襲撃
シュウは屋敷からザイード偵察隊の動きを見守る。偵察隊は本国壊滅の知らせに混乱し、撤退を始めるが、夜の砂丘で黒髪のシュウが突如現れ、圧倒的な力で偵察隊と駐屯地を壊滅させる。兵士たちは恐怖に凍りつき、黒髪の男の存在が戦場に大きな混乱と恐怖をもたらす。
朝の光は昨日よりも鈍く、ガルファナの街を照らしていた。城門前では兵士たちが行き交い、街角の商人や市民の顔にはいつもとは違う緊張が漂っている。戦争の気配は目に見えぬ波のように街全体を覆っていた。
「……またかぁ。戦争の準備ばっかりで、街も俺も落ち着かないなぁ」
シュウは屋敷の窓から通りを見下ろし、ため息をつく。ザルガはいつもの穏やかな笑顔を浮かべながらも、兵士の動きや城門の警備を細かく指示していた。
「うーん、やっぱり気になるなぁ。俺、ちょっと見に行ってもいいですか?」
ザルガは軽く眉をひそめたが、納得したようにうなずく。「気をつけろ。油断は禁物だ」
⸻
砂漠を越えたザイード偵察隊は、国境付近の丘陵に展開していた。本国からの指示を受け、ガルファナ侵攻の先導役を担う予定だったが、魔法通信は応答なし。駐屯地軍も状況を把握できず、兵士たちは顔を見合わせていた。
「…どうなってる、本国は…?」
「計画通りに動けないぞ、先導部隊!」
偵察隊の隊長の声に、部下たちは焦りの色を滲ませる。越境はしたものの、支援も増援も来ない。街を目の前にして、作戦は膠着状態に陥っていた。
丘陵の小競り合いでは、ガルファナの国境警備と接触するものの、双方の戦力差や慎重な駐屯地部隊の動きで被害は最小限に抑えられる。しかし、隊員たちの胸の奥には不安が渦巻き、通信途絶の苛立ちが募る。
「俺たちは、このまま撤退すべきか…?」
「いや、先導役として任務は最後まで…」
「でも、本国は…」
魔法通信が再び届き、本国壊滅の知らせが伝わると、偵察隊は固まった。計画は破綻し、焦燥と混乱が瞬く間に隊内に広がる。
「撤退するぞ!このままでは全滅だ!」
隊長の号令で、偵察隊は丘陵を離れ、駐屯地部隊も街へ戻る準備を始めた。砂埃の中、撤退する列は緊迫感に包まれ、兵士たちの視線は常に後方を警戒していた。
⸻
シュウは森の縁から丘陵に展開しているザイード軍その様子を見守る。
「ん?撤退?それとも動くのかな?」
ザルガはシュウの横で腕を組み、砂埃舞う遠くの丘陵を見つめていた。
「本国が壊滅しているなら、しばらくは大規模な侵攻はないだろうからな、だが油断はできん。このまま引いてくれればいいがな」
「ですねー。ま、このまま引いてくれればしばらくは街も平和そうだし、のんびりできますね、てか、ザイード壊滅したって、やっぱアレですかねザルガさんや…。」
「まぁ、そうだろうな、シュウ殿のあの大魔法が原因だろうな。しかし、めったに他言はせぬほうがいいな」
ザルガさんは苦笑いしていた。
まぁ、話聞く限り十中八九おれのせいだなぁ。
後悔はないが。
「でしょうねぇ、まぁ、知らぬ存ぜぬでいきますよ。」
シュウは肩をすくめ、丘陵を撤退していく偵察隊の姿を目に焼き付けながら、シュウは次の行動をぼんやりと考える。
「ねぇザルガさん、ザイードとはいつから戦争しているの?」
「ん?あの砂の国には森の資源もないからな、随分昔からガルファナと争っている。侵略国家とゆうやつだな、そんな歴史もあるゆえ、獣人を虫ケラのように扱う蛮族よ。」
ザルガさんはギリっと噛み締めているようだ。
「そっか、じゃあ、ザイードが滅んだらザルガさん達にわいいことしかないわけ?」
「ワハハ、そうだな、あの国が滅べば我等は安泰かもしれぬな、シュウ殿のおかげで、オレも救われ、あの国も壊滅したとは、散っていった同胞に聞かせてやりたいくらいだ。」
ザルガさんはそう言って笑った。
シュウは考える
なるほどなぁ、根深いな、ザルガさん磔だったしなぁ
ここはひとつ
ちょっとやっちゃろかいね。
シュウは静かに決意を固める。
シュウは思う。
黒虎族ってガルファナにいっぱいいるけど、ザイード壊滅にザルガさんが加担したって事で迷惑かけられないから、今後どーゆー展開になるかわからないけど、ザルガさんにかかる火種のリスクは少なくしたいな。
夜の砂丘
丘陵を進む撤退途中、偵察隊の列は突如、巨大な影に包まれる。数十メートルもの柱が大地から立ち上がり、あっという間に兵士たちの前に振り下ろされた。柱は巨大だが、シュウの竜人の怪力によって軽々と振り回され、次々と隊列をなぎ倒していく。
兵士たちは信じられない光景に声も出せず、ただ柱の衝撃で吹き飛ばされる。反撃しようにも、柱は防御の壁となり、矢や槍は届かない。素早く移動する黒髪の男の動きは的を外させ、瞬く間に偵察隊は壊滅状態に陥った。
「くそっ…なんだ、あの化け物は…!」
「黒髪の…人族の…いや、化け物だ…!」
隊員たちの叫びは砂塵に飲まれ、恐怖と混乱の中で散っていった。黒髪の男の正体が、かつて本国を壊滅させたあの人物だと気付いた者もいたが、それは直感でしかなく、理解を超えた恐怖として心に刻まれるだけだった。
⸻
そして偵察隊の壊滅を確認すると、黒髪の男は駐屯地に視線を移す。砂煙の向こうに防衛陣地が見えると、柱を振り回しつつ駆け上がり、防衛陣地の兵士たちに襲いかかった。
矢が飛び、槍が突き出されるも、黒髪の男の速度と力は桁外れで、どの攻撃も当たらない。柱の一撃で陣地の防衛線は吹き飛ばされ、壁も兵士も粉砕される。叫び声と地響きだけが夜空に響く。
兵士たちは恐怖に呆然とし、次々と吹き飛ばされる。駐屯地全体が瓦礫と砂塵に埋まり、反撃の意思すら潰えた。
「まさか…あの偵察隊を…襲った…奴が…」
「うそだ…駐屯地まで…壊滅…」
残った者は震えながら丘陵の砂の上に逃げ延びるが、仲間の姿はほとんどなく、砂煙の中に消えた柱の残像だけが恐怖を刻みつけていた
そして夜の砂丘に、恐怖と混乱の余韻だけが残る──黒髪の災厄は、まだ知られざるままに。




