#8 歩き茸のピリ辛きのこスープ〜かわいい後輩はちょっとウザい〜(2)
「これは持久力向上だな!」
「これは…たぶん敏捷性向上」
「会心の一撃」
「体力アップだ!」
「物理の防御力があがってる! って、さすがに少し痛ぇ!」
鉄板にパンチをしていたビルが少し痛がっている。
ビルは、冒険者だったころの経験をもとに、どの料理がどんなバフ効果があるのか自らを人体実験の道具にして教えてくれた。
客足もなくなった夕方、ビルと二人で屋台の前のテーブルで、成果を語る。
「グラニス、どうだ。だいぶわかってきたんじゃねぇか?」
「ああ、本当に助かってる。今晩は結構冷えるな。スープつくったから飲んでくれ」
歩き茸のたっぷりはいったピリ辛きのこスープだ。
歩き茸は、子供でも退治できる弱いモンスターだが、いいダシがでるし、火を通すとプリッとして歯ごたえもいい。乾燥すれば、保存も効く。
唐辛子をたっぷりといれて、ピリ辛に仕上げた。
ビルは、木製のスープのお椀を太い指でむんずとつかんで、ズルズルとすする。
「ほへぇ、あったまるぜぇ。ちと辛いがうめぇぜこりゃ」
「寒い夜には、辛いくらいがちょうどいいのさ」
「ポカポカするなぁ」
ビルはふぅと言いながら、顔を手であおいでいる。
「で、お前さんの料理だが!どこがどうなると、どうなるんだ?」
「わかったことは3つある。1つは、基本的に食材によって効果が変わるらしい。焼くのか煮るのか調理工程はそこまで関係ない」
「なるほど」
「で、どの食材がどういう効果かを持つかは、かなり直感で当たる。昔から“体力つけるぞ!”とか“精力つけなきゃ!”とかそういう料理あるだろ?あれがだいたいあてはまるんだ」
「そりゃわかりやすいな!」
「2つめは、バフの掛け合わせができるということだ。おいしい範囲でだが、魔力をあげながら、防御力もあげるとかもできるみたいだ」
「いやぁ、そりゃとんでもねぇ話だぜ!」
「3つめは、バフ魔法の効果を発動させるには、なぜか料理のどこかで俺が師匠からもらった包丁をつかうことが必要ってことだ」
「なんだいそりゃ」
「俺にもよくわからんが、包丁を一度も使わずに調理して出した場合は、バフは発動しない」
「不思議なもんだなぁ。その包丁も見たことねぇ金属でできてるようだし、変な光り方してるし、何らかの魔法的な力があっても不思議じゃないが、包丁型の魔道具なんて聞いたこともねぇ……」
「あとたまにだが、なぜか効果が発動しないことがあるんだ」
「そりゃ、愛が足りないんじゃないスかね?」
「なるほど、愛か。愛情を込めるってのが発動条件なのか」
「そうっス! そうっス! 最近の師匠には愛が足りないんスよ! ……って、このスープ辛ッ!?」
ビルと話していたテーブルにいつの間にかもう一人、癖っ毛がかわいらしい小さい女の子が座っていた。