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13 番外編2 イルマリは学ぶ

イルマリ編、2話目です。

4話まで続きます。


 俺たちは、寮のカーモスの部屋に集まっていた。


 学校の寮は、男女別。

 一間にお風呂と、お湯を沸かしたり洗い物をしたり程度の簡易台所、さらに小さな衣装部屋兼物置付きだ。部屋には寝台と学習机の他に、机と椅子が置かれている。


 カーモスと俺の他に、ネイリとレーナ、なぜか半獣でないオッリとエルノまでいる。

 ネイルは学習机の椅子に、カーモスは寝台に腰掛けている。



 オッリはともかく、あの場にいなかったエルノになんでいるのか聞いたら、

「おもしろそうじゃないか。半獣のことを知る機会は、なかなかないからな」

と、居座る気まんまんだ。


「まあ、いいじゃないか。エルノだったら信頼できる」

カーモスは心が広い。




「さて。つがいについて知らないのは、イルマリとオッリ、エルノだな」

 カーモスは、名前を言った俺たちを一人一人見た。


「もしかいると種族によって違うかもしれない。適時、補足を頼む」

 レーナとネイリは頷いた。



つがいというのは、元々は半獣の伴侶のことだ。最初はそれだけの意味だった。

 だが、半獣は体質的に相性の良い相手がいると、何ものも捨ててそれを得ようとする性質が出やすい。そのため、それをつがいと呼ぶようになった。

 まあ、半獣にとっては、つがいは憧れだな。


 つがいに会うと、すべてを捨ててそのつがいだけと過ごしたくなるらしい。特に雄は、つがいの雌を他の雄の目に晒すのも嫌がるのだそうだ。気持ちは俺でもわかる。


 まあ、言ってみれば、つがいを見つけたらすぐに二人で巣に篭って子どもをつくり始めるわけだ。

 半獣だとて社会生活をしているから、そのまま実行はしないはずだが、本能的にはそうしたいのだと俺は解釈している。

 雄からしたら、この雌を守りたい、この雌の子どもが欲しいという欲求だな。

 雌からしたら、この雄の子を産みたい、か」



 カーモスがレーナを見た。


「そんな感じだな。この雄なら自分と子どもを託せるという信頼もありそうだ。

 まあ、結局匂いや雰囲気で判断するのだから、体の相性というところだ。

 雌を守って立派な子どもを授けられるかどうかは、基本は体だからな。

 心は関係ない」


 レーナは首を横に振った。しっぽがぺしりと椅子の背もたれを叩いた。

「わたしは体も大事だが、心はもっと大事だ」



 ネイルがそこにつっこんだ。

つがいで、心も結ばれたら最高だね」



 カーモスがそれを受ける。

「俺もそう思う。本能だけに支配されるのは嫌だ。たとえ本能が何を囁こうが、俺は心を知るまで逆らってやる。

 まあその前に、つがいに出会えること自体が奇跡なんだがな」



「そんなに珍しいの?」

 オッリが聞いた。



「ああ、俺の周りにはいない」

「俺も聞いたことないね」

「わたし、一組知ってる。出会って一週間で結婚した。

 今でも幸せそうな夫婦だよ」


つがいは生涯に一人だけと言われているからな。真偽の程はわからないが」

 カーモスが話を続ける。




つがいがこの世にいるかどうか、わかる者もいるらしい。だから、つがいがいるとわかった者は、狂おしくつがいを追い求める。

 それでも出会えるかどうかは、微妙だ。

 それに、つがいが半獣だけとは限らない。半獣のつがい相手が半獣ではないこともある。

 この場合は半獣しかつがいだということがわからないから、少々やっかいになる」


「半獣の感じている本能の強制力が、半獣ではないつがいにはわからないものねぇ」



 俺は気づいた。俺は、半獣のいない環境でつがいを探していた。それは異例だったのだ。


 もっと半獣と関わるのもありだな。

 そう考えていたが、心の中はなぜかそれを否定していた。




「半獣ではないものに、おまえはつがいだと言い寄って無理矢理結婚を迫るなんてのもいるらしい。

 つがいは一生に一人だから、つがいだとわかったらそのまま結婚するのが半獣の常識だ。だが、半獣でないものは違う。

 つがいが半獣でなければ、本当につがいなのかどうか、半獣でないものには判別がつかない。もし半獣が嘘をついていてもわからないわけだ。


 だから、半獣でないものは、つがいだと迫られても結婚を拒否できると、俺たちの地方ではあえて言われている。

 つがいでなくてもつがいだと偽って、好きとか条件がいいとかで迫る奴がよっぽどいるんだな」


「それ、わたしの地方もそうよ」



 そんなものと間違えられたくはない。


「なあ、つがいってどうやって見分けるんだ」




「それは本能だからな。つがいだ! ってわかるんだよ。

 と、これだけじゃわからないな。

 俺たちの言い伝えだと、甘い匂いがするとか、声が妙なる調べに聞こえるとか、引き寄せられて離れられなくなるとか、目にしているだけで至福だとか、手を繋いだら天にものぼる気持ちだとか」



「それって一目惚れではないの?」

 ずっと聞いていたエルノが聞いた。


「一目惚れだな。だがもっと、熱い。なにせ本能だから」



 ネイルの耳が、ぴこぴこと動いている。

「抗えないってのは、きっと体験しないとわからないよね。

 つがいのためなら何でもしてあげたくなるらしいよ。

 変なのがつがいだったら大変だ。

 だけど、本人幸せなんだから、それでいいのか」




「みんなはもう、自分につがいがいるかどうか、わかってるの?」


これは大事だ。同じ歳のみんながつがいの存在をわかっているのなら、それさえ気づかない自分には、つがいはいないのだろうから。



「あー、これも俺たちだけの常識か。

 つがいかどうかわかるのは、思春期からだ。繁殖するための伴侶だからな。

 だから、自分につがいがいるかどうかも、なんとなくわかってくるのは思春期以降だ。

 まあ、体が変わり始めてもまだ子どもだって言われるから、一般的に成人と言われる年齢くらいからじゃないか。

 俺たちじゃまだわかんないな」



 俺は、膝から力が抜けた。椅子に座っていてよかった。


 いままで探してきた苦労は、なんだったんだ。

 たとえ出会っていたって、まだわかんなかったんじゃないか。



 微妙に俺の表情が変わったのだろう。

 オッリが俺を見て苦笑した。そして俺の代わりに聞いてくれた。


「それじゃ、つがいかどうかわかるのも、つがいが自分にいるかどうかわかるのも、学校を卒業したくらい?」


「ああ、そうだ。だから、俺たち半獣は、成人してから結婚相手を探し出す」



 あああああ。

 あの女子にもみくちゃにされた日々は、愛想を降りまいたつもりだった日々は、耳が痛くなるのを我慢してイベントに出た日々は、すべて必要なかったのか。


 俺は机に突っ伏した。



 そんな俺を、みんな不思議そうに眺めた。


「あ、心配しないで。過去の無駄な自分を振り返っているだけだから」

 オッリの言葉に、俺はさらに傷ついた。



 * * *



 学校生活は楽しかった。


 俺と年齢も実力も近いものとのやりとりは面白い。さまざまな力がどんどんとついていくのがわかる。

 特に半獣の仲間たちからは、今まで知らなかったことをいっぱい学ぶことができた。


 運命の伴侶を探すために王都まで出てきたが、それとは別のところで有意義だった。



 俺は卒業後は辺境伯領に戻り、父上の仕事を補佐して将来の辺境伯としての仕事を学んだり、騎士隊で暴れたりしながら、国内のあちこちに出かけていた。




 肝心の運命の伴侶はまだ見つからない。


 どこにいるんだ、俺のつがいは。

 本当に、いるのだろうか、俺のつがい



 仲間の話だと、成人する頃には、自分がつがいがいるかどうかがわかるという。

 俺はまだわからない。



「ぼっちゃんの、嬉しい気持ちや楽しい気持ちの一番強い状態は、そのつがいである女性とご一緒のときなのだと、私は思います」


 子どものころに聞いた、家令のクスターの言葉が蘇る。あれはずっとずっと小さいときだ。

 


 あの言葉で俺は救われたんだ。ほとんど変化しない俺の前向きな気持ちを動かす人がいるのだと、知ったんだ。


 その人にあったら、俺はどんな気持ちになるのだろう。

 存在していてくれ、俺のつがい




 俺は、貴族の集まるところから、平民の集まるところまで、都会から田舎まで、あちこちを旅した。

 だが、時間が限られているので、行ける土地も限られている。



 両親はそんな俺を、見守ってくれた。


 弟のコトカは、俺が結婚するまで結婚しないと言っている。俺を出しにしているが、どうせ結婚は面倒だと考えているだけだろう。


 妹のルースは、二十歳になったときに、俺たちの幼馴染のオッリと結婚した。

 オッリは

「先に、悪いな」

と言っていたが、あれは絶対に悪いと考えていない。『オレが先だ。やったぜ』と思っているに違いない。



ブックマーク、評価、ご感想、ありがとうございます。

とても励みになっています。


この不惑薬師もあと2話。

どうぞ最後までお付き合いくださいませ。


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