には目がない。


「……異邦人を捕らえる? 人探しってより、死体探しじゃない?」

マルタが鼻で笑う。


ロウは淡々と返す。

「神に仇なす者の行方は、神のみぞ知る。だが我らは神の手足だ。」


「はいはい、はい神様ね〜」

カシムが肩をすくめ、砂を蹴る。

「隊長。報酬は前払いで頼む。死んだら請求できねぇし。」


レオンはため息をつきながらも答えた。

「……任務は“確認”だ。捕縛でも殲滅でもない。真実を見極める。」



焼けたザイード


王都ザイードの跡地。焼け焦げた砂が冷たく静まり返る。

マルタが魔導具を地面に差し込む。


「……温度異常。だけど熱源がない。地熱でもない、魔法でもない。」

「つまり?」

「知らない現象……興奮するわね。」


ロウは膝をつき、祈りの印を描く。

「罪深き者が神の力を盗んだ……そう考えるのが妥当だ。」


「神のせいか人のせいか、どっちでもいいけどな」

カシムが砂をすくい上げ、舌でぺろりと舐めた。

「……味しねぇ。砂のくせに味しねぇってのは、ちょっと怖ぇな。」


沈黙。風が一陣、吹き抜ける。



交易宿にて


帰還途中、立ち寄った交易宿。壁の掲示板には、既に新しい紙が貼られていた。


『【緊急通達】黒髪黒目の男、南方砂域に出没。

王国壊滅の首謀者と断定。目撃情報に懸賞金二十金貨。』


「……もう出回ってるのか」

レオンが唸る。


マルタが肩をすくめた。

「情報が早いのはいつだってギルドよ。たぶん、ギルドマスターが死んだって聞いて、次の上層が勝手に流してるの。」


カシムが苦笑する。

「生きてんのは噂と金だけだな。」


ロウだけが静かに紙を引き裂いた。

「神の正義は、金で測れぬ。」


「じゃあ俺の食費は神頼みか?」

「飢えもまた、試練だ。」

「やっぱ教会ってめんどくせぇな……」


焚き火のような軽口の中にも、どこか陰が差す。



夜、砂漠の焚き火


夜。砂の上にテントを張り、焚き火が揺れる。遠くでワイバーンが鳴いた。星空は澄み渡り、砂漠の広がりを静かに映す。


「なぁ隊長」

カシムが串焼きの肉をひっくり返す。

「その“黒髪の男”って、ほんとに悪人なのか?」


レオンは答えなかった。

ただ、火を見つめながら呟く。

「……悪人かどうかなんて、神にだって決められない。

でも、この地を焼いたのが人の手なら……その理由を知りたい。」


マルタが薄く笑った。

「理想家ね。そういうの、だいたい死ぬタイプよ。」


風が吹き、砂が舞う。遠くの砂丘に影が揺れる。

その瞬間、レオンは空を見上げた。


——遠い空の彼方、金色の閃光。

まるで竜が笑ったように。


そして、砂塵の狩人たちは、南西へ向かった。

砂と風と共に、任務は始まったばかりだった。


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